ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
「はいどうざんしょ! お望み通りランダムですよぉ〜???」
「うむ! ご苦労ご苦労! 労ってやろう!」
「そりゃどーも。ケッ」
「会長……流石に……ケッ」
「アンタら2人同類よ同類」
本来予定していた物を全てちゃぶ台返ししやがった元凶がカラカラと笑っているのが本当に癪に障る。可能なら一発魔法をぶち込んでやりたい。
「まさか【篠家】当主が行方をくらますとは思いもよらなかった。だが! それのおかげ……いや、人が失踪しているのに喜ぶ様な真似はいかんな。失言だった。許せ」
「はぁ、良いんじゃないすか?(どうでも良いわそんなん)」
「何にせよ妾は任されたのだ。役目を果たすのは当然の事。その為には必要な事なのだ! 探索者の中でも人格的に上積みの者を探す為にな!」
政府からの回し者……本来であれば適当な官僚が送られてくる予定だった。ダンジョン関連の知識を持った連中の殆どは俺がコネ、もしくは弱みを握っている。その為、形式さえ守れば良いはずだった。それをひっくり返しやがったのがこの女だ。無駄にやる気があるせいで大層めんどくさい。
「【篠家】は没落って訳すか? 諸行無常っすね」
「当主不在と言う事で一旦外されただけだ。戻ってくるか、次期当主が決まればすぐに元に戻るだろう。しかし……一つ気になることもある。自分の事を篠家当主と宣う女が逮捕されたらしくてな、もしや奴が当主を……おっと、関係ない話だったな」
表向きにはこの前の騒動の後、篠夜は失踪、実は居た姉が裁判所破壊で逮捕と言うことになっている。まぁいきなり女になりましたーとか誰も信じないからそりゃそうだって感じだが。TSの呪いなんざそれこそ【勇者の集い】のエネロマくらいしか出来ないだろう。俺のギックリ腰の呪いも。だからこそバレようが無い。俺達の仕返しは完璧に上手くいっているようだ。上手くいきすぎて墓穴掘ってこのザマだ。最悪。
「兎に角! 探索者の改善は急務! 妾が来たからには以前の様な半分犯罪者の様な連中は探索者にするつもりは無い! 試験中の間すら、他者と協力するツラも繕えない者はな!」
「そうは言いますがね、見返りが高い可能性があるとは言え、ハズレを引き続ける連中もいる訳で。そんなギャンブルな職業である以上、そんな犯罪者一歩手前の連中でも数が無いと上振れも少ないんすよ。まーたアイテム市場荒れますよ? 良いんすか?」
「安心しろ。ちゃんと考えているとも。妾自身、【探索者】と言う職業は素晴らしく立派な物だと思っている。世の為人の為、己が身を削ってでもアイテムを手に入れて世間に回す……だが! あまりにも自浄作用が無さ過ぎる! その所為で個人個人の治安が悪くなるのを止められん! 周りがやっているならと同調する様な者達も出てくる。これはいかん! 探索者達の民度が悪ければ悪い程、マトモな人間も入ってこない! 分かるか、今探索者と言う職業は、綺麗な水が入って来ない濁ったドブ川なのだ!」
「クッ! 不味いぞドラツ! 何一つ言い訳が思いつかねぇ!」
「全てが正論過ぎて困りました。どうしますか」
「探索者全員ロボトミー手術でも受けさせれば良いんじゃね?」
「成程、やはり天才か……」
「天災の間違いでしょうが。つーか反論しなさいよ嘘でも良いから!」
「「嘘はダメだろ……引くわ……」」
「アンタ達がそれ言う!?」
結局の所、この女がやりたがってるのは第二の【勇者の集い】を探す事だ。本来であれば【篠家】がやる予定だったらしいが、当主があのザマなのでこの女に回ってきたらしい。国としては国民からの支持を得たいし、俺達運営や探索者達の手綱もある程度握りたいのだろう。だとしても急過ぎると言うのが俺の感想だが……。
「(いやーしくったなぁ……流石にセレス降ろすのは早過ぎたか……)」
