ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】   作:1パチより4パチ派

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素材

 

 中堅の試合が始まる前に小休憩に入る事になった。全員分の飲み物を自販機で買って戻ってくると項垂れる加奈子さんが目に付く。

 

「加奈子さん大丈夫ですか? 体調悪いです?」

 

「めちゃめちゃ悪いです。頭痛が痛いレベルで」

 

「相当っすね……」

 

 加奈子さんの目は完全に死んでいる。まだ順番が来ていないのにこうなってしまっては後が無い気がしてきた。一先ず加奈子さんに飲み物を渡して休憩させなければ。

 

「どうぞ。冷えてますよ」

 

「あ、ありがとうございます……。あれ?」

 

「どうしました?」

 

「いや、私頼んだっけって思って……」

 

「俺が勝手に買ってきただけですね。加奈子さんその紅茶好きですよね?」

 

「加藤さんに言いましたっけ?」

 

「いや? でも仕事の休憩中とかで飲んでる頻度高かったし、好きなんだろうなって」

 

 そう言った瞬間、加奈子さんはテーブルに突っ伏した。勢いが強過ぎて明らかにおでこをぶつけている。痛そう。

 

「どうして……! どうしてそう言う細かい所とか見て気に掛けられるのに……! どうしてこんな風に……!」

 

「えっと……すいません。なんかすいません」

 

「いや良いんです。これは普通に八つ当たりでした……ごめんなさい」

 

「謝るの多分俺なんですけど……」

 

 加奈子さんの対面に座りながらペットボトルの蓋を開ける。缶コーヒーも売っていたが諸事情により2度と飲めなくなっているので仕方なしお茶にした。ヒトコロスイッチはもう沢山だ。

 

「あれ、リファルさんや先生は?」

 

「何でも仲間の様子気になるから電話するって言ってましたよ。2人ほど飲兵衛みたいで」

 

「暫くこっちに掛かり切りだからなぁ。全く篠目の奴、面倒ごとに巻き込まれやがって」

 

「ま、まぁこれに関しては被害者ですし……。いや被告ではあるんですけどね?」

 

「アイツの日頃の行いが悪いからこうなるんすよ」

 

「…………」ジィーーー

 

「すいません。人の事言えませんでした……」

 

「……ふふ。何も言ってませんよ?」

 

「目が言ってますもん。お前が言うなよって」

 

「分かります?」

 

「ほらぁ! その通りじゃないすか!」

 

「あはは! ごめんなさい、つい」

 

 最近加奈子さんはバイトの休憩中の時もこんな感じで揶揄ってくる事がある。最初の頃に比べれば仲良くなれたのかもしれないが、この人に強く言う気が全く起きないので基本やられっぱなしだ。

 

「ふぅ……話変わりますけど、篠目さんのお兄さん。ずっと睨んでましたね」

 

「まぁ味方がいきなり宗教勧誘キメられたらそら睨みますよ」

 

「そうかもしれませんけど……何だかちょっと怖いなって」

 

「怖い?」

 

 個人的には加奈子さんに怒られる方が5000兆倍怖いのだが、加奈子さんの表情的に冗談では無い。

 

「その、私が人質になった時ありましたよね」

 

「哀れな俺が高木に嵌められてギアススクロールに判を押す羽目になった仏滅の日ですね」

 

「そこまで覚えてるのは最早記念日じゃ……。そ、それで……し、志村? って人居たじゃないですか」

 

「まぁ犯人の事なら覚えてますよ。流石に」

 

「あの時のあの人の目……周りが見えてないって感じで。兎に角自分の目的が達成されればそれで良い。周りはどうでも良いって感じで……」

 

「……篠夜からも同じ雰囲気を感じたって事です?」

 

「は、はい……」

 

「うーん……」

 

 参った。俺も過去は周りの事なんて1ミリも気にしてなかったから全然異変に感じなかった。要は限界まで追い詰められている無敵の人って事か? でも周りを動かせる権力を持って、本人も相当な腕を持っている。精霊裁判だってまだ次鋒戦、しかも1勝同士でイーブンだ。追い詰められている訳じゃない。

