TS悪徳賞金稼ぎinミアレシティ 作:ブレーザー
イカれた街、ミアレシティ。
昔は観光客でごった返すきらびやかな街だったらしいが、今やもはや別の生き物になっている。
ネオンの光が滲む舗道の下では、闇に紛れて強力なポケモンが蠢いている。どこからともなく、ダストダスの出す腐臭の入り混じった風が流れてくる。街中にポケモンが溢れ、突然路地の一区画が野生ポケモンの群れに占拠されることさえ珍しくない。
夜になれば、トレーナー同士が路地や高架下で睨み合い、ルール無用のポケモンバトルで強さと名声と金を競う。
この街では、ボールの中のモンスターだけでなく、トレーナーの心も野生化していく。
そんな街に俺たちが来てから既に1か月がたった。
夜な夜な繰り広げられるZAロワイヤルでの稼ぎ方も要領を得てきたところで、噂通りポケモンバトルでここまで稼げるというのは破格という他ない。それに何より、ここでは単純なポケモンのパワー以上にトレーナーの運動能力が勝負を左右することも見逃せない。
バトルコートでやるチンケな試合とは違う。不意打ちも、待ち伏せも、ヒット&アウェイも、やりたい放題。審判のホイッスルも、フェアプレーの約束も存在しない。
街灯の下、ポケモンと人間が入り乱れ、爆音と光が交錯する。勝者だけが笑い、敗者はポケモンと一緒に路地裏へ消える。それがこの街の常識であり、美学でもある。
ポケモンリーグのような高度な読み合いではなく、瞬時の判断、直感、そして生き残る執念がすべてを決める。どれだけ理想を語っても、立っているのは速く動いた方だ。
……そして、そのルールを理解した瞬間から、俺はこの街の戦いに、確かに満足を覚えるようになっていた。
「俺たちは上手くやっている。そう思うよな、相棒?」
そう、隣でくるまっている相棒、シェイミに話しかける。
花の香りが窓の外からの夜風に紛れて漂い、わずかに古びたホテル独特の匂いも混ざっていた。
『まあ、君の長所である倫理観の低さを最大限生かしていることは認めざるを得ないね。その少女の体のどこにそこまでの凶悪性が宿るのかははなはだ疑問だけどね。もう少し、そのファンシー少女のイメージに合った口調にしたらどうだい?』
相も変わらずキンキン響く声が脳に突き刺さる。思わず頭を掻きむしりながら、俺はため息をついた。
「うっせー!!お前に言われたくないわ。こちとら好きでふりふりお嬢様スタイルやってるわけじゃねーんだよ。こういうカッコしといた方が警戒されないの!?それでいくつ不意打ちとれたと思ってんだよ?」
薄いシーツの上に置いたランプの光が、シェイミの白い体毛を鈍く照らす。その小さな影が、壁に映ってゆらゆらと揺れた。
『そうは言うけどね。君も本当は気に入っているんだろ?前世が男だとか言いながら、ブティックで嬉々として試着を繰り返していたのをボールの中から見ていたんだからね?金をためて云々いうならば、その無駄遣いを減らして手持ちへのケアにお金を掛けるべきじゃないかい?』
小さなテーブルの上、飲み終わったジュース缶が転がっている。それをゴミ箱にトスしながらシェイミの文句に返す。
「いや、それはお前。あれだよ。男として美少女を着飾らせるのというのは義務ってやつだ。それに男だって大半の奴は美少女になりたがっているんだからな。なったからにはそれ相応の装いをしないと世界に申し訳が立たない!」
シェイミはため息をつくように鼻を鳴らした。
『うーん、どうしようもないね。ところでそろそろ時間じゃないのかい?』
時計を見る。針はいつの間にかZAロワイヤルの開幕時刻を指していた。
窓の外では、いつものことながら通りのどこかで騒ぎが起こっている。
俺は立ち上がり、丸くなっていたシェイミを抱き上げる。
「……ああ、もうそんな時間か。」
シェイミをボールにしまってから、ホテルのドアを静かに閉めた。廊下には人の気配がなく、古いカーペットの上を靴音が吸い込まれていく。
階段を降り、錆びついた非常口のドアを押し開けると、湿った夜気が一気に流れ込んできた。
俺はそのまま、夜の世界へと足を踏み入れる。途端に耳を打つのは、ポケモンバトルによる重低音、そしてどこか遠くで鳴る爆発のような音。
