被虐聖女は曇らせたい   作:霊山

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第5話 変態、嘘塗れである

 聖母(マリア)様という頼もしい師を得た今、お友達を作るなどという夢物語も途端に手が届く範囲の現実味を帯びてきた。

 捨てられて狂暴化したチワワみたいな少女であるアリスの心を、短時間で溶かしたその辣腕。まさに人間学の極致に到達していると言ってもいいだろう。

 

 そんな師のレクチャーを経て進化したお友達マイスターである僕は、アリスと共にエドルス学術都市を巡っていた。

 

「あの、神さま……」

「どうかしましたか?」

 

 ちなみに。呼び名は「死神さま」から「神さま」にアップグレードした。最早何も言うまい。

 名前で呼ぶように言っても、涙を浮かべながら首を横にぶんぶん振るのだ。これの対処法は僕のお友達マニュアルに載っていない。

 

「その、教会のお仕事の方は大丈夫なのですか?」

 

 なんだそんなことか。捨てられた子犬みたいな顔をしていたから、トイレにでも行きたいのかと思ったよ。

 

「大丈夫ですよ。というより、そもそも私は教会に属していません」

「……え?」

 

 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をするアリス。

 教会でシスターさん達が僕に群がって「聖女様聖女様」言うものだから勘違いしたのだろう。

 

「でも……聖女様、なんですよね?」

「ええ。そうですよ」

「……???」

 

 僕の返しを聞いて余計混乱しているようだ。百面相である。

 おもろ。なんて愉快なんだ。これが……トモダチ。

 

 まぁ可哀想だしネタバラシしてあげるか。

 

「聖教会の成り立ちについては知っていますか?」

「はい……大昔に魔神を討伐した七人の英雄である『七英霊』へと捧げていた感謝が、やがて信仰となって宗教化した、ですよね?」

 

 これは流石に知っている……というか実際はもっと詳しいだろうね。施設では学術都市最先端の教育よりよほど高度なものを受けていたみたいだいし。

 

「その通りです。では聖女については?」

「七英霊の一人で、どんな傷や病も瞬時に癒し、その心に安らぎを与えたという伝説の固有魔法『回復魔法』の使い手、です」

「そうですね。そして私は、かの聖女と同じ固有魔法を保有しています」

 

 嘘である。真っ赤な嘘。僕は回復魔法なんて使えない。

 

 僕の固有魔法は『接続《コネクト》』。

 人や物と魔力的な繋がりを作って、ちょっとだけ感情や情報を読み取ったりできるだけの、クソカス魔法だ。怪我の治療なんてできっこない。

 

 ――というのは普通の人間の話。魔神の影響によって人間の限界を大きく超えた僕は違う。

 

 膨大な魔力と緻密な魔力操作で以て無理やり出力を上げ、他人の傷や感情までをも僕に移植することができる。

 そして移した傷は肉体の再生能力に物を言わせて無かったことにすれば、あら不思議。回復魔法の完成だ。

 

 ちなみに普通の人間が同じことをすると発狂しながら肉体が爆散する。

 

 あぁ、それと精神は自前だ。同然である。

 

「私はただ、各地を放浪して人々を癒しているだけの一般人に過ぎません。人を救える力を持っている、だから救う。ただそれだけです」

 

 大嘘である。他人の生き死にとか心底どうでもいいです。

 僕が好きなのは苦痛と美少女の曇り顔のみ。各地を放浪しているのも人々の苦痛と負の感情を徴収、移植しているだけ。

 

 僕はただのしがない苦痛ソムリエだ。それはそれとして聖女の称号は便利だから貰うけど。

 

「聖女というのもいつの間にか付いていた通り名のようなもの。聖教会とは全く関係ありませんし、勿論教会における実権などありません」

 

 本当に実権は無いよ。無いけど……僕が『お願い』したら教会の皆さんは笑顔で「「「Yes」」」」と答えてくれる。だって『聖女様のお願い』だから。彼らの信仰対象の正当なる後継者(笑)である僕の頼みを、彼らは断れないのである。不思議だね。

 

 当然そんな美しき裏事情が分かってしまう賢いアリスは、何やら煮え切らない表情で口をもにょもにょさせる。

 

「でも、あの……教会からは何も言われないのですか?一人で行動しているとなると、その……護衛を付けたり、とか……」

 

 あぁ、護衛……という名の監視ね。それなら、

 

「ぶっ飛ばしました」

「……え?」

「彼らが働くことによって救われる命が確かにあるはずです。だというのに、その貴重な時間を私などに使わせるわけにはいきませんから」

 

 護衛なんてとんでもない。そんな者がいたら気軽に魔物味見ツアーに行けないじゃないか。

 僕のルーティンだぞ?新しい土地でまだ見ぬ魔物に気持ち良くさせて(痛め付けて)もらうのは。何人たりとも邪魔はさせん。

 

「なんか……すごいですね」

「そうですか?私はただ自分のやりたいようにやっているだけですよ。我儘なんです」

「いえ……神さまはすごいです。私も、神さまみたいに……」

 

 ははは。そんなに褒めたって魔神くらいしか出て来ないよ?いるかい?魔神の指。御利益あるよー?

 

 ……さて、

 

「……ですので、アリスさん」

「は、はぃ……?」

 

 ここでお友達マニュアルその13。『手を取って相手の目を見つめる』を実行。場所は話している間に到着したなんかお洒落な花畑。完璧なシチュエーションだ。

 

 気分は男を手玉に取る妖艶な魔女。絶世の美幼女である僕の顔面に酔いしれるがいい。

 

「私には、友達が、居ません」

「え?は、はい……」

 

 混乱しているな。流石聖母様の教えだ。迅速果断な不意打ちが有効とは本当だったらしい。プロの技だ。

 

「……どうか私の、初めてのお友達になってはくださいませんか?」

「――――――」

 

 お友達。それは彼女にとって、非常に重い意味を持つ言葉だった。

 

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