セレスはそれなりにダンジョン運営のトップとしての実績はあった。国側の要求も何だかんだ跳ね除けていたし、俺がやりたい放題できてたのもセレスが身代わり(同意無し)してくれていたからだ。それが無くなるとこうなる。直近で探索者がデカめのやらかしをしてるのも痛い。内実は違えど外から見たら【運営するなら探索者も何とかしろよ】となるのも仕方ない。
「(実際問題、マジの雑魚は消えて貰って構わないんだ。問題は中堅。あそこら辺がゴッソリ脱落したら本当に終わる)」
普段民度が悪く、世間様に嫌われてる主な探索者達は駆け出しより少し経った連中……強くなれる訳でも無く、なる気も無い。余裕を持って勝てるダンジョンのみ潜ってたまに落ちるレアアイテムの儲けで生活してる奴らだ。そのままだったら何の問題も無いが、こう言う連中は決まってカスだ。まぁ何度も死んで生き返ってを繰り返す度に精神が捻くれていくんだろう。そんなカス共は普段の鬱憤を辺りに撒き散らしまくる。一般人よりは間違いなく強いのも面倒だ。コイツらは消えてもいい。なんなら俺が理由こじつけて全ダンジョンから出禁にしてやろうと思ってたくらいだ。
「(だがそれより実力があって、ある程度自制が出来る連中……コイツらが今の中間層。ここまで落とされたらヤバいぞ……)」
【勇者の集い】や【金工房】、他の上位層チームがいくらダンジョンに潜ろうと限界がある。日常生活でも使う様な低ランクのアイテムは高レベルダンジョンじゃ逆に集まらない事もある。そこそこのレベルでそこそこのダンジョンに潜れる連中が消えたら日本は割と終わる。マジで。
「(この女……その辺分かってんのか? 分かって無さそうだなぁ見るからに世間知らずのボンボンだろコイツ)」
だがこれは国側に介入の隙を与えた俺が悪いのかもしれない。何にせよダンジョン運営が傾く様な真似はしたく無いし、市場を混乱させたくも無い。つまり俺がやらなきゃいけない事は1つ。
「さぁて! 素晴らしい探索者を探し集めて新たな【勇者の集い】を作るのだ!」
「(不合格させたくない探索者を擁護するしか無い!)」
この女をどう騙くらかして、誤魔化して、マシな探索者を残すか。それが俺の仕事になった。
「(加藤! 悪いが自分で何とかしろよ! 言い訳ならしてやるからよ!)」
いつもなら大歓迎の狂いザマが、今だけは全くお呼びじゃなかった。どうか身内と組めている様にひたすら祈るしか、俺には出来なかった。
◇ ◇ ◇
カネゴンさんが泣き喚いて数分後、一先ずは落ち着きを取り戻したのを見計らって加藤さんが全員に声を掛ける。
「開始までまだ時間あるからな。自己紹介でもしとくか」
「貴方の事はここに居る全員知ってますよ! 探索者の中で貴方も貴方のチームも知らない者は居ません!」
「悪い意味でが付くんだろうな、それ」
「はい!!! その通りです!!!」
加藤さんがちょっと泣いた。ショックなんだろうけど、今更な気もするなぁ……。
「じゃあ加藤さん飛ばして私が……加奈子です。よろしくお願いします」
「名……世界にその存在を知らしめる物。万物に名は付けられ、私も例外では無い。それはきっと、尊く、素晴らしい物。名を付けられないと言う事は、その存在そのものを許されていないのかもしれない……」
「で? お前の名前は?」
「
「最初からそう言えよ! 長いって!」
「……金山だ。下の名は権太……殆ど呼ばれる事は無いがな」
「呼んでるだろカネゴン」
「その略称は呼んでるに入らんわ!」
「お、落ち着いてくださいカネゴンさん!」
「おい女ぁ! お前『私はマトモですよ』みたいなツラして普通に乗ってくるよな!? 一貫性無いぞ一貫性!」
「いやその、カネゴンの方が親しみがあっていいなぁって……」
「そりゃそうだろ! パクリネームなんだから! 前から元があるんだから!」
「最後は私ですね! 私の名は「貴様、確かモブみんとか言われてたな? じゃあそれだよな?」ちょ、ちょっと!? 自分があだ名だからって私まで巻き込まないで!?」
「うるさい喧しい! 貴様も道連れだ! 訳分からんパクリあだ名仲間として定着させてやるぞモブみん!」
