チャンバラヒーロー“ザンテツ”   作:きりきりまい

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 第五種目、ボール投げ。

 円の中で軽いステップインと共に、振り抜かれる右腕から投擲されたボール。

 

「203m」

「こんな所か」

 

 記録を確認して、丈瑠は頷いた。

 他生物と比べても、人体の投擲というものは群を抜いた得意分野といえる。コレは主に、骨格などが理由。肩回りの自由度などは身近な犬猫等と比べれば分かりやすいだろう。

 丈瑠が投擲を終えて、次の種目――――とはならない。

 A組の他人である相澤は合理的だ。それ故に、最初こそクラス番号順であったとしても今は早く終わった者から記録を取る様になっている。

 

「ッ、な、何で……!今、使おうと……!」

 

 呻くように己の腕を信じられないように見るのは、モジャ髪の男子。

 彼の個性は、未だに制御に難がある。具体的には、使用した瞬間一発と引き換えに使用した各部位が己の個性でぶっ壊れる。入試では、それによって右腕と足が粉砕骨折していた。

 当然ながら理由がある。今の彼は、個性が発現したばかりの幼児と何ら変わらない状態なのだから。ここから手探りで個性の扱い方を知って行かねばならない。

 

「はぁ…………やはり、あの試験は非合理だ。お前の様な奴も合格にしてしまう」

「ッ、その、個性にそのゴーグルは…………!」

 

 髪を逆立たせてその目を赤く染め上げた相澤に対して、モジャ頭の男子は何かに気付いたのか息を呑んだ。

 

「抹消ヒーロー、イレイザー・ヘッド!」

「お前の入試は見させてもらった。大したパワーだが、その先がお前には無い」

 

 個性の発動を解いて目頭を揉みながら、相澤は顔をこわばらせる男子へと歩を進めその胸へと指を突きつける。

 

「昔、一人の暑苦しいヒーローが天災の中から多くの市民を救助した話がある。蛮勇だ。だが、成し遂げてしまった結果、伝説と呼ばれる。だが、お前はどうだ緑谷出久。一人を救う……いや、目の前の障害を排除するだけ排除して、その後はお前も要救助者の仲間入りか?ソレは本当に、ヒーロー(英雄)足りえる姿か?」

「ッ…………」

 

 相澤の言葉に、緑谷出久は唇を噛んだ。

 彼自身、分かっている事だ。しかしその事実を改めて突きつけられれば、思う所もある。

 話し込む二人の一方で、残る生徒たちは各々が注目していた。

 

「ハッ!無個性の雑魚に何が出来るかよ」

「無個性?君は、彼が入試で成し遂げた事を知らないのかい?」

「飯田は、彼の個性を知っているのか?」

「詳しい訳ではないが、彼は入試の実技試験において妨害用のお邪魔ロボットを見事に破壊してみせたんだ」

「あ゛?」

 

 爆発したような派手な金髪に、死ぬほどの目つきの悪い男子が飯田へと視線を向けてくる。だが、件の飯田の意識は質問をしてきた丈瑠へと向けられており気付く様子はない。

 

「凄まじいものだったよ。ロボットの頭部を粉砕した上で、その巨体を後ろへと押し倒す様な威力があった」

「成程、増強系の個性といった所か……?」

「かもしれないな。だが、彼の場合はその後に手足を骨折してしまったらしい。個性の扱いに慣れていないように見受けられたな」

「骨折…………フム、その場合は超パワーなどは違うかもしれないな」

「何故だい?」

「基本的に、何かしら身体負荷の生じる個性を持つ人間の体はその個性に合わせた強度を持ち合わせている。このクラスなら、上鳴が帯電の個性上、電気に対する高い耐性を持っているだろう?」

「…………確かに、その通りだ。炎を扱うような個性ならば、火傷にも耐性を持っているだろうしな」

「その点、彼の場合自壊してしまうのならそもそもの個性の扱いが間違っている。或いは増強型に見えて本来は別の用途のエネルギーが結果的に身体強化を行っており、使用用途が違うために肉体が耐えられない。その他の理由とすれば純粋な練度不足じゃないだろうか」

「成程……その観点は無かったな。何より、個性の練度は個人差もあるがやはり訓練の有無の違いもあるだろう。俺も実家で兄や両親からの指導を受けたからな。だがそれも、環境があってこそだろう」

 

 飯田は頷いて改めてテストに臨む緑谷の背中へと注目する。

 彼は入試の際に見たのだ。誰もが逃げ惑う中で、たった一人脅威へと立ち向かい、そして見事に粉砕してみせたその姿を。

 その後満身創痍となっていたが、それでも駆け抜ける背中はヒーローそのものだった。

 そして、

 

「705.3m」

 

 見事な記録を叩き出した。

 

「どういう事だ、デクゥ!!」

 

 同時に、金髪の男子が爆発した。

 怒りと苛立ちのままに両手から火花を散らして緑谷へと迫り、

 

「何度も個性を使わせるな。俺は、ドライアイなんだ」

 

 その前に相澤の首に巻かれた布束が伸びて、男子を拘束。同時に、その赤い瞳で見つめることによって個性の使用を強制的に停止させた。

 入れ替わる様にして、丈瑠が緑谷へと歩を向ける。

 

「少し良いだろうか」

「ッ!う、うん……」

 

 脂汗を滲ませて顔を青白くしながら、緑谷は右手を抑えている。

 よく見れば、人差し指が赤黒くはれ上がり、歪に歪んでいるように見えた。

 

