ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】   作:1パチより4パチ派

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過去イチ長いです。申し訳ない!


大好きな命令

 

何故だ。

 

「シャアアアア!!!」

 

 何故だ。

 

「オラオラオラァ!!!」

 

 何故だ。

 

「【光束(ライトバインド)】! んでもって【流星(メテオ)】ォ!!!」

 

 何故だ。

 

「貴方達の怒り、どうか私に預けて下さい。【怨嗟の抱擁】」

 

 何故だっ!!!

 

「遅ぇ!!!」

 

『──!』

 

「【極光剣(きょっこうけん)】!!!」

 

 反応出来ず、加藤の放つ魔力に吹き飛ばされる。足を縛られ、生気を奪う怨念に纏わりつかれ、刀を振ろうにも加藤に体制を崩され、サキュバスにタコ殴りにされる。一方的だった。たった1人が増え、剣を持っただけで!

 

「何寝てんだテメェはよぉ」

 

『このっ──!』

 

「見え見えだわボケェ!」

 

『ゴハァ!!!』

 

 立ちあがろうとするもサキュバスに肉薄され、蹴り飛ばされる。耐えられない訳じゃ無い。戦えない訳じゃ無い。だが──完封されている。ダメージは大した事無いが、それだけ。全く攻勢に転じれ無い!

 

『あり得ない……何故急に……!』

 

「おいおい! マトモな前衛が居ない間にイキって勘違いでもしたのかぁ? 俺が加藤やセラフィナと同じレベルで接近戦出来る訳ねぇだろうがよぉ! 舐めんじゃねぇぞ! 俺はインテリなんだよ! 文官が肉体労働得意な訳無いだろ! 孔明が戦線出るのなんざ三國無双だけだわ!」

 

「自分で言いますか。人の事言えませんが」

 

 魔法による支援をしてくる後衛の余裕に腹が立つ。だがそれを吐き出す暇なんぞ無い。前衛2人を捌かなければならない。加藤の攻撃は決して隙が無い訳じゃ無い。全力時と比べたら半分も出てないだろう。だがその隙は全てサキュバスが埋めてくる。逆にサキュバスの隙は加藤が全て埋めてくる。互いにカバーし合い、攻撃の手が緩まない!

 

 

バキャアッ!!!

 

『!!!』

 

「3本目」

 

『ぐっ──ボッホォ!』

 

 打ち合った加藤にそのまま刀を叩っ斬られる。使えなくなった刀をせめてと投擲するが涼しい顔で躱された。そして訪れる激しい痛み。体がくの字に跳ね上がり、受け身も取れずに地面に転がる。そこで漸く、懐に潜り込んで来ていたサキュバスに腹を頭突きで打ち上げられた事に気付いた。

 

『ゴボッ! ゲホォッ! ──【光砲(ライトカノン)】!!!』

 

「高木!」

 

「させねぇよ。【光砲(ライトカノン)】!!!」

 

 こちらが魔法で攻めても、あの坊主に全て相殺される。わざわざ同じ魔法でかましてくる辺り、絶対の自信があるのだろう。事実、俺の魔法は奴らに何の傷も負わせられない。

 

「エンジンかかって来たぁ! 【障壁(ウォール)】貼らなくて良いとか最高だぜ! あれ魔力消費多いんだわ! ハッハァ!」

 

「高木ぃ! 無駄口ほざいてんじゃねぇぞ!」

 

「そう言うなよ特攻隊長! 散々やられて鬱憤溜まってたんだからなぁ! そら! 頑張って避けろよお兄たまぁ!!!」

 

 坊主が空に手を翳す。その手の周囲で魔力が練られ、紫雷へと姿を変えた。あの魔法は──!

 

『貴様! そんな魔法まで──!』

 

「残念だったな! 俺は才能溢れる若人なもんでよぉ! こう言うのも使えちまうんだなぁぁぁ!!!」

 

 

【雷封】(サンダーシール)

 

 坊主から放たれた紫電が俺に一瞬で届き、全身を貫く。出血がある訳では無いが、雷が残り続け、俺を針の筵の様にする。この魔法は直接的にダメージを与えるものでは無い。この魔法の効果は──!

 

『──! ──!!!』

 

「無理だよなぁ! 詠唱出来ねぇよなぁ!? その雷が体を貫いている間! お兄たま、アンタは自分の魔力を外に出す事は出来ねぇぜぇ!?」

 

 何度試しても魔法が発動出来そうに無い。己の体の中で出口の無い密室に閉じ込められたかのような感覚に陥る。【雷封】──対魔法使いに対して特攻と言って良い魔法封じは、今の俺にとって最悪だった。

 

「魔力の出し方分からないか?」

 

『しま──』

 

「こうやんだよ。【極光剣】ッッッ!」

 

 少しでも体を逸らそうとしても、神父の怨念に動きを止められモロに攻撃を喰らい空に吹き飛ばされる。畳み掛けるように飛びかかって来たサキュバスに頭を掴まれ、地面に叩き付けられた。

 

 

ズドンッ!!!

