ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
「……」
「ど、どうだロール」
「……流石はマイマスター。全問正解、100点です」
「っしゃあ! ほらな? 俺はやれば出来るんだよなぁ!?」
「その通りです。マスターはやる時はやる男です。ちょっとそれ以外の時が碌でもないだけです」
「褒めろ? 素直に褒めろ?」
「分かりました。キャーマスターステキー」
「棒読みだが今回はヨシ! 日々成長してるよな俺!」
「してます。マスターはスキル【常識的に考えて】を習得しました。是非レスバの際には語尾にJKを付けて下さい。これでマスターも今日からやらない夫デビューです」
「やばい全然嬉しくないだろJK(常識的に考えて)」
「そうそう。そんな感じ」
「いつまでバカやってんだテメェらは」
勉強会と言う名の俺とセラフィナ虐めが終わった次の日、バイトが終わって帰って来た俺はセラフィナと一緒にもう一度模擬試験をやっていた。問題は事前に高木から貰った別のやつ。それをロールに採点してもらうと言う形だ。
「バカとは何ですかセラフィナ様。現状マスターはセラフィナ様より点数が高いですが?」
「ぐっ……そ、それは元々加藤の方が点数高いからだろ! その分ハンデがあるんだよ!」
「それハンデでは無く素の常識だと思いますよ」
「テメェ……言わせてればよぉ!」
「おや? まさか気に食わないからと採点役に拳を向けますか? キャーコワーイ、マスタータスケテー」
「だから棒読みやめろ。まぁセラフィナ、落ち着けよ。もう少しだから頑張れって」
「畜生……! 満点取った瞬間に余裕たっぷりになりやがって!」
「俺は現金な人間だからな! 良い事あったら機嫌は良くなるぞ!」
「単純ですよね」
「ロール?」
「間違えました。真っ直ぐな人ですよねマスターは」
「そうだよなぁ! 良いこと言ったぞロール!」
「褒められました。イェーイ」
いつも通りの無表情でダブルピースをするロール。セラフィナがイライラしてるのが見て取れるが、コイツは反骨心が昂ってる時が1番強い。……まぁ強いだけで冷静かと言われたら全く一切1ミリもそんな事は無いんだけど。
「……セラフィナ様は少し自分を持ち過ぎてるのが足を引っ張っているのかと」
「あぁん? どう言う事だよ」
「憶測ですが問題を解く際に、自分がその状況に置かれていると想像してしまっているのでは無いですか?」
「ッ……。だったら……なんだよ……」
どうやら図星らしい。だがそう言われると確かにそうかも知れない。以前セラフィナと映画を見に行った時があったが、終わって歩いてる時に『あのシーンマジ腹立ったわ。あの敵クソだろ』と言っていた。同じ物を見た俺もあのキャラは相当終わっていると思うが、『まぁ架空のキャラだし……』で終わったのでセラフィナが感情移入しやすいと言うのは間違っていないだろう。
「勘違いしないで欲しいのですが、私個人としてはそれはセラフィナ様の良い所だと思っています。何故なら相手の今を理解しようとしている訳ですので。事実私が謎の不具合を起こした日から1週間は口が悪いながらも私を気にかけて下さいました。『おい、気分悪ぃのか。オピス呼ぶか?』や『しんどいか? 後々になってやっぱとかウゼェから辞めろよ? ……ホントに平気か?』など」
「……」ベキッ!
