ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
囮作戦でどんどん進んでいった私達は、何とか最下層の一つ前まで進めていた。高木さんの煽り力は確かな物で、ありとあらゆるモンスター達が我を忘れて引きつけられていた。あの人、今どんな気持ちで見てるんだろう。
「不味いぞ……もう囮人形が無い」
「封筒にへばりついてないか? よく見ろ!」
「そんな都合よく残っとる訳無いだろ! 無いもんは無いわ!」
毎階層囮人形を使っていたのもあって、既に使い切っちゃった……。つまり、最後のこの階層は自力で何とかしないといけないと言う事。
「えっと、ダンジョンの最後の階層はヌシが居るんですよね?」
「まぁヌシって言うかボスって言うか……そのダンジョンで1番強いモンスターが出てきますね」
「それ以外も出てくるんですよね?」
「多分ダンジョン内で1番数多くモンスターが出て来ますね」
「……無理では?」
「……」
囮も無いのに今までよりモンスターが出てくるなら、それはもうどうしようもない。どうやってもモンスターと相対する事になる。
「カネゴォン! なぁんで最後に一枚残してないんだよ!」
「貴様が『はよ使え! はよはよ!』とか言ってたからだろうがぁ! 人のせいにするな!」
「報連相が出来てないだろ! 足りなくなってきたら報告しろよ!」
「うるさい! ウッカリは誰にだってあるだろ! 人の失敗を責められる程、貴様は大層な人間か!?」
「その論調は卑怯だろ! 【
「ブハハ! 図らずも貴様らを言い負かせる最強の矛を手に入れてしまったわ! ざまみろー!」
「あの、カネゴンさん。段々テンション高くなってバカになってませんか?」
「……ハウアッ!?」
膝から崩れ落ちてorzになったカネゴンさんはそのまま動かなくなった。小声で『違う……私はこんなのと同類な筈は……こんな……こんな気狂いバカと同じな筈は……』とブツブツ言っている。争いは同レベルでしか発生しないのかもしれない。
「それでどうしますか? 一応監視ドローンの不合格ランプは付いてませんけど」
「あれだけ好き勝手やって不合格ならないなら加藤さんの暴走も平気ですよ。もう突っ込みましょう」
「加奈子さん!? ヤケになってません!? 怒ってます!?」
「すいません。もうなんか疲れちゃって……」
「実際、あれだけ全力疾走すれば疲れるのも無理は無いですよ。私もクタクタです」
「……はぁ……でももう少しですもんね。頑張りましょうか。……喧嘩しないでくださいね?」
「善処します」
ホントかなぁ。いや、信じよう。この人は何だかんだ言って私の事助けてくれるし……なら私も出来る限り力にならないと!
ハラ……
「……ん? おいカネゴン。お前の懐からなんか出たぞ」
「は? ……あるぅえ!? 囮人形!? 何で!?」
カネゴンさんの懐から地面に落ちたのは間違いない。さっきまで使っていた囮人形だ。
「何だよもう一枚あるじゃねぇか。人が悪いぞ。いや悪いか、金儲けしか考えてないもんな」
「悪いのはお前の口だ! 別に隠しとらん! そもそも懐に入れていないぞ!?」
「だがそこにあるのは見知った顔。再び見えるねあのニヤケ。早い再開に、私は音色を止められない……」ギリギリギリ
「あの煽り顔にキレて演奏が! ポロロンが怒りのノイズになってます!」
「もう煽りの神でしょ高木さん」
確かにあの人の煽りは相当ウザいけど……一応相手を選んでやってるからなぁ……。囮人形みたいに全範囲攻撃する訳じゃない。本物は周りにお仕置きされるしね……。
「まぁ何でも良いや。早く使ってくれよ。これでボススルーして踏破して終わろうぜ」
「……この集まりから解放されるなら細かい事気にしなくても良いか……。じゃあ使うぞ」
そう言ってカネゴンさんは再び魔力を注ぎ込んで囮人形を使う。もう何度も見た高木さん人形になったそれを送り出す。
『ギィー! ギィー!』
『クロロロロ!』
『ゴガァァァァァ!』
再び集中砲火を受ける黄金の高木さん。……今更だけど怒りすぎでしょモンスター達。
「よし、今のうちですね! 行きましょう!」
「カネゴン! さっきから思ってたがお前足遅いぞ!」
「痛風でしんどいんだ! 仕方ないだろ!」