 

『がぐぅ!!!』

 

「喚くんじゃねぇよ。うるせぇだろ? アァ!?」

 

 俺は完全に──完封されていた。

 

◇ ◇ ◇

 

「す、すごい……」

 

 誰がどう見ても一方的だ。何なら少し引くレベルで容赦が無い。篠夜さんに何もさせていない。動いても即座に対処されてボコボコにされている。……と言うか、セラフィナさんが1番遠慮が無い。篠目さんが巻き込まれてるって分かって無い……いや、あの人なら分かっててもやりそう。

 

「でも……効いて、いない?」

 

 きっと痛みとかはあるんだと思う。でもそれにしては何度攻撃されても篠夜さんは起き上がってくる。これは……。

 

「ダメージがあまり入っていないんだろう……明らかに手加減しているしな」

 

「え!? あ、あんなにボコボコなのに!? ほぼサンドバッグですよ!?」

 

「あの剣士、加藤と言ったか。何度も剣で斬れる場面があったのにそれをしていない。攻撃するのも極光剣とか言う技で魔力でぶっ飛ばすくらいだ。主な攻撃があのサキュバスの打撃って事は、恐らく抑え込もうとしているんだろう。手加減せざるを得ないって訳だ」

 

 全然気付かなかったけど、確かに加藤さんがと言うよりセラフィナさんがメインで攻撃している様に見える。

 

「何でそうしているのか、状況がイマイチ分からないんだが……アンタ分かるか?」

 

「え、えっと……」

 

 海岡さんに断片的に聞いていた話を伝える。篠目さんが篠夜さんに取り込まれた? と言う事を。

 

「……成程。篠夜妹を助けようとしているのか。それなら取り押さえようとしてるのも納得だ。奴相手にそれが上手くいくかは話が別だが」

 

「こ、このまま行けば大丈夫じゃ無いんですか?」

 

「怪しいな。数の有利と連携でああなってるが、それだっていつまでも続けられる訳じゃ無い。さっきマナポーションで魔力を回復していたが、それも尽きるだろう。そうなったらまた篠夜の有利にひっくり返る」

 

「そんな……」

 

 このままだと同じ事の繰り返しになってしまう。どうしたら……あれ。

 

【ちょっと待ってね、試してみる……うん! 石化して気失って【絶伝】も【人払】も解けたみたい。通じるよ!】

 

「そうだ! ま、魔王さん! 魔王さんに電話!」

 

「ま、魔王!? アンタ知り合いなのか!?」

 

「はい! パチンコ好きの!」

 

「魔王がパチしてるのか!?」

 

 オピスさんが電話が繋がると言っていた。なら魔王さんにも連絡出来るはず。あの人なら篠目さんを元に戻す方法を知ってるかもしれない! 急いでスマホで電話を掛け、繋がることを祈る。

 

「お願いお願いお願い……!」

 

 早く繋がって。もうこれ以上あの人達が──あの人が傷付くのなんて見たくない! そう思っていると10コールほど鳴った後、スマホから繋がる音がした。

 

「ッ! もしもし!? もしもし!?」

 

『もしもし……加奈子?』

 

「え!? ルロ様!?」

 

 間違ってかけたのかと思い画面を見るが、そこにはちゃんと魔王さんの電話番号が。どうしてルロ様に……。

 

「ごめんなさいルロ様! 魔王さん! 魔王さん居ませんか!?」

 

『? お父さん今丁度会議中……スマホ置いてっちゃってて。まだ終わらないと思う』

 

「そんな……!」

 

『どうかしたの?』

 

 魔王さんじゃないと。そう思いかけたけど思い直す。そう言えばルロ様は私なんかよりずっと魔法に詳しい。普段次期魔王になるために勉強もしている。私なんかより頭も良い。もしかしてルロ様も何か分かるんじゃ……。

 

『何があったの……?』

 

「実は──」

 

 ルロ様に事情を説明する。正直全てを理解している訳じゃ無い。それでも分かる範囲で何とか伝え切る。私の言葉を聞き切った後、ルロ様は少し黙った後に喋り出した。

 

『えっとね。分かるかも』

 

「!!! 本当ですか!?」

 

『見てないから違うかもだけど……きっと篠目って人はお兄さんに乗っ取られてるんだと思う……』

 

「乗っ取り……? 自分の中に居るとか言ってましたけど……」

 

『本質的には違う筈。その篠目って人を取り込んだ魔法は【対象と自分を魔力に一度変換して混ぜる】なんだと思う。2つのアイスを溶かして、それを混ぜて、また凍らせて固めるみたいな……。それでね、体の主導権はお互いにある筈。でも今動いてるのはお兄さんの方なんだよね……? だとしたら取り込む魔法を使う時にきっと、篠目って人の意識を奪ったんだと思う……。魔法を使ったのか、アイテムを使ったのかは分からないけど』

 

「え、えーっとそれはつまり……」

 

『篠目って人の意識が起きればお互いに取り合って動きが止まる……と思う』

 

「な、成程! 意識を……取り戻す……どうやって……?」

 

 だって本人は目の前に居ない訳で。あれだけ激しい戦闘をしているのに起きてないって事は普通に呼び掛けるだけじゃ意味が無い。

 

『近くに【念話(テレパシー)】使える人居ない? あの魔法は本人の精神に直接声を掛ける魔法だから、取り込まれて意識が無くてもきっと届くよ』

 

「そもそも魔法自体……」

 

 高木さんに呼び掛けて使って貰う? でも高木さんがその【念話】を使っているのを見た事がない。使えなかったら戦いの邪魔をするだけだ。

 

「【念話】を使えれば良いんだな……?」

 

「海岡さん?」

 

 黙っていた海岡さんが懐から手帳を取り出して開く。そこにはもう書く所が無いくらいびっしりと文字が書かれていて丸い模様も書かれていた。

 

「これは……?」

 

