偽りの天才が恋を知り、普通の人生を歩むまで   作:ラルラ

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小さな同窓会

堀北鈴音side

 

 

 

 私の彼氏、清隆くんは天才だ。

 

 

 突然何を言っているんだと思われるかもしれない。

 けれど惚気たいわけではないので聞いてほしい。

 

 彼の凄さの片鱗に気づいたのがいつ頃か、はっきりとは覚えていないけれど、少なくとも1年生3学期の選抜種目試験のときには分かっていたはず。

 そして3年生に上がる頃には畏怖すら覚えていたと思う。

 クラスメイトを顔色ひとつ変えず退学させる人だもの、当然ね。

 

 でも、そのとき見せていたものは片鱗にすぎなかったのだと、最近の私は理解し始めている。

 数ヶ月前に彼が暴露ーーいえ告白してきたことはそれだけ(こうとうむけい)荒唐無稽なことだった。

 その行為自体が私への信頼の裏返しなので、嬉しいと喜んでも厄介とは思わなかったけれど。

 

 

 非人道的な天才養成所「ホワイトルーム」。

 これが小説ならタイトル詐欺だと訴えたい。

 ブラックルームに改名すべきよ。誘拐やら虐待やらが横行しているんだもの。

 施設にいた当の本人が内情を話したがらないので、自称幼馴染たる坂柳さんに根掘り葉掘り聞いたけれど、彼女も詳しいわけではないようで実態が図りきれなかった。

 

 

 と思っていたのだけれど……。

 

 ホワイトルームを潰そうとなった瞬間、高校時代でも類を見ないほどの残虐さと坂柳さん顔負けの好戦さが漏れ始めたの。

 その思考回路を聞いているだけで、ホワイトルームが彼にどういう教育を施したのか理解できてしまったわ。

 

 これが暴走ってものなのかしら。

 感嘆している暇もなく、バーサーカーと成り果てようとする彼を常識に引き戻すことは大変だった。

 

 どうして天才養成所は常識を教えてくれなかったのかしら。

 切り捨てるところを間違えているわ。

 自力で学ぶことが難しいところを放棄しないでほしい。

 後々出会う人が苦労すると分からなかったの?

 

 

 とまあ、様々なことがあり何とか破壊したのが先月のこと。

 久しぶりの共同作業としてはいいウォーミングアップになった……はずがないわね。激しすぎるわ。

 信頼がお互い深まったからか、何故か半同棲のような形になっていたけれど。忙しすぎてどちらから提案したのかも覚えていない。

 

 彼との交際を報告するのを何ヶ月も忘れていたので高校時代の友人たちに話していたら、矢継ぎ早に質問と会わせろという催促がやってきた。

 人数が多かったのでいっそ小さな同窓会でも開こうと思い立ったのだ。

 

 掛け時計を見てそろそろ来る時間だなと確認する。

 ちなみに彼には招待した人を教えていないし、来る時間を30分遅く伝えている。

 

 

ピンポーン。

 

 

 着いたわね。

 ドアを開けると10人弱の男女が並んでいた。

 

「全員、一緒に来たのね。みんな久しぶり、どうぞ上がって」

 

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

 

 高校を卒業してから数年が経ったけれど、みんなあまり変わっていなかった。

 というより、高校で揉まれすぎて変わるべきところがないというのが正直なところかもしれない。

 または……力技で私の彼氏にテコ入れされたことが尾を引いているのかもしれない。

 

「な、なぁ鈴音……あれマジなのか?」

 

 元クラスメイトの須藤くんが見たこともない表情で私に問う。

 怯え? 恐怖? よく分からない。

 

「何のことかしら」

 

「本気で言ってるの? 1つしかないでしょ」

 

 桔梗が本性丸出しの言葉遣いで言う。

 

「……?」

 

 思わず首を傾げてしまう。

 

「須藤くん、こいつ筋金入りだね」

 

「そうだな……」

 

「……代わりに聞いてあげよっか?」

 

「いや、いい。自分で聞く」

 

 本当にどうしたのかしら……。

 

「櫛田に聞いたんだが、綾小路と付き合ってるって……マジか?」

 

「桔梗?」

 

「口止めされてないし〜」

 

 秘密にする気もなかったのだから構わないのだけれど……。

 彼は私に告白してきたのだ、説明義務はあるだろう。

 

「……付き合ってるわよ」

 

 誰もが察し口をつぐんだことにより生まれた静寂に、私の小さな肯定が溶けていく。

 

「龍園くんに坂柳さん、あなたたちは戦争でもしてなさい。どうしてここで黙るのよ」

 

 在学中は会うといつも煽り合いが絶えなかったでしょうに。

 

「あの野郎がどんなツラして恋人してんのか気になってんだよ」

 

「ふぅん」

 

「……なんて顔してやがる」

 

「恋人してるときは私が独り占めだもの、ふふふ。醜く嫉妬でもしていなさい」

 

「てめぇも変わったな」

 

 龍園くんはそう言ってコーヒーをがぶ飲みした。品がないわね。

 

「うぅ羨ましいよ、堀北さん。私もその場所に……」

 

「どうしたの、一之瀬さん!?」

 

 足に抱きつかれて私は叫んでしまう。

 それにしてもあなたって結構豊かだったのね……どこがとは言わないけれど。

 

「あたしも1年間はその場所にいたのに! 盗人め!」

 

「軽井沢さんまで!?」

 

「落ち着こう、軽井沢さん。……でも僕も」

 

「平田くんは参戦しないでちょうだい、修羅場の出来上がりよ」

 

 あなたも彼が好きだったの?