私も別に早く走れる訳じゃ無いけど……私には魔法陣がある。事前に書いておいた羊皮紙に魔力を流して【
「今どのくらいですかね……!」
「道の途中を流れる私達の探索はCメロ手前。ここを抜ければサビとアウトロ。閉幕までは遠くは無いね……」
「そうですか! ありがとうございます!」
中間は抜けたらしい。段々と響木さんの言ってる事が分かるようになってきた。今後の人生で果たして役に立つのかな。
「……うん?」
背後から何かが煙になったような音がした。軽く振り向くと、高木さん人形が居ない。
「……あえ?」
大量のモンスターの注意を引き付けていた高木さん人形が、居ない。それはつまり、どうなるか──分かり切ったことだった。
『『『『『ゴギャバルバァァァァァァ!!!』』』』』
「ぎょわぁぁぁぁぁ!!!」
私の悲鳴と、モンスターの絶叫が混ざり合って鼓膜を震わす。背後から大量のモンスター達が追いかけてくる。走っても走っても振り切れない。
「ど、どどどどうしましょう! と言うかなんで!? 何で囮が消えたの!?」
「おいカネゴン! どう言う事だ! お前ちゃんと魔力込めたのか!?」
「や、やったわ! まるで私に非があるような言い方は……ん?」
カネゴンさんが自分の胸元を触る。見ると何か紙みたいなのが飛び出ている。走りながらもその紙は取り出されて開かれた。
【リーダーへ。一応予備としてもう1枚だけ懐に入れときますね。ただ材料足りなくて耐久性がかなりおざなりになってます。なので使う時は気を付けてください。まぁちゃんとしたやつ結構渡しましたし、まさか毎階層使いまくって枯渇するなんて事、リーダーともあろうお方がやらかすとは思いませんけどね!(笑)】
「非ぃあったぁぁぁぁぁ!!! この人ちゃんと見てなかったぁぁぁぁぁ!!!」
「何やってんだカネゴォォォン!!!」
「何だよもォォォ! 私のせいかよォォォ! そもそも封筒の中に入れておけよォォォ! 何変な気回してんだよォォォ!」
叫んだ所で状況は変わらない。追ってくるモンスター以外にも前方から足音が聞こえる。別のモンスターが来てしまった。
「どうしますか! もう倒すしか無いのでは!? 爆破して良いですか爆破! 爆ぜ散れしても良いですか!?」
「それでドロップしたら
「何だよ成金銭ゲバ! 痛風に【
「違うわ! 貴様、モンスターを攻撃しろ! 倒す訳じゃない! 足だ! 殺さん程度に移動手段を奪う分ならドロップはしないだろ!?」
「そうか! その手があったか!」
そう言って加藤さんは剣を抜いて追ってくるモンスターの群れに突っ込んでいく。巨大なクマみたいなモンスターの爪が振り下ろされるが見向きもせずに躱して両足を斬り飛ばした。当然足が無くなったモンスターはそのまま地面に倒れてもがくしか無くなる。
『グォォォォ!』
「おお! 死んでない! 死んでないぞ! 最初からこうすれば良かったんだ! ナイスだカネゴン!」
「よし良いぞ! そのまま追ってくるモンスターの足全部斬っておけ! それくらい出来るだろ!」
「任せろ! 全部ダルマにしてやる!」
大声で話している間にも6体ほどのモンスターを移動不能にしている。やり過ぎて倒したりしないよね……? 一先ず加藤さんを信じて走り抜ける。
「うわつっよ……やっぱり強さは狂気に付いてくるんですね……! くぅ〜早く気狂いになりたい!」
「ファッションか何かと勘違いしてません!?」
「憧れは止められないのです! やべー奴に早くなりたい! 特別感あって良いじゃないですか! 羨ましい!」
「それ絶対加藤さんに言わないでくださいね!? 言ったらビンタですからね!?」
「抜け出せない常識。普通と違う性質は眩しい。だがどこまで行っても隣の芝生は青々しい。普通は狂気を求め、狂気は普通を求める……ままならないね」
「ままならないのはこの状況だと思いますぅ!」
ひたすら走って走って走り続けて。それなりに距離を取れたかな。そう思い振り返ろうとした時──。
「──え?」
突然前方の地面が盛り上がる。なんの根拠も無い。でも、凄く嫌な予感がした。
「【障壁】!!!」
カネゴンさんが魔法を唱える声が聞こえたのと同時に地面が爆発する。周りの音が全く聞こえない。爆発の音が大き過ぎて聴力がおかしくなった……?
