チャンバラヒーロー“ザンテツ” 作:きりきりまい
個性把握テスト、第三種目は立ち幅跳び。
「フッ」
鋭い呼気と共に、ドンッと腹に響く踏み込み。
「5m08」
砂地に刻んだ跡を確認して、山吹丈瑠はうなじを撫でた。
十分すぎる大記録だが、当人は若干の不満を滲ませている。因みに、現実の記録として3m73という記録が公式で残っている。
個性という異能が開花してから今日日、人類の身体能力、並びに強度は個性黎明期と比べても格段に増していると言えた。
それが、個性によるものなのか。或いは、全く別の要因か。兎にも角にも、鍛えれば鍛えるほどに、彼らは先へと進めるのだ。
自分の記録に不満があれども、今はここまで。次のクラスメイトへと場所を空けながら、ふと丈瑠は気が付く。
(あれは……)
彼が見るのは、モジャっとした緑色の髪が印象的なそばかすの目立つ男子。
ハッキリ言って、その成績はパッとしない。鍛えている事は分かるが、その鍛えたレベルもあくまでも中学生や高校生としては、程度。丈瑠のように常軌を逸したようなレベルには到底到達していない。
「…………アレで、入試を突破できたのか?」
思わず、丈瑠は呟いていた。
入試のロボットは、個性ありきとはいえ中学生レベルで破壊ないしは無力化が可能なレベルの装甲と出力とされていた。大きさはあれども、それでも十分な実力があれば打倒に苦労はしないだろう。
だがしかし、ソレはあくまでも個性があってこその話。
それこそ、
「救助ポイントだけの合格、か」
「それって、出来るもんかね?」
独り言に何故だか問いが返ってきた。
丈瑠が視線を動かせば、派手な金髪の男子が彼と同じようにモジャ頭の男子を見ているではないか。
「可能かどうかと問われれば、可能だと思うが。ただそれは、説明された受験内容だけで実行に移せるものじゃない」
「だよな。俺も合格通知が来た時に聞いたけど、救助ポイントがあったのなんて誰も気付いてないんじゃね?」
「…………だからこそ、かもしれないな」
「へ?」
金髪の男子が首をかしげるが、丈瑠は未だにモジャ頭の彼を見ていた。
「危機的状況にあっても、他者を救う。本来のヒーローとして求められる素質とは、
「ふーん……?」
小難しい言い回しだったからか、金髪の男子は首を傾げる。それでも、彼の中では何となく感じ入るものがあった。
そして、
「素晴らしい!」
二人の後ろから声が響く。
金髪の男子が驚いて振り返り、丈瑠は緩慢な動作で首を動かして背後へと視線を送った。
「うぇ!?ちょ、急に何!?」
「すまない!盗み聞きをしてしまう形になってしまった。だが、素晴らしい言葉だとぼ……俺は思う!」
「あー、ヒーローとして資質って話か?」
「ああ。入試では、先生方の意図がくみ取れずにポイント回収に終始してしまった自覚がある。だからこそ、人を助けて合格を勝ち取った彼は素晴らしいのだと思う」
そう言った眼鏡の少年は、眩しいものを見るようにその目をレンズの奥で細める。
ただ強いだけでは、ヒーローには成れない。
助けてこその、ヒーロー。それこそが、本来の原点。
「そう言えば、名乗っていなかったな。俺は、飯田天哉だ。よろしく頼む」
「あ、俺は上鳴電気な。よろしく!」
「山吹丈瑠だ」
次の競技へと向かう道すがら、三人の話題はやはり各々の記録となる。
「それにしても、山吹はスゲーよな」
「スゲー?」
「だってよ、こう何つーか1位は無くても上位一握りに入ってる感じがよ」
「それは、俺も思ったな。まだ三種目目だが、君の成績はかなりの好記録だと思う。増強系の個性なのか?」
「いや。俺の個性は、このテストじゃ役に立たないものだ」
「マジ!?じゃあ、個性無しであの記録か!?」
「凄いな!鍛えている、という事だろうか?」
「そうだ。もっとも、俺の個性は異形発動型に近い様に思う。元の身体能力が高ければ、ソレを鍛えれば大きな記録にもなるだろう」
「そうであったとしても、鍛えている事には変わりがないだろう?素晴らしい事じゃないか!」
「そう、だろうか?」
誉めそやしてくる飯田に、いまいち実感が湧かないのか丈瑠は首を傾げる。
努力が当たり前、等という事はない。ただ、彼自身は積み上げてきた努力に対して
「あー……俺も鍛えた方が良いのかな?」
