「先生」
「……さやか。最近お前俺に絡みすぎじゃないか?」
「まあまあ、そんなことはどうでもいいじゃないですか」
「…はあ、で? 何の用だ? 言っておくが“宿題減らせ”とかいうのは聞かないからな」
「いや、あれはもうしませんよ。あれやったら先生さらに宿題増やしてきたじゃないですか」
「そういえばそうだったな。で、用事はなんだ?」
「いや、あのですね───────」
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「で? コイツ等がアンタの生徒って訳? 真司」
「ああ、この間の件で魔法少女に興味を持ったらしくてな。まあ、適当に相手してやってくれ」
さやかから頼まれたこと。それは“杏子って人に会ってみたい”だった。
まあ、むしろ好都合なので快く承諾した訳だ。
「…まあいいや。あたしは佐倉杏子。杏子って呼んでくれ。で? アンタ達の名前は?」
「えっと、私、鹿目まどかっていいます」
「あたしは美樹さやか。よろしく、杏子」
「ああ、よろしくな。まどか、さやか。」
「じゃあ、俺は仕事の残りがあるからこれで」
「えっ? 一緒について来てくれるんじゃないんですか?」
「ガールズトークに男が入るのは無粋だろ? 3人で適当に遊んでこい。あっでも5時には家に帰るようにしろよ?」
「はーい」
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SIDEまどか
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……杏子さんってどういう人なんだろう。
それが高須先生から魔法少女について聞いたとき最初に思った事だった。
そしたら、さやかちゃんが『だったら実際に会ってみようよ!』って言ってきて…。
「でさ、ここのアイスは安さの割においしいんだよ」
「う~ん、でもメニューが少なくない?」
「まあね。真司が言うには『品物の種類を少なくしておけば仕入れの時に安くすむから味の割に安いんだろうな』だってさ」
……魔法少女っていっても私達とそんなに変わらないんだなあ。
「まどかは何がいい?」
「ふえっ!?」
「おおう、どうした? まどか」
「い、いや、その、急に話しかけられたからびっくりしちゃって」
「まったく、かわいいなあ。まどかは。嫁に欲しいぐらいだよ」
「ええっ!? からかわないでよ! さやかちゃん!」
「あはは、ごめんごめん」
「……仲良いなアンタ達。で? 結局何にするんだ?」
「えっと、じゃあいちご、かな」
「「髪の毛の色的に?」」
「ちっ違うよ!」
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それから私達はいろいろなところへ行った。
それで杏子さんのことはなんとなく分かった気がした。
それでも、先生の話を聞いてから今まで消えてない疑問があった。
だから、直接訊いてみることにした。
「…………杏子さん」
「何? まどか」
「この間高祖先生がいってたんです。魔法少女になるのは一つの願い事の代わりに他のことに絶望することだって。それってどういうことなんですか?」
いきなり杏子さんの顔が曇る。
やっぱり訊いちゃいけないことだったのかな……。
そう思っていたら杏子さんはおもむろに口を開いた。
「……つまんない話になるよ? それでも聞きたい?」
「はい」
「…じゃあ、聞いてくれ。あれはもう何年も前の話なんだけれどな─────」
─────あたしが教会のところの娘だってのはもう真司から聞いたか?
………そうか、ならいいんだ。
あたしの親父は牧師をやっていたんだ。正直過ぎて優しすぎる人でさ、毎日新聞を読んで、なんで世の中から不幸が無くならないんだって涙を浮かべて真剣に悩んでた。
そんな親父の言い分はさ、新しい時代を救うには新しい信仰が必要だってものだったんだ。
それであるとき親父は教義に無いことまで信者に説教するようになったんだ。当然信者の足はばったり途絶えて、本部からも破門された。
そして、あたし達は一家そろって食うものにも事欠く有様になった。
そしたら、あるときふらっと見覚えがない奴が教会に訪れてね。
……察しがいいな。そうさ、そいつが真司だよ。
真司はさ、誰も親父の話を聞いてくれない中で、たった一人真剣に耳を傾けてくれた。
それで、いいなって言ってくれたんだ。
でも、かえって悔しかったよ。それならなんで誰も親父の話を聞いてくれないんだ。親父は何も間違ったことは言っちゃいないのにってな。
ある日それを真司に聞いたら、聞こうとする人がいないからだろうって言われたんだ。
だからあたしはキュゥべえに頼んだんだ。
“皆がちゃんと親父の話を聞いてくれますように”って。
次の日から教会には怖いほど人が来たよ。毎日面白いほど、親父の話を聞きたがるやつが増えてくっていうオマケつきでね。
それであたしは晴れて魔法少女の仲間入りさ。
親父が説教で人の心を救って、あたしはその人達を魔女から守る。
表と裏から世界を救うんだってばかみたいに意気込んでた。
……だけど、ある日カラクリがばれた。
真相を知った親父はぶち切れたよ。
あたしのことを人の心を惑わす魔女だっていって罵った。
それで親父は壊れた。酒に溺れて、家族にまで暴力を振るうようになって──────
「そんな…そんなのってないよ!」
話の途中だったけれど、私はそう叫ばずにはいられなかった。
「だって杏子さんは家族のために魔法少女になったんでしょ!? なのに責められるなんて…ひどすぎるよ…!」
「…優しいんだな、まどかは」
─────だけどこの話には続きがあるから、まあ、最後まで聞いてくれ。
家族をそんなことにしちまったあたしは当然家から追い出された。
それで、その時真司にあってね。
あたしはあいつに事情を全部話してさ、自分の何がいけなかったのか聞いてみたんだ。
そしたらあいつは、“そもそも間違ってない事なんて存在しないんだよ。だから、お前は正しい事をしたと胸を張れ”って言ってくれたんだ。
なんとなく救われた気がしたよ。
それからあいつはあたしの家に乗り込んだんだ。
お前の親父に説教してやるって。
それで親父はあたしのやったことを理解してくれたみたいでさ。
今、親父は真司の勧めで幼稚園の先生をやっててさ、暮らしも安定してるし、学校にも通えてる。もし真司がいなかったらこうはなってなかったろうな。─────
「じゃあ、先生のおかげでいま杏子はこうしてられてるんだ…」
「ああ。…ひょっとしたら真司は他にも自分の願い事のせいで、自分の身を持ち崩したやつを知ってるのかもしれないな。だから、魔法少女になるっていうのはきついことだって言ったんだと思う」
「そうだったんですか…」
「だから、アンタ達は魔法少女になろうだなんて考えないでくれ。自分のちょっとしたわがままのために皆が不幸になるなんてたまったもんじゃないからな」
「うん。分かった。…ごめんね? 杏子。辛いこと喋らせちゃって」
「別に構いやしないよ。もう過ぎたことだからな。…おっと、もうこんな時間か。アンタ達早く帰ったほうがいいぞ?」
「えっ? ああっ! やばいやばい! 早く帰んないと! ほら、まどか、行くよ!」
「あう、ひ、引っ張んないでよ、さやかちゃん。あの、杏子さん、今日はいろいろとありがとうございました!」
「いいよ、お礼なんて。じゃあ、また機会があったら会おうぜ?」
「うん、じゃあね! 杏子!」
「さようなら、杏子さん」
「おう、またな!」
そして私達は急いで家に向かって走っていった。
「……なあ、真司。ひょっとしてこの間あいつ等に後を付けられてても黙ってたのって,あたしとあいつ等を会わせるためだったのか?」
だから、杏子さんのそんな呟きは聞こえなかった。
杏子とさやか達は出会い方が違ったら、もっと仲良くできたと思うんですよね…。
なので、そうしてみました。
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