ミアレの夜は、昼間よりもはるかに騒がしい。だが、そんな喧騒が逆に心地いい。これがいつものリズムだ。
目的地は、今夜のZAロワイヤルの開催地、バトルゾーン。毎晩、開催場所が変わる即席アリーナで、今夜も無数のトレーナーが交錯する。
「よいしょっと、スカートはやっぱ動きにくいな。それで今日のバトルゾーンはっと」
外壁に渡された梯子を一気に駆け上がりながら、裾を押さえて小さく悪態をつく。
とりあえず近くの建物の屋上に上がった俺は、スマホロトムの地図アプリから目的地までの距離を確認する。幸い開催地までの距離はそう遠くない。建物伝いに数分でつける距離だった。
「このくらいならポケモンに頼る必要もなさそうだな!」
風が吹き抜ける。
受けたスカートの裾がひらりと舞い、夜空に小さく溶けた。下を見下ろせば、トレーナーと野生ポケモンがひしめき、どこかの路地では彼ら同士のバトルが続いている。その光景を眺めながら、俺はゆっくりと腰を落とし、ビルの端に足をかけた。
「さて、行くか。」
小さく息を吐き、重心を前に倒す。次の瞬間、屋上から屋上へ、闇に溶けるように跳んだ。
靴底がコンクリートを蹴る音と、風を切る音が重なる。
街の喧騒が一瞬遠のき、世界が無音になる瞬間がある。その刹那が好きだった。
ミアレシティの建物は、おおむね高さがそろっている。
この街の上空はまるで一枚の舗装道路のようで、屋上から屋上へ渡っていくことに慣れた今の俺にとっては、イカれた住民に絡まれかねない地上の歩道よりもよほど安全で速い、もうひとつの道だ。
もっとも、完全に平坦というわけじゃない。建物ごとにわずかな高低差があり、古い換気塔や煙突、設置された空調機器が行く手を阻む。
一見すれば雑然とした障害物の群れだが、それらは同時に最高の影でもある。 視線を遮り、追手を撒き、そして奇襲を仕掛けるには絶好の地形。俺は何度もこの上を走り、逃げ、狙い、稼いできた。
風がビルの谷間を抜け、髪とスカートを揺らす。 滑り止めのない靴底が鉄板を踏むたび、短い金属音が夜に溶ける。少しでも足を滑らせれば数十メートル下の舗道に真っ逆さま、もちろんスマホロトムの安全機能と何よりポケモンたちがいるので心配ないがその緊張感が心地いい。
このイカれた街での生活にも、俺はすっかり馴染んでしまった。 最初のころは梯子を探して安全なルートを探し回っていたけれど、今ではそんな面倒な手順を踏む気にもならない。
雨樋に指をかけ、伸びきった蔦を手繰り寄せ、壁を蹴って一気に上へ。古い建物の外壁がざらりと掌を擦る。かつてなら怯んでいたその感触さえ、今では安心材料のひとつだ。
「……よし、ここまで来れば見晴らしはいい。」
息を整える間もなく、次の屋上へ跳ぶ。 煙突から煙突へ、まるで飛び石を渡るように速度を落とさず駆け抜ける。
視界の端で、空調ファンが回転しているのが見えた。風を読む。跳躍のタイミングを合わせて、街路樹の枝を蹴る。わずかに沈んだ枝の反発を利用して、対岸の屋上へ着地した。
……足元のコンクリートがわずかに軋む。
汗ばむ手をスカートでぬぐいながら、ポケットからスマホロトムを取り出す。
画面の上、赤く点滅するエリアマーカー。
ZAロワイヤルの今夜の開催地が、目と鼻の先に迫っていた。
イカれた街のイカれた祭りの始まりだ。
「おい、出てこいシェイミ!!」
小声で相棒を呼び出して手の中のモンスターボールを軽く弾くと、白い光が広がり、小さな草花の香りが漂う。
草の茂る大地とは無縁の、乾いた石と埃の地面。その上に現れた相棒は、見た目だけならまるで場違いな存在のように可憐だった。見た目だけは……。
さあ、ZAロワイヤルの始まりだ。
まず、序盤は戦わないことが重要だ。バトルゾーンには当然目がぎらついたトレーナーがわんさかいる訳だが、むやみやたらに戦ったところで全く美味しくない。適当に戦うくらいなら、戦闘を避けて落ちている賞金メダルを回収するほうが効果的なくらいだ。
そう、重要なのはボーナスカードだ。バトルゾーンには所々にこのボーナスカードが配置してある。そのカードを回収してからカードに書かれた特定の条件を満たすことで大きなボーナスをもらうことが可能になるのだ。