 

「取り敢えず頭に入れておきます。何かまたでっち上げかまして来そうではありますし」

 

「ごめんなさい。変な事言って……」

 

「いやいや。そう言う感覚って大事っすよ。俺もダンジョンで『何と無くヤバいな』って感じた時は大抵何かありますから」

 

「虫の知らせって言うんですかね、そう言うの。……ちなみにどんな事があったんです?」

 

「目離した隙に篠目の発作が出て態と落とし穴のトラップ踏んで2人してマグマダイブしたりですかね。落ちた後、上からも降って来てマグマでうがいする羽目になりました」

 

「モンスターが襲って来てた方が100倍マシ! と言うかマグマトラップなんてあるんですか!? 構造どうなってるのダンジョン!?」

 

「トラップに関しては何でもありますよ。基本ランダムですけど良くあるのは上から落石とか爆発とか。たまーに感覚遮断落とし穴とかもありますね」

 

「すいません。全然興味無いんですけど感覚遮断落とし穴ってどんな感じですか? 全然興味無いですけど。あれですか? ヌルヌルですか???」

 

「首まで埋まった後、体が穴にいたモンスターに八つ裂きにされるやつですね。気付いた時には死んで受付です」

 

「R18でもGじゃないですか!!! 聞かなきゃよかった!」

 

「興味めっちゃあるじゃないですか」

 

 その後も加奈子さんと大した事ない雑談をした。……なんかやたらと触手罠とかあるのか聞かれたけど、俺は遭遇してないので答えられなかった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

「……何とまぁ、暇じゃのう」

 

 被告は法廷を離れてはいけないとの事で、1人だけで待たされている。早く戻って来て欲しいのじゃが……。

 

「暇か?」

 

「すまんがコーヒーは持っとらんぞ」

 

「誰が角田六郎課長だ」

 

「でも同じ坊主じゃし……」

 

「俺の方がイケメンだろ?」

 

「いや……」

 

「1番傷付く返事やめろよ」

 

 いつもの様にヘラヘラと笑いながら高木が入って来た。傍聴人が入って良い場所じゃあ無いのじゃが……まぁ誰も見とらんし良いか。

 

「それで何の用じゃ? 冷やかしか?」

 

「9割はな。残り1割は気になる事があってよ」

 

「してそれは?」

 

「お前。何か隠してるだろ」

 

「バレたか……。頼むからこの喜久福だけは勘弁しておくれ」

 

「飲食物持ち込むなアホ。そうじゃなくてお前自身のことだよ」

 

「血液型はO型じゃ」

 

「何をどう考えてもお前1人を引き戻すのにこんだけの大事にする理由が無い。篠家が幾ら国に対してあーだこーだ言えるからって限度がある。この程度の事で無理を通せば今後に響くなんて、猿でも分かる話だ」

 

「誕生日は5月25日じゃ」

 

「それでも表立ってお前を確保したい……。世間に篠家にお前が帰って来たと言うことを喧伝したい。自分の支配下に置いた状態で。と言うことはだ、お前に何かしら特別なもんがあるって事だろ?」

 

「身長は220cm。体重は230kg。足のサイズは45cmじゃ」

 

「さっきからしらばっくれるの下手くそ過ぎんだろ!!! 誰もトリコのプロフィール聞いてねぇわ!」

 

 ダメか。昔から嘘を付くのは苦手じゃ……。誤魔化しも下手だし。

 

「お主らに言うようなものでも無いと思ってな。言った所でどうにもならんしのぉ」

 

「うわ出た。そう言うこと言う奴に限って大体大事になって言っときゃよかったってなるんだよ」

 

「しかし儂らは皆、己の過去に触れておらんが? わっちもお主の昔は知らんぞ」

 

「……まぁ、そうだな」

 

 【自我中心】には暗黙の了解がある。それはそれぞれの過去にはあまり触れないと言う単純な物。自分から言うのであれば特に問題無いが、メンバーの殆どが何かしら脛に傷を持っている。実際、自分の過去を開示してるのはセラフィナくらいのものだ。 