「うぐっ!」
体に重い物が当たったような衝撃を受けて漸く声が出た。壁にぶつかったみたいだけど痛み自体は無いし、怪我も無い。私を包んでいる【障壁】の魔法のお陰。そんな魔力の壁も私を守って役目を果たしたと言わんばかりに消えてなくなった。
「な、何が……」
砂煙で辺りがよく見えない。ゆっくり立ち上がると周りの砂煙が一気に吹き飛んでいった。勿論、私が風を起こした訳じゃ無い。
「◾️◾️◾️◾️◾️……」
「……ぁ」
私の眼前には巨大な一つ目。体の一部が水晶で出来ている巨人だ。周りの砂煙が吹き飛んだのは、このモンスターの鼻息だったみたい。頭部だけで私の身長を優に超えている。
「不味い! こっち見なさい! 【
モブみんさんが巨人の背中に魔法を放ち、それは爆発する。でも巨人は全く気にしていない。
「!? む、無傷!? 嘘ですよね!?」
「ぐっ……ソイツは【クリスタルジャイアント】! 恐らくこのダンジョンのボスだ! 物理にも魔法にも高い耐性がある! 貴様程度の魔法じゃ無理だ! おい女! 早く逃げろ! ソイツの攻撃は全て魔力の爆発付きだ! 死ぬぞ!」
そうだ、逃げないと。私なんかじゃ蟻と象だ。恐怖を押し殺して後ろに下がろうとしたら──。
「◾️◾️◾️◾️◾️!!!」
「────」
絶叫。耳の奥が地平線に行ったような感かくがして、うま、くかんがえれない。うまく、たて、な、────。
◇ ◇ ◇
「チィ! あまりの音量に
自分の目の前と女のすぐ背後にポータルを開き、手を突っ込んで引っ張る。ポータルから女を引き摺りだして様子を見るがぐったりした上に放心状態。【
「え!? カネゴンさん【
「自慢にもならんわこんなもん!」
「え、も、もん……門……」
「言っとる場合かぁ!!! 貴様は下がってろ! この女を連れてな!」
「おわぁ!?」
モブみんに女を投げ渡してクリスタルジャイアントの自分から視界に入りをヘイトを取りながら詠唱をする。
「◾️◾️◾️!」
「【魔拳】!!!」
魔力で出来た巨大な拳を虚空に生み出して放つ。現役時代に何度もモンスターを潰してきた魔法の1つ。倒せなくとも多少はダメージが入る。そう思っていた。
「◾️◾️◾️……」
「なっ……」
結果は無傷。全くの無意味な攻撃となった。確かにクリスタルジャイアントは魔法の耐性が高い。だが無傷はおかしい。なら理由は明白だった。
「(鈍りきっている……薄々気付いてはいたが!)」
魔法は自身の魔力をそのまま出す訳じゃ無い。どのように、どのくらいの威力で、効果範囲は、全て自分でイメージを持ちつつ発動しなければ碌な物にならん。そしてそれは慣れだ。一線から引いてダンジョンに潜らなくなって久しい私が、以前の様な威力の魔法を出せる訳も無い。無様過ぎる。
「(だがあの女を死なす訳にもいかん!)」
別に死んでも生き返るが、あの気狂いの態度からして明らかにあの女は奴の特別だ。もし死なせたとあれば何をされるか分かったものじゃない。最悪普通に殺されるかもしれん。
「(どうする。もうあの2人をさっさと先に行かせて……ダメだ。人1人担いで走り抜けられるほど、あのデカブツは間抜けじゃない)」
「◾️◾️◾️◾️◾️!!!」
「ぬぉぉぉ!?」
巨人はその巨体とは思えない身のこなしでこちらに飛び込んでくる。自分の鈍り具合からして直撃したら【障壁】を貼っても貫かれるだろう。当たる訳にはいかない。
「ちょちょちょ! こっちはダメですって! 加奈子さん居るのに!」
「なんだと!?」
体制を立て直しているとモブみんの声が聞こえる。どうやらあの巨人は最初に遭遇した者から潰したいみたいだ。振りかぶった拳が2人に迫る。
「【転門】!」
再び【転門】を唱えて2人をこちらに移動させようとする。……遅い! 遅過ぎる! 私はこんなに弱くなったのか!? 昔はもっと早く詠唱出来たぞ!
