相澤消太が高専に転校してから、三ヶ月が経った。
気づけば季節は巡り、空気は冬の鋭さを失い始めている。
朝の冷気はまだ残っているものの、吐く息は白くなりきらず、どこか柔らかい。
(……もう三ヶ月か)
校舎の廊下を歩きながら、消太はぼんやりとそう思った。
最初は、誰かと仲良くなる…馴れ合うつもりはなかった。
ただ、必要だから来た。それだけのはずだった。
だが今は違う。
背後から聞こえてくる、やかましい足音と声。
「おっはよー消太! 今日の授業、絶対つまんねぇよな!」
「悟、朝からうるさい」
「ひどっ! 消太冷たくなってない?」
「最初からだろ」
いつものやり取り。
いつもの朝。
最初は違和感しかなかった。
無下限を当然のように振り回す悟、どこか飄々として底の見えない傑、そして治療という名の暴力を平然と行う硝子。
その三人の輪の中に、自分が自然に混ざる日が来るとは、正直思っていなかった。むしろ入れなくて孤立すると思っていた。
だが……気づけば、それが当たり前になっていた。
季節は冬へと進み、校舎の廊下は冷え、吐く息が白くなる。
任務は相変わらず不規則で、呪霊は季節など関係なく湧く。
それでも、日常は確かに積み重なっていった。
俺が高専に来てから三週間、ちょうどその時はクリスマスだった。
「なあ消太、クリスマスって知ってる?」
ある日の昼休み、悟が唐突にそんなことを言い出した。
「……当然知ってるが」
「違う違う、知ってるじゃなくて“どう過ごすか”だよ」
悟は机に頬杖をつき、やたら楽しそうだ。
傑はそれを見て、すでに嫌な予感しかしない顔をしている。
「まさか……パーティーとか言わないよね?」
「言うけど?」
即答だった。
「やろうぜ、クリスマスパーティー! ケーキ! チキン! プレゼント交換!」
正直パーティー自体は良かったが、悟が企画するとなるとそれは別だ。
「高専で?」
「高専で!」
「……任務で血まみれになったあとにケーキ食うのはどうなんだ?情緒大丈夫か?」
「そこがいいんじゃん」
「最悪の理由だな」
結局、反対する者はいなかった。というより、止められる人間がいなかった。
当日、悟の部屋には無駄に大きなツリーが置かれ、傑はなぜか高そうなチキンを手配し、硝子は「はいはい」と言いながらも、きっちり人数分の皿を用意していた。
「で、プレゼント交換ね」
「聞いてないよ悟…」
「聞いてないけど?」
俺はその場で一瞬、思考を放棄した。
傑はそもそもちゃんと聞いてなかったらしく、硝子寝ててプレゼント交換とかの話を聞いてなかったらしい。でもなぜか全員プレゼント自体は用意されてた。
結果、
悟からは「目薬詰め合わせ」、
傑からは「目を守るためのゴーグル」、
硝子からは「ホットアイマスク」。
……どれも、妙に実用的だった。
「なんでこんな揃ってんだよ」
「消太が一番使うから」
「事実だから否定できない」
俺は悟にサングラスを、傑にはのど飴を、硝子にはタバコ一箱渡した。のど飴を渡したのは呪霊飲みこむときの傑の顔が変だったから。
笑いながら食べるケーキは、正直、人生で一番変な味がした。
でも、悪くなかった。むしろ楽しかった。
二月に入るといつも通り…いやいつも以上に悟がうるさくしてた。傑も心なしかうるさかった。
「なあなあ、バレンタインって知ってる!?」
「お前それしか知らないのか」
「チョコもらえる日でしょ?」
廊下で女子生徒、おそらくは卒業する先輩か誰かにに囲まれている悟を見て、俺は即座に距離を取った。
傑と硝子は遠くから面白そうに眺めている。
「五条はああいう星の下に生まれてるからね」
「……呪いみたいな言い方するな」
その日の夜、硝子は無言で机の上に小さな箱を一つ置いた。
「はい」
「……これは?」
「義理」
俺に一つ。
悟と傑は期待に満ちた目で待っていたが、硝子は一切見なかった。
「私、クズには渡さない主義だから」
「待って!? なんで俺と傑だけ!?」
「そうだよ硝子!消太に渡して私達にはないのかい!?」
「心当たりが多すぎるから。わかってるだろ?」
結局、悟は自力で大量のチョコを確保して、傑もそれなりにもらっていたが、硝子の一言で精神的ダメージは致命傷だった。見かねた硝子が部屋の前に置くことにしたらしい。
俺はもらったチョコを見下ろし、少しだけ戸惑った。
「……こういうの、慣れてない」
「知ってる」
「顔に出てる」
硝子は軽く笑いながら言って、医務室へ戻っていった。
気づけば雪は溶け、空気が少しずつ柔らかくなっていた。
校舎の掲示板には「進級」の文字が貼られ、
時間が確実に前へ進んでいることを突きつけてくる。
夜、校舎の屋上で、俺は一人風に当たっていた。
「……ここに来て、三か月か」
長いようで、短い。
最初は他人だった。
今では、任務の背中を預ける相手になっている。
「消太」
背後から悟の声。
振り向くと、傑と硝子もいた。
「進級だね」
「実感ある?」
「……あるようで、ない」
硝子はフェンスにもたれ、空を見上げた。
「でもさ」
「?」
「三か月前より、だいぶマシな顔してるよ、相澤」
俺は一瞬、言葉を失った。
「それ、褒めてる?」
「褒めてる。かなり」
悟がにやっと笑う。
「でしょ? 俺のおかげだよね」
「絶対に違う」
「即否定!?」
傑が肩をすくめる。
「まあ、四人でいる時間が増えたってことでいいじゃないか」
風が吹き、校舎の影が揺れる。
この場所で、また一年が始まる。
任務も、戦いも、失うものも増えるだろう。
それでも――。
「……悪くないな」
そう呟いた俺の声は、風に紛れて消えた。
進級。ただ、次の段階へ進むだけだ。
後輩か…と思いながら、そもそも後輩来るだろうかと言ってみたら、3人とも「ないない」「こんなとこにくるわけない」的なことを言ってた。
硝子が歌姫先輩が進級祝いをするって言った。悟は弱いとか言い出し、傑はそれをナチュラルに煽る。
…まず歌姫先輩って誰だ?
多機能フォームとはなんぞや