チャンバラヒーロー“ザンテツ” 作:きりきりまい
「――――除籍は嘘だ。お前たちの本気を引き出す為の合理的虚偽というもんだ」
「「はぁああああああああ!?」」
いけしゃあしゃあとそんな事を言う相澤。当然、生徒たちも騒ぐ。
落ち着いている者も居るが、そんな中で丈瑠は腕を組んで目を細めていた。
(
合理的虚偽と言った相澤の言葉に、嘘を感じ取ったからだ。
今回の個性把握テストの最下位は、緑谷だった。指の処置は行われたが、痛みを継続的に消し続けることはできなかったせいで残りの種目も散々だったせいだ。
因みに、丈瑠の順位は総合で六位。個性無しでこの順位は上々だろう。
「今日はこれで終わりだ。制服に着替えて、各自解散。明日以降は授業と訓練を同時進行で行っていく。遅刻居眠りは厳しく締めていくから、その辺りは留意するように。それと、緑谷」
「は、はい!」
「保健室に行って傷を治してもらってこい。こっちから連絡は入れておいた」
「わ、分かりました……!」
「それじゃあ、解散」
話は終わり。生徒たちも肩に籠っていた力を抜いた。
相澤が去った所で、丈瑠は緑谷へと振り返る。
「付き添いは、必要だろうか?」
「え?あ、いや、大丈夫だよ。その……入試の時にもお世話になったから、場所は分かるし……」
「そうか。あまり、無茶を重ねるなよ。事を成し遂げる前に、お前の体が壊れかねない」
「うん。ありがとう、山吹君」
頷く緑谷に対して、丈瑠は内心で納得していないだろう、と感じていた。
何と言うべきか、気弱な雰囲気に反して緑谷出久という少年は精神が図太い。それも、特殊合金か何かと思われるような精神構造をしている。
現に、腕の代わりとはいえ指一本粉砕骨折しているのだ。如何に後がない状況であったとしてもほぼ躊躇なくその選択肢を採れるのは最早気狂いの領域ではなかろうか。
本日の新入生のスケジュールは、入学式のみ。
運動服から着替えた丈瑠は、リュックを背負って今日交流のあった者たちへと手を振ってから一人昇降口へとやってきていた。
靴を履き替え、日の下へ。
「ん」
「ん?小大か」
校門の辺りで見知った顔に出会う。
朝の時と同じ無表情の小大唯。それから、もう一人。
「おっ、唯の知り合いってこの人?」
「ん」
「待っていたのか?」
「ん」
特に約束していた訳でもない。そもそも、A組は入学式に出ていないのだからタイミングを合わせる事は難しいだろう。
偶然か、必然か。頷く少女に、丈瑠は頭を掻く。
「……あー、そっちの名前を聞いても良いか?ああ、俺は山吹丈瑠。A組だ」
「私?私は、拳藤一佳。B組所属ね」
「よろしく頼む、拳藤」
「こっちこそ。それにしても、山吹ってさ。何か武術とかやってる?」
「ん?ああ、そうだな。拳藤もそうだろう?重心の置き方が体術の修得者のそれだ」
「まあね。私は個性柄、接近戦が出来ないと話になんないからさ。山吹も?」
「似たようなものだな。俺は、どちらかと言えば武器術寄りだが」
「でも、体術もいけるんでしょ?暇が出来た時に、組手しない?うちのクラスには他にも体術やってるのも居るみたいだしさ」
「俺で良ければ相手になろう。組手は貴重だからな」
「んじゃ、決まりね。あ、スマホ持ってる?連絡先交換しとかない?」
「ああ」
「グループ作っとくから、そこに招待するね」
「分かった」
頷く丈瑠に、手早く端末を操作する拳藤。
そして、
「むぅ……」
ぷっくりと頬が膨らむ蚊帳の外に置かれた小大。
面白くない。拳藤も丈瑠も付き合いは数えるほどだが、それでも自分が顔つなぎの鎹となったのは明らか。
勿論、自分が関係できる話ではない事は理解している。話の内容を聞いてもいまいちピンとこないのだから。
それはそれとして、放置されるのは面白くない。
右手の人差し指を立てて、差し向けるのは無防備な丈瑠の左脇腹。
「小大?」
「む」
だが、その指先が脇腹を捉える前に丈瑠の左手がその右手を包むように掴んで止めていた。
ノールックだ。そして、包まれた右手からは堅い感触。
肉としての柔らかさはあるが、それ以上に堅い。まるで、柔らかい石に包まれているかのような不思議な感触。
「……個性?」