カードのミッションは様々な種類があるが、特定のタイプで攻撃することや効果抜群を出すことなんかが条件のものが多い。そう、まずはこのカード、それも出来るだけボーナスが多く、都合がいいカードを集める必要があるのだ。
だから、序盤は特にトレーナーとの接触を避けていく必要がある。いかにトレーナーと出会わずに賞金メダルとボーナスカードを集めるか、それがその日の稼ぎを決める。その時に、シェイミは俺の耳目として活躍してくれるのだ。
『こっちにトレーナーがいるよ。道を変えた方がよさそうだね』
耳の奥で響くシェイミの声は、風の中でもはっきりと聞こえる。戦場のようなこの街で、相棒の感覚は俺の命綱だ。
シェイミの鋭い感覚を頼りに、敵の動きを察知してルートを変える。
「OK!! じゃあ、街灯登って屋根伝いにルート変更だ!」
返事を終えるより早く、俺は地面を蹴った。石畳の路面に靴の底が当たる。
街灯の鉄柱をつかみ、一気に身体を持ち上げる。手のひらに伝わる冷たさと鉄のざらつき。
小柄な体型のおかげで動きは軽い。柱の根元で錆びついた金具が小さく軋む音を立てたが、気にしている暇はない。
屋根の縁に手をかけ、反動で身体を引き上げる。乾いた瓦の感触が掌に広がり、呼吸が白く漏れる。
『スカートの中……。今更かな?』
「なんか言ったか?」
『ううん、別に。どうせもう見慣れてるし。』
「……今度ほんとに花むしってやるぞ。」
小声で毒づきながら、姿勢を低くして前方をうかがう。この建物の屋根の上は思ったより開けている。隙間から漏れる光が、ところどころで小さく揺れている。遠くの方では誰かが戦っているらしく、爆ぜるような音が夜気を震わせた。あそこまで分かりやすいと避けやすいので非常に助かる。もちろん、終わった直後を狙って漁夫の利を得るのもありだが、今はボーナスカードが優先だ。
「よし、見晴らしいいな。次は屋根ルートの先を見てきてくれ!!頼むぞ!」
『了解、偵察モードだね。』
シェイミが軽く身を震わせると、体から花粉のような光が散った。その光が夜風に乗り、周囲の気配を探るようにゆらめく。
屋根から屋根へ、ベランダの手すりを蹴って飛び移り、影のように身を滑らせる。
その合間に、賞金メダルを拾い、地下水道の湿った通路を駆け抜け、野生のポケモンに襲われれば転がって避ける。金属音と水音と呼吸の音が、夜の中でひとつのリズムを刻む。
足裏から伝わるコンクリートの冷たさ、掌に走る擦過傷、それらがむしろ心を落ち着かせる。
「シェイミ、次のルート確認!」
『了解。左手の通りに二人、右は安全。……ただし、地面の段差に注意だよ。』
「サンキュ!」
声を短く返し、右の壁を蹴って一気に段差を飛び越える。
「よし、必要なのは集まったぞ!!よくやってくれた。ナイスだ、シェイミ!!」
スマホに登録されたカードを見ながら、思わず声が漏れる。呼吸は少しだけ荒い。膝に残る感触が、さっきまでのアスレチックの激しさを物語っていた。
シェイミは誇らしげに俺の肩に乗っかり、それから少しあきれた表情に変わった。
『はあ……またあれをやるのか。毎度のことながら、君の効率的ってやつはイカれていると思うんだけどね』
「文句言うな。これが一番早くて安全なんだよ。」
そうやって、夜のミアレを楽しんだ俺の手元には珠玉のボーナスカードが集まっていた。もちろん、カードを集めても4枚目以降は有効なカードを入れ替えることになる。けれど、俺が狙うのは大きいボーナス。こまごまとしたカードはどちらにしろ必要ない。
目的のカードが手に入ったら、いよいよトレーナーとのバトルを避けては通れない。
それでも、俺にとって一番重要なのは、いかに逃げやすいかだ。
このZAロワイヤル、他のバトル形式と違って「逃走」がペナルティにならない。いや、むしろこの競技では、逃げ足こそが戦術の要だ。互いの視界から外れた時点でバトルは事実上終了。勝敗の宣言も、判定もない。