 

「わっち的にはそう言う感じのが1番助かるんじゃがな」

 

「それ言われるときちぃな。俺も言いたいかって言われたら言いたく無いし」

 

「ゲルダリアなんぞあからさまに隠しておるだろ。追求するのはあれじゃから何も言わんが」

 

「加藤は普通に気付いてないけどな」

 

「まぁ加藤じゃからな」

 

「それで何年もつるんでたのも変な話だなぁ」

 

「……居心地が良いからな」

 

 しかし参った。流石に仲間と言えど現在進行形でこれだけ迷惑を掛けている以上、筋は通した方がいい。取り敢えず高木には伝えておこうか……。

 

「実は「篠目」……兄様」

 

 身の上話をしようとした途端、あまり聞きたくない声がする。振り向くとそこには兄様が立っていた。相変わらず、兄様に見られていると思考と動きが鈍る……。

 

「おっとっと〜。おにいたまぁ。まだ休憩時間は終わっておりませぬぞ〜?」

 

「相変わらずふざけた坊主だな。邪魔だ」

 

「誰も居ないんだし良いじゃないすかぁ。……ん?」

 

 高木がふと怪訝な顔をする。それと同時に兄様が口角を上げた。

 

「誰も居ない……? あり得ない。いくら何でもおかしい。被告すら放置とか意味分からん。それに休憩に入ってから既に20分は経っている。なのに誰も帰ってこない? ……まさか!!!」

 

「もう遅い。【合成(シンセンス)】」

 

「なっ──」

 

「茶番の時間はもう終わりだ。篠目──1つになろう。俺が完璧になる為に! その為にお前は生み出されたのだから!!!

 

「しまっ──篠目ェェェ!!!」

 

 聞きたく無い、だが聞き覚えがあり過ぎる魔法が兄様から放たれたのを最後に、わっちの意識は無くなった。あぁ……そう言う事だったのか。

 

◇ ◇ ◇

 

 

「そろそろ戻りますか。時間ですし」

 

「そうですね。次の中堅、加藤さん大丈夫ですか?」

 

「誰にも見てない速度で気絶させたら不戦勝になりませんかね?」

 

「正攻法で勝つ気ゼロじゃないですか! すぐ殴るから〜とか言ってセラフィナさんに声掛けなかったくせに!」

 

「冗談です。実はオピスとロールにレスバの特訓して貰ったんで多少はやれますよ!」

 

「(絶対途中で2人に言い負かされてたんだろうなぁ)」

 

 加奈子さんと2人して法廷に戻っている最中、突然──。

 

 

ドゴォォォォォォォ!!!

 

「きゃあああああ! な、何ですか!?」

 

 凄まじい爆発音が法廷側から鳴り響くそれは、キチンとした作りである筈の裁判所が揺れるほどだ。

 

「何が……ん!?」

 

 近くに人の気配がすると思ったら床に突っ伏して倒れている男が居た。先程の爆発で巻き込まれたのだろうか、全身ボロボロだ。

 

「た、大変! 助けないと!」

 

「取り敢えず【治癒(ヒール)】で……あれ、コイツ……」

 

 怪我の状態を見るために仰向けにしてみると見覚えのある顔。と言うか間違いなく相手側の中堅だった。確か回し者のグルとか言う奴。

 

「おいマジかよ! セリフ数0で退場すんのかお前! ナレ死じゃないだけマシかもしれないが!」

 

「何処心配してるんですか!」

 

「しっかりしろって! なんか言え! 何かしら爪痕を残せよ!」

 

「う、うう……うぐ……」

 

 回復しながら声掛けをしているとゆっくりと腕を上げるグル。そのまま近くに寄ってしゃがんでいた加奈子さんを指差した。

 

「え!? わ、私が何か!?」

 

「い……」

 

「い!? 何だ、何が『い』なんだ!」

 

「以外と……大胆なの履いて……」

 

「くたばれ」

 

「ぐぴゃぁ!」

 