「俺は仕事で文化記者をやってるんだが、取材してるのが基本的に魔法文化でね。過去にどんな魔法が各国で使われて来たのか、それを調べるのが俺の仕事さ。コイツはそのメモって訳だ」

 

「ま、まさか海岡さんって魔法使えるんですか!?」

 

「いや? 残念ながら生まれながらのノーマルだ。だがそんな何も無い俺達でも魔法が使える方法がある。それが【魔法陣】だ」

 

「【魔法陣】……? ゲ、ゲーム?」

 

「【魔法陣】──人族と魔族の戦争時、当然1番に戦線に投入されるのは魔法が使える連中だった。当然だな、戦争と言う物に置いて魔力と言う時間経過で回復するリソースで戦えるんだからな。だが魔法が使える人材は限られる。戦闘に有効に使える者となれば更に減る。そこで作られたのが【魔法陣】だ。使用したい魔法の陣を描き、そこに魔力を流す事で本来魔法が使えない奴でも魔法と同じ効果が発生するって言うな」

 

「えぇ!? な、何でそんな凄くて便利な物が普及してないんですか!?」

 

「凄くて便利じゃ無いからだ。本来の1割程の出力なのに必要な魔力は2倍近く。しかも魔法陣を描くと言うラグまである。こんな物使ってる暇あったら銃の引き金を引いた方がよっぽど敵を倒せる。最初だけ注目されて、あっという間に廃れていった産廃技術さ。事実としてもう使ってる奴なんざ居ない。俺もたまたま魔族側から仕入れた古い資料を読んで知ったんだからな。だが」

 

 手帳を捲り続けていた手はあるページで止まる。そこには【念話】の文字が──。

 

「そんな産廃でも、魔法であるのは事実だ。【念話】は本来、何十キロも離れた相手でも即座に会話が出来る魔法だが……魔法陣の場合じゃ精々100m届けば御の字。……篠夜までの距離には充分だな」

 

「じゃ、じゃあ使えるんですね!? 【念話】が! 今!」

 

「ああ、一応な」

 

『魔法陣……大丈夫? それを使うには──』

 

「なぁに、何処の誰かは知らないが要らない心配だな」

 

 会話を聞いていたルロ様にそう返した海岡さんは徐にボールペンを自分の指に突き刺した。何をと思い、止めようとする前に地面に落ちていた瓦礫にゆっくりと指を滑らせる。

 

「廃れたのもよく分かる。何せ魔力の乗った液体……血液で描かないとダメとか言う制約まであるんだからな。そりゃ誰も使わないさ」

 

「海岡さん……どうしてそこまで」

 

「ハハッ! アンタが言うか。……まぁ俺もヤキが回ったみたいだ」

 

 足の痛みにも、指の痛みにも耐えながら描き続ける海岡さんは、それでも笑っていた。苦笑と失笑が混ざった様な笑顔だ。

 

「【目の前で苦しんで居たら何もしないなんて出来ない】……なんだろ?」

 

「それは……」

 

「善人のつもりはサラサラ無い。無いが、自分の事を後回しにしてでも手を差し伸べる様なバカなお人好しが、知り合い傷付く事を思って苦しんでるのを見て、何にも思わない程人間性を捨て去っても無いんでな」

 

 そう言いながらゆっくり、でも確実に陣を描いていく。そうして、程なくして赤い魔法陣が完成した。

 

「悪いが痛みのせいでこれ以上の集中は無理だ。アンタが魔力を込めて使えよ」

 

「……ありがとうございます!」

 

「礼は良い。……ホント、俺のキャラじゃ無いだろこれ。ハッ」

 

 海岡さんにお礼を言って魔法陣が描かれた瓦礫を受け取る。……でも、私の声で篠目さんは起きるだろうか。

 

「……ルロ様。魔力の込め方って教えて貰えませんか?」

 

『うん。まず落ち着いて──「それと」……なに?』

 

「この魔法陣……発動ギリギリの状態に……出来ますか?」

 

◇ ◇ ◇

 

『舐、めるなァァァ!!!』

 

「なっ、テメェ──グゲッ!」

 

「セラフィナ!」

 

 篠夜を連携で抑えつけてどれだけ経ったか。篠目の事を考えて大きなダメージを与えない様にしていたが、やはりそれだけでは抑えつけて続けるのは難しかった。跳ね上がった篠夜は1番接近していたセラフィナを蹴り飛ばした。

 

「加藤! 多少なら仕方ねぇ! 腕の1本くらいなら幾らでも治せる! 斬れ!」

 

「やれるならやってる! 剣が通らねぇ! なんなら弾かれる!」

 

「篠目さん自体がモンスターの攻撃を殆どダメージ受けませんからね……。加藤さんの剣でも殴りつけるくらいしか」

 

 そう。後半からもう腕やら足を斬って行動不能にしてやろうとしていたが悉く失敗した。篠目は確かにダンジョンでの死亡率は高いが、その殆どが罠での死亡だ。モンスター相手にやられた事は数回だけ。それも発作が起きて自滅だ。無敗と言っても良い。戦闘面ではまず負けない、それが篠目だ。その篠目が合わさっている以上、こうなるのは必然だった。

 

「舐めんなは……こっちのセリフだゴラァァァ!!!」

 

 

ガシィッ! グギギギギッ! メキメキッ!

