安全地帯のジャングルの中。110弱は木の下に座り込んで怒鳴っていた。「どうしてくれるんだよ!俺は生き残ることが約束されてんだろ!?それなのに俺は危うく殺されかけたぞ!!」110弱の首輪に内蔵された通信機から、怖気ついた声が漏れる。「申し訳ザザ……りません。我々は今度は衛星基地局へザザザ…のハッキングを受けており、任意爆破システムはザザザザ未だ使用できない状態です」「ふざけんなよ……!ならさっさと俺をこの島から出せよ!そもそもこの戦いは俺とヒカキン……開發光さんだけが生き残る予定なんだろ!?俺が死んだら元も子もねーぞ!」「はい、それも検討ザザザザしておりますが、そのためには牛碩様自ら人が集まりにくく、開けた場所に移動しザザッ…もらう必要があります」「なんでだよ?」「この戦いに参加させた平民どもの中には、銃を支給された者がいます。しかも、物資投下ザザザによって強力な火器を手に入れた者もいるはずです。なので、射撃によって一網ザザッ打尽にされるのを防ぐために、人が集まりにくく、尚且つ輸送ヘリが着陸できる開けた場所に来てもザザザ……らう必要があります」「面倒くせぇな!」「それと……貴方の救出作戦を実行するにあたって、開發様の許可も必要になザザザザります」「開發さんの許可が……?なんで?」「貴方だけ救出されるとなったら開發様もいい思いはしないでしょうし……彼がやめろと言ったなら救出作戦ザザッ…は中止となります。無礼な言い方かも知れませんが、権力序列では牛碩様より開發様の方が上ですので……」プライドの高い110弱の顔が悔しさに歪む。「じゃあ俺を支援するドローンぐらい寄越せ!衛星砲は頼りねぇんだよ!」「検討します。ザザザッ……」通信が切れた。「クソッ、クソッ!」110弱は湿った地面を殴りつける。そして、この戦いへ参加したことを後悔した。110弱が自身の身分を隠し、表向きは普通のヒカマーとして振る舞ってきたのは、自分より社会的地位の低い者達の中に紛れ込み、優越感を得るためであった。ヒカマー達を対象とした『オールスターダストプログラム』が実施されると聞き、それに運営側として参加することを要請された時に悲しむどころか喜んだのも、自分の勝利が確定している出来レースの中で、下級国民を合法的に殺害して楽しみたかったからである。しかし予想外の出来事で自身の優位性が揺るぎ、今まで見下していた平民達に追い詰められるのは、彼にとって耐え難い屈辱であった。「面倒くせえけど……とりあえず禁止エリアに移動しよう。どうせ俺の首輪が爆発することはねぇんだ」
そして立ち上がって目に入ったのは、4つの顔。木ゾ、絵描キン、ペルソナマニア、ねずまにが、こちらに歩いてくるのが見えた。4人は110弱の存在に気づく。「君は、110弱……だよね?」リーダーの女ヒカマー、ねずまにが訊ねる。110弱は憂さ晴らしに目の前の4人を殺すことに決めた「ああ、そうだ。協力関係を築かないか? 人数は多いほうがいいだろ?」友好的な態度を装う。「仲間になってくれるの?」ねずまには目を輝かせる。「やった!数が増えれば心強いなぁそうに決まってる」木ゾは折り畳みナイフを弄びながら喜ぶ。「ねぇ、唐突で悪いけど、治療器具とか持ってない?これの中身だけじゃ心細いんだよ」「あと、食糧とかもあるなら把握しておきたい」救急キットを持つペルソナマニアと絵描キンが質問する。「すまない……食糧も治療器具も持ってないよ」110弱は嘘をついた。彼のポケットには、島に入る前から所持している携帯食と、包帯、消毒液が入っているのだ。 「とりあえず、開けた場所に行こう。そして安全な場所を見つけよう」110弱はジャングルの外を指さす。これは罠である。衛星カメラで捉えやすい森の外へ4人を誘導し、荷電粒子砲の餌食にする。それがこの眼鏡男の狙いだ。木々の間を縫うように歩き、日の当たる場所に出る。「途中で見た地図によると、近くに原発があるらしい。そこにみんなで隠れない?他の奴らも、まさか原発に籠城する奴が居るとは思わないだろうし……」絵描キンが提案する。全員が同意し、歩みだしたその時。飛沫。