 一之瀬さんと軽井沢さんは知っていたけれど……同性まで虜にしていたとは把握してなかったわ。

 さすがね。私も鼻が高いわ。

 

「……ですが、私も気になっていたのです。幼馴染として、あの綾小路くんがなぜあなたを選んだのか。

 嫉妬、でしょうか。でもその理由が分かってしまいました」

 

 心情を吐露していく坂柳さん。

 私は彼女の言葉に耳を傾けた。

 

「理由?」

 

「あら聞いていないのですか?」

 

「聞いてるわよ、もちろん。真っ白だものね」

 

 あなたこそ、なぜホワイトルームを知っているのかしら。

 ……いえ。知っているからこそ、ずっと幼馴染を名乗っていたのかもしれない。

 

「驚きました。そこまで信頼なさっていたとは」

 

 坂柳さんは目を見開き小さく頷いた。

 

「でも、嬉しいです。1年生の最後の特別試験のときにお伝えしたこと、ようやく実現されましたね」

 

 そう言った彼女はまるで恋する乙女……まさかこんなにも彼に恋する人がいたとは。

 積極的に行動してよかったわね。

 

「……そう」

 

「堀北さん、聞きたいことがあるのですが」

 

 彼女はしっかりとした声で言う。

 

「何かしら」

 

「あなたが告白されたのですよね?」

 

「……ねえ坂柳さん。どうしてそう聞くの?」

 

 彼のほうから、という可能性を完全に排除するのは腹立たしいわ。

 実際そうなのだけれど。

 

「万にひとつとして、その逆の可能性はないからですが?」

 

「1割くらいはあると思うわよ」

 

「ないですね。分析が甘すぎます」

 

「……軽井沢さん、あなたは彼のほうから告白されたのよね?」

 

「えっ? んーまあそうだけど」

 

「1割くらいはあるわ」

 

「悪足掻きがすぎますよ、堀北さん」

 

「いいえ、そんなことはないわ。この世界で、彼の下の名前を呼べるのは私だけ。あなたは負けたの、早く認めたらどうかしら」

 

 歯を食いしばる彼女に私は優越感に浸る。

 

「……その点だけは認めざるを得ませんが理解度くらいは張り合えーー」

 

 

ガチャ。

 

 

 あら? 帰ってきたわね。

 あなたの恋愛事情が招いた、自業自得の修羅場へようこそ。

 

 

「おかえりなさ〜い」

 

 彼に好意を抱く女性陣が殺意を私に向ける。

 こんなセリフが言えるのは私だけだから。

 視界の端で龍園くんが笑っているのが見える。楽しんでいるようで何よりだわ。

 

「ただいま、まだ来てないよな?」

 

 全員分の靴を仕舞っておいてよかった。

 

「あと数分したら来ると思うわよ、清隆くん」

 

 見せつけるように、実際に呼んでみせる。

 坂柳さんだけではなく、軽井沢さんや一之瀬さんも見たこともない凄まじい形相になる。

 

「そうか、鈴音」

 

「ひゃ!?」

 

「頼まれていたもの買ってきたが……物音しなかったか?」

 

 一之瀬さんの悲鳴が聞こえてしまったらしい。

 そして須藤くんがリビングのドアの先を睨んでいる。

 

「気のせいじゃないかしら?」

 

 いつ気づくのか、楽しみね。

 

「……いや違うな。誰かいるだろう」

 

「なんで分かるのかしら……」

 

 気配察知でも持ってるの?

 

「人の影らしきものが見えている」

 

「痛恨のミスだわ」

 

 ふぅと目を伏せると、桔梗が立ち上がってドアを開ける。

 

「久しぶりだね、綾小路くん。ラブラブなようで何よりだね」

 

「ああ、久しぶりだな、櫛田。目が笑っていないように見えるのは気のせいか?」

 

「気のせいに決まってるよね」

 

 あら裏桔梗だわ。

 

「綾小路ぃ!! 成敗してくれるぅ!!」

 

「おいキャラ崩壊してるぞ、須藤」

 

 と涼しい顔で受けて立った彼だが無抵抗では痛いらしく、ギブギブと言って須藤くんの背中を叩く。

 

「須藤くん、私の分もお願いしますね」

 

「わーったぜ!」

 

「坂柳もいるのか……って更に痛くなったんだが」

 

「1ミリも痛そうじゃねーぜ。おい龍園、おめえも来いや」

 

「ククク、再戦だな」

 