 

『ガッ! グホッ!』

 

 飛ばされたセラフィナが篠夜の背中に飛びつき、スリーパーフォールドで首をキメる。苦しみながらも暴れまくる篠夜。武器も無い。魔法も封じた。だがそれでもこれだけの膂力を出してくるのは恐れ入る。

 

「加藤さぁん!!!」

 

「! 加奈子さん!?」

 

「これ! 【念話】使ってぇ!!!」

 

 後方に居た加奈子さんから瓦礫の破片が投げ渡される。投げられたそれには血で書かれた陣のような物が描かれているのが見える。

 

『!!! ウガッアアア!!!』

 

「クソがぁ! 暴れんじゃねぇ!」

 

『ググググウウウウ!!!』

 

「加藤さん! 篠目さんを起こして下さい! 加藤さん達じゃ無いと、きっとダメです! 声を掛けて──貴方の仲間を呼んであげて!!!」

 

『ガァァァァァァァァァァァァ!!!』

 

 篠夜の抵抗が更に激しさを増す。高木が【光束】を、鶴岡が【踏み付けられし手】で篠夜の動きを止める。どうやら【念話】で篠目に直接声を掛けられるのが相当嫌らしい。じゃあやろう。

 

「篠目ェェェェェェ!!!」

 

◇ ◇ ◇

 

 自分の中に別の人が入ってくる。この経験をしたのは3歳の頃だった。

 

『篠目、来なさい』

 

『とうさま……? そのひとはだれ……?』

 

『気にする必要は無い。すぐに居なくなるからな』

 

『篠目! しのめぇぇぇぇぇ!!!』

 

 兄上が邪魔しようと暴れていたが周りに抑えられ、わっちは【合成】を使われた。廃人と化した継承者……篠家先代を混ぜられた。その時に頭の中にある光景が流れた。それが──。

 

 

 

 

 

 

 首の無い魔族の死体があった。

 

 

 逆に首しかないのもあった。

 

 

 全身がバラバラにされたのもあった。

 

 

 どれもこれも、死んでいた。

 

 

 そしてそれを作ったのは──自分だった。混ざって、まざって、魔zaツ手……。

 

 

 

『あ……え……? あ……』

 

『む……壊れたか? ……いや、放心状態なだけか。まだいけるな』

 

『しのめぇぇぇぇぇ!!!』

 

『おい、篠夜を閉じ込めておけ。邪魔だ。全く、本来であれば男が継ぐものを……だが強さだけなら篠目は素晴らしい。これで篠家は安泰だな』

 

 この日、今までのわっちは死んだ。残ったのは篠目と言う残滓に今までの同類が混ざった化け物だけだった。

 

【し……に……たく……】

 

『ち、ちがう……』

 

【やめ──】

 

『やってない……』

 

【たすけてたすけてたすけてぇぇぇ!!!】

 

『わっちじゃない……わっちじゃない!!!』

 

 今までの作られた最強達がやってきた行い全てが、自分の記憶になる。誰も傷付けてない筈なのに、自分の手が血に染まる。誰も殺していないのに、自分の背中に罪が乗る。四六時中続くそれに苦しむ日々が続いた。そんなある日……。

 

『(わっちは存在したらいけないのでは無いか?)』

 

 ひたすらに命を奪うだけに作り出された物を引き継ぎ続ける。わっちの次も用意させられるかもしれない。それはきっと誰かを不幸にし、傷付けるだろう。今まで通りに。なら──。

 

『きゃぁぁぁぁぁ!!! 篠目様ぁぁぁぁぁ!!!』

 

『篠目! 篠目ぇ! しっかりしろ!』

 

 初めて己の腹に刀を突き刺した。わっちを心配する2人の声が聴こえるが、そんな事はどうでも良かった。

 

『(聞こえない……声達が。流れない……あの光景達が)』

 

 驚く事に死に掛けているその時だけ、自分は地獄を見なくて済んだ。今まで手に掛けて来た者達が、死ぬのなら許してやると──そう言っている気がした。それからは耐えられなくなったら自傷するのが習慣になっていった。死に掛けている時だけは解放されて、楽になれる。段々と頻度は増えていき、血に濡れるのも慣れてきた。

 

『ダメだ。あれは最早手に負えん……篠夜に混ぜるか? しかしあの強さは惜しい……』

 

『いっそ意思を奪うのはどうでしょう。特訓も出来なくなるのでこれ以上上は目指せませんが……』

 

『勝手に死なれて今まで継いできた物が消える方が不味いか……』

 

 両親がそんな話をしていたのを耳にした。何だ、もうすぐ楽になれるじゃないか。何度死のうとしても回復されて死ねなかったのが終わる。良かった、これで──。

 

『……いやだ……』

 

 何も、残せていない。何も、していない。何の為に生まれていたのかすら分からない。自分は何しにこの世に生まれた?

 

『何か……欲しい……大事な、大切な物……欲しい……』

 

 篠家なんて居たくない。家族なんて必要無い。使用人も別に大事じゃない。自分の命すら意味が無い。何にも無い空っぽの自分を満たしたくて、わっちは家から逃げ出した。いつでも死ねる様にと刀を抱いて、歩いて、歩いて、歩き続けて。いつの間にか見知らぬ繁華街までたどり着いていた。

 

『だぁぁぁぁクソ! クソクソ! うんちぃぃぃ!!!』

 

『荒れてるねぇ加藤くん』

 

『まぁ2日丸々ダンジョンアタックしてSランク以上0でしたからね』

 

『ひっさしぶりの大爆死だな! 共有資金死ぬほど減ったわ! ギャハハ! ドンマイ!』

 

『笑ってる場合かぁぁぁ!!! あそこ絞ってるわ。設定カスだわ! おい高木! ちょっと設定弄ってこい!』

 

『あれ作ったの魔族の王なんだから無理に決まってんだろ』

 

『ざっけんな! 何でメーカーが設定全部決めてんだよ! 普通店が決めるだろ!』

 

『パチじゃないから無理だって。そもそも魔王様だって確率絞るとかそんな訳分からない事しないでしょ。あくまで供給過多にならないようにしてるだけだよ』

 

『ガァァァァ!!! 腹立つぅ! もう良い! 早く飲みに行くぞ! セラフィナ、お前俺の隣な』

 

『言われなくてもいつもお前の隣に座ってんだろ』

 

『アイツまーたセラの尻触るわよ』

 

『いんじゃね? 触られてる本人が喜んでるから』

 

『居酒屋で盛るのは流石にどうかと思うんですがね』

 

『あーあ、私もショタに触れたーい。今から幼稚園行こうかしら』

 

『おーい、そこのゲルが一線越えそうだから石にしとけー』

 

『はいはーい、ダメだよゲルダちゃーん』

 

『┗(↑o↑)┛<エゥンェゥゥゥゥゥンwwwwwwwwwwwwwwwwww』

 

『イシツブテになる必要ありましたかね』

 

 目の前を横切る集団。冗談混じりに、でも楽しそうに話している。きっと探索者なのだろう。ダンジョンに共に行き、共に帰り、共に成果に笑って、泣いて。──そんな、仲間。

 

『──』チャキッ

 

 どうせこの身は既に他者を殺した感覚を覚えている。肉を斬る感触を昨日の事のように思い出せる。見えない赤に染まっているのなら──本当に染まったって、良いだろう。それ程に、目の前の連中に怒りと殺意と嫉妬を覚えた。刀を抜き放ち、荒れている男に斬り掛かる。そして──。

 

ドガッ! バギッ! ベギッ! ズガンッ! ガキョガキョッ! ベチャチャッ!

 

『おびゃぁぁぁぁぁ!!!』

 

 数分後、6人全員に囲まれて縛られてボッコボコにされた。完敗だった。何だったら一太刀も浴びせられなかった。まさかリンチにここまで抵抗の無い連中だと思わなかった。

 

『何だこいつ。いきなり殺しに来やがったぞ』

 

『物騒ねぇ〜。ってこの子めっちゃ若く無い? 何歳よこれ』

 

『聞いてみよっか。君、名前は? 年齢も』

 

『し、しの……め……14……』

 

『14て……ガキじゃねぇか。あーあ、加藤がガキ殴っtべブウっ!』

 

『殺しに来てんだから正当防衛だろうがハゲ! 黙ってろ!』

 

『そもそもセラフィナさんの方が殴ってたので加藤さんだけ責められるのは変な話ですね。……あ、私は支援魔法しか使っていないので』

 

『逃げた! この神父自分だけ逃げたわよ!』

 

『ざけんなアタシら全員でやったんだ! 罪も平等にしろや!』

 

『神は居ないので罪は平等ではありません』

 

『都合よく言ってんじゃねぇぞテメェ!』

 

 年齢を聞かれたと思ったら急に仲間割れを始めた。そしてほっとかれるわっち。どちらにせよ縛られた上に全身ボコボコなので何も出来ないが。

 

『所でどうして急に僕達に襲いかかって来たんだい?』

 

『む……』

 

『正直な話、好き勝手やってるからどこの恨み買ってるか分からないんだよね。僕達何かやったかい? だとしたらごめんね』

 

 恐らく高位魔族であろう目隠しをした金髪ポニーテールに話しかけられる。さっきも名前を聞いて来たが、この連中の中でも社交的な奴なのかもしれない。

 

『何も……ただ』

 

『ただ?』

 

『腹が立ったから……幸せそうで、楽しそうで『はぁ???』……え』

 

『あっちゃー……』

 

 リーダー格の男がわっちにメンチを切ってくる。目は明らかに狂気に染まっていてとても怖い。

 

『幸せ? 楽しそう??? お前人の不幸見て笑うタイプか? あぁ!?』

 

『いや……だって……仲良しそうに見えたから……』

 

『どう見ても不幸真っ只中だろうがよぉぉぉ! 何にも幸せじゃねぇよ! 幸せってこんな事じゃ無い! お前は本当の幸せを! 楽しさを知らないんだ! 明日またここに来てください、本当の幸せってやつを教えてあげ──いや待ってられるかぁ!!!』

 

『おぶっ! な、何をするのじゃ!?』

 

『14歳のくせに老人みたいな語尾使うんじゃねぇ! 雑なキャラ付けかテメェ!』

 

『ち、違う。これは今までの継承者の口調が混ざって──』

 

『お前にドロップ演出と言うこの世の至高を味合わせてやる! オラァ! もっかい行くぞお前らぁぁぁ!!!』

 

『おいおい! 一旦終わりって言ってたじゃねぇか! こんな状態でダンジョンなんて──行きまぁぁぁす! 行きます行きます! 行かないなんて勿体ねー!』

 

『ハッ! 区切りが悪ぃと思ってたんだ! 付き合うぜ!』

 

『では行きましょうか。……と言っても、彼女はそもそも探索者登録をしているのでしょうか』

 

『まぁ言うて30分くらいで終わるし大丈夫だよ。どこ行く?』

 

『そんなもん高難易度に決まってんだろ! 命賭けろ! その分出たら気持ちいい!』

 

