ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
前回の話で篠目視点の最後で【合成】を聞いた事のない魔法、と描写しましたが間違いでした。正しい文章は以下の通りです。
誤 聞いた事もないような魔法が兄様から放たれたのを最後に、わっちの意識は無くなった。
正 聞きたく無い、だが聞き覚えがあり過ぎる魔法が兄様から放たれたのを最後に、わっちの意識は無くなった。あぁ……そう言う事だったのか。
既に前話は修正済みです。何故このようなミスが出たのか、単に後出しで設定変更しただけではと思われるのは当然だと思います。言い訳になりますが、自分は作品を書く際にスマホのメモ帳に下書きをして、それをハーメルンで調整すると言うやり方を取っています。その際ボツ原稿が当然発生するのですが、『せっかく書いたのに消すのはなぁ。なんかに使えるかもしれんし』と残しています。そして前話、そのボツ原稿を間違って投稿してしまいました。しかも気づいたのがこの更新前ギリギリと言う間抜け。己の不注意でいつも読んでくださる方々にご迷惑をおかけして申し訳ございません。以後このような事が無い様ボツ原稿は一律全消しする様にします。繰り返しになりますが、急にちゃぶ台返しの様なことをしてしまい、申し訳ありませんでした。
「ねぇオピス」
「どうしたのゲルダちゃん」
「私勝手を知らない無知無知ガールだから聞きたいんだけどね」
ドガガガガガガッ! バシュン! バシュシュン! ガギィィィ!!!
「あそこってデフォで戦闘音が鳴るエキサイティングな場所な訳?」
「そんな訳ないよね」
「なんかどんどん中から人が逃げてきてるんだけどこれもデフォ?」
「そんな所で司法を司る訳無いよね」
「もしかしてさ──やばい?」
「やばいかも」
オピスと2人して近くのカフェでぶー垂れてたら裁判所の一部が爆発した。そして聞こえる激しい戦闘音。
「て言うかさ、あの魔法の魔力的に高木のじゃない?」
「そうだね」
「じゃあアイツら戦ってんの?」
「かもね?」
「誰と?」
「さぁ……」
ちょっと様子見に行こうかしら。そう思ってた辺りで加奈子が外に出てくるのが見えた。ちょうど良い、何があったのか聞こう。
「加奈子〜どうしたのよ。何かあった?」
「ば、爆発が起きて……加藤さんが行っちゃって……どう考えても戦ってる音で!」
「じゃあ大丈夫じゃない? 他のメンツも居るしー」
「まぁあの4人なら荒事関係だったら余裕だよね」
「そうそう。それこそ篠目が急に寝返るとかしない限り──」
ドガガガガガガッ!!! ドボォォォォン!!!
「ガハッ! ゲホッ! クソがぁぁぁ!」
そう言ってたら加藤がバカみたいな量の水と一緒に吹っ飛んで来たので水を吸収して助ける。響き渡るパンピーの悲鳴すら掻き消す程の怒声を上げながら立ち上がった加藤の顔は般若のようだった。
「ちょ、加藤! アンタ何してんの? 何と戦ってる訳? 裁判しなさいよ! それとも超次元裁判してんの!? ゴットハンド!?」
「あれ見ろ……!」
加藤が示す方向に視線をやると、そこには篠目……のような、男とも女とも取れない人間が居た。
「あれって篠目……? 違うわよね、絶対」
「加藤くん。あれ誰だい?」
「篠目がクソ兄貴に取り込まれた……!」
「取り込まれたって……何???」
「良いからお前らも構えろ! アイツの目的は──」
『逃がさん。ここで死ね!!!』
篠目に似たそれは、真っ直ぐと加藤に向かってくる。強化されているモップで弾き返すが防ぎ切れなかったのか、体制を崩しながらもこう言った。
「俺らだ!!!」
◇ ◇ ◇
「……吸収? この世界はいつからドラゴンボールになっていつの間にセル編に突入したんだ?」
「知るか! そうとしか言えねぇんだよ! 篠夜が【
「……聞いたことの無い魔法ですね」
現状、全ての魔法はどのような名称でどのような効果なのか完全に把握されている。個人それぞれで使える物は違えど、新しい魔法なんて物は基本的に存在しない。それほど調べ尽くされている。それなのに聞いたことが無い。あの高木が。チーム内で1番魔法に詳しい奴が。それはつまり──。
「ウォルタリアでも……」
セラフィナが交戦した、ウォルタリア襲撃の首謀者。現在姿を眩ましているソイツも、聞いたことない魔法を使っていたらしい。まさかコイツもその類……?