「左手か?そうだな、個性の本元の副産物とでも言うべきか。俺は、左腕が頑丈なんだ」
「え、左腕だけ?ちょっと、触って良い?」
「ああ」
断りを入れて、拳藤は制服越しに丈瑠の左腕を掴んだ。
硬い感触。服越しに肉としての柔らかさと同時に、棒でも握ったかのような堅さが感じられた。
「あ、本当だ。堅いや。しかもこれ、筋肉の鍛えた固さっていうよりも別組織のソレじゃない?」
「そうだな。俺の左腕は、右腕とはほぼ別物だ」
「ん」
ぷにぷにニギニギ。丈瑠の左右の腕の違いを確かめる二人。傍から見れば、かなりアレな光景であったが当人たちは特に気にした様子もない。
どこぞの未来のもぎたてヒーローが血涙を流したとか、しかしそれは余談である。
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雄英高校のカリキュラムは、しかし普通科や経営科などの場合は通常の進学校と同じく座学中心。授業進度は速いが、それでも特筆すべき点は少ない。
特殊なのはやはり、工業系にも振り分けられるサポート科。そして、狭き門を潜り抜けて辿り着くヒーロー科。
ヒーロー科の場合、午前中は主に国語や数学といった必修科目。担当は、プロヒーローが教鞭をとる。そして昼休みを挟んでヒーロー基礎学と呼ばれる特殊科目となる。
「――――さて!有精卵、諸君!ヒーロー科入学おめでとう!ここからのヒーロー基礎学はこの私、オールマイトが務めさせてもらうよ!」
A組へとやって来た、不動のNo.1ヒーローに生徒たちの歓声が上がる。
そしてオールマイトに促されて、彼らが向かうのは演習場だ。その前に、彼らは衣替え。
「ん……」
「どうした、山吹」
腕の一つを口へと変えて、障子が問う。
彼が見つけたのは、それぞれに支給されたスーツケースの一つを手に持ったクラスメイト。
中身を見て首をかしげており、何か問題があったのか、と考えての問いだった。
ヒーロー科に所属する生徒たちには、被服控除と呼ばれる特殊な制度が存在する。コレは、要望する機能とデザインを学校に提出する事で各生徒専用のオリジナルヒーローコスチュームを学校のサポート会社が用意してくれるというもの。
例に漏れず、丈瑠もある程度の要望を送っていた。
まず、防刃防弾難燃の羽織、或いは外套。それから、踏み抜き防止の鋼板を仕込んだ靴。これらは、彼が
それ以外の機能は特に求めていなかった。もっと言えば、自分の見た目など正直どうでも良かったのだ。
だが、いざ開けてみればそこにあったのは思いもよらないもの。
「……」
無言で、丈瑠は着替えを済ませていった。
白い長袖の難燃シャツ。その上には、七つのボタンが付いた黒い防刃ベスト。黒のズボンも同じく防刃であり、革のベルトを締める。
足元は、黒いブーツ。編み上げ式で、激しい運動でも脱げることはまずないだろう。
そして、羽織るのは黒いフロックコート。防刃防弾難燃の、少し重量があるが動きを阻害するほどではない。
最後に、首に白いマフラーを巻いて完了。
「いいコスチュームじゃないか?」
「おっ、マジじゃん。山吹、そう言うのって拘る質だったんだな!」
障子が首を傾げ、上鳴が便乗してくる。
特徴的なコスチュームの多い中で、丈瑠のソレは季節感はあるかもしれないが普通の服と呼んでも違和感がないもの。
「いや、俺が要望を出したのは踏み抜き防止の鋼板か鉄板の入った靴と防刃防弾難燃の布地で作った外套か羽織だけだ。その他は、特に何も言ってないんだが……」
「ん?おい、山吹。コレ、まだ何か入ってるぞ?」
首を傾げる丈瑠に、彼のスーツケースを除いた峰田があるものを見つけた。
それは一通の手紙。そこに書かれていたのは、
『趣味に走りました!性能は折り紙付きですので、安心してください!後、コスチュームを着た状態の写真を個性を発動した状態で送ってください! By 作成者』
つまりは、担当であった職員が暴走した結果であるらしい。なまじ、着心地が良い分余計に質が悪い。オマケに、よく似合っている。
かくして、彼らは戦地へ向かう。まだまだヒーローへの道は始まったばかりだ。
主人公のコスチュームイメージは、土方歳三の洋装で検索されると分かりやすいと思います