ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
「おはようございまーす」
ダンジョン清掃のバイトも結構慣れてきた。
今担当しているダンジョンは私と加藤さん以外にもギックリ腰をした人が戻ってきて、その3人で回している。
と言っても、階層がそんなに深くないダンジョンな上に踏破する人もそんなに居ない。
最初こそしんどかったけど、今ではたまに仕事を早く終わらせることが出来るくらいになった。
「あれ? あそこに居るのって……高木さんだ」
珍しい、確かにここは高木さんが管轄しているダンジョンの1つ。
でも基本的にここに高木さんが居る時は加藤さんが出勤してる時だ。
よく加藤さんをおちょくってぶっ飛ばされてるのを見ている。
まるで反省しない辺り、最早加藤さんに絡むのは習性なのかもしれない。
でも今は何故か机に座って頭を抱えている。
「高木さん、おはようございます」
一応雇い主だし、挨拶しておかないと。
そう思って声を掛けたのだが、ゆっくりとこちらに向けられた顔は──。
「たす、たすけて……首飛んじゃう……」
「埋葬直前!?」
死人のように青白い顔の絶望している高木さんだった。
……声掛けなきゃ良かったな。
◇ ◇ ◇
「やっと終わった……セラフィナ、お前壊し過ぎだろ。色んな意味で」
「ここまで散らかるとは思わなかったわ。悪りぃ」
バラバラになった御神体の掃除が終わった。
破壊された時の欠片があちこちに飛び散っていたので集めるのが大変だった。
こんな所でダンジョン清掃の経験が役に立つなんてな……。
「お疲れ様でした、では次はこちらです」
「まだあんの!? さっきのおっさんでお前のお願い終わりじゃねぇの!?」
「一体いつから、お願いがひとつだと錯覚していた?」
「なん……だと……」
「いや面倒くせぇよ、帰らせろや」
「まぁまぁそう言わずに」
「もうお腹いっぱいなんだよなぁ……」
「あれ? 朝食食べてましたっけ」
「そっちの意味じゃねーよ! バーカ!」
結局鶴岡の後ろについて行く。
移動していくほど周りの信者の数が段々と減って、最終的には俺達だけで廊下を歩いていく。
「ここです。入ったら閉める様お願いします」
鶴岡が開けたドアには地下に繋がる階段があった。
電球はついてるが、日光が入ってこないので薄暗い。
ゆっくりと階段を降りていくと、これまた扉があった。
しかし、今度のはとても頑丈そうな扉。
もしかして色的にミスリル製か?
「ここに何があるんだ?」
「どうしてもお2人……特に加藤さんには知っていて貰いたくて」
「は? 俺? 何で?」
「アタシは別に良いのかよ」
「ハハハ、言葉の綾ですよ」
重厚な扉がゆっくりと開かれる。
中はベッドや机など色々な家具が置かれているが、何よりも目を引いたのはその中に居た存在だろう。
「?」
「人間の子供? いや、違う様な……」
「察しがいいですね」
白い髪にこれまた白い肌。
まるですぐに消えてしまいそうな儚さを感じる少女に、鶴岡は近づいて行く。
「おはようございます、クォーツ。良い子にしていましたか?」
「! 〜♪」
「そうですか、それは何より」
言葉を発さずに喜びを表すクォーツと呼ばれた子供。
恐らく喋れないのだろう。
「食事ですよ、どうぞ」
そう言って鶴岡は何処からともなく鞘に収まっている剣を取り出した。
ぱっと見Bランクのそれを、クォーツは当たり前の様に受け取って抱き締める。
「な──」
そのまま剣は溶けるようにクォーツの体に飲み込まれていく。
程なくして剣は完全に小さな体に飲み込まれて消えてしまった。
「【道具喰い】か、そのガキ」
「流石に分かりますか」
「そりゃそんな芸当出来るのなんてそのくらいだろ」
【道具喰い】。体が魔力で構成されている非常に珍しい存在だ。
人か魔族か、はたまたそれ以外の何かか。