『何か勘違いしているようだが、俺が使った【合成】は最近話題の未知の魔法では無い。歴とした古来より伝わってきた魔法だ。最も篠家の者しか使えないがな』
まさか篠家にも魔王の一族だけが使える魔法のような物があったとは。高木が知らないレベルだ。それこそ秘匿にされ続けてきたのだろう。
「【合成】ってなんなんですかねぇおにいたま。愚かな俺達に教えてくれやがりませんか?」
『そもそも貴様らは【篠家】に対して誤解をしている』
「誤解、ですか」
『【篠家】は過去、魔族との戦争時に表立って戦った……だがそれは自主的にやった訳じゃ無い。国によって作られたからだ。家系そのものを』
「国から……?」
『【篠家】は魔族との戦争で勝つ為に、人工的に作られた人間。強さと殺意だけを求めて弄られた殺戮兵器だ』
「──何だと?」
俺の疑念を晴らす為か、ただ自分語りをしたいだけなのかは分からないが、篠夜の口は止まらない。
『人族と魔族の戦争が始まって早数百年。戦線は硬直しお互いに死人を増やすだけの日々が続いた。最初期こそ初代勇者が居たが……初代魔王を討伐した後は戦場に出る事は無かった。後の勇者と呼ばれた者達も決定打にならない。消耗し続ける……ならばと当時の国はこう考えた訳だ。【強い人間を作ろう】と』
「強い人間……」
『そこで初めて作られたのが俺達の先祖だ。魔王が対人族の為に生物兵器を作っているなんて話もあったからな。対抗したかった訳だ。周辺国に対しての威圧も込めてな。壮絶だったらしいぞ、体を弄りまわされ、アイテムを体に入れられ、己の寿命を魔力に変換するようにされ……兎に角多く殺せるように。そうして生まれた初代はそれなりに強かった。多くの魔族を殺した。──だが足りなかった。強さも、数も、寿命も』
「そりゃそうだろ。当時の戦争なんざ、今の国同士のいざこざがお遊戯会に見えるほど苛烈だったんだ。人間以外の人族も魔族もはちゃめちゃに強かった。人間が勝ってたのなんて数だけだ。多少底上げしたとこで勝てる相手なんてたかが知れる。一部の例外を除いてな」
高木が言っている例外とは、それこそ初代勇者の事だろう。初代勇者は人間だったらしい。
『結局の所、1個体では限界が来た訳だ。強さもまばらだからな。斃れればまた最初から作り直し……時間も金も資源も全てパーだ。そこで思いついた訳だ。【再利用】しようと』
「……まさか、それが【合成】とやらの……」
『そう! 稼働限界を迎えた個体の経験や強さを新しい新品に載せ替える! そうすれば使った時間も労力も無駄にならない! 全く賢い考えだ! 人道や倫理に痰を吐き掛けている事を除けばな! 【合成】の魔法が使える魔法使いがこの世で1人しか居なかったのも追い風だった。他国はこの手が取れないからな!』
普通であれば考えられない事だ。だが当時は戦争中。人道も倫理も糞食らえな時代。ミアズマボムなんて特級呪物作り出すくらい終わってる時代だ。最早何でもありだったのだろう。
『引き継ぎはずっと続いてきた。【合成】を使える魔法使いも途中で混ぜられ、引き継いだ個体に複数の子を作らせて、その中でも優秀な個体にまた引き継ぐ……時代が進むにつれて強さは増していった。戦場で一騎当千の活躍をする程に。それが俺達【篠家】……実験動物の輝かしい栄光さ。叛逆出来ないように篠家当主に対して萎縮するよう調整も施されてな』
「篠目が妙にビビってたのはそういう事かよ……」