 死に掛けのクソ野郎の鳩尾に拳を刺す。何だこいつ、助けて損した。

 

「よし、討伐数1」

 

「ラストヒット取らないで!? この人もこの人で非常事態に何処見てるんですか!」

 

「今頃法廷で裁判長見てますよ」

 

「流れ的にどう考えても閻魔大王ですよね!? 別にそこまで気にしませんから! それどころじゃないですもん!」

 

 加奈子さんにセクハラとか極刑もいい所だが、本人が気にしないと言ってるので気絶で済ませた。軽く【治癒】をかけて通路の隅に転がしておく。取り敢えずはこれで良いだろう。

 

「加藤様! ご無事ですか!」

 

「リファルさん! 状況分かりますか!」

 

「申し訳ありません! 私達も爆発音で気付きまして……」

 

「一先ず裁判所内の人を避難させたいわ! 現場の方お願い出来ない!?」

 

「了解です。そっちはお願いします! あ、そこの転がってる奴もお願いします」

 

「治療は……済んでるわね! 分かったわ! ……治ってるのに何で泡吹いてるのかしらこの人……」

 

 リファルさんとエネロマ先生なら安心だろう。何はともあれ爆心地の様子を見てこよう。

 

「加奈子さん。リファルさん達の後を追っかけて外に出てください」

 

「か、加藤さんも逃げないと!」

 

「あの程度の爆発でどうこうなるような体してないんで大丈夫です。ガス爆発とかだと吸い込んだらやばいし、早く避難を」

 

「ちょ、待って加藤さん! こんな所でガス爆発なんて──」

 

 加奈子さんとの会話を切って走り出す。法廷に向かっている最中に床に転がっていたモップを拾う。恐らく爆発の反動でロッカーが倒れたのだろう。無いよかマシだ。

 

「加藤さん」

 

「鶴岡、強化」

 

「【硬化(ハードニング)】【魔力装備(エンチャントマナ)】」

 

 合流してきた鶴岡にモップを突き出して強化させる。【硬化】で耐久性を上げて【魔力装備】で魔力を纏わせる事で魔法が飛んできた際にある程度の耐性が出来た。即興の武器としては悪く無い。

 

「高木と篠目は?」

 

「見ていません。恐らく先に法廷に戻っていたかと」

 

「じゃあアイツらがやってんのか。これ」

 

「もしかしたらガス爆発かもしれませんよ?」

 

「んな事ある訳ねぇだろ。この音からしてよぉ!」

 

 段々と戦闘音が聞こえてくる。建物を全部ぶっ壊す気かと言いたくなる程の轟音。そもそも裁判所なんてガス爆発するような場所でも無い。仮にあるとしてもこんな継続的に爆発するか。誰かが戦っている以外あり得ない。

 

「武器以外の強化は?」

 

「状況見てからだ。基本的には魔力は妨害の方に回せ」

 

「了解」

 

 鶴岡が返事を返した辺りで壁を突き破って魔法が飛んでくる。魔力的に高木の撃った流れ弾だ。適当に弾いておく。

 

「高木ぃ! 何があった!」

 

「遅ぇよ……ペッ。クッソ面倒な事になりやがったぞ!」

 

 最早元の姿を想像出来ない程崩壊した部屋に突入すると、散乱する瓦礫と飛び散っている血液が目に入る。恐らく高木の血だろう。全身を切り刻まれたのか、スーツは真っ赤に染まっている。だが、それよりも何よりも目を引くものが──。

 

「……篠目じゃないな」

 

『篠目ではあるさ。俺でもあるが』

 

「俺の耳がイカれてなければ、あの篠目にくりそつ銀髪中性美人からシスコンキモすぎ兄貴の声が聞こえるんだが?」

 

「そりゃそうだろ。何せ──篠目が吸収されちまったんだからな」

 

「……は???」

 

 篠目に似ていて、シスコン兄貴に似ている顔のソイツは俺らに向かって笑顔を浮かべる。腹の底から困惑と怒りが湧いてくるのを感じた。

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