俺のボーナスカードの条件に相手のランクは関係ない以上、こっちが一体でも倒されそうな強いトレーナーとは戦う意味がない。だからこそ、強さが分かった瞬間に、一方的に勝てる相手以外からは逃げてしまえばいいのだ。
もちろん、追いかけてこられたらといえばその通りだが、アスレチックで俺に勝てるほどのやつはそうはいない。いざとなればポケモンの技まで使って逃走すれば、そんな相手を追いかけるほど暇じゃないだろう。
「そっちの、木の中に隠れてくれ!」
そんなわけで、階段横の茂みの中に隠れてトレーナーを待つ。バトル開始時のこっちの逃げやすさと相手の逃げにくさ。そして、攻撃をかけるときの隠密性。ここはその条件を満たしている。
声を抑えながら指示を出すと、シェイミが素早く枝の陰へ滑り込む。その動きは風に溶けるようで、夜目でもほとんど見えない。小さな葉のざわめきだけが、一瞬の存在を示して消える。
しばらく待って現れた一人目のトレーナーはいかにも高そうなスーツに身を包んだ若い女性だった。間違いなくこの街のイカれた集団の一つ、ミアレソシアルバトルクラブに属しているのだろう。連れているガチゴラスもそれなりの実力を持っているように見て取れる。メダルは持っていそうとはいえ、仕掛ける相手として微妙だ。それに、あの集団は俺の存在とやり口を知っていて、目をつけられている。万が一にも仲間を集められたら、バトルから逃げるのは大変だろう。
そうして一人目をスルーした後、次に現れたのは配達員の男性だ。連れているポケモン、ヒヤップを見る限りそこまで腕が立つようには見えない。進化していないポケモンを連れているところを見ると、おそらくはPランク以下、下手をすればVランク以下かもしれない。これはいい獲物だろう。
シェイミに手で合図を送り、通り過ぎるのを待って一気に仕掛ける。
エアスラッシュ!!
手を振り下ろした合図とともに、シェイミから空気の刃が放たれる。
あまりにも静かに放たれたそれは、正確無比にヒヤップの首元に迫り……
ザシュッツ
その意識を一撃で刈り取った。
「えっ、ヒヤップっ!!トレーナーはどこに……いけっ、バオップ!!どこから飛んできたか分からないから壁を背にして戦うぞ!!」
流石はイカれた街の住人。自分のポケモンが一撃で倒されてもすぐさま次のポケモンを繰り出し、死角を潰して警戒態勢をとる。こうなれば、俺が隠れている意味はない。
茂みから一気に飛び出してこちらに注目を集めつつ、シェイミに技を放たせる。
「シェイミ、もう一度エアスラッシュ!!!」
「えっ、避けろバオップ!!」
そして、一瞬よそ見した相手を逃すほどシェイミは生易しくない。回避もままならないバオップにエアスラッシュが襲い掛かる。そして、先ほどと同じようにバオップも戦闘不能に追い込まれる。
「シェイミ……。ミアレの悪夢!?本当にいたのか!?くっ……ヤナップお前が頼りだ!!」
なにか聞き捨てならない単語が聞こえたが置いておこう。最近、出会うトレーナーからよくこの単語を聞く気がするが、まさかこの自他共に認める美少女にそんなあだ名がつくはずもない。
さて、相手のポケモンは草タイプのヤナップ、対するこちらは草・飛行タイプのスカイシェイミ。そして、相手ののこりポケモンはヤナップのみ。そう、ここまでくればこちらに負ける余地はない。だから、シェイミのエアスラッシュで試合終了……そうは問屋が卸さない。
「ヤナップ、なんとかエアスラッシュを躱してアクロバットだ!!俺たちでシェイミを倒すぞ!!」
「シェイミ、戻れ!!ゆけっ、サーナイト!!!」
意気込んでくれているところ申し訳ないが、俺が繰り出したのはサーナイト。
「ここで交代!?ならつるのムチで攻撃だ!!」
突然の舐めプに驚かれたがもちろんこれには理由がある。
「サーナイト、加減して10まんボルトだ!!」
そう、俺の目的は勝利ではない。ボーナスカードの条件達成だ。俺の集めたボーナスカードの条件は三つ。
・メガシンカしたまま 5回技を当てろ
・電気タイプの技を 10回くらわせろ
・エスパータイプの技を 10回くらわせろ