何処から生まれてくるのか、それすらもわかっていない。
普通の道具と違って、アイテムと呼ばれている物は魔力で構成されている。
【道具喰い】はそのアイテムを吸収する事でしか、存在を保てないのだ。
大昔から人族と魔族が争い合っていた理由の大半はアイテムの奪い合い。
低ランクの物でも、それなりの効果を発揮するアイテム等は争いの火種になり続けた。
そんな中、生きる為にアイテムを吸収するような存在が居ればどうなるか。
そんなのは、決まっていた。
「確か、発見次第討伐だったな……」
「人族側でも魔族側でも、共通認識で敵ですからね」
「過去にやらかしたらしいからな」
どんな個体であろうと即討伐。
法律で定められている程、【道具喰い】は世界の敵だった。
過去には大量に存在した【道具喰い】はダンジョンが生まれる前の時代、人族と魔族が少ないアイテムを奪い合っていた中、突然現れた彼らはアイテムを横から根こそぎ捕食した。
今程では無いにせよ、アイテムに頼っていた多くの国はその影響で滅んだと言われている。
故に狩られた。
仮に彼らが全くの無抵抗だったとしても。
「彼女、クォーツは道具喰いの中でも珍しい存在でして。Bランク以上のアイテムで無ければ吸収しても意味が無いのです」
「大方吸収効率が低いんだろうな、低ランクから効率よく吸えねぇから高ランクから少しだけしか取れねぇ」
「あー……て事は金が無いのって」
「はい、彼女の食事代です。現在の市場では高ランクのアイテムは流通量が少なくてその分金が必要でして。少し前までは蓄えで何とか回してましたが限界が来ました」
「だからいきなりサブスク始めたのか」
だとしても、もうちょい内容考えろや。
まだあの御神体フィギュア売ってた方が良いだろ。
「私個人でダンジョンに潜る事も考えましたが……」
「無理だな……お前サポーターだし。前衛いないとすぐ死ぬだろ」
「ええ、他の探索者を雇うのも考えましたが、私等のチーム嫌われ過ぎててダメでした」
「お、俺のせいだけじゃ無いぞ! 他の連中も同じくらいやらかしてたからな!」
「別に加藤の事を責めてないだろ」
「先に防波堤築いておかないと指摘の津波に流されそうで……」
最近俺の過去の悪行に打ちのめされているのである程度自衛しなければならないのだ。
……にしてもここでもアイテム不足の話出るかぁ。
「俺が辞めた程度でこんなに影響出るのかよ……」
「まぁアタシは加藤が居ねぇとやる気出ねぇし、それ無しでもシンプル前衛減るのしんどいだろ」
「加藤さんレベルで器用万能の前衛居ないんですよ。セラフィナさんは魔法使えないし、もう1人に関しては……」
「アイツに何かを期待したらダメだろ」
「まぁ……そうだな」
「強いは強いんですけどね」
スーパーウルトラ死にたがりマンを当てにしたらそのまま全滅だ。
アイツのせいで罠に巻き込まれて焼かれ死んだのは今でも許せん。
「で? 俺等にこの事を今更話したのは何故? まさか俺が居なくなってからクォーツを拾った訳じゃ無いだろ」
「どうしてそう思うんですか?」
「大事にしてるんだろ、その子。声色で分かるわ、優し過ぎんだよ。いつもの胡散臭さ消えてるぞ。そんな関係性が、俺が辞めた2年程度じゃ築けないね」
「凄いですね……急にマトモなリーダーみたいな事言い始めて」
「リーダーなんだよ一応!」
マトモかは審議入るかもしれないけど。
「彼女を拾ったのは今から大体5年前でしょうか」
「5年前って事は大体お前が俺等のチームに入ってから1年くらいじゃん」
「あん? 待てよ、その頃確かお前装備盗まれたとか言ってなかったか?」
「良く覚えてますね」
「……おい待て、当時お前が使ってた装備って確か最低でもA、最高でSSじゃなかったか?」
「はい」
「食わせたのか?」
「彼女を発見した時には既に存在が消え掛かっていました。消滅を防ぐには仕方なかったのです」
「じゃあなんだ? 俺達はお前が盗まれたとