ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
『これから筆記試験を始めます。係員の指示に従って下さい』
会場全体にアナウンスが鳴り響く。運営スタッフ達が探索者を誘導し始めている。俺達も従わなければ。
「じゃあ行くか。お前らちゃんとやれよ」
「ちゃんとやれって言われてもなぁ。心配なのは加藤くんとセラちゃん、ゲルダちゃんでしょ。ちゃんと復習した? 僕達めっちゃ頑張って教えたんだからね?」
「安心しろ。俺は既に完璧に常識を会得している。余裕で合格できるさ」
「アタシだって問題無ぇ。脳内にちゃんと加奈子を召喚できるからな」
「取り敢えず探索者が入っていい場所はダンジョンだけってのは覚えたからモーマンタイよ!」
「ふむ、不安ですね。フラグで無ければ良いのですが」
「脳内加奈子って何ですか? 何でそんな物を生み出す必要があったんですか?」
『誰が生めと頼んだんですか! 誰が造ってくれと願ったんですか!』
「やべ。イマジナリー加奈子までツッコミし始めちまった。落ち着け加奈子」
「都合のいい妄想の癖に手綱握れて無いんですけど!? 病気ですよ最早!」
「ミュウツーになっとらんか? 逆襲始まりかねんぞ」
セラフィナも何とか合格しようと必死だ。どうかイマジナリー加奈子さんの力を借りて頑張って欲しい。
「セラフィナさん! 呼ばれましたわ! 行かないと!」
「ん。分かった。じゃあ後でな」
「頑張ってねーセラちゃん」
「応援していますよ」
オピスと鶴岡の声援を受けながらアナンタと一緒に離れていくセラフィナ。探索者の数が多いので複数の部屋で筆記試験を行うのだが、俺達は全員バラバラの部屋でやる事になっている。アナンタはたまたまセラフィナと一緒だったが。
『受験番号100から200の方! こちらに着いてきて下さーい!』
「俺だ。行ってくる」
「加藤、気張るのじゃぞ? わっちこんなんで【自我中心】が解散とか嫌じゃぞ。面会だってそんな何度も行けんし」
「逮捕前提やめろ。いや自分でもそうなりかねない気がしてるけど」
ホント、実技の方どうしよう……。何かいい策は無いだろうか。最悪ドロップを見なければいいのかな。でも宝箱の落ちた音絶対分かるよな。やだなぁ。
「しっかし人多いな……」
この辺の探索者全員がこの会場にいる以上仕方の無い事だが、とにかく人が多い。俺含め、どいつもこいつも実技のダンジョンアタックの為に装備を付けたままなのですれ違う度に鎧がぶつかる。鬱陶しい。
「ここだな」
俺の番号は150。丁度部屋のど真ん中の席だ。愛剣を机の近くに立て掛けて席に座る。若干机と椅子が小さい気もするが、多少は我慢だ。
「……」
向けられる視線。当たり前だが好意的な物は一つも無い。何なら嫌悪感や敵意を感じる。自然に睨み返してやるとサッと目を伏せられる。
「(多分、昔絡んで来たのを返り討ちにした奴らだな……)」
俺ら【自我中心】は自慢にもならないがかなりのスピードで成り上がっていったチームだ。入るメンバーが悉く外れ値みたいな奴らばっかなのもあり、破竹の勢いで強くなった自覚がある。だがそれは、燻っていた連中から反感を買うのには十分な理由だった。
「(よく絡まれたなぁ。『調子乗るな』とか『運ガキ』とか『くたばれ中毒者』とか。アイテム寄越せとか言われた事もあったっけ)」
今思えば絡んで来たからと言ってボコるのはやり過ぎだったのかもしれない。連中からしたら嫌味の一つ言いたかったのだろうが、俺達が気にもしなかったからな……。余計感情を逆撫でたんだろう。
「(……ま、そもそも新人とかにカツアゲやってるような連中だし……別に良いか)」
人族側の探索者ではよくある事で、新人の探索者が運良く良いアイテムを手に入れたりするとバカな連中が集まっていき、アイテムを取り上げようとする。当然ながら禁止行為と言うか犯罪だ。だがわざわざ物騒な連中を止めるような人間は限られる。ダンジョン運営のスタッフは殆どが一般人だ。出来る事なんて限られるだろう。一応、高木がそこら辺改善しないとなんて言ってた気がするが……どうなってるんだか。
『今から答案用紙を配りますので、開始の合図まで裏のままにしておいて下さい』
周りの視線に不快感を隠さないでいると、スタッフの人の声が聞こえる。そのまま別のスタッフが1人1人の机に用紙を置いていく。
「……あの」
「え、何ですか?」
用紙を配っていた女性のスタッフが俺の所で急に止まり、声を掛けてきた。チラリと周りを見てもそんな対応されているのは俺だけ。
「【自我中心】の加藤さんですよね……」
「は、はい。そうです」
この瞬間、俺は最悪な気分になった。この話し掛け方的にどう考えても過去に俺、もしくはメンバーの誰かから迷惑を掛けられた人だろう。たまたま見かけた俺に、文句の一つでも言いたいんだ。そうに決まっている。だがそれは俺の蒔いた種だ。何にも悪く無いこの人が受けた迷惑を考えたら、黙って受け入れる以外の選択肢は無い。そう思っていたのだが──。
「あの……ありがとうございました」
「……はい?」
掛けられたのは恨み言では無く感謝だった。どんな負の表情をしてるのか、怖くて顔を見ない様にしていたが、意を決して顔を上げる。スタッフの人は、笑顔だった。
「覚えて……ませんよね?」
「え、いや……はい、何も」
「私、何年か前に加藤さんに助けられた事あるんです」
「前の俺が? 人助けぇ?」
あり得ない。今ですらカスなのに昔の俺なんかドブカスの10乗みたいな状態だった筈。そんな俺が人助けをする訳が無い。きっと何かの勘違いだろう。
「新人の頃、受付で絡まれてる私を助けてくれたんです。【邪魔なんだよお前らぁ! 受付占領しやがって! 失せろ!】って言って蹴散らしてくれて……」
「ああ良かった。やっぱり全然人助けじゃない」
そんな事だろうと思った。今の俺が言ったであろう言葉だけで全て分かる。どうせダンジョンアタックしたいだけで邪魔だったから蹴散らしただけだ。自分の事だから本当によく分かる。嫌だけど。
「あの、それ助けてませんよ。その時の俺、自分の欲の為だけに動いてますから。ホントに」
「はい。分かってます。だってその後すぐにダンジョンに突っ込んでいったので。私なんかガンスルーでしたよ」
「タイムマシン欲しいな。過去の俺を地獄に送るんだ」
「ふふふ……私が勝手に助けられたって思ってるだけです。なので勝手にお礼を言いますね、ありがとうございました。試験頑張って!」
そう言って彼女は離れていった。……まさか欲望のまま動いていたのが、誰かを助ける事になるなんて。偶然ってあるんだな。何にせよ怒られなくて良かった。マトモな人からのマトモな批判が1番心に来るからな。
『間も無く開始します。準備の方、よろしくお願いします』
答案用紙を配り切ったらしい。鉛筆を持って合図を待つ。制限時間は確か1時間。○✖︎問題だから見直す時間は充分だ。しっかりやろう。
『それでは……開始!』
合図と共に用紙をひっくり返す。その瞬間、右から何かが飛んでくるのを感じ取った。飛んで来た物をつまみ取ると、それはシャーペンの芯だった。そして畳み掛ける様に左から飛んでくる消しゴム。敵の狙いは俺の眼球。指でそのまま弾き返してみる。俺の狙いは敵の眼球。
「ぎゃぁぁぁぁ!!!」
『!!! 試験妨害! 退場して下さい!』
見事消しゴムはバカに命中してそのまま退場となった。あの程度で俺をどうにか出来ると思わないで欲しい。流石に舐め過ぎだ。
「(全く。アホが居たもん……何ぃ!?)」
やれやれと一息付いた途端、第二波が訪れる。飛来物を試験官に気付かれないように弾き飛ばしたり、掴み取ったりするが、一向に止む気配がない。
「(ま、まさかコイツら……俺を潰す為に結託したなぁ!?)」
さっきの視線は俺に対しての敵意だけで無く、位置と距離の確認だったのだ! 飛ばされてくる鉛筆とかシャー芯とか消しゴムとかその他諸々の数からして、相当数の敵がこの部屋に居る!
「(だがこの程度、別に体に当たろうが大した事は……いや違う!)」
飛ばされてくる飛来物の軌道的に、俺自身への攻撃じゃあ無い! これは……これは……!
「(狙いは俺の答案だァーーーッ!!!)」
奴らの目論見は、俺の答案用紙の破壊! 俺自身への攻撃は効果が薄いのは既に把握済みッ! ならば脆く、そして抵抗されない答案用紙を狙うのは必定!
「(あの消しゴム眼球野郎は釣り餌! 俺はまんまと罠に引っかかったんだ!)」
本来であればこんな物、試験官を呼び出せば済む話だ。だが先程俺はついつい消しゴムを跳ね返してしまった。俺が試験官を呼び出せば奴らはそれを報告するだろう。俺も同じ事をやったと! 自分達も失格になるが、俺も道連れに出来るならそれで良いと言う事だ! 俺はどんだけ恨みを買っているんだ!?
「(クソッ! まだ碌に回答していないんだぞ!?)」
このままだと答案用紙を守り切っても普通に不合格だ。ちゃんと解かなければいけない。だがこの状態で出来るか!? 覆い被されば暗くて問題が読めない! ちゃんと読もうとすれば攻撃の雨が止まない!
「(万事休す……! 俺は……ここで終わるのか!?)」
仲間は居ない。俺1人だ。誰も俺の味方をしてくれる訳が無い。何せ過去、しかも他探索者には感謝される様な事はした事がない。部屋内に居るマトモな探索者も、俺が落ちる分には両手をあげて喜ぶだろう。俺は消えて喜ばれる人間なのだから。
その時、飛来物達が俺に辿り着く前に力尽きて床に落ちた。
「(何だ!? 一体何が……)」
魔力を込められていたシャー芯達だ。俺に届く前に落ちる訳が無い。一般人が刺さったら相当な怪我を負うレベルだぞ。それが落ちると言う事は……!
「(……! アイツは……!)」
俺の席からそれなりに離れた席で虚空に指を動かしている男が居る。確かアイツはマトモな探索者達の側で鬱陶しいポエムを垂れ流していた吟遊詩人気取りだ。
「〜〜〜♪」
奴がまるでハープを鳴らす様に指を動かすと、それだけで飛ばされてくる物達が勢いを無くす。……いや、あれは鳴らす様にじゃない。鳴らしているんだ!
「(インビジブルハープ!? あの産廃武器を使っているのか!)」
インビジブルハープ。ランクだけはSと言う謎に高いゴミ武器だ。名前の通り透明なハープで、鳴らすと音の刃を放つと言う楽器武器だ。発生する音の刃は視覚する事が出来ず、誰もが分からぬまま切り刻む。そう、誰もが分からぬまま。この武器は本体も放たれる音の刃も見えない。敵も味方も本人すら見えない。なのでビックリするほど誤射する。利敵行為の極限くらい誤射する。なんなら仲間が当たりに行くし、本人もどこに飛んでるのか分からないので当てに行く。そのオマケで敵に当たったら良いなぁくらいの武器だ。ゴミだ。今すぐランクをFくらいに落とすべきアイテムだ。
「(だがアイツはちゃんと把握している。自分がどこに音の刃を飛ばしているのかを!)」
つまりあの武器を死ぬ程使い続けたと言う事だ。ハッキリ言って頭おかしい。あんなのを使いこなすくらいなら別の武器使った方強いし楽だ。変態と言って良いだろう。理由は分からないがあの変態は俺の味方らしい。恐らく机の上に立てているハープを鳴らして俺を守ってくれている。と言うか音の刃のくせに音がしないってどう言う事だよ。まさか人じゃ聞こえない超音波で弾いているのか? ド変態だアイツ。
「(有難い。有難いんだが……それでも足りねぇ!)」
ド変態が撃ち落とす飛来物より向かってくる方が多い。明らかに手数が多過ぎる。現状約2対70の四面楚歌なので仕方ないが……やはり集中しきれない。片手間で問題を解き切るには些か限界が近い。焦りながらも答案を守る為に放たれたボールペンを払おうとすると──ボールペンが爆発した。無音で。
「(アイツは……誰?)」
今の爆発は間違いなく魔法だ。それも相当の練度。外側では無く内側に向けて多段爆破し、音を相殺して掻き消すとか言うこれまた変態しかやらないような技術を披露したのはなんかめっちゃ地味なめぐみんみたいな格好をした魔法使いの女。チラリとこちらを見てピースサインを送ってきた。何で?
「(よく分からんがアイツも味方か!)」
両サイドを防いでくれている内に急いで答えを書き込んでいく。事前に復習していたお陰でスルスルと回答し、程なくして全て書き終わった。
「(良かった。これで──いや待て!?)」
試験官にバレない様に視線を動かすと、俺を守ってくれた2人に今度は様々な筆記用具が飛んで行っている。どうやら俺を守っていたのがバレたようだ。本人達も防いでいるが、限界がある。
「(お前ら……借りは返すぞ!)」
理由は分からないが、この2人は俺を助けてくれた。ならばこちらも力を貸さねば無作法と言う物……! 使い終わった鉛筆を音が出ない様に握り潰す。良い感じに尖った木の破片になったそれをデコピンで射出する。散弾銃の様に飛んで行った破片は空中でカス共が飛ばしてきていた筆記用具達に命中。無事に床に叩き落とす事が出来た。
「「──!」」
俺の援護射撃に気付いたのか、こっそりグーサインを送ってくる2人。今、俺達は共に戦う仲間だ。気分はドッジボールしてる時のゴンキルヒソカだ。もしくは3人分になったゴレイヌ。
「(お前ら、ぜってぇ合格しような!!!)」
名も知らない仲間と共に、俺はカス探索者達の悪意に立ち向かう。俺は絶対に受かってみせる!
運営スタッフ「(加藤さん真面目にやってるなぁ。やっぱり更生したんだ。清掃の仕事、いつも頑張ってるし……私は分かってますからね!)」←後方理解者面
吟遊詩人気取り「(狂いし凶戦士は正道に向かおうと足掻き続ける。されどその道は酷く険しい。ならば鼓舞する一曲を奏でるのも良いだろう……)」←流石に多勢に無勢だから手伝うよ!の意
モブみん「(【自我中心】のリーダー、凶戦士の加藤……! イカれててカッコいいなぁ! 私ももっとやばい奴だと思われたいなぁ……。そうだ、手助けしたらどうやったら狂えるのか教えてくれるかも! 助けよう!)」←ただのバカ