「まぁ格好が地味なめぐみんだしなぁ……よろしくなモブみん」
「爆裂魔法なんて使えませんよ! 爆破魔法は得意だけど!」
「偽物だから。そう言い訳するのは容易い事。大切なのは、何を為すか。本物だろうと無かろうと、成した事は【本当】と呼ぶ。君もきっと、【本当】を見つけられるよ……」ポロロン
「だから偽物じゃないんですよ! 無関係! 何ですかポロロンって! 腹立つなぁ!」
「それで、お前らに先に言っとく事があってな……」
自己紹介も程々に加藤さんが自分の事情を説明する。カネゴンさんはある程度把握してたからか、反応としては薄い。他2人はそこそこ驚いている。
「な、中身はどうでも良くて演出だけ……居ませんよ他にそんな人……流石【凶戦士】!」
「それが君を荒ぶらせる原因と言う訳だね。それに身を委ねれば……」
「ああ、間違いなく試験は不合格だ。実技試験はチーム単位で見られる。俺がやらかしたらお前ら全員道連れになる……だから頼む、協力してくれ」
「フン、選択肢が無いではないか。ふざけおって。大体自分を律する事も出来んくせにダンジョンなんぞに潜るな。……今更か。貴様みたいな気狂いにはな! ハハッ!」
「食欲を律する事が出来てない奴にだけは言われたくねぇな」
「な、なにぃ!? こ、これはあれだ! 豊かさの象徴! そう! 私は金持ちだからそれを喧伝する必要があるのだ!」
「喧伝出来てるのはお前のコレステロールの高さだけだろぉ? んな象徴概念は平安時代に既に終わってんだよ! 分かったかデブ!」
「貴様言わせておけばぁぁぁ!」
「ちょ、ちょっと! 2人とも落ち着いて下さい! 喧嘩してる場合じゃないですよ!」
2人の間に入って静止する。売り言葉に買い言葉。加藤さんとカネゴンさんはだいぶ相性が悪そう。前に揉めたとか言ってたからそれもあるんだろうけど、そもそも性格的にも合ってないみたい。……大丈夫かな。
「何にせよ、宝箱を見たら暴走するなら見なきゃ良いんですよね。私が爆破魔法で吹き飛ばしましょうか」
「俺の飛びかかるスピードより早くイケるか?」
「そ、それはやってみないと分かりませんけど……」
「だよなぁ……やっぱ俺が後衛に行くしか……」
「残念ながら【凶戦士】よ。君しか道を切り開く事は出来ないよ……」
「え? ……もしかして前衛俺しか居ない!?」
「……あ、ほ、ホントだ!」
私は弓を引く事しか出来ないし、カネゴンさんもモブみんさんも魔法使い。響木さんも見た感じ戦士って感じじゃない。……加藤さんしか、居ない。
「ク、クソ! やばいぞどうしたら!? 俺が最前線じゃどうやっても宝箱に1番近くなるのは俺だぞ!?」
「暴走ってどのくらいの物なんです?」
「えーっと……もう周りなんか見えないし、何処までも1人で突っ込んでいく感じですかね」
「1つ見れば連鎖的に宝を求める……。理性を並べても、指一つで全て倒れる。そう、まるでドミノの様な生き様……」
「嫌だぁ! せめてジェンガが良い! ゆっくり殺して!」
「どっちにせよ終わるのは一瞬ですけど!?」
でも実際問題どうしよう。ダンジョンに潜る以上、モンスターは必ず出てくる。そしてモンスターは必ず襲ってくる。どうしたら……。
「リーダ〜。リダリダリーダ〜」
「何だ
「いやきっと嫌われ者のリーダーの事だから、組んだ人達と上手くいかなくてギスってるに違いないから助け舟出しに来たっす」
「……」
図星だったみたい。黙り込んだカネゴンさんを華麗にスルーしながら機音さんは何処からか取り出した箱を加藤さんに渡す。
「どうぞ! つまらない物ですがリーダーを宜しくです! 基本的に憎まれ口しか叩かないんですけど、多めに見て欲しいっす!」
「あ、どうもご丁寧に。赤福なんて高い物わざわざ……」
「いやそれ私のぉぉぉ! 人の買ったもんつまらないとか言うなぁ!」
「……あれ? なんか半分無いけど」
「来る途中食べちゃいました!」
「そうか。まぁ美味しいもんな、赤福」
「そうですよねー」
「「あっはっはっは!」」