セラフィナが持っていたボールペンがへし折れた。だが声を荒げていない以上、ロールが悪気があって言っている訳じゃ無いのは分かってるらしい。どっちかと言ったら照れ隠しだな、あれ。
「どうでしょう。ここは自分ではなく別の方がその状況に置かれた際、どうするのかと言う考えに変えるのは」
「? 分かんねぇ……どう言う意味だよ」
「要はイマジナリーです。私が知る中での常識人は加奈子様とルロ様の2択なのですが……ルロ様は魔族、しかも王族ですので今回の趣旨とは外れています。つまりイマジナリー加奈子様を作ると言うことです」
「加奈子? そんなんでいけるのかよ」
「加奈子様パワーを甘く見てはいけません。彼女の獅子奮迅とも言えるツッコミの数々。常識人としての観点からマスター達イカレポンコツへの容赦ない指摘。例え想像だとしてもその力は健在のはずです」
「ロール? お前って俺の事マスターと認めてるんだよな?」
「勿論ですマスター。私はマスターの所有物です。ありのままのマスターに忠誠を誓っています」
「つまりカス人間だとは思ってんのかよ!」
「マスターもご自覚があって安心しました」
「畜生……言い返せねぇ……直したいと思っても体が勝手に負の方向へ……!」
「根っからのアウトローなんですね、マスターは」
「社会に迷惑かけないようにして隅で小さくしていようかな」
「周りの方はそれを許しませんし、どうせ何かあったら1番キレて暴れるのはマスターですよ」
やばい。めっちゃ想像に難くない。なんなら未来予知にすら感じる。ロボトミー手術くらいしないと治らないかも。そう考えているとセラフィナが腕を組んで考え始める。
「加奈子に……」
「はい。そうですね、例えば……【探索者は往来での武器の抜刀を許される】。この問題と同じ状況を加奈子様が見た時、どんなツッコミをしますか?」
「どんな? ……」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『大丈夫です加奈子さん! 探索者はいざという時に街中で剣を抜いてもなぁなぁで済みます!』
『何処が大丈夫!? 良い訳無いでしょ!?』
『戦いを避ける為、威嚇は必要です!』
『避ける気無いですよね!? 打って出る気しか無いですよね!? 良いから早く剣しまって下さい!』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「こんな感じか」
「おい何で俺がやらかしてる前提で想像してんだよ。おかしいだろ。やるなら自分でやれよ」
「どうです? イマジナリー加奈子様のツッコミ通りに問題を解釈すれば、正解が✖︎だと言う事が分かりますよね?」
「成程な。確かにイメージしやすいぞ」
「では次。『ダンジョン内で他探索者と万が一遭遇した場合、相手が負傷し動けない場合は救助しなければならない』」
「あー、この場合だと……」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『か、加藤さん! 別の探索者が居ますよ!?』
『あー、多分運営のミスですね。たまにあるんだよな、これ』
『うぅ……いたい……』
『酷い怪我……! 加藤さん! 回復してあげて下さい! 私もポーション使いますから!』
『え?』
『……え?』
『いやどうせ死んだら生き返って全快ですよ? 魔力とポーションの無駄ですよ。ほっときましょう』
『嘘でしょ!? これ見捨てます!?』
『勿論これが外だったら助けますよ。流石に。でも入ったのは自己責任だし……大方無茶して突っ込んだ結果囲まれたんでしょうね。勉強になったな!』
『し、しにたくない……』
『ほら! 死にたく無いって言ってますよ! 助けましょうよ!』
『何だ駆け出しかお前。じゃあ取り敢えず10回くらい死んどいた方いいぞ。今後探索者続けるなら死に慣れておかないとひっでぇ死に方した時耐えられないからな。まずは軽めの死で経験積んどけ』
『どんなアドバイスですか!? 倫理観ゴッサムシティやめて下さい!』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「こんな感じか!」
「その調子です。ほら、いい感じに常識が分かりますよね?」
「ああ、答えが○なんだなって分かるぜ!」
「だから俺を使うなぁ! 何だよこのイマジナリー俺! ど畜生じゃねぇか!」
「じゃあマスターは実際に遭遇したら助けるんですか?」
「……た、たすける、けど」
「そうですか。では最後の問題に行きましょう」
「おいコラロール! お前内心絶対信じてないだろ! 信じてないだろ!!!」
「信じています。マスターと言う人間の本質を」
「やっぱりカス人間じゃねぇかお前の中の俺! そんな俺の所有物とか認めていいのかお前は!」
「Yes。私は私を必要としてくれた貴方に忠誠を誓っています。例え人間として終わってても関係ありません。ご存分にお使い下さい」
「ひ・て・い・しろよ〜〜〜!!!」
「さて気を取り直して最後。【探索者は概ね自由である】。○か✖︎か」
「何だこの問題。こんなの貰った問題集にあったか? 俺見てないぞ」
「いえ、私が今適当に考えました。即興です」
