私はごくごく普通の中央トレセンのトレーナー、アルファカレグリア。
普通じゃない所は私がウマ娘という事ぐらいだろう。
「これで今日分の仕事も終わりか」
キーボードを叩きながらそう呟く。
「アルファさん、この後時間ありますか?」
一息ついていると、ライスシャワーさんの担当トレーナーの
「はい?この後は特に何もありませんけど、、、」
「何か用事でも?」
「ええ、もし良ければこの後模擬レースでも共に見に行きませんか?」
模擬レースとは、まだ担当トレーナーの決まっていないウマ娘達が出走するレースの事だ。
大体のウマ娘はこのレースによって担当トレーナーがつく。
トレーナーにとっても担当ウマ娘がつくチャンスなので大事なレースなのである。
「いいですよ、私もそろそろ担当をつけないといけないな、って思っていましたので」
「そうだったんですね、それではこの後芝のレース場前で落ち合いましょう」
「はい、わかりました」
もうすぐ勤続して2年が経とうとしているのに、担当ウマ娘がいないというのは、実践経験が物を言うこの学園ではあまりよくないのだろう。
けど、ちょこちょこ模擬レースを見に行ってはいるが、ピンと来る子があまりいなかった。
まあこんな事を新人が言うのは烏滸がましいのだろうが。
◇◆◇
【レース場(芝)】
「あっ、
「大丈夫ですよ、じゃあ行きましょうか」
私と米薔薇先輩はレース場の観客席へと足を踏み入れた。
「今日は結構人がいますね」
「どうやら、今回のレースの一番人気の娘が中々優秀らしいですよ」
「そうなんですか、だからスカウトしに来た人が多いのですね」
資料を読んでみると、どうやらこの娘はスカウトを何件も断っているみたいだ。
多分自分に合うトレーナーを探しているタイプだろう。
「おっ、そろそろ入場ですね」
「ふふっ、そろそろですか」
◇◆◇
『注目の一番人気は、5番モルフリッス』
『実力は完全に上位ですね、芝のコースで力を十分発揮できそうです』
「なるほどあの娘か、、、確かに仕上がっていますね」
「いいねぇ、期待されるのもわかるなぁ、、、ハハハッ」
だんだんと先輩の気持ち悪さがエスカレートしてきた。
この人はレースに対して真剣だし、実力も確かなのだが、レースを見ている時にだけ気持ち悪い部分が溢れ出てくる。
「二番人気の娘も中々のものですね」
「ああ、、、ハハッ、全然一着を狙えそうだねぇ」
なんかもうずっと怖い、常に薄ら笑っているのがめちゃくちゃ怖い。
『六番人気は、8番スパイラル』
「あの娘、レースの場でも落ち着けていますね」
「この場であの落ち着きようはすごいなぁ、冷静にレースを運べたならもしかするかもしれないねぇ」
自分にトレーナーが着くか否か、それを決めるレースがこのレースだ。
故にどんな娘でも少しは緊張するはず。
しかし彼女は全く緊張を見せなかった。
「アルファさんはこのレースどんな風になると思いますか?」
「そうですね、、、5番モルフリッスさん、あの娘の脚質は逃げ向きですから、追い抜こうとしてペースが速くなりそうですね」
「そうですね、それに今回は差し脚質の娘が多いから最終直線が勝負所になりそうかな」
真面目な話をする時は口調が戻るのか。
初めて知ったけど逆に不気味に見えるな。
「あっ、そろそろレースが始まりそうですね」
「ほんとだ、ふふっ、、、どうなるかなぁ」
◇◆◇
少し経って、、、
『1着はモルフリッス!模擬レースの勝者です!』
「さすが、人気通りの強さでしたね」
「ハハハッ、素晴らしい末脚だったなぁ、、、いいねぇ」
1番人気の娘はラストスパートで更に抜け出して、後続を大きく離していた。
最後の最後にスパートをかけるスタミナを残しているとは、驚きだったな。
「それで、あの娘をスカウトしに行くの?」
「いえ、、、結局あまり惹かれなくて」
「ふーん、じゃあ他に惹かれた娘はいましたか?」
確かに彼女の末脚は凄かった、あの娘はきっと重賞を勝てるぐらい強くなるだろう。
だが、私が惹かれたのはむしろ、、、
「七番人気のスパイラルさん、私が惹かれたのはあの娘ですね」
「へぇ、それは何でかな?強さだけを見るのなら彼女は5着だったけど?」
そうだ、確かに彼女は5着だった。
しかし、、、
「あの娘、あの速さのペースで進んだレースで、先頭争いをしていたのに、全く息が上がってないんですよ」
「ふんふん、なるほど」
「あの娘のスタミナならもしかすると、、、」
だけど、あれほどのスタミナを持っている娘がなんで5着に?
あれならロングスパートをかけて先頭を奪えただろうに。
「何か気になる事があるのでしょう?」
「えっ、何故わかったんですか?」
「ふふっ、顔を見たらわかりますよ」
私そんなに顔に考えが出ていたのか、、、ちょっと恥ずかしい。
「アルファさん、早く行ってきた方が良いと思いますよ」
「ウマ娘とトレーナーは一期一会、次いつ会えるかは分かりませんからね」
「はい、分かりました、、、模擬レースに誘ってくださり、ありがとうございました!」
「可愛い後輩の面倒を見るのも先輩の役目だからね、問題ないよ」
そう呟く先輩を背に、私は下の階に降りるのだった。