「随分と自虐してんな。で? その反吐が出る栄光をお持ちの篠家当主様は何がしたいんだ?」
『俺は選ばれなかった方。ハズレ枠だ。【合成】の対象外として育てられた』
「……まさか」
『そう──篠目は何百年以上前から【合成】による【合成】で完成した最強の兵器さ。魔法の才能こそ大した事無いが3歳で家の者が誰も勝てないくらい強かった篠目に、引き継いでいた者を混ぜた。当時何も分からない篠目に。……と言ってもやったのは父だがな』
「おいおい……じゃあ何か? バケモンみたいな強さだと思ってたが、実際問題イカれた実験と魔法で強引に作られたバケモンだったって訳か? 冗談キツいぜ……ハハ」
高木が笑うしか無いと言わんばかりに乾いた笑いをあげる。篠目が俺達のチームに入ったのはアイツが13歳の頃。その頃からアイツの強さは異常だった。本人の素質はあれど、付け足されたものだったらしい。
『引き継ぎが終わった篠目はハッキリ言って歴代最強と言っても良い。それほど突き抜けた……。突き抜けてしまった!!!』
「──っぶねぇ!」
一瞬で俺の眼前まで距離を詰めて刀を振るってくる。間違いない、この速度、このパワー、篠目の物……!
『篠目が! 篠目が選ばれてしまった! いずれ生まれる子孫に混ぜられる事が決定してしまった! 混ぜられた影響か、自傷行為を繰り返すようになった! 俺の! たった1人の妹は壊れてしまったんだ!』
「お前……!」
『篠目はダメだ。1人で生きられるような奴じゃない。俺が見ていないといけない。あまりの異常さに家の者達から避けられ続けていたからずっと寄り添った! そばに居た! 例え家に居るのが苦痛で抜け出したとしても、一時的なものだと思っていた! ……そ れ な の に !』
狂気的な目をした篠夜から急激な魔力の流れが起きる。直撃すれば不味い──!
「【極光剣】!!!」
『【
自分の魔力を注ぎ込んだモップで極光剣を放つ。それと同時に放たれる閃爆。瞬間的に大爆発を起こす魔法だ。
「【停止】」
一手遅れて鶴岡の妨害が入り篠夜の動きが止まる。だが即座に動き出し、魔法は放たれた。俺の【極光剣】と【閃爆】が衝突する。
「ぐっ──ダメか!」
「【
愛剣じゃないからか、いつものような火力が出ない。爆発を相殺しきれなかったが、ダメージは高木が張った魔法である程度防がれる。
「悪ぃ加藤! 防ぎきれなかった!」
「問題ねぇ! 十分だ!」
「加藤さん。お相手、恐らく妨害魔法への耐性があります。……篠目さんのように」
「だろうな……! 見てりゃ分かる。お前の【停止】が即座に効果切れなんだからな……!」
「支援魔法メインに切り替えます【
「今何個だ」
「加藤さんの武器含めてこれで5つです」
「耐性抜く為に魔力込めた場合の妨害は」
「篠目さんレベルとなると出来て3回です」
「多いと思うしかないな……!」
支援魔法は強力だ。これ1つで初心者探索者でも中級ダンジョンのモンスターにダメージを入れれるようになる。だが欠点として常にかけ続けて無ければならない。魔力消費が尋常では無いのだ。鶴岡は魔力が相当な量持っているとはいえ常時減り続けている以上ジリ貧だ。そして何よりも──装備だ。
「(俺も高木も鶴岡も、碌な武器も防具も無ぇ!)」
