どうやら俺は英雄の生まれ変わりらしいんだけど、前世の記憶なんて全くない   作:石鹸枠好きの翁

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第1話:入学式

 この国には、かつて英雄達がいた。

 千年ほど前の事、妖怪が溢れ混乱に満ちる日本を救って、数百年規模の平和を築き上げたそんな英雄達が存在していたそうだ。

 

 水を生み出し操ったり、木を生やして操作したり、武器を自在に創り出したり……と、色んな事が出来る英雄がいたようで、なんか凄かったらしい。

 そして英雄達とやらは生まれ変わるらしく、日本は代々英雄の記憶を持つ者に守られてきたというのが大まかなこの国の歴史だ。

 

 話は少し戻るがその英雄の中に(ほむら)の英雄と呼ばれる芥火焔矢(あくたびえんや)という男がいたそうだ。

 その男は癖の強い昔の英雄達をまとめて、妖怪達の神とされる存在を討ち滅ぼした功労者。しかも最も強かったとされる英雄で、世界を救い姿を消したという存在。

 

 それで、どうやら俺は焔の英雄様の生まれ変わりらしく、産まれた時に名前を襲名した……らしいんだけど、俺には英雄として大事な前世の記憶(・・・・・)なんて持ってないので、多分これ勘違いされてるんだと思う。

 

 

――――――

――――

――

 

 

 満開の桜並木の下を歩いて行く。

 学校生活中は持ち続けろと言われた黒い鞘の持つ刀を腰に差して歩いていると……慣れてはいるが、鬱陶しい視線を感じてしまう。

 やはりというか目立つのは分かっていたが、いつも感じる以上の視線の数に居心地の悪さを覚える。

 

「……だる」

 

(む、どうしたんだ主殿? 入学式はもうすぐだが、凄く不満そうだぞ?)

 

 体育館までの少し遠い道のり。

 視線を気にしないためにあくびをすれば、頭の中に声が響く。

 現れた声の主は俺の刀から浮いて出てきた明星(あかぼし)という名の少女の幽霊。

 暖かい炎の様な赤い髪に、真っ白い角。

 着物を着込むそんな彼女は、周りを見渡しとても楽しそうに俺の入学する叢雲(むらくも)学園の外装を――いや、俺の不満そうな顔を見て笑っていた。

 

(そりゃそうだろ、仕方ないとは言えマジで鬱陶しいし、というかお前知ってるだろ)

(いやなぁ、この様子の主殿は稀少でな。それで、どうだ? 何か思い出せそうか?)

(無理だ、心当たりとかデジャブとかもないし。でけぇ学校……的な感想しかねぇよ)

 

 外装だけでも六階はあるめっちゃ大きく広い高校。

 目の前にある校舎だけでもデカいのに、今いるのは完全な人工島であり……一つのテーマパークぐらいある。

 

(そうか、ここは前世で通ってた学校ではあるし……思い出すとも思ったんだがな、まぁ今更か)

(そそ、とりあえず三年間通えば俺は自由だし、何より英雄様の前世なんか思い出す必要ないだろ)

 

 歩きながらも慣れた念話を続けていれば、いつの間にか体育館の前に辿り着く。

 事前に渡された資料の通りに新入生達が集まっている区画に向ってみれば、空いている場所に俺は並んだ。

 

(もう時間だぞ。さぁ入学式だ)

(はいはい、とりあえず戻ってろ)

 

 

 そうして刀に戻る相棒を見送って、俺はとりあえず入学式の始まりを待った。

 しかし入学式というのはいつになっても慣れないし、なんなら嫌いな部類である。

 だってさ、幼、小、中、高校と四回もあるくせに大体内容が変わらないというか、やる行事が立ちっぱなしで、興味のない在校生の言葉を聞いたりするだけだからだ。

 

 しかも、あれだぞ?

 入学式の後には面倒くさい自己紹介が挟まったり、なにかの間違いで交流会に続き、なんならそのあと連絡先の交換も相まって……翌日には晴れてぼっちの誕生だ。

 コミュニケーション能力がないという訳ではないが……基本俺は面倒くさがりだし、そういう行事に対する熱量を持っていない。

 

 正直なところ、知り合った奴が死んだら寝覚めが悪い――え、つまり何が言いたいかって? ぼっち、さいこー。

 

(のう、主殿? 念話全開放でカスみたいな(ノミ)の思考を垂れ流すのはなにかの法に触れると思うのだが、そこの所はどう思うのだ?)

