どうやら俺は英雄の生まれ変わりらしいんだけど、前世の記憶なんて全くない   作:石鹸枠好きの翁

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第2話:身構えても来るものは来る

 帰りてぇ……と心底思う。

 クラス表を渡されてから多分だが、五分ほど。

 自分のクラスである一の三に行く前に、俺は学園内に設置されているベンチでひたすらに黄昏れていた。

 この学園に入学する生徒の事だから、モチベーションが高いのかもう周りに人はいないから助かるが。

 

「……帰りてぇ」

 

 あまりにも面倒くさい現実に、さっきの思考が漏れて出る。

 だが、最低限の学園生活を送るという契約を親と交わしてしまっている以上はしっかりと授業を受けないといけなくて。

 まぁでも、ドキドキ契約確認チキンレースをしてもいいかもしれないが……そんなリスクを入学初日からする理由も意味もないので……。

 

「あぁ、めんどぉ」

 

 最後に口に出して、重すぎる腰を上げて校舎に入り、クラスに向かうことにした。

 入る前に見た地図を思い出すに、一年生の教室は二階にあるらしく、上がった先にはすぐに自分が通うクラスがあった。

 

 教室に入ってみれば、それまで外に聞こえる声量で駄弁っていた生徒達の視線が一斉に俺へと集まり……それらの反応を受けた俺は、なんとか顔に出さないようにしながらも、自分の名前が書かれたロッカーに刀をしまい、そのまま席に座った。

 

 ネームプレートが置かれているのは窓際の目立たないような後ろの席。

 席の場所だけは落ち着けるし、授業中も外見て暇つぶしができる最高な場所なのだが……席替えという行事を知っている身としては、いつかこの場所を失うというのがちょっと残念。

 

 どうせなら一年間は席替えが無し系の学校だったらいいなとか思いながらも、あまりにも始まるまでが暇だったので、机に顔を突っ伏すことに決めたんだけど。

 

「あのぉ、焔矢様?」

 

 とにかく聞こえないふり。

 今は睡眠しているという体で、俺は無視を決め込む。

 

「授業始まりますよ?」

「……ぐーすーぴー」

「私、口で寝ているふりをしてる方初めて見ます」

 

 ……奇遇だな俺もだよ。

 彼女から出てきた言葉に同意して、すっごく気が重いけど顔を上げる。

 肘を机に付けた形で顔を上げてみれば、そこにいたのは入学式で壇上に立っていた木霊杏香の姿がある。

 

 翡翠色の髪に、桜色の瞳。

 誰がどう見ても美少女だと言えるほどに成長した彼女は、その瞳を真っ直ぐと俺に向けている。

 

「久しぶりだな、杏香」

「はい、お久しぶりです焔矢様」

 

 昔と変わらぬその口調。

 穏やかで丁寧な雰囲気の彼女は、顔を上げるなり隣の席に座ってきた。

 そこで今更気付いたが、隣の席のネームプレートには木霊杏香と彼女の名前があって……さっきの思考を早速だが訂正したくなった。

 

 あぁ、なんだろうか。

 ここまで席替えという行事を望んだのは初めてかもしれない。

 どうせなら今日やってもいいぐらいには、それを望んでしまうし……なんなら勇気を出して、先生に頼んでもいいとさえ思える。

 

「はぁ……」

 

 まぁ、そんな事は何が間違ってもまかり通る訳がないので、俺はとりあえず幸せを逃がしておいた。

 

「とりあえずですが、一年よろしくお願いしますね」

「……なぁ、この学園って席替えあるよな?」

「えっと、隣の席でパートナーが組まれるのでありませんよ?」

「……ジーザス」

 

 どうしよう、希望が早速二つ絶たれた。

 これが希望剥奪リアルタイムアタックか、流石の俺でも驚きだ。

 思わず外国風に神に祈ってしまったのだが、その瞬間に真後ろにあるロッカーが激しく揺れた。相棒が起こした怪奇現象に、肝を冷やしながらも流石に素っ気なさ過ぎるのも気まずいので……。

 

「とりあえず一年よろしくな」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

 それが久しぶり……いや八年ぶりに話す彼女との短い会話だった。

 それから先生が来て、初めての授業が始まる。これからの学園生活が始まる大事な一瞬、だけど、俺が気になるのは横に座る彼女の事。

 

 ちらりと横を見れば春という暖かい季節にもかかわらず、黒く長い手袋を付けている杏香の姿が見える……凜としていて、真面目に先生の話を聞いている彼女。

 いつまでも杏香に意識を向けるわけにもいかないので、挨拶をしている先生の方を見ることにした。

 

「新入生諸君、私は如月理彩(きさらぎりさ)、主に戦闘科目を担当していて、君達の三組の担任になった者だ。一年という短い期間だが、しっかりと教えていくからよろしく頼むぞ」

 

 琥珀の瞳の黒髪ロングのその先生。

 雰囲気としてはしっかりしていて、かなり鍛えてるのか立ち振る舞いに隙がない。

 戦闘科目担当というのにも説得力を感じるし、勝手なイメージだが熱血系? という俺からするとマジで苦手な部類な先生かもしれないという考えが頭を過った。

 

「とりあえずこの学園の説明になるが、ここでは事前に配った学生証が色々な行事に使えるからなくさないようにな、寮に入るのにも必要になるので、絶対だぞ?」

 

 そう言われて思い出すのは、無駄に仰々しいというか雰囲気のあった昔の手形のような道具。古風というか古くないか? と思えるようなそれには、色々な術や仕掛けがなされてること知っていたが、寮に入るのにも必要なのか。

 

「では初日ってことで、今日は解散だが……何か質問があれば私に聞いてくれ」

 

 そんなこんなで今日は解散。

 授業も終わり、自由時間となってくれたので俺は既に荷物が送られている寮に帰ることに決めて、教室を出て馬鹿広い人工島を進み、部屋に辿り着き、入れたんだが。

 

「なんで、君がここにいるんだ!?」

「オーマイゴッド……」

(だから主よ、他の神に浮気祈りするの止めないか?)

 

 

 そこにいたのは、とても綺麗な水色の髪をした半裸の美少女。

 しかもそいつは見覚えがあって……杏香の次にどうしても会いたくなかった幼馴染の一人だった。

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