「つまらねぇぇぇ! 貴様らのクソみたいなコント未満を見せ付けられてどうしろと言うのだぁぁぁ!」
「(もしかして今日楽できるかも)」
「まぁそう言う事ですんで頑張ってください! そろそろリーダー達の時間っすよ!」
機音さんが言う通り、私達の実技試験の時間が近づいてきた。今回潜るダンジョンは今居る会場から少し離れている。今移動しないと間に合わない。
「あ! 1つアドバイスしとくっす! 加藤リーダーってなんか宝箱見たら暴走するんすよね!」
「え、そうだけど……それで死ぬほど困ってるんだけど……」
「盗聴してた時に小耳に挟んだんですけど、今回の実技試験はあくまで【問題なくダンジョン探索する】が合格基準みたいなんでぇ、モンスター討伐云々は特に関係無さそうっす! なんなら全滅してもそれは仕方ないって感じみたいで!」
「……もしかして、モンスター倒さなくても良いって事じゃ無いですか?」
モブみんさんの言葉に加藤さんの表情が明るくなる。真っ暗な絶望の中、一筋の光を見つけたように。
「それじゃバイバーイ! あ、リーダー。これ渡しとくんで困った時に開けて下さい! 役に立つっすよ! 多分!」
「は? 何だこの封筒……おい、中身は……もう居ないし!」
機音さんはあっと言う間に去っていった。まるで嵐みたいな人だったけど……アドバイスは間違いなく役に立った。
「加藤さん! モンスターに見つからない様に進めば……」
「宝箱をドロップする事もなく、無事にダンジョンを踏破出来る! やれる! やれますよこれなら!」
「ドロップした宝箱を私が爆破するよりはずっと確実性がありますね! 賛成です!」
「可能性はほんの僅かでもあれば、手繰り寄せたく無い時でも付いてきてしまう。であるのなら可能性そのものを手放す。この世に絶対は無い。だが行動を起こさなければ、不確定の未来は来ないものだ……」
「すまん今度は何言ってるか本当に分からんが賛成って事にするからな」
「君の思うままに……」ポロロン
「貴様そのポロロンやめろ。本当に腹立つから」
戦わなくて済むなら私としては凄くありがたい。怖いし、痛いの嫌だし……。
「……そう言えば、セラフィナさん達は大丈夫かな」
◇ ◇ ◇
「……」ウロウロ
「セラちゃん、早く自分のチームの人達と合流しなよ。いつまでここでウロウロしてるの?」
「わ、分かってんだよ! 言われなくてもよぉ! なぁアナンタ!」
「ゑ、………………はい! その通りですわ!」
「今回は相当悩みましたね」
「流石に納得しかねたのね。私には分かるわ」
「うるせぇ!!! アナンタ! さっさと行くぞ! とっとと終わらせる!」
「りょ、了解ですわ! いざ行かんダンジョン!」
そう言ってセラちゃんとアナンタちゃんは行ってしまった。加藤くんの事心配してるんだろうなぁ。色んな意味で。
「さて、僕も行こっかな」
「ご武運を。……と言ってもオピスさんは元は別チームに居ましたし、周りに合わせるのは得意そうですので心配していませんが」
「横領で追放されたけどね。酷いよねー」
「お主がな」
「うん。自覚はある」
ちょっと魔が刺したから仕方ない。追放される時にボッコボコにされたからそれで勘弁して欲しい。もうやってないし。
「それで今更なんだけどさ」
「何でしょう?」
「僕らヘイト買いまくってるけど、道連れにしてこようとする人達居たらどうする?」
「何よ、そんなの決まってるでしょう?」
「そうじゃな。その通りじゃ」
鶴岡くん、ゲルダちゃん、篠ちゃんは口を揃えてこう言った。
「「「初手で脅して言う事聞かせる」」」
「だよねー! それしか無いよねー! オーケー! みんな頑張ろう!」
多分国の人と確認するであろう高木くんにLINEでメッセージを送る。『みんなのフォローお願い。多分やばいから』っと。……『無理無理カタツムリ』か、ダメそう。
「やっぱり僕ってマトモなのかも
そんな独り言を呟きながら仲間達みんなと組むであろう犠牲者達に祈る。君達は運が無かったんだ、諦めてね。ドンマイ! と……。