『14の子連れて行く場所じゃ無いわよそれ』

 

『さっきの太刀筋からしてそこら辺の雑魚探索者より数百倍強いの分かるだろ! 問題ねぇ! 宝箱ォォォォォ!!!』

 

『どわぁぁぁぁぁ!!!』

 

 これが加藤達との出会いだった。散々ダンジョンを引き摺り回されて解放されたのは3日程立った後だった。

 

『加藤くん、満足した?』

 

『いやーやっぱSSランクの演出は最高だなさ。満足満足。1日くらいは』

 

『そりゃ良かった。まぁいい加減風呂には入りてぇけどな』

 

『そうだな、一回ちゃんと休んで……なぁ、コイツ誰?』

 

『記憶飛んでますね』

 

『私達に襲いかかって来てアンタがダンジョン引き摺り回してた篠目って子よ。何も覚えてないの?』

 

『……そう言えばそんな事もあったような気がしなくも無い……』

 

『ヤバいわよアンタ』

 

『最近発作酷くなってない? 大丈夫?』

 

『どうだろ……ヤバいんかな』

 

『へーきへーき! んな柔な体してねぇだろ? ギャハハ!』

 

『それもそうか! アッハッハ!』

 

『フラグね』

 

『フラグだね』

 

『前フリ回収はいつになるんですかね』

 

 訳も分からず座り込んでいたが、彼らの会話より何より、優先しなければならない事があった。

 

『(聞こえない……声が。頭の中の光景も……無い)』

 

 理由はさっぱり分からなかった。でもあれだけ苦しかったものが今だけは無くなっていた。突然の事を飲み込み切れず、呆然としているとリーダーの男が話しかけてくる。

 

『おい大丈夫か』

 

『む……ああ、平気じゃ』

 

『そうか。まぁ、その、引っ張り回して悪かった。いや襲いかかって来てたみたいだしお前も悪いか。じゃあお互い様って事で。じゃあな』

 

『ま、待ってくれ!』

 

『……何だ?』

 

『仲間に……お主らの仲間にしてくれ!!!』

 

 理由は分からない。だが彼らと共に行動した事で収まったのなら、逃す訳にはいかなかった。

 

『おい篠目! お前なんで罠に突っ込むんだよ!』

 

『いやほら、ちょっと死にたくなって……』

 

『怖! 精神状態大丈夫かお前!』

 

『気にするで無い! バリバリ元気じゃ! 死に掛けると気持ちいいだけで』

 

『越えてんだよK点をよぉ! 死ぬなよぉ! ビビるだろ!』

 

 完治はしなかった。なんなら死ぬ際に変な癖がついて快楽が出る様になった。時折あの光景がフラッシュバックし、それから逃れるように死にに行く事もあったが常に流れる事が無くなっただけで、十分だった。

 

『篠目、テメェ料理出来るか』

 

『出来ん……やった事がない』

 

『じゃあ教えるから覚えろ。ダンジョン内での料理担当は持ち回り制だ』

 

 初めて料理をした。セラフィナに教えてもらいながらやったが失敗した。落ち込んでいるとセラフィナが焦がした料理を黙って全部食べ、『最初だしな』と励ましてくれた。嬉しかった。

 

『篠目〜お前ダンジョンの知識とかあるか? 初心者なら覚えといた方良いぞ』

 

『むぅ……何から覚えればよい?』

 

『そうだなー、丁度今暇だし……俺が教えっか。まずモンスターにゃ当たり前だが弱点があってな……』

 

 高木がダンジョンの事を教えてくれた。いつもはヘラヘラしている奴だったが、この時だけは真面目に教えてくれた。嬉しかった。

 

『鶴岡、これは何じゃ? 何を書いておる?』

 

『これは帳簿ですよ。チームでの収支を書いています』

 

『必要なのか?』

 

『個人の取り分は別として、チーム共有資産がありますからね。こう言う物はキチンと管理しなければ揉め事に繋がりますから』

 

『ふーむ、そうなのか……ちょろまかしたりせんのか』

 

『ハッハッハ! そんな事はしませんとも! それをやるくらいなら金に目が眩んでいる資産家を適当に煽てて寄付を貰った方が早いです』

 

 帳簿を付けている鶴岡と雑談をした。やる事もないのでぼーっと眺めていると、鶴岡が過去にあった加藤の奇行を教えてくれた。面白かったし、嬉しかった。

 

『篠ちゃーん、ちょっといい?』

 

『どうしたオピス』

 

『君ずっと同じ着物着てるでしょ。いい加減ボロボロだよ? 新しいの買いな?』

 

『買う……買った事が無い……』

 

『え。それホント? んー……じゃあ僕が一緒に買い物に付き添うから、新しい服買おうよ。普段着も着物はちょっとね』

 

『ダメなのか?』

 

『ダメじゃないけど疲れるでしょ。もっとラフな服とか良いんじゃない? 篠ちゃんスタイルいいし、何でも似合うよ』

 

『そうか……分かった。行こう』

 

 オピスと2人で買い物に行った。服なんて自分で買った事が無かったから勝手が全く分からなかった。結局オピスが選んだ服を買って一緒に帰った。嬉しかった。

 

『篠目ー篠目篠目!』

 

『ゲルダリア、どうかしたのか』

 

『なんもなーい。呼んだだけ』

 

『何じゃそれは。用も無いのに呼ぶのか?』

 

『呼ぶわよそりゃ。仲間呼んで何か悪い?』

 

『……いや、悪く無い』

 

『でっしょー? ほらこっち来なさいよ。お菓子食べましょ?』

 

『うむ』

 

 ゲルダリアとダラけながら菓子を食った。甘い物もしょっぱい物も酸っぱい物も食った。わっちが腹一杯になった後もゲルダリアは食っていた。嬉しかったし、あまりの食欲を見て少し怖気付いた。

 

『篠目』

 

『加藤、何か用か?』

 

『少しは慣れたか?』

 

『うむ。それなりにな。楽しいぞ』

 

『だよなー。楽しいよな、宝箱開けるの』

 

『いや別にそっちはそんなに……』

 

『え、嘘、そんな……バカな……あり得ない……』

 

『それだけか?』

 

『いや、もう一つ聞きたくてな』

 

『何じゃ』

 

『お前──なんか隠してるだろ』

 

『……それは』

 

『いやいい。言うな。言いたく無いんならな』

 

『聞きたいのでは無いのか?』

 

『違う。あるんだったら言わなくて良いって伝えようと思ってな』

 

『……それは何故?』

 

『誰だってあんだろ。言いたく無い事なんざ。俺だって高校の時に取った赤点の点数言いたく無いし』

 

『数学で6点。英語で2点だったか?』

 

『高木か! 高木の野郎か! あんのクソハゲェ! いつの間に調べやがったぁ!』

 

『皆も知っておるぞ。高木が楽しそうに言いふらしていたからな』

 

『アイツマジで許さねぇ……ボコらないと……』

 

『……クックク……ハハハハハ!』

 

『笑うなぁ! 誰だって失敗はあるだろ!』

 

『違う違う。点数では笑っておらん。……楽しくてな』

 

『……まぁ、楽しいなら良いんじゃね?』

 

『ああ──楽しいな』

 

 加藤がわざわざ心配してくれた。ぶっきらぼうながらも確かに心遣いを感じた。嬉しかった。……嬉しかったのだ。

 

『(加藤が探索者を辞めると言い出して……居なくなって……皆も次々と離れて……)』

 

 すぐに加藤は帰ってくると思っていた。だが1ヶ月、2ヶ月と経っても帰ってこなかった。最初にセラフィナが抜けた。『アタシじゃ……ダメかよ』と言って、やる気がなくなった様子で。次に鶴岡が抜けた。前衛2人が抜けた以上、無理に探索するより宗教の方で地盤を固めたいと言って。オピスが抜けた。実家の方から呼び出しがあったとかで急いだ様子だった。ゲルダリアが抜けた。つまんなーいと言って、いつの間にか。

 

『高木は……どうするのじゃ……?』

 

『……一応、俺だけは連絡付くんだよ』

 

『なら──!』

 

『だがこの様子からすると加藤の奴はガチだ。これを本気で邪魔すれば、決定的な亀裂を生みかねない』

 

『……』

 

『暫く休止だな……。ま、仕方ねぇ。たまには良いだろ。俺も良い加減ダンジョン運営で仕事溜まってきてたし。秘書雇おっかなー』

 

『そんな……』

 

『……なんか進展あったらすぐ連絡する。大丈夫だ。隙があったら絶対付け込んで引きずり出してやっから。またな』

 

『……あぁ、分かった』

 

 あれだけ楽しかった時間はあっという間に過ぎ去った。兄上が来た時に自分の居場所だと言った場所は、もう何処にも無かった。その日の夜から、落ち着いて来ていた幻聴と幻覚がまた起き始めた。逃れたくて、でも皆と別れたくなくて、ひたすらダンジョンに潜った。宝箱には目もくれず、振り払うように刀で敵を殺し、限界が来た辺りで殺される。繰り返して繰り返して──。

 

『加藤……セラフィナ……高木……鶴岡……オピス……ゲルダリア……』

 

 何も満たされない。何にも無い。また元に戻ってしまった。この時ようやく分かった。わっちは──【自我中心(エゴイスト)】の皆が好きだ。

 

 セラフィナが好きだ。口が悪いし手も出るが、優しいのを知っているから。

 

 高木が好きだ。性格は終わってるが、わっちと同じように【自我中心】を大事にしているから。

 

 鶴岡が好きだ。わっちが世間知らずでも嫌な顔をせず、物を教えてくれるから。

 

 オピスが好きだ。見た目に頓着しないわっちを心配して色々服を選んでくれたり、化粧を教えてくれたりするから。

 

 ゲルダリアが好きだ。ゲルの体に寄りかかって共に食べる菓子は美味しいから。

 

 加藤が好きだ。仲間から舐められながらも、誰もが彼奴を慕っていて、着いて行きたくなって、彼奴と笑っていたくて。一緒に……居たくて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空っぽで、血塗れで、1人は……嫌だ……。

 

 

 

 

 

 

『篠目ェェェェェ!!!』

 

 加藤……?

 

『お前いつまで寝てんだよ! はよ起きろや! 死者の目覚め使うぞオラァ!』

 

 幻聴か?