 

 入学式が行われている体育館。

 興味のない話を聞き流していると、頭の中に声が響いた。

 気怠げというか、まじで鬱陶しそうなその声色。

 

 何かと思えば再び出てきた明星がこっちを不満げに睨み付けている。

 そこで自分が念話ダダ漏れだった恥ずかしさを感じるものの、途中で止めなかった奴が悪いと結論づけながらも返事を返す。

 

(ごめん、まじで切るの忘れた。でもな、明星。さっき念話してきたのお前だし、お前が自分で切れば良かったと思うんだよな)

(そうか喧嘩なら買うが、今は暴れることが出来ぬからな……とにかく集中しろ)

 

 彼女に常識あって助かったアーメンと……心の中で感謝の祈りを捧げて、とりあえず入学式に集中することにした。

 だって、横で凄む保護者兼相棒が怖いというか……あとで説教されそうな中で、小言増やしたくないからさ。

 

『次は、新入生代表による挨拶です。木霊杏香(こだまきょうか)様、どうぞ壇上へ』

 

 そこで、びくりと体が跳ねた。

 聞き間違いかと思って、全く見てなかった壇上を見てみると、そこには翡翠の髪色をした腕に黒い手袋を付けた少女が一人。

 

 木霊杏香――相手が覚えているか分からないが、俺は忘れたこともないし何年も会ってない幼馴染で、どうしても俺が会いたくなかった人物だった。

 新入生である俺達の方へと向き直り、その桜色の瞳を輝かせ――ゆっくりとその口を開いて、言葉を告げてくる。

 

『新入生の皆さん、紹介にあずかりました木霊杏香と申します。年々被害が増す妖災が起こる中、こうして叢雲学園に集まれたことを嬉しく思います』

 

 聞き慣れたような例文みたいな挨拶。

 よく考えられるなぁとか思いながらも、再会するかもしれないという不安に胃を痛める。この学園に来る以上会う覚悟をしてはいたが、こんなに速く見つけるとか思わないだろう普通。

 

『そして、そんな私達がこれから待っているだろう試練を乗り越えて、立派な祓魔師(ふつまし)になれるように心から願っております……何より、五行家の一柱、木の一族として恥じないように学生生活を送りたいと精進して参ります』

 

 考え事してあんまり聞いてなかったが模範解答のようなその挨拶。

 彼女の昔の性格を考えると変わってないようで安心だけど、そう言ってる場合ではなかった。この学園に来た理由もあるし、そもそも面倒事はごめんだしで本当に苦しいかもしれない。

 

(ほう成長したようだが、確かに杏香嬢だな……それで、のう主殿……大丈夫か?)

 

 俺の事ずっと見ていた相棒は、そうやって心配してくれるが正直気が気じゃない。

 同じ一年生な事は理解してしまったし、クラス発表は体育館を出てからなのでまだ希望はあるけれど……これ、希望あるかなぁ。

 

『では失礼しますね……』

 

 そしてこれは、一瞬。

 本当に一瞬だけ……彼女と目が合ったような、そんな気がした。

 身が震え、本能が恐怖を覚えるような、鋭い視線。

 蛇に睨まれた蛙のような、狙われた芋虫というか、月とすっぽん……いや最後のは違うか、動揺して変な思考になったぞ。

 

 それからはスムーズに式が進行……というより、俺の精神に多大なるダメージを受けたことにより、時間が速く感じて気付けば退室となっていた。

 胃がいてぇな……とか思いながらも、俺は無事にクラス表を渡されて……見知った木霊杏香という名前を見て、絶望の意味を知ったのだった。

 

――

――――

――――――

 

 目が合った彼の事を間違えることなんてない。

 私に対する罪悪感からか、気まずさからか、少し怯えた視線はすぐに逸らされた。その一瞬ですら、私は決して間違えない。

 綺麗な黒曜石のような濡れ羽の髪に、燃える炎のような暖かくも優しい深紅の瞳。

 記憶に焼き付いて離れないその姿、話してすらないのに高揚する気分に身震いすら覚えてしまう。

 

 一瞬だけ見る事が出来た彼の腰には、黒い鞘の刀が差してあって……その出で立ちはやはり前世のまま。

 どこまでも会いたくて、どこまでも想い焦がれた彼がここにはいる。

 

 忘れたことなど、一度もない。

 彼を想わない日など、一夜も存在しない。

 会う日を願って、再会を祈った八年間を、忘れる事など一切ない……だからどうか、貴方の元に参らせてください、私の英雄様。

 

「再会は、必ず――私の宿願のために。お慕いしております、焔矢様」

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