ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
「更新試験かぁ……どんな感じなんだろう」
今日は探索者資格更新日。最近殆ど潜ってないけど、私も一応探索者の資格がある。なのでこうして会場に来たけど……。
「この際辞めちゃうのも手かな……」
元々お母さんを助ける為に登録しただけだし……。そのお母さんも加藤さん達のお陰で今は元気。正直な話、続ける理由が無い。
「別に清掃員に資格は要らないし、返納しようかな」
「それ、やめた方良いですよ」
「きゃあ! ……なぁんだ、加藤さんじゃないですか。ビックリさせないでください」
「すいません加奈子さん。おはようございます」
後ろを振り向くと加藤さんとセラフィナさんが居た。ここに居ると言う事は探索者資格の更新に来たんだろう。
「2人ともおはようございます。……なんか、元気無いですか?」
「アタシは元気だぞ」
「くだらん妄想でロールと盛り上がってたからな。それを永遠と聞かされた俺はこのザマだけど」
「妄想? 何の話ですか?」
「気にしないでください。マスク・ド・カナコさん」
「本当に何の話!?」
理解した方が良いようなダメなような話が気になりはするけど、それよりも聞いておきたい事が今さっき出来てしまった。
「あ、あの。探索者辞めない方が良いって言うのは……」
「あー、俺らはもうある程度貯蓄があるんで問題無いんですけど、加奈子さんって流石にそんな余裕無いですよね?」
「は、はい。すぐに大変って状態では無いですけど……」
「探索者辞めたら探索者控除無くなって来月から所得税しっかり引かれるぞ」
「……え!? わ、私ダンジョンで収入得てませんよ!? 清掃員のバイトとして──」
「探索者は一律所得税免除ですよ? ダンジョン以外の収入も」
「うっそぉ!?」
大慌てで自分の給与明細を確認する。スマホの画面の明細には確かに──。
「ホントだ……引かれてない……」
「探索者って収入めっちゃ不安定じゃないですか。マトモに稼げない月もあれば大当たり引く月もある訳で。それでじゃあ一律ゼロにするかーってなったのが探索者控除の1つです」
「そ,そう言うのって平均課税制度じゃないんですか? 漁師の人とかが対象の……」
「最初はそうだったらしいですよ。でも当たった月以外その年全部ハズレって事もあったらしいんで……それで辞める奴だらけになったんですよ。それはやばいって事で所得税が免除、固定資産税が一部免除って感じです」
「武器とかも固定資産税の対象だからな。加藤の剣なんかランクSSSだから免除じゃなきゃそれなりの額払う羽目になるぞ」
「それなりって……ど、どのくらいですか?」
「ランクSSSは一律1000万です」
「い、いっせんまん……」
「まぁ加奈子さんはそんなの持ってないから大丈夫でしょうけど……それでも免除されるならされた方良いですよ」
確かにその通りだ。別に税金逃れしたいなんて思ってないけど、合法的に引かれなくて良いならそれが良い。……にしても。
「幾らなんでも探索者優遇され過ぎじゃないですか? あんなに簡単に入れるのに……」
「居ないと困るのは事実ですからね。アイテム無いと回らない世の中だし……」
「まぁ簡単に入れて優遇されるから一部のバカが調子に乗って悪さするんだろ。そんでこんな面倒い更新試験やらされる訳だ」
「あ、そう言うことか! 何でこんな事やるんだろうってずっと思ってました」
「ヘイト高いんですよ探索者。自業自得と言えばその通りだけど」
確かにお母さんも私が探索者やると言った時はやめてくれって言ってたっけ……。でも結局振り切って探索者登録したけど……。もしかして迷惑探索者に嫌な事でもされたのかも。
「まぁかったるいけどやるしかねぇか。潜れねぇってなったら困るしな。暴れられる場所が無ぇとストレス溜まるからよ」
「セラフィナさん戦うの好きですもんね。そっか、ストレス発散もあるんだ……」
「ああ、だから潜れなくなったらそのストレスは全て加藤に行く事になる」
「絶対合格しようなセラフィナ。俺お前とダンジョン潜りたいんだ」
「絶対理由違いますよねそれ。当たられたく無いからですよね。いや分かりますけど」
「あぁ? 当たらねぇよ。そうなったら三日三晩天井のシミ数えてれば良いだけだ」
「そんなこったろうと思ったよバーカ! 絶対落ちるなよ! 受かれよ!?」
「分かった分かった」
「全く……。加奈子さん、何でジト目で俺を見るんですか?」
「いや、やっぱり……危ないなぁって、色々と」
「年上! コイツ俺より年上ですからね加奈子さん! 忘れないでこの設定!」
「分かってます分かってます」
「ホントかなぁ!?」
私この2人の夫婦漫才何回見たんだろう。果たしてこれから解放される日が来るのかな。来て欲しいな。
「と言うかな? 午前の人前でそう言う事言ってるのヤバいからな? 自覚しろ?」
「午後の物陰なら良いのか?」
「小学生高学年みたいな揚げ足取ってる暇あるならTPOを学べよ! 頭の中いつまで暴力と性欲しか無いんだお前は!」
「サキュバスの血入ってんだから仕方ねぇだろ。どうしろってんだ」
「そこは……ほら……あの……血清打つとか……」
「マムシの毒じゃないんですから……」
3人で会場内に入るとかなりの人が居る。そしてその殆どが──。
『おいゴラ! テメェガン飛ばしたな!?』
『飛ばしてねぇよ! 殺すぞ!?』
『今飛ばしてんだろうがぁ!』
『テメェが難癖付けてきてるからだろうが!』
『良いぞー! やれやれー!』
『ダハハハ! ダンジョン内でやれば生き返るからオススメだぞー! ぶっ殺してもセーフだからなぁ!』
『景気付けにここで爆破魔法使っても良いですか!?』
『やめろモブみん! お前は紅魔族にはなれないんだ!』
『その謎のあだ名やめて下さいよ!』
「……何でこんなに治安悪いんだろうなぁ……」
「いつもの事ですよ」
「だな」
逆に今までこんなに探索者の現状を知らないで生きて来れたのは奇跡なのかもしれない。それくらい治安も柄も悪過ぎる。
『はぁ……こんな奴らと同じ扱い……』
『私達何か悪い事したのかしら……』
『人は皆、罪を背負って生きているのさ……』
『さっきからうぜぇよポエマー! ずっと耳元でそれっぽい事ばかり言いやがってよぉ!』
『怒りは自分を見失わせる。だが怒りで見えるようになる物がある。そう……鬱陶しい私さ……』
『自覚あるならどっか行きなさいよ!』
少し離れた所で項垂れたりため息をついたりしている探索者の人達も居る。あちらはどうやらマトモな探索者みたい。なんか1人変な人居るけど。
「あ、加奈子さん! 前前!」
「え──きゃっ」
周りばかり見て前を見ていなかったせいで人に当たってしまった。男の人だったみたいで、軽く弾き飛ばされたのを加藤さんが止めてくれた。
「加奈子さん大丈夫ですか!? 怪我は!?」
「だ、大丈夫です! すいません! 不注意で……」
「何だ貴様! 私の服が汚れただろう! これは慰謝料を…………」
「本当にすいません! えと、け、怪我は無いですか? ……あの?」
随分と恰幅の良い人だなと思いながらも謝るが、反応が無い。慰謝料とか言ってたと思ったんだけど……。
「……よぉ、カネゴン」
「…………」
「加奈子さん、わざとぶつかった訳じゃないんだわ。分かるよな?」
「……………………」
「加奈子さんすぐに謝ったよな? 自分後回しにしてお前の事心配したよな?」
「…………………………………」
「加奈子さんは汚くないんだから服なんて汚れる訳無いよな? お前の頭みたいに散らかってないよな?」
「…………………………………………………」
「許 し て く れ る よ な ?」
「……ヒュッ!」
「あの、脅すの辞めてください。私が悪いんですから、ホントに」
変な空気の音がした。よくよく見るとケルコットさんの時に会った……えっと……カネゴンさんだ。
「リーダー? 何処すかー? 置いてかないで……あっらー? 見た顔ばかり!」
「ん? あぁ、【金工房】のメカニック」
「どもども! お元気そうで! 皆さんも更新っすか? お疲れ様でーす!」
頭にゴーグルを付けた緑髪の女性。前髪で目が隠れているその人は、確かケルコットさんの普通のカレーを評価してくれた人だ。
「えーっと……そういやカネゴンは名前聞いたけどアンタのは聞いてなかったな」
「あ、そうでしたっけ? 自分は
「私の年齢バラす意味は!?」
「一応そんなリーダーでも彼女は居たんですけど、いつまで経っても痩せないから振られたっす! 確か7年前の冬っす!」
「何で知ってるんだ貴様はぁぁぁ!? ホントに何で!? 怖いよ!?」
楽しそうに笑う彼女はカネゴンさんの側によって頭をペチペチ叩く。その姿からは敬意と言う物は1ミリも感じられない。要するに破茶滅茶にナメ腐っている。カネゴンさんリーダーなんだよね……?
