日本の首都、ネオタカシマダイラ。そこでは、ヒカ島での凄惨な死闘など遠い異世界の出来事であるかのように、人々が日常を過ごしていた。そこから少し離れた渋谷にある發聖大学にて。眼鏡をかけた中性的な外見の科学者が、装置を手に廊下を歩いていた。
「頼まれた品、『生体シーカー』が完成したよ。対価の7095110円は後でちゃんと振り込んでおいてね、ヤマ……」
「だから、本名じゃなくて『カタナキン』って呼んでって言ってるじゃないですか!」
侍コスプレ衣装を纏った青年が、科学者の手から装置をひったくる。「そうだった。君達ヒカマーは、本名ではなくハンドルネームで呼び合う文化があるのだったね」「で、これちゃんと動作するんですか?」「もちろん。何度も実験して確認済みだよ」カタナキンはタブレット型の装置を起動した。日本全体の地図が表示され、太平洋側の海にポツンと光点が灯った。「どこだここ!?」「それは、位置的にヒカ島だね。もう無人島になっているはずなのだけど。行方不明者……もとい君の友達は、漁師でもやってるのかい?」「いえ……フリーターでした。あいつがこんな海のど真ん中に居るはずがないのに……この装置、本当に大丈夫なんですか?」「大丈夫なはずだよ。それだけは断言できる。考えるべきは、なぜ君の友達が無人島に居るのかってことだよ」カタナキンは深刻な面持ちになる。「おかしい。数日前に大規模なオフ会に行って、突然連絡が取れなくなったと思ったら、遠い南の島に居るだなんて……俺は夢でも見てるのか?」「う〜ん。事件の匂いがするねぇ……」科学者は顎に手をやる。「とにかく、俺はあいつを連れ戻さなきゃいけない。グッバ~イも言えずに別れなんて、嫌だから」そう言ってカタナキンは大学の屋上へと歩き出す。「言っとくけど、これは危険な旅になると思うよ。警察に任せることをオススメ……」「その警察が役にタタナイからこうしてるんですよ!」カタナキンがヘリポートに通じる扉を乱暴に開けると、近未来的外見の複合ヘリコプターが目に入った。科学者はメガネを外し、ため息をつく。「君を無理に引き止めたりはしないけど、本当に気をつけるんだよ。恩を売るつもりはないけど、そのヘリ……『UH-45 ビックリハテナ』を貸した私への感謝も忘れずにね」「わかってますよ!」カタナキンは腰に差した、先祖から受け継いだ真剣の柄に触れる。そして覚悟を決めると、ヘリのドアを開け、イグニッションキーを操作した。前後に2つ配置された交差反転式ローターが回り始め、機体が浮かび上がる。「田中大田中先生、今までありがとうございました!!」風切音に負けじと叫ぶカタナキン。田中大田中と呼ばれた科学者は、静かに頷いた。尾部のプロペラが回転し、ヘリは水平に加速してゆく。「『今までありがとうございました』だなんて、まるで死を覚悟してるみたいじゃないか。私の弟子は……本当に個性的な人が多い」夜明けの空に向かってゆくヘリの後ろ姿は、田中大田中の網膜に強く焼き付いていた。