そして、この判定は技が当たって効果を発揮したかどうかだ。そう、ポケモンにとって全力かどうかはここでは問題ではない。もっとも、変化技や無効な技ではカウントされないという難点はあり、汎用性との両立を考えた結果、俺は力を抜いて技を放つのが一番効率的だろうということに行きついた。
俺の指示を正しく理解したサーナイトの10まんボルトは、全力の時と比べて明らかに弱弱しくヤナップを叩く。効果がいまひとつなことと合わせて体力の半分も削っていないだろう。普段通りの威力ではタイプ相性を考慮しても余裕で一撃であることを考えると素晴らしい力加減だ。
「ヤナップ!!!よく耐えた!!反撃のつるのムチだ!!」
「サーナイト、距離をとりながらもう一度、10まんボルト!!倒すなよ!!」
サーナイトは反撃に出ようとするヤナップから少し離れるように動きつつ、次の一撃を放つ。この程度の技なら受けても気にならないが、ここはZAロワイヤル。バトルコートの端がないのであれば遠距離から一方的に攻撃するという選択肢が十分に可能だ。
「ヤナップ!!!」
そして、いくら加減しているとはいえヤナップの体力も残り僅かだ。つるのムチを出す構えだけは解いていないが、電気タイプの技を連続で受けて麻痺しているのだろう。
もちろん、このまま倒してしまっても問題はない。というか、ZAロワイヤルはそれを前提に作られているのだろう。
だけど、俺は思う。それはもったいないと。
ボーナスカードの条件は誰が相手でも問題ない。そう、同じ相手に10回技を当てても問題なくカウントされるのだ。欲をいうならば、このヤナップのような反撃が怖くないようなポケモン相手に何度も技を当てることで条件を達成したい。けれども、弱いポケモンはそれに応じて耐久力も低くなりがちで、いくら弱くしてもそう何度も技を耐えることはできない。だが、こんなこともあろうかと、サーナイトにはこの技を覚えさせている。
「サーナイト!!!全力でいやしのはどう!!」
「はっ?」
体が痺れそうになりながらもなんとか起き上がるヤナップに、サーナイトは素早く近づいていやしのはどうを打ち込む。やさしい光がヤナップを包みこみ、見る見るうちに体力が回復していく。サーナイトの腕もあってか、ヤナップの体力は全回復にちかだろう。
サーナイトのいやしのはどうを受けたヤナップは一瞬困惑したようだったが、それが敵対的な攻撃ではないことに安心したのか構えをといていた。
これはチャンスだ!!
「あっどうも、回復してくれて「サーナイト、10まんボルト!!」 えっ?」
サーナイトの素早い攻撃が決まり、再び電撃がヤナップを打ち据える。俺はヤナップが動きを止めたこのタイミングで、サーナイトをメガシンカさせる。
「サーナイト!!行くぞ!!メガシンカだ!!!!!」
頭に飾ったグラシデアの花飾りの中心、そこに埋め込まれたキーストーンへとそっと指先を伸ばす。淡い光が花弁の縁を伝い、やがて脈打つように広がっていく。
呼応するように、サーナイトの胸元のメガストーンが共鳴の音を立て、光が絡み合って渦を巻いた。
眩い輝きの中で、サーナイトのシルエットが一瞬溶ける。
光はやがて結晶のように砕け散り、その姿が新たな装いで再構成されていった。
腕を包むのは純白のロンググローブのような光の鞘。腰から広がるスカートは柔らかな光を宿し、まるでクリノリンをまとったドレスのような優雅な曲線を描く。その身を包む光は静かに揺らめき、ミアレの風の中で神聖なヴェールのようにたなびいた。
かつての優雅さに、いまは凛とした威厳が宿る。
メガサーナイトがそこに立っていた。
「なっ!」
「サーナイト、力を抑えて10まんボルトだ!!」
サーナイトの指先から放たれた稲妻が、空気を裂きながらヤナップへと奔る。金色の閃光が跳ね、焦げた匂いが立ち込めた。メガシンカによってその力は格段に増していたが、攻撃の加減は寸分違わず制御されていた。
ヤナップの体に走る電流は、適度なダメージを与えて止まる。まるでサーナイトが相手の耐久を計算しているかのようだった。
「どっ、どうして?!」
「続けてサイコキネシス!!」
サーナイトの瞳が淡く光る。無音の力が場を支配した瞬間、ヤナップの体が浮き上がって念力で軽く締め上げる。見えない力が体をねじり、空中でヤナップが藻掻く。