「17……若いな……」
「……アタシもう3年後は30か……」
2人が遠い目をしている。私もきっとそのうち同じ感想を覚えるんだろうと思うと、少し暗い気持ちが芽生えてくる。そっか……私より年下かぁ……。
「加藤リーダーでしたっけ? そっちも2年前に振られてたっすね! ドンマイ!」
「なぁカネゴン、お前んとこのメカニックって情報屋兼任してんの? 何で身内以外にバレてんだよ」
「知るかぁ! 私だって誰にも言ってない情報言われて動揺しとるんだよ!」
「でもそこの一個上サキュバスの人と懇ろになれたんならよかったじゃないすか! まぁ若干無理矢理だったかもしれないすけど、ずっと尻触るセクハラしてたんだからそりゃその気にもなりますよねー」
「なぁカネゴン。生意気な情報通気取りのクソガキを教育しないといけないんじゃないか?」
「奇遇だな。私もそう思う」
「急に手を組み始めた……」
「どうせすぐ仲間割れするぞ。ほっとけ」
「セラフィナさん達がそうですもんね」
「おい加奈子、それはどう言う意味だ? おい」
「どうって……いつもそうだから……。その……」
「アタシは違うだろ!」
「いや大差無い……」
「なっ……ぐっ……」
「まぁまぁ落ち着いて! そんな事より更新試験っすよ! お互い頑張りましょうね! リーダーはもうダンジョン潜ってないけど税金払いたくない一心でここに居ますからね! 何なら脱税したいと思ってますからね!」
「流石に脱税はせんわ! 節税はするけど!」
「うっわ脱税とかゴミofゴミじゃん。所詮はカネの亡者か……見損なったぞ、カネゴン!」
「早かったな」
「11台詞で終わったっすね」
「インスタント同盟過ぎますって」
◇ ◇ ◇
カネゴン達と離れ、その後来たメンバー達と合流(高木除く)した俺達。いよいよ開始時刻に近づいて来た。
「そろそろだな」
「日程ってどうなってるのかしら。オピス、教えて?」
「最初に筆記試験、その後休憩挟んで実技試験……ダンジョンに実際に潜って、探索者として相応しい行動を取っているかを見るらしいよ」
「へー、じゃあ試験官が同行するの?」
「いや、どうも専用のドローンが追従するらしいよ。それで中継して地上で見るんだって」
「ハイテクじゃのぉ。……いや少し待て」
篠目が神妙な顔持ちで、そして震えた声を出す。急にどうしたのか。
「今、【探索者として相応しい行動】と言ったよな?」
「うん、言ったよ」
「ダンジョンに潜る以上、宝箱のドロップがあるな?」
「あるね」
「加藤、ヤバいのではないか?」
沈黙に包まれる。それと同時に俺の背筋に何か冷たい物が通り抜けたかのような寒気が走った。顔に滲み出る脂汗は非常に気持ち悪い。
「……宝箱落ちて喜ぶのって、探索者として相応しかったりしないか?」
「加藤さんのは喜ぶと言うより狂気ですからね。不味いかもしれません」
「つーかよ、落ちた瞬間飛びつくだろ。そんで開けて演出見たら放り投げて次行くだろ? 中身すら捨てて演出だけ見る奴は……国が求める探索者じゃ……無ぇだろ」
「……」
俺は天を仰ぎ見る。室内なので当然そこには天井があるので空は見えないのが、余計に詰みを表している様で腹が立つ。……仕方ない。
「加奈子さん」
「……はい」
「俺に矢、刺してくれません?」
「嫌だぁぁぁ!!!」
逃げ出そうとする加奈子さんの手を掴む。勿論痛く無いように優しく、でも逃がさないように。
「お願いします! このままじゃ俺、落ちた後ダンジョン潜って逮捕されて前科付くぅぅぅ!」
「嫌ぁ! 嫌嫌嫌ぁ!!! もう自分で刺してください! 矢なら渡しますから!」
「自分じゃダメなんですよ! ただ刺さるだけ! 高木とかに一回やってもらったけどダメだったんです! 加奈子さんにやって貰わないと!」
「私は後何回恩人に矢を射らないといけないんですか! 今日はもう帰ります! さようなら!」
「待ってください! お金払いますから! 払いますから! だって、だって──俺は加奈子さんじゃ無いとダメなんだぁぁぁ!!!」
「な、な、な、何言ってるんですかぁぁぁ!?」
加奈子さんは顔を真っ赤にして明らかに動揺する。でも俺の方が犯罪者落ち目の前に動揺しているから許して欲しい。
「ハッハッハ! 語弊があり過ぎる言葉ですね」
「普通に勘違い起こしそうだよね」
「加奈子ぉぉぉ! テメェ! やはり敵かぁぁぁ!!!」
「やはり!? やはりって何ですか!? もしかして私警戒されてた!? ち、違います! 違いますから!」
「起きたわね、勘違い」
「早いのぉ、回収が」
加奈子さんにセラフィナが詰め寄ってくる。人が今縋り付いているのに何て邪魔なんだろう。退け! 縋り付くのは俺だ!