頭や肩に降りかかる赤に驚いた木ゾ、絵描キン、ねずまにが振り返ると、首から血を噴き出すペルソナマニアの姿。そして、鮮血で濡れたマチェットを持ち、その横に立つ110弱。「お……お前、何をやって……!!?」木ゾは地面に倒れ伏したペルソナマニアの死体と110弱を交互に見ながら狼狽える。
「ちぎゅへへ……みんな死ね!」
110弱が首輪のボタンを押すと同時に、ねずまにが叫び、3人は駆け出す。ビームが一瞬前に三人が居た場所に着弾。舞い上がる爆風と土煙。
「お前、みんなを騙し討ちする目的だったのか!」絵描キンはカッターナイフを構えて振り返る。
「バカな平民どもめ!お前らは俺の餌食になる運命なんだよ!派手に死んで俺を楽しませろ!」
逃げ惑う三人を、次々と光線が追いかける。
ねずまにのすぐ横に光の柱が着弾、土が急激に熱せられたことによる体積の増大で爆発。ねずまには悲鳴を上げながら吹き飛ぶ。露に濡れる草の上に転がった女ヒカマーの左腕は、炭化した断面を見せていた。
「ハハハ!ざまぁみろ!」
片腕を失った痛みに耐え、立ち上がろうとするねずまにに、マチェットを持った110弱が迫る。
銀光。110弱の頬に絵描キンが投擲したカッターナイフが突き刺さる。
怯んだ男の斜め後ろから、木ゾが折り畳みナイフで斬りかかる。咄嗟にマチェットで防御。しかし、ナイフの先端が110弱の眼鏡に命中し、落下。
木ゾの蹴りが110弱の腹部に炸裂。後退した110弱は必死にマチェットを振り回すが、誰にも当たらない。視力が悪すぎる彼は、眼鏡無しでは何も見えないのだ。
「よし、今だ!」
とどめを刺そうとした木ゾを閃光が包む。そして爆発。衛星からの光線狙撃が命中してしまったのだ。
「木ゾ!!」
絵描キンの叫び。ねずまにも爆散した仲間を見て苦い顔をする。
眼鏡を拾って装着した110弱が ねずまに にとどめを刺すべく突進。
マチェットが振り下ろされる直前、絵描キンが背後から110弱を羽交い締めにし、カッターナイフで首筋を狙う。しかし、後ろに振られた110弱のマチェットが絵描キンの右目を貫く。絵描キンの絶叫。カッターの刃は頸動脈に届く寸前で停止。
拘束を解こうとする110弱の股間に、ビッグバンの如き激痛。
「チギュアアアア!!」
思わず叫ぶ110弱。痛みを堪え立ち上がったねずまにの蹴りが、男の急所を捉えたのだ。
3人の横の地面に光線着弾、爆発。全員吹き飛ばされる。立ち上がろうとした絵描キンの肉体を光線が爆散させた。
ねずまには状況判断し、110弱を仕留めるのは諦めて光線の回避に専念すべきだと思考。左腕の断面を抑え、元来たジャングルの方向へ走る。背後で光線が地面を爆ぜさせる。途中でペルソナマニアが残した救急キットを素早く拾い上げ、飛び込むように木々の間に滑り込んだ。
「くそっ、待ちやがれ……」
110弱は首輪のボタンを押し、運営側のオペレーターを怒鳴りつけるが、衛星カメラでも見えないジャングルの中に入られては、狙いようがない。光線狙撃が用をなさない上に、睾丸を蹴られた痛みがまだ残っている110弱がねずまにに追いつくことは不可能だった。
「クソッ、覚えてろよ……」
捨て台詞を残し、ぎこちない動きで110弱は歩み去った。