 

『お前の兄貴! めちゃくちゃに暴れやがってクソ面倒なんだよ! 俺めっちゃ斬られたぞ! それもこれもお前が起きないからだ!』

 

 そうだ。わっちは兄様に【合成(シンセンス)】を使われて──。

 

『お前がさぁ! お前以外もさぁ! 【自我中心】がそんなに大事だなんて知らなかったよ! 舐めてたわ! お前らを!』

 

 意識も奪われて、ずっと──。

 

『勝手に抜けて悪かったよ! ほったらかしにして悪かったよ! お前の大事な場所! 無くすような真似して悪かった! 俺が100パー悪いわ!』

 

 その通りだ。お前が居ないと皆もわっちも──。

 

『ダンジョン中毒からは抜け出す! お前らが何を言おうと、邪魔しようと! 何があっても俺はまともになってみせる! だが! お前らをほっとく様な事はしない! ほっとくとお前ら何するか分かったもんじゃねぇ! 視界に入れとかねぇと落ち着かねぇよ!』

 

『兄貴に言ったんだろ!? 自分の場所は【自我中心】だって! 無くなってねぇ! 此処にある! 今ここに全員居る! お前の居場所は今ちゃんとあるんだよ!』

 

『分かったか!? お前の場所はここだ! 俺らの側だ! こんなクソ兄貴の中じゃ断じて無い! 篠目! リーダー命令だ! さっさと起きろォォォォォ!!!』

 

 そうか。リーダー命令か。

 

 なら、起きなければな。

 

 わっちは──【自我中心(大好きな仲間達)】の一員なのだから。

 

◇ ◇ ◇

 

 篠夜の右の瞳が変わる。形や色が変わったわけじゃない。だが目付きが変わった。篠目の物に。

 

「声がデカいな……リーダーよ」

 

「起きんの遅ぇよクソガキ!」

 

「もう二十歳間近じゃぞ……」

 

「俺らからしたらお前はずっと言う事聞かないガキなんだよ!」

 

 篠目だ。間違いなく篠目本人だ。半分だけ変わったという事は、今は篠目と篠夜の両方の意識があるという事だろうか。

 

『篠目……! ダメだ、戻れぇ!』

 

「わっちを木偶にしなかったのは失敗だったな兄様……。悪いが、離れてくれ」

 

『違う! お前の居場所は──』

 

「前にも言ったであろう。わっちの居場所は──此処だと!」

 

 右側の体の支配権を持っているのだろうか、セラフィナに首を絞められながらも地面に落ちていた俺が砕いた刀の一部を拾う。

 

『何を──』

 

「さて……折角じゃ。兄様、わっちが兄様と居ない間に身に付けた得意技……体験しておくれ!」

 

 篠目は片手で徐に刀の刃を自分に向けた。……ん?

 

 

ブスリッ❤️ ブシューーー!

 

「うおおおおおおおおおお!!!」

 

『うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

「何やってんだお前はぁぁぁ!!!」

 

 嫌な予感は的中。篠目は唐突にハラキリをかまし始めた。当然ながら目の前には俺が居たので血が死ぬほどぶっかけられる。自分で流した血の量と良い勝負だ。

 

「そ、そうか! 分かったぞ!」

 

「高木さん、何が分かったのですか!」

 

「篠目は今! お兄たまを追い出そうと切腹しているんだ! 篠目はこれまで幾度となく腹を切ってきた! 当然その痛みに慣れている! 慣れているどころか気持ちいいとすら思っている! だがお兄たまは違ぇ! 当たり前だがそんな経験ある訳無い! つまり耐性が無い! 篠目は切腹の痛みでお兄たまだけ気絶させて、自分が主導権をぶん取るつもりなんだぁぁぁ!!!」

 

「自分の命も死神にぶん取られる寸前じゃないですかぁぁぁ! こんな事させる為に魔法陣に魔力込めたんじゃ無いんですけど!?」

 

 離れて見ていた加奈子さんから至極当然のお叱りが入った。そりゃそうだ、何であの流れで助けようとしてる本人が切腹するんだよ。

 

『うぐ! うぐぐぐ!』

 

「ぐっ! 無駄にしつこいな……! 加藤! 高木! 頼みがある!」

 

「え、何……」

 

「回復しておくれ! 切腹おかわりじゃ! 兄様が完全に意識を飛ばすまで、わっちは今から腹の上を刀でシャトルランする!!!」

 

「お前頭おかしいよ! 回復魔法こんな事に使わせんな!」

 

「何やってんだ加藤! 篠目が頑張ってんのに俺らが気張らなくてどうする!」

 

「もうどうでも良いから早くなんとかしろや! いつまで首キメしてりゃ良いんだアタシは!」

 

「加藤さん! 篠目さんを取り戻す為にも必要なことかと!」

 

「わ、分かったよ! やりゃあ良いんだろ!?」

 

「よし! 行くぞ! 合わせろよぉ! 掛け声は加藤俺の順番な!」

 

「よ、よーし! 行くぞ!」

 

「はい!」『ゴフッ!』「そい!」『グフッ!』「ほい!」『ゲフッ!』「へい!」『ドブッ!』「せい!」『ガブッ!』「てい!』『ギャブッ!』「ツッツイテー」『ガッブッバァァァ!』

 

「リズム地獄が過ぎるでしょぉぉぉ! 何で悲鳴までリズム取ってるの!?」

 

 暫くして篠夜の体は光り輝き、段々と2つに分かれていく。篠目が主導権を取り、篠夜を追い出した様だ。分離した篠夜は泡を吹いたまま地面に倒れた。

 

「篠目! 大丈夫か!?」

 

「ハァ……ハァ……か、とう。たのみがある……」

 

「何だ! 言ってみろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後少しでだいぶ良い感じに逝けそうだから少しほっといてくれ」

 

「「「「「「逝くなぁぁぁぁぁ!!!」」」」」」

 

 その場に居た全員の気持ちが1つになった瞬間だった。

 

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