「推しカプ崩壊の危機ィィィ!!!」
「ぎょわぁぁぁ!!!」
加奈子さんに必死に頼み込んでいたら突然間に弾丸みたいな勢いで飛んできた蹴りに俺はぶっ飛ばされた。床にぶっ倒れた俺は起き上がる間もなく顔を両手で鷲掴みにされる。
「ヒロインが既にいるのに他の女性に粉を掛けるなぞあり得ませんわ! こんなんほぼNTRやんけぇワレェ! ハーレムとか言う現代社会に置いてクソの極み行為にドロップキックですわ!!!」
「待て! 違う! 俺はただ(矢を)刺して欲しくて……」
「さ、さささ挿して欲しい!?!?!? ゲボですわ! そんなんもうゲボ案件! セラフィナさん! 負けてはいけません。カプ相手の欲を満たせばきっと単独ヒロインを維持出来ますわ! さぁ! 私のハルバードを貸しますからどうぞ加藤さんに! ブスリッと!」
「アナンタ、お前なんで居るんだよ。後耳詰まってんぞ」
俺を吹き飛ばした竜人族、アナンタ。普段ウォルタリアに居るはずのコイツが居るのは何でだ? セラフィナと友人のコイツはたまーに日本に来るには来るが、毎回必ずセラフィナに連絡している筈なんだが。
「勿論、探索者更新ですわ! 私、探索者登録をしたのが日本なので、所属としては一応日本の探索者なのです!」
「あー、そう言えば探索者って国の所属移すのってクッソ面倒だったわね。何年も掛かるとか聞いたわよ」
「お久しぶりですゲルダリアさん! まだ移せて無いので更新しないと探索者資格を失効してしまいます。なので休暇を貰い日本に来たのです! そしたら何とまぁ推しカプの片割れが他の女性に縋り付いているではありませんか! 解釈違いなので今すぐやめて頂きます!」
「お前の解釈なんか知るかぁ! 早く離せよ! 俺は加奈子さんにお救いして貰うのに忙しいんだ!」
「だからやりませんって! 諦めて!?」
「この人こんなにテンション高かったっけ? 料理の時はそんなにだったと思うけど……。僕の記憶違いかな」
「どうもスイッチが入っているようですね。加藤さんを圧倒している辺り、爆発力は大したものです」
「と言うかデカ乳過ぎるじゃろ。日常生活大丈夫か此奴。心配が勝るぞ」
「初対面の人にあまりそう言う事言ちゃダメだよ篠ちゃん」
「……あっ」
アナンタは気の抜けた声を出し、鶴岡達に気付いたと思ったらゆっくりと俺を離してセラフィナの側にピッタリと付いて動かなくなった。
「……おい、どうした」
「いや、その、知らない人が居たから……」
「……そういやお前、ソロで探索者やってたもんな」
「ち、違いますわ! 決してコミュ障と言うわけでは無く、ちょっとお淑やかなだけで……」
「内弁慶なだけだろ」
「うぅ……自覚させるのはおよし下さい……申し訳ありません……とんだ失礼を……」
「情緒ジェットコースターな人なんだね」
何にせよアナンタが落ち着いたのは良かった。俺も頭が冷えたし、少し冷静になろう。
「……やっぱ刺してくれないすか?」
「怒りますよ」
「ごめんなさい」
加奈子さんに睨まれた俺はこれ以上この人を怒らせないように暫く黙る事にした。筆記試験の方が先だから、その間に策を考えよう……。