「【爆─「◾️◾️◾️◾️ー!!!」
モブみんの詠唱すら間に合わない。ダメだ、範囲も広過ぎるせいで避けようが無い。2人の潰され、爆発する未来が既にそこまで来ている──筈だったが。
肉が落ちる音がする。あの2人に迫っていた拳が幾多もの輪切りの肉塊となって地面に落ちた、巨人は何があったのか理解出来ていない。いや──。
「【極光剣】」
そもそも考える為に必要な脳が全身ごと真っ二つにされてる時点で、当然の話だった。
◇ ◇ ◇
「届いたようだね……」
「吟遊詩人、貴様、まさか加藤を呼んだのか!」
「私の音色はあの巨人には響かない。……だが、【凶戦士】には響いた。それだけの話さ」
「……要するに自分の攻撃は効かないからハープの音で遥か後方で戦っていた加藤に救援を頼んだという事か。爆発で吹き飛ばされてすぐにその考えに至る辺り、伊達にソロで探索者をやっていないか……」
「君も私の音色が分かるようになったんだね……」
「別に分かりたくないがな」
だんだん、まわりのようすが分かってくる。どうやら助かったみたい……? モブみんさんに支えられてる。放り出して逃げても良かったのに……変だけど優しい人だな……。
ゴトッ!
「! 不味い!」
カネゴンさんの声と同時に聞こえた何かが落ちる音。知っている、この音は……宝箱がドロップした音だ。また加藤さんが暴走しちゃう……止めないと。
「か、かとうさ──「加奈子さん! 大丈夫ですか!?」……え?」
加藤さんは宝箱に目もくれず、こちらに駆け寄ってきた。前に一緒にダンジョンに行った時は宝箱に飛び付いていたのに……。
「だ、大丈夫です……助けてくれてありがとうございます」
「無事で良かったです」
「……何だ、全然平気ではないか! 今までの苦労は何だったんだ!」
近づいてきたカネゴンさんの言う通り、加藤さんの表情は穏やかだ。も、もしかして……治ったの? ダンジョン中毒が治ったの!?
「加藤さん! 凄いですよ! 宝箱に全然反応してない! 治った! 治ったんです! 中毒完治! やった! やったぁ!」
「ず、随分嬉しそうだな貴様……」
「当然ですよ! ずっっっと加藤さん悩んでたんですもん! それが終わったんですよ!? 嬉しいでしょ!」
「いやなんか自分の事の様に喜んでいるからそう思ってな……」
「だって治すって! マトモになるって頑張ってたんですよ!? 色々やって空回りしてたけど……それも今日で終わり! 良かったですね、加藤さん!」
「無事で良かったです」
「……加藤さん?」
「無事で良かったです」
「は、はい。無事です。それもう3回目ですよ?」
「無事で良かったです」
「……おい、なんか様子がおかしいぞ」
「無ジで良かッたデス無事デヨ勝った出洲部時で予科ったDeath──」
「加藤さん!? 加藤さん!? 大丈夫ですか!? しっかりして!?」
「デデデデデデddddddddroドロドロドロドロップゥゥゥゥゥ!!!」
「加藤さぁぁぁぁぁん!?」
様子がおかしくなった加藤さんはその場に留まりながらも激しく震え始める。体の向きが宝箱の方に向いたと思ったらこちらに戻るを超高速で繰り返している。
「これは……成程。そう言う事だね」
「何がどう言う事だ!? 答えろ吟遊詩人!」
「彼は今、理性と狂気の狭間で踊っているんだ。さながら熱された鉄板の上でのタップダンス。熱から離れても鳥じゃない彼では鉄板からは逃れられない……それでも足掻き、正気の直立を目指しているのさ!」
「いや踊り過ぎですよ! 方向転換早すぎて足元から煙出てるんですけど!?」
「うわぁぁぁ! 発火したぁぁぁ! 燃えてるぅぅぅ!」
「お、おい女! 何とかしろ! このままだと周囲全部燃えるぞ!?」
「な、何とか!? 何とか、何とか……」
少なくともこのままだと加藤さんの人格が崩壊するかもしれない。止めなきゃいけない。そして私には……1つだけ方法が、ある。私にしか出来ない方法が。
「ああああああ!!! 何とかなれーーー!!!」
バシュンッ!!!
「プゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
妙な声を上げながら、私の矢を額に受けた加藤さんはその場に倒れる。10秒ほど経ったあたりでゆっくりと上体を起こした彼の目は瞳孔が開いていた。
「加奈子さん」
「……はい」
「無事で良かったです」
「……アリガトウゴザイマス」
これは完治に向かっているのかな。何だが悪い方向に進んで行ってないかな。結局加藤さんに矢を刺す事になった私は、未来に希望を持てなかった。
「……」
「おいモブみん。貴様さっきから黙っているが……本当にアレになりたいのか?」
「……今からでも真面目になれますかね」
「遅い事なんて無い。でも早ければ早いほど、道が変わるのも早いさ……」ポロロン