「そろそろ、回復だ!!いやしのはどう!!」
再びいやしのはどうでヤナップの体力が回復していく。
「や、やめろ!」
男のトレーナーが叫ぶ。しかしその声は、冷たい夜風にかき消される。
「サイコキネシス!!!10まんボルトだ!!」
ヤナップの体が歪み、地面に叩きつけられる。埃と焦げた葉が舞い上がり、彼の声が再び震えた。
「ひっ!!」
「そろそろ、回復だ。いやしのはどう。」
淡い光が場を包む。サーナイトの周囲に柔らかな粒子が舞い、ヤナップの体の焦げ跡を優しく覆っていく。だがそれは癒しではなく、次のダメージを与えるための準備にしか見えなかった。
バトルが終わった後、俺は近くの建物の屋上で休憩していた。夜のざらついた風が頬を掠め、街の灯りが遠くで揺れている。
俺は屋上の縁に腰を下ろし、空を見上げる。いつの間にか雲が低く垂れ込め、ミアレの夜空はどこまでも重たい。
「……ふうっ。お疲れ、サーナイト。」
ボールを掲げると、静かな光が吸い込まれるように収束していく。手のひらに残る温もりが、まだ鼓動のようにじんじんと残っていた。
「出てこい、シェイミ。」
光が一閃し、花の香りを伴って小さな影が現れる。
『はあ……またずいぶんやってくれたね。』
ボールの中から見ていたであろうシェイミがあくび混じりに俺を見上げる。その小さな体の奥に潜む冷静な目は、いつもながらどこか人間よりも達観しているようだった。
俺は軽く肩をすくめ、靴の先で屋上の砂を蹴る。
「少し休憩したら、次のボーナスカードを探しに行く。次は北側を探すぞ。」
スマホロトムで地図を見ながら次の目的地を絞る。効率的な探索にはこれが欠かせない。
『いい加減、まともなバトルをしたらどうだい? 君も戦いのセンスがないわけじゃない。
もっと正面からやれば、評判だって悪くないだろうに。』
「そんなもんで楽に勝てるなら、誰もこんな風に戦ったりしねぇよ。俺は俺のポケモンが傷つくのが嫌なんだ。お前らが倒れるのを見ながら金を稼ぐのは……まっぴらだ。」
『ふうん……。 倫理観はどうなっているんだか。相も変わらず歪んでるね。』
「歪んでても、誰も咎めやしないさ。さあ、夜は短いぞ!!」
俺はそう返しながら、夜空を見上げた。
夜が明ける頃、ミアレの空は薄紫色に染まっていた。
一晩中燃え続けたバトルゾーンの灯りも、今はほとんど消えかけている。
スマホロトムでメダルを換金すると、無機質な電子音が響き、残高が更新された。
「……ふぅ、今夜も悪くねぇな。」
数字を見て小さく呟く。リスクの少ないやり方でこの額というのは満足に値するものだろう。それでも心の奥には、わずかなざらつきが残る。
最近、この街の裏で妙に多くの組織が動いている。首領自ら動きだしたというミアレソシアルバトルクラブのバトルジャンキーども、どう見てもあの道の連中にしか見えないサビ組とかいう組織。悪質なトレーナー狩りやら謎の凄腕トレーナー集団まで。
街の息が、日に日に荒くなっている。これもいつまで続くかはわからない。
戦いの熱気が冷めたミアレは、まるで息を潜めた獣のように静かだった。街灯が霧のような明かりを落とし、濡れた石畳が鈍く光を返す。風の音と、ポケモンの鳴き声だけが夜明けを告げていた。
俺は屋上の縁から身を翻し、低い建物の非常階段に足をかける。鉄の手すりが冷たく、手のひらの汗を吸う。一段ずつ降りながら、靴音を極力殺した。
この時間、目をつけられるのはごめんだ。いい加減、眠くなってきた。路地裏を抜けると、冷たい朝の空気が頬を撫でた。
そしてようやく見えてきた、ホテルZ。宿泊客のいないこの古びた宿こそ、一番の安全圏だ。
部屋の窓を押し開けると、軋む音が小さく響く。外の喧騒が遠ざかり、代わりに安堵の静けさが満ちていく。
俺は肩の荷を下ろすように息を吐き、冷えた部屋に足を踏み入れた。
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ZAやってて急に書きたくなっただけなので、続くかは完全未定です。悪しからず。
ボーナスカードに引っ張られ過ぎると意外と稼げませんよね?