 龍園くんは指をポキポキと鳴らし立ち上がる。

 ゆっくりとした足取りで、臨戦体勢の須藤くんの横に仁王立ちで存在感を示した。

 

「須藤と龍園で2対1はさすがに不利すぎないか?」

 

 ひとりで龍園くんをボコボコにした人が言えるセリフじゃないわね。

 

「いっけえ! あたしたちの分もぶつけて!」

 

「頑張れ!」

 

 軽井沢さんと一之瀬さんが応援を飛ばす。

 

「落ち着け……。あ、平田、お前なら止めてくれるだろ?」

 

 淡い期待を抱いた彼だったけれど、それは現実とは程遠い。

 

「僕は……彼女たちと同意見だ」

 

「がーん。す……いや堀北、お前ならきっと」

 

「言い直しても変わんないわよ、綾小路くん!!」

 

「そうですよ、往生際の悪い方ですね」

 

 私に一縷の望みをかけたが、その言葉すら彼女たちに遮られる。

 けれど……私の答えも決まっているの。

 

「ごめんなさい、清隆くん。ここで止めると私にすべてのヘイトが向くから消費してくれないかしら。応援はしてるわ」

 

「鈴音!?」

 

「あなたが2人に負けるはずがないでしょうに。見守ってるわ」

 

 私と澪、2人で戦っても手も足も出ない天沢さんに、あなたは余裕で勝てるもの。当然よね?

 

「いやそういうことじゃないんだが」

 

「つまり体力が落ちているの?」

 

 こうも彼を戦わせようとしているのは、ひとえにーーそう彼の勇姿が見たいだけなのだ。

 いつも私が見ていないところでケリをつけているんだもの。元カノさんは見た場面、一度くらい構わないでしょう?

 

「分かった。やればいいんだろ」

 

 両手を広げいつでも来いと合図する彼に、先手必勝とばかりに龍園くんが飛び込んでいく__。

 

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

「まだまだだな、龍園、須藤」

 

「鈴音を守る男としては不十分なのか……」

 

「ククク、相変わらず出鱈目な野郎だ」

 

 予想通り、清隆くんの眼前には屍が転がっている。

 

「これでよかったのか、鈴音」

 

「ええ。とっても満足したわ。ありがとう」

 

「ご希望に添えたならよかった」

 

 

ピンポーン。

 

 

 彼と私の視線がぶつかり探り合う。

 でもすぐに察する。どちらも関与していない、と。

 ならば誰なのか?

 

「……お前の兄貴だ」

 

 インターホンを覗き込んだ彼が、振り返ってそう言う。

 

「何か用があったのかしら? 連絡はなかったのだけれど……」

 

 不可解に感じながらも、2人で玄関のドアノブを開ける。

 

「こんにちは、兄さん」

 

「鈴音、お前の彼氏はこいつか?」

 

 開口いちばん飛び出したのは、清隆くんのことだった。

 

「はい、そうですが……」

 

「世話になってます」

 

 気怠そうに形式ばかりの礼をする彼。

 

「同棲していると聞いたが本当か?」

 

「何に怒っているか知らないがあんたに関係はないだろう」

 

「ある。鈴音は俺の妹だ」

 

「それだけだろう?」

 

 私がおろおろしている間に、兄さんと彼の言い合いはヒートアップしていく。

 

「何が不十分だと言うのだ」

 

「あんたにどうこう言われる筋合いはない。彼女が同意したことだ」

 

 けれどそれは唐突に終わりを迎える。

 

「……1年のときとは違うようだな。試させてもらったぞ」

 

「そんなところだろうと思った」

 

「お見通しだったか」

 

「ああ。あんたはシスコンだからな、どんな虫がついたのか気になったんだろ」

 

「幸い虫ではなかったようだがな。鈴音、こいつは取り扱いを間違えると暴走する。気をつけるように」

 

 兄さんは私に向き直り、忠告してくれた。

 

「はい兄さん。でも大丈夫です。私は既に暴走を止めていますので」

 

「なに?」

 

 ジロリと兄さんは彼を睨んだ。

 素知らぬ顔でスルーしようとしたけれど、そうはさせないわよ。

 

「色々ありまして、ここ数ヶ月は大変でした」

 

「……綾小路、お前は何をしていた」

 

「彼女を狙う北極グマを始末していた」

 

 白いから北極グマかしら。安直ね。

 

「……そうか」

 

 理解不能という顔をしながらも納得はしてくれた様子だ。

 

「北極グマってかわいいわよね」

 

「「……!?」」

 

 そう呟くと、兄さんと彼がビクっとしたのが本当に不思議で、とても面白かった。

 

 でもそうね……私の人生はこれからも退屈しそうにないわね。

 そしてその隣にはあなたがーー清隆くんが立っているのでしょう。

 あなたが何をしてもちゃんと理解してあげられるし、何があっても一緒に戦っていける。

 私とあなたが共に生きていく未来は明るいわ。そう信じているの。

 

 清隆くん、愛しているわ。

 

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