「それ答える意味あるか!? 絶対出ないだろこんな訳分からんの!」
「分かりませんよ? 今回は国の方が介入してきた結果、更新試験が必要になっています。当然国側は探索者の事なんて分かりません。ですがそれでも口を出してきた際、勝手なイメージだけで作った問題が出てくる事だってあり得る訳です」
「な、なんか……説得力あるな……」
「そうでもねぇぞ」
「出ないなら出ないで問題ありません。まぁ予防接種みたいなものです。やっておいて損はありません」
「しゃあねぇ。やってやらぁ。いい加減アタシも100点欲しいしな」
「おい、先に言っとくが俺を出すなよ? 出すとしてもマトモな役やらせろ」
「分かった。マトモ役な」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
熱い歓声。大勢の観客が熱中するのは中央のリングの戦い、ただ一つ。
『はぁぁぁぁぁ!!!』
『何ぃ!? グハァァァ!?』
リングの上、加奈子が魔王に対してハイキックを繰り出す。直撃した魔王はリングを囲むロープまで吹き飛ばされる。
【カナコ! カナコ! カナコ! カナコ!】
会場を包む声援。それは間違いなく、リンピオである加奈子に向けられていた。ルードの魔王はリングの床に沈んだままだ。
『フッ、儂の負けだ……大した物だな』
魔王が起き上がり加奈子に握手を求める。ここだけ見ればスポーツマンシップ溢れる行動だろう。だがこれはルチャリブレ、そして握手を求めたのは悪役であるルード側。結果は見えていた。
『! しまっ──』
『かかったなバカめ!』
手を差し伸べた加奈子の腕を引っ張り体制を崩してそのままリングに組み伏せられる。うつ伏せになった加奈子に魔王は自身の巨体で押し潰す。
『卑怯もんがぁぁぁ!!!』
『くたばれクソ魔王が! 何だその角! バッファローマンのパクリかぁ!? 似合ってねぇんだよバーカ!』
『何が王ですか! もしかして押し潰して圧政とか言うつもりですか! 滅べ邪悪な資本主義者め! 汝は罪有き!』
セラフィナ、高木、鶴岡が中心となってとんでもない量の罵声と共にナイフとか剣とか矢とか石とか後なんか色々が魔王に襲いかかる。
『いだっ! ちょっ! チクチクする! だが今の儂はヒール役! この程度で怯むような事はせん!』
『行けぇ姫さん! かましてやれぇ!』
『アホんだら……!』
『うぐぅ!?』
『パチカス……!!』
『ぐぶっ!?』
『クソ親父!!!』
『ゴハァァァ! チクチクどころかザクザク言葉が娘からぁぁぁ! あまりの悲しさに内臓が潰されるような感覚が……いや違う! 本当に潰れかけとる! 何故だ!?』
戸惑う魔王の周囲にどんどんと【ナニカ】が纏わり付いていく。それはゆっくりと人型を成していき──。
『若い女の子を組み伏せるなんて、随分とお盛んねぇ……ア ナ タ ?』
『ぎょわぁぁぁぁぁ!!! カキラァァァァァ!!! 落ち着け我が妻よ! これルチャリブレ! 演技! エンタメ! ショーなのだ!』
『そんなに相手が欲しいなら私が幾らでもするわよ……あの世でねェェェェェ!!!』
『ぐぎゃぁぁぁ! おかあさぁぁぁん!!!』
『!!! 今なら!』
苦しみ出す魔王から加奈子が抜け出す。そのまま白と金のマスクを輝かせながら跳び上がる。
『ぐおおお……! その技は!!!』
『これが私の必殺技! High Jump Kick!!!』
『それただの飛び膝蹴りぃぃぃ!!! ゲブゥゥゥ!』
渾身の一撃を受けて魔王はリングに倒れる。膝と妻の怒りを受けた哀れな夫は起きあがろうとはしない。
『1! 2! 3!!!』カンカンカンカン!
加藤が3カウントを取る間についぞ魔王は起きなかった。つまりこの対戦の勝者が決定したのだ。
『勝者! 加奈子さん!!!』
『やったぁぁぁ! 自由の勝利です!』
会場は歓声に包まれる。圧政を打ち滅ぼし、自由を手にした勇者への賞賛は止む事は無かった。いつまでも、いつまでも──。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「怪文書を垂れ流すなぁぁぁぁぁ!!!」
「何だよ、いい感じに纏まっただろ。お前の事も審判にしてやったし。文句ねぇだろ」
「出来の悪い2次創作以外の何物でも無いが!? 何で急に加奈子さんと魔王がルチャリブレし始めるんだよ! 意味分からん!」
「いやほら、問題文で自由なんたらって言ってただろ? ルチャリブレってスペイン語で自由な戦いなんだよ。な?」
「な? じゃねぇよバァァカ! どんな連想ゲームしたらあんな妄想垂れ流せるんだよお前! 逆に凄いわ!」
そういやセラフィナの奴、格闘技とかよく見るのを今思い出した。いやだからって今ここでルチャリブレ出してくるのは理解出来ないけど。
「それで答えはどちらですか?」
「○だな。だって自由を勝ち取ってたし」
「お前の脳内だけだろ!」
「正解です。どうですかイマジナリー加奈子様の効果は。凄まじいでしょう」
「ああ、これなら試験の心配なんざ皆無だぜ!」
「お前らの頭が心配になってきた」
その後もロールの訳分からん問題に訳分からん妄想を垂れ流すセラフィナに挟まれながら試験勉強をした。邪魔過ぎる。