「ふむ……右手を出してくれ。応急手当をしよう」

「えっ……あ、いや!だ、大丈夫!腕じゃないから動けるし……」

「だが、激痛だろう?相澤先生」

「何だ」

「彼の最低限の処置を求めます。ボール投げで記録を出したとはいえ、痛みを抱えたままではテストの結果に支障を来すでしょうから」

「保健室に行くような暇はないぞ?」

「包帯は持っています。折れているのは人差し指なら、中指を添え木代わりとして固定しましょう」

「……良いだろう。手早く済ませるように」

 

 相澤からの許可を得て、丈瑠は改めて緑谷へと向き直る。

 

「許可は出た。右手を出せ」

「う、うん……っ……」

 

 差し出された右手。人差し指が痛々しい有様だ。

 右手を見下ろして、丈瑠はポケットから包帯を取り出すと、徐に左手で緑谷の前腕部に触れた。

 そして、親指である部分をグッと押し込む。

 

「ッ!?…………あれ?痛みが……」

「ツボを刺激した。気休め程度だが少しはマシだろう。触るぞ」

 

 説明は簡潔に。丈瑠は、緑谷の手を取ると人差し指を軽く触診する。

 

(骨が折れているな。いや、粉砕しているのか?加えて、血管その他もズタズタで裂けている。赤黒くなっているのも内出血か)

 

 無茶をする。中指を添え木にするようにして包帯を巻きながら、骨の位置を最低限正しつつ丈瑠はそう診断を内心で下す。

 

「お前、少し個性の扱い方を変えるべきだ」

「え?」

「指の骨が砕けている上に、血管と神経迄恐らく損傷している。赤黒くなっているのも内出血の影響だろう。爪も割れているしな。怪我が積もり過ぎれば、障害になる。早晩、お前は日常生活すら真面に送れない体になりかねないぞ」

「ッ……うん」

 

 丈瑠の言葉を受けて、緑谷は神妙に頷いた。

 分かっている事だ。無茶をし続ければどうなるか。支払いは、未来の彼の人生になる事だろう。

 程なくして、包帯が巻き終わった。そのまま次の種目の場所へと向かう道すがらに、二人は言葉を交わした。

 

「緑谷の個性は、増強系、で良いのか?」

「え!?あ、うん!そ、そうだね!」

 

 ドキリ、と緑谷の心臓が跳ねる。

 後ろ暗い事がある。若しくは、話せない何かがある。そんな感情が態度からありありと読み取れた。

 しかし、丈瑠としては()()()()()()()()()()()

 

「個性を発動すると指の様な有様になる、と」

「そう、だね……僕の練度が低いせいなんだけど、身体が耐えきれないんだ」

「フム…………時に、緑谷」

「何かな?」

「お前の個性は、一度発動すると自動的にMAXが出るのか?」

「え?ええっと……」

 

 丈瑠の言葉に、緑谷は固まった。

 個性を得てまだそれほど経っていない今日この頃。威力の高さも相まって、おいそれと使う訳にはいかない関係上どうしたってその扱い方にはまだまだブラックボックスが目立った。

 緑谷の反応を見て、丈瑠は更に口を開く。

 

「調整できるのなら、するべきだ。相澤先生じゃないが、一度拳を振るうだけで体を壊して動けなくなるのならヒーローとは呼べないだろう?」

「それは……そうだね。うん。僕としても改善しなくちゃいけないと思うよ」

「因みに、緑谷は個性を扱う時どんなイメージをしている?」

「え?ええっと………電子レンジの爆発するタマゴ、とか?」

「………………………………ユニークだ」

 

 溜めた中でどうにか絞り出したその言葉。同時に、何となくだが緑谷が自壊する理由にも丈瑠は思い至る。

 

「とりあえず、そのイメージは止めるべきだ」

「え」

「爆発する、というイメージが明らかに自壊に繋がっている。お前の体が個性の威力に耐えきれないという事だが、そのイメージが余計にダメージを大きくしているように思う」

「そ、そっか……」

「後は単純に、非現実的過ぎる。もっと日常的なものに置換するべきだろう」

「日常的なもの……山吹君は、何かあるかな?」

「そうだな…………蛇口だな」

「蛇口?」

「ああ。お前の体は器で、個性は蛇口の中の水だ。今の緑谷が1Lのペットボトル容器だとして、そこにダムの放水を注ごうとすればどうなる?」

「……潰れるね」

「そうだな。もし仮に注ぎ口を限定して、ダム放水を注ぎ込んだとしても許容量を超えて溢れるか器が弾けるだろう?」

「確かに……!」

「今の緑谷は、この状態にあると考えられる。とはいえ、言われて直ぐにどうにかなるような事でもないだろう。何より、このイメージを利用するのなら器である肉体の強化は必須だ。俺から見て、緑谷。お前は鍛えているようだが、付け焼刃の印象を受ける。もう少し早く、トレーニングを始めるべきだったな」

「ッ…………そう、だね」

 

 厳しい言葉に、しかし緑谷に反論の余地はなかった。

 酷な話にはなるが、彼にも出来た事はあった筈なのだ。それをやって来なかったのは、結局のところ現実に打ち負かされた逃避の結果。

 補足をするなら、丈瑠は緑谷を責めたい訳ではない。個性に関する話も、その後の足りないトレーニング量にしても純粋な指摘と一種の心配からの言葉なのだから。

 

 そして、最初の試練は幕を下ろす。

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