当たり前だ。常日頃装備を身に付けてるなんて訳が無い。しかも今日に至っては裁判所に入る為に愛剣すら置いてきた。装備してるのは以前ルロから貰った攻刃の指輪だけ。それも常日頃付けてるからうっかり付けてきただけだ。高木は杖が無いせいで魔法の出力ダダ下がり。鶴岡は普段の魔力消費軽減効果の装備が無いせいで支援も妨害も普段より魔力を喰っている。相手は事を起こす気満々だったのか、装備は万全。状況は最悪だ。
『貴様らなんぞに出会ってしまった! たった1回! 最初の家出で貴様らなんぞに! 2年前! 貴様らが居ない時にアイツに俺は会った! 苦しいだろう、寂しいだろう。俺が居るから帰ろうと! ……アイツはなんて言ったと思う?』
【わっちの居場所はあそこじゃ。すまんな、兄様】
『巫山戯るなよ!? 貴様らみたいな腫れ物が! 肥溜めみたいな集まりがアイツの居場所だと!? 違う、篠目の居場所は俺の側だ! 断じて貴様らじゃ──無い!!!』
「それ決めるのは──お前じゃねぇだろうがぁぁぁ!!!」
後衛の2人に近づけさせないように向かってくる篠夜を迎え撃つ。高木が攻撃魔法をいくつか差し込んでくれるが、速度が追いつかない。防戦一方だ。
『裁判なんぞの茶番を起こしたのは貴様らを仕留める為! 篠目を汚し、腐り落ちるような居場所を潰す為! 調べたさ、貴様らの事を! その結果、貴様らを繋ぎ止めているのは加藤! 貴様だ! 貴様を殺せば【自我中心】は瓦解する! 篠目を怪我した肥溜めを消し去れる! 篠目を佳境に立たせれば引き釣り出せると思っていたぞ! 仲間意識だけは一丁前のようだしな!』
「妹を物扱いしてるゴミ兄貴に言われる筋合い無ぇんだよ! 居場所になりたいだの何だのほざいてるが、その実自分の強化素材みたいに使ってんじゃねぇか! バカな事抜かしてるとドタマ割るぞ!!!」
心底腹が立つが攻勢に転じれない。奴の言う通り装備も無しにノコノコ出てきてしまったのは事実だ。どうする。何より──。
「(篠目は……どうなってるんだ……)」
【合成】とやらが人と人を無理くり合体させるのは分かった。だがくっついた人間はどうなる。分離出来るのか? 分離した際どうなる。元の篠目にちゃんと戻るのか? いやそもそも──もう、篠目は。
「加藤! 何してやがる!!!」
「! しま──」
『【
篠夜が放った水の魔法の質量に負けて、外へと押し出された。
◇ ◇ ◇
裁判所内に居た人々を安全な所まで避難させたのを確認する。……加奈子様の姿が見えないが、どこに行ったのだろうか。てっきり着いてきてくれているものだと……。不覚!
「エネロマ! ここは任せます!」
「リファル待って! どこ行くの!」
「先程の爆発の後に戦闘音が聞こえました! 現場に向かった加藤様達が戦っています! 援軍に行かねば!」
「武器も無いのよ!? そんな状態で行っても足手纏いよ! 落ち着いてリファル、まずゴランド達に連絡を──「悪いけどそれは通らないなぁ」──なっ!?」
避難民の中からエネロマを遮る声がしたと思った次の瞬間、その方向から凄まじい呪気を感じる。咄嗟に止めようと、拘束魔法を唱えるが遅かった。赤黒い錆びた鎖のような物が私とエネロマ、そして避難誘導していた市民達全てに巻き付く。
「こ、れは! エネロマ! 解呪を!!! ぐぅ!」
「嘘でしょ。魔力が練れない……どう言うつもりよ……リリンス!!!」
その鎖はエネロマと同じ精霊族のリリンスから伸びていた。身動きが取れないだけじゃ無い、体から体力も魔力も削がれ続けている……!