「鍛える余地があるのなら、その方が良いのではないか?ヒーローは体が資本だ」
「いやー、トレーニングって聞くと何というか…………な?山吹は、どうやって鍛えたんだ?」
「俺か?鍛錬は、自分の必要な形でとるべきだと思うぞ」
「自分に?」
「ああ。例えば、飯田ならばその脚力を活かす為に体幹トレーニングをするべきだろう。足という攻撃手段を用いる場合、どうしてもバランスが不安定になる。故に、」
言って、丈瑠は右足を持ち上げ片足立ちとなる。
「フッ!」
「ッ!」
突き出される右足。しかし、その反動で体が揺れる様子はない。
上鳴はただ目を見開いて肩を跳ねさせたが、蹴り足の鋭さに同じく蹴り技を主体とするようになるであろう飯田は目を見開き何かを察していた。
「この様に、体幹を鍛えればこの程度は出来る様になる。蹴り足の反動に揺らがない体は、そのまま次の攻撃への安定性を生む。師曰く、足技は剣に似るらしい。もっとも、強要したい訳じゃない。一つの選択肢程度に思ってくれ」
「いや、とても参考になったよ。俺自身、戦い方の基礎を身に付けているつもりだったが何というか視界が大きく開けた気分だ。成程、剣、か」
個性の関係上、助走をつけた上で相手を蹴り抜く戦い方になる飯田としてはその場に足を止めての蹴り足の刺し合いなど選択肢になかった。
一方で、体術の基礎など無い上鳴は両手を組んで後頭部を支えると上を見上げる。
「あー……どうしよう。山吹なら、俺ってどんな風に鍛えるべきだと思う?」
「お前の個性を知らないから、何とも言えないな。どう動きたいのか、そもそも近接戦に主眼を置くのか、或いは遠距離主体で戦うのか。それが分からなくては、アドバイスのしようもない」
「え、どっちもとかは?」
「才能次第だな。努力は、才能を鋭く尖らせるために行うものだ。何が得意なのか、何が出来るのか、何がしたいのか。それが分からなければ努力の方向性も決まらない」
「な、成程……」
知らない世界だ。上鳴は神妙に頷いた。
そして、この知らない世界を知っていく事もまた、この学校の在り方の一つ。
まだ入学初日。篩に掛けられていようとも、知っていける事は山の様にあった。
@
第四種目反復横跳び。
「成程、個性の有効活用だ」
「へへん、どうよ!オイラのもぎもぎも中々のもんだろ?」
胸を張る峰田に、丈瑠は頷きを返した。
他人よりも大きく体格の劣る彼は、その見た目通り身体能力はそこまで高くはない。実際、先の三種目でも特別優れた記録を残せてはいなかった。
だが、今種目では違う。
個性を用いれば、画一的な体力測定の記録は出ない。
その最たるものとして、測定不能が存在する。
顕著なのは、第三種目の立ち幅跳びだ。浮遊を可能とするならばその記録は、無限。即ち測定不能と同義となる。
峰田の場合は、頭部にある紫の球体を用いた。
髪が変質したこれらは、彼自身が触ると跳ねるがそれ以外の対象に触れると引っ付く特性がある。これを利用して、峰田は反復横跳びの両側の線の少し外に二つの山を作ってこの間を勢いよく反復で跳ねていた。
残像が残るほどの速度だ。測定不能も已む無しというもの。
「測定不能は、難しいな」
あくまでも個性無しの身体能力で挑んでいる丈瑠は、ポツリと呟いた。
その呟きに目ざとく、峰田は気付く。
「そうは言うけどよ。山吹の記録も十分ヤバくね?オイラ、他の競技だとちょっとついていける自信ないし」
「そうだろうか?」
「そうさ…………ぶっちゃけ、オイラはチビだろ?大体、五歳児位の身長だし、体重も同程度。筋肉も付きにくい上に、身長がこのまま伸びるかも分からねぇし」
肩を竦める峰田の言葉は、一種の自虐でもあった。
個性の影響か、それとも別の要因か。彼の体格は、到底高校生には届かないものだ。個性の種別的に、異形型の影響があるのかもしれない。
そんな彼を見下ろして、丈瑠はうなじを撫でた。
「そうか…………なら、恵まれている俺ももっと頑張るとしよう」
「おう、そうしろそうしろ。オイラだって、もっとデッケー記録出してやるから!」
十人十色。悩みもまた、人それぞれ。
だからこそ、出来ない事ではなく、出来る事へと目を向けなければならない。
それこそが、上達への入り口なのだから。