ChatGPTに頼ってみた
「今からやるのは、お前らを生かす唯一の方法だ。──だから泣き言を言うな。」
男の言葉はそこで途切れた。だが続けるなら、きっともっと辛辣な言葉が口をついていただろう。
椅子に座る二人の姉妹は、なぜ自分たちがこんな状況に追い込まれ、なぜこの男に縋るしかなかったのかを考えていた。
原因は明白だ。家──あの時代錯誤な呪術師一族。嫌がらせのような扱い、実力に見合わない階級付け、説明と違う依頼を押しつけられ続けた日々。
その状況を変えたいと願った結果、彼に頼るしかなかった。
「まずは説明が必要だ。呪術において知識は力だ。初見殺しの術式なんて腐るほどある。五条悟の無下限だって、その最たる例だ。初見なら“無限”すら理解できずに死ぬ。」
淡々と話しながら、男は机のアタッシュケースから一本のナイフを取り出した。鈍い光を放つそれは、見る者に殺意を想起させる。
──呪具だ。
姉は呪具に見慣れている。天与呪縛のせいで自身では呪霊を祓えないがゆえに。
妹は流れる呪力を感知し、これが呪具であると理解した。込められた呪力の精度までは分からないが、相応の品であることは察せた。
「このナイフには術式が刻んである。分身だ。」
「「分身……?」」
「元は五条が高専時代に祓った呪術師の術式だ。階級は特級。とはいえ、特級呪具の中では端っこの存在だな。」
姉妹は困惑した。
自分たちは呪縛から解放されたいだけであり、男が特級呪具を誇る場に呼ばれたわけではない。
困惑は怒りへ変わりかけた。しかし頼み込んだ立場である以上、文句を飲み込むしかなかった。
「……その顔、色々我慢しているのは分かるが無視する。」
「分かってんなら、さっさと話を進めろ。」
姉は短気だ。
「いいだろう。ただしまずは自分たちの状況を理解しろ。」
「ッチ。早くしろ。」
男は説明を続けた。
真希と真依は、呪術的に極めて稀な存在である。一卵性双生児という希少性に、天与呪縛という例外中の例外。その二つが重なった存在は世界に一つと言ってよい。
本来、真希の天与呪縛は“完全”であるはずだった。呪力ゼロになるはずだった。
だが、妹・真依の存在がそれを阻んだ。一卵性双生児は“呪術的に一人の人間”と扱われる。同じ魂の複製として扱われるため、本来なら真依にも呪力は宿らないはずだった。
しかし現実には、真依には呪力が生まれた。
それが天与呪縛を不完全にし、真希に一般人程度の呪力が残ってしまった。
そして真依自身も、真希の天与呪縛の影響を受け、生得術式すらまともに扱えない体になった。
二人は互いに影響を与え、互いに縛り合っていた。
その根本原因は“双子”という呪術的構造にある。
「そこで、このナイフを使う。」
「? どういうことだよ。」
「要点が見えないんだけど。」
二人は同時に首を傾げた。まさしく双子の反応だった。
「この分身術式は普通の分身じゃない。強みは──“本体のいない分身”だ。」
「本体がいない?」
妹が問い返す。姉は呪具以外は門外漢なので黙って聞くしかなかった。
「正確には、すべてが本体だ。作り出した個体が倒れれば、残った分身が本体に“置き換わる”術式だ。」
姉妹の困惑は深まった。
術式の内容は理解できる。しかし、これが自分たちの呪縛とどう関係するのかが分からない。
男は溜め息をつき、続けた。
「いいか。お前たちが弱いのは、互いが互いに悪影響を与えているからだ。魂が同一だから、呪術的に一人の人間として扱われている状態だ。」
そして静かに核心を告げる。
「だが、お前たちは“外見も中身も違う”。そこを利用する。」
双子の魂は完全一致のときにだけ分離できる。
だが二人は似ていながら違いが多すぎた。
そこで分身術式を用いて“共通点を増やし”、魂の構造を複製し、分離の準備を整える必要がある。
「刺す場所を合わせ、同時に刺せ。同じ傷が増えれば増えるほど、魂は一つの形に近づく。だが最後に一箇所だけ違う場所に刺せ。それが“個別の存在”である証明になる。」
男は呪力を流し、ナイフを二本に増やす。
右手のナイフを真希に、左のナイフを真依に渡した。
「最後の傷を対称にするのは、鏡の呪術だ。古来より鏡に映る自分は“別の存在”と認識されてきた。左右が逆転し、痣の位置も逆転する。“対でありながら別”という呪術理論を利用する。」
真希と真依は無言で頷いた。
「お前たちは似ていながら違っていた。性格も、髪型も、能力も。だからこそ、鏡の術に適していた。もし違いが少なければ、この儀式は仕込みだけで五年はかかった。」
軽く両手を振りながら、男は儀式の最終段階を説明する。
「共通点を増やし、最後に対照的な差異を刻む。魂の結び付きを極限まで強め、そのうえで綻びを作る。そこを釈魂刀で斬れば──」
刀を持ち上げながら男は言った。
「────お前たちは、別々の存在になる。」
説明は長く複雑だったが、姉妹は必要な部分だけ理解した。
二人はナイフを構え、同時に体へ突き立てた。
鋭い激痛とともに、脳内に声が響く。
──痛い。
遅れて気づく。
それは互いの“痛み”だった。
魂の繋がりが一体化に近づいている証拠だった。
血が溢れ、死が先に来るのではないかと思うほどだったが、二人は止まらなかった。
右肺と左肺。対称の場所へ最後の一刺しを入れた瞬間、視界が白む。
ぼやけた視界の中、男が幅の広い刀を振り上げるのが見えた。
次に目を覚ましたとき、二人の間にあった不思議な繋がりはもうどこにもなかった。
その欠落に、ほんの少しだけ寂しさを覚えながら。