「不意打ちごめんなさいねー。でも予定通りだからさ」
「予定、通り!? あの爆発、貴女達が仕組んだの!?」
「そうだよー。元から中堅が始まる前の休憩時間に仕掛ける予定。篠夜の【
「やめなさい! 今すぐにこれを解きなさい!」
「言われてやめるならやってないよエネロマさん⭐️」
「貴女死ぬわよ!? この呪い、明らかに出力がおかしい! 呪いをかける際に必要な代償、魔力じゃないでしょ!」
「凄! 分かるんだ。その通り、この【死滅の鎖】の代償は私そのもの。君達レベルを私が止めるってなったらこうするしか無かったんだよね。本当だったら【自我中心】の誰かの足止めだったんだけど……どうして君達が来ちゃうかなぁ」
その瞬間、彼女の右腕が消し飛んだ。辺りの他の避難民の悲鳴が響く。精霊族だから血は流れない。だが間違いなく己そのものを代償にしている。
「はは。コスパ最悪ー。死滅って相手じゃなくて自分なのがこの呪いの終わってる部分だよね。これどんだけ保てるかなぁ。……ま、全部消えるまでには終わらせるでしょ」
「何でそこまで……!」
「あの兄妹は今日、【完璧】になるって言ってたからね」
「含みが過ぎて見えてこないわね! 篠夜はここまでの大事にして、何がしたいの!? これだけの事を起こせば、いくら国がバックにあるからって限度が──」
「関係ないよ。だって──彼は今日、死ぬんだから」
「……は?」
「何を、言っているのですか」
「そのまんまの意味だよ」
悪徳弁護士と呼ばれているとは思えない優しい笑顔で彼女は──。
「彼はね、彼の大事な妹の唯一の居場所になって、妹と一緒にこの世からおさらばするつもりなんだもの。終わりに向かうのって美しいじゃない。終わりが無い私達と違って」
「なん──ですって──」
◇ ◇ ◇
爆発が起きて加藤さんが吹き飛んで来てから裁判所付近は酷いことになっていた。
「……チッ」
『速さは完全にこちらが上だな?』
「妹の強さでイキって楽しいか?」
『今この瞬間、篠目は俺と1つになっている。篠目の強さは俺の強さだし、俺の強さは篠目の強さだ』
「あの馬鹿もお前みたいなのと一緒にされたら嫌で仕方ねぇだろうよぉ」
魔法で周囲の道路や建物はボロボロ。多くの人が逃げ出す中、加藤さん達はずっと戦っていた。素人の私が見ても分かる。どう見ても加藤さん達が不利だ。数では完全に勝っているのに。
「オピス、石化は試したか?」
「無理! そもそも篠目ちゃんに石化効かないんだから効くわけ無いじゃん!」
「何でこう言う時にお前も武器持ってきてねぇんだよ!」
「傍聴しようとしてたのに持ってる訳無いでしょ! そんなの高木くんも皆んなも同じじゃん! 僕の魔眼別に万能じゃ無いんだよ! 現状魔法打ち消すくらいで精一杯!」
「いやはや、これは……不味いですね」
加藤さん達全員軽傷ではあるけど無傷な人は居ない。加藤さんも高木さんも鶴岡さんも、この程度の傷の回復に魔力を使ってられないみたい。それに──。
「どうしてスマホが繋がらないの……? 急に圏外って……」
このままだと不味いと思い、スマホで助けを求めようとしても繋がらない。セラフィナさんにも、ドラツェルバさんにも、ルロ様にも繋がらない。この戦いが始まる前にはちゃんと繋がっていた筈……。どうしよう、走ってでも助けを求めるべきだろうか……。
「おいアンタ……あまり頭を外に出すな。流れ弾が飛んでくるぞ」
「え? ……あ、貴女は確か……海岡二郎さん!」
崩れた建物に隠れながら悩んでいると背後から声をかけられる。逃げ遅れてしまったのだろうか。……いや、違う。
「海岡さん、足……!」
「全く運が無い。篠夜の奴め、人が居る場所すらお構いなしと来た」
誰がどう見ても右足が折れている。スーツで隠れているからまだ見れるが、曲がってはいけない方向に曲がってしまっている足は痛々しい。
「い、痛く無いんですか……?」
「痛いさ。だが生憎痩せ我慢だけは得意でね。そんな事より今ここを離れるのは無理だ」
「そ、そうですよね。魔法の応酬が激しいし、加藤さん達もこっちを気にしてる暇なんて……」
「それもあるが、今この裁判所付近に居る以上、逃げるのは不可能と言っている。奴……篠夜がやったのか、リリンスがやったのかは定かじゃ無いが、【人払】を結界のように貼ってある。多分アンタのお知り合い達も把握してるだろうな。ご丁寧に【絶伝】まで一緒に使っている。【念話】も電話もこの中じゃ使えない」
「え……ま、魔法はよく分からないですけど、【人払】って人を追い払う的な魔法ですよね? それを結界みたいに貼ったからって……」
「【人払】はその通り対象の無意識に作用して自分でも分からないが近寄りたくなくなると言う魔法だ。精神操作系の魔法は特別な時を除いて使用を禁じられているんだが……それは今更か。重要なのはこれが裁判所周辺を囲むように貼ってある事だな。これじゃあ外側からの救援は絶望的だ。何せ外側の人間はどんどん離れて、ここの異常を感じ取れない」
「だ、だとしてもここから逃げた人達が助けを──」
「さっき周辺の人間達を【勇者の集い】が連れて行ったが……十中八九、足止めされているな。あのリリンスとか言う精霊族の女は過去に探索者として活動していた。それなりの実力だったらしい。避難民に紛れて不意をつくくらいなら容易いだろう」
「そ、そんな……!」
「【彼女達と一緒に行れば何があっても安心】。そんな心理を利用して一纏めにされた訳だ。全く。【勇者の集い】の2人は想定外だった癖に機転が効くのは大したものだな。……まぁ居なかったら命の保証は無かったし、逆に居てくれて良かったか。これだけの事をしでかしてるんだ。無関係の人間殺すくらいしてもおかしくない。アンタが1人で逃げようとしたら、それこそ狙われるだろうな」
「……海岡さんは、篠夜さんの仲間じゃ無いんですか?」
「冗談じゃない! たまたま仕事関係で知り合っただけの仲だ。妹を連れ戻したいとかほざいてたからな。知らない仲でも無いしと訳のわからない裁判に来てみればこれだ。俺の運勢は地の底だぜ」
海岡さんの言う事が正しいのなら、ここは陸の孤島。外からの救援も内側からの避難も叶わない。
「どうしてこんな……」
「さぁな。頭がイカれた奴のことなんて分かりたくも無い。何にせよ、あまり動くな。あの連中と違って、アンタ強く無いだろう。変に動けばアイツらの邪魔になる。ここは隠れるべきだ」
「……そう、ですよね。すいません、ありがとうございます」
「礼を言われるような事はしてない。別に何か解決する訳でも……何しているんだ」
「何って、応急手当てです。一応学生時代は弓道部だったので、テーピングくらいなら出来ます。折れて放置してたら歩けなくなっちゃいますよ」
「いやそれはそうだが……おい良いって!」
「ぐっ、んんっ!」ビリビリッ
丁度ロングスカートの日で良かった。清潔とは言えないけど、スーツの上から巻くなら大丈夫な筈。ハサミがないから歯で引きちぎったが、そのせいで若干歯が痛い。
「触りますね。ごめんなさい」
「……対して関わりの無い人間によくもまぁそこまで出来るな」
「会った時間は関係無いですよ」
「何……?」
「例え今日が初めて会った日だとしても、目の前で苦しんでいる人が居たら何もしないなんて……出来ません。何か、しないと」
お母さんが癌になってから、私は何でもやった。睡眠時間を削ってバイトして、学校の先生に頭を下げて授業免除してもらったり。大学に行ったのも良い会社に就職出来ればエリクサーを買えるかもと思ったから。……結局、癌の進行が早くてそんな悠長をしていられなかったけど。
「痛くて、辛くて、虚しくて、悲しくて。でも何も出来ない。……そんな人をずっと見てきた。でも言うんです。【貴方じゃなくて良かった】って。ホッとしたような顔で」
「アンタ……」
「そんなの……耐えられない。例え結果がダメでも、どうしようもないのだとしても。何か、してあげたい。助けたい。寄り添いたい……見捨てたりなんか、出来ない」
偽善なのかもしれない。相手は助けて欲しいとは思ってないのかもしれない。でも手を差し出す事はやめたく無い。それだけは──受け入れられない。
「ごめんなさい。変な事言って……。取り敢えず、終わりました」
「……どうやら俺の人生で出会った奴の中で、ぶっちぎりのお人よしみたいだな、アンタは」
「そう、ですかね」
「ああ。……さっきより楽になった。ありがとう」
実際海岡さんの表情は若干だけど和らいだ。まさか部活時代の経験が役立つなんて思わなかったけど……。もう少しちゃんと勉強しておこうかな。そう思った次の瞬間、すぐ側で轟音が鳴り響く。
「ッ! な、なに……?」
「……不味い! おいアンタ! 離れろ!!!」
何が起きているのか理解する前に、海岡さんに突き飛ばされる。そのまま隠れていた建物が崩れた。流れ弾が当たったのだろうか。私を庇った海岡さんが瓦礫の下敷きになってしまった。大きさ的に天井の一部だろうか。幸い動けなくなる程度で、押し潰されてはいない。
「だ、大丈夫ですか! ごめんなさい、私のせいで──」
「良い……。良いから別の場所に隠れろ! ここじゃ近過ぎる! 次来たら全部崩れるぞ!」
「は、はい! 今瓦礫を寄せて……」
「そんな時間は無い! 良いから行け! どの道歩けない以上足手纏いだ! 早くしろ!」
「み、見捨てろって言うんですか!?」
「別に死ぬ気は無い! 運が良ければ生き延びれる! まずはアンタだけでも逃げろ!」
「…………ふんっっっ!」
「ッ! この馬鹿……!」
重い。とても重い。でもダンジョン清掃の時のモンスターの死体を片付ける時、これより重いのなんて沢山ある!
「そうだ……少しずつ削って! いつもの仕事の時みたいに!」
足元の小さな瓦礫で殴り付けて少しずつ削り出す。下からやったらもっと崩れるかもしれないから、上の方から順に!
「ふっ! ふっ! ふっ!」
ガン! ガン! ガン! ガン!
「……訂正するよ。アンタはお人よしはお人よしだが、それと同じくらい馬鹿だ! 普通見捨てるぞ!」
「見捨てるくらいなら馬鹿で良いです!」
別に私は強く無い。一般人とほぼ同レベルの私は何も特別な力は無い。加藤さんみたいに出鱈目に戦いが強い訳でも、高木さんみたいに魔法が使える訳でも、セラフィナさんみたいに力が強い訳でも、何でも無い。だからこそ、だからこそ!
「私はっ! 何にも無いからっ! 特別じゃ無いからっ! だから、投げ出す事だけはしたくない! 少しでも自分に出来る事があるなら、せめてそれだけはっ!」
魔法を受けて脆くなっていたのか。何とか瓦礫を小さくする事が出来た。これなら私でも頑張れば退かせる。少し手こずったけど無事瓦礫を寄せて、海岡さんに肩を貸して避難する。足が動かせない以上、ゆっくり行くしか無い。
「一先ず、あっちの建物に隠れましょう! 加藤さん達が戦ってくれてるんです! きっと隙が出来ます! その時にここから離れて、助けを呼べば何とかなるかもしれません!」
「……ああ、分かったよ」
半ば呆れている海岡さんと一緒に別の建物に逃げ込んで──────。
『見逃すと思ったか?』
「──ぁ……」
『アイツらを殺す前に邪魔が入ると困る。──死ね』
一瞬で背後から、何のことも無いような口調で死が宣告される。振り向き切る事も無く、私の視界は赤く染まった。
「──え……」
痛みは無い。苦しく無い。何故なら私は斬られてないからだ。ならこの赤は? この顔に滴る真っ赤な血は……。
防ごうとしたのであろうモップは限界を迎えて地面に落ち、軽い音を鳴らす。それと同時におよそ人体からなっては行けない噴き出る音が、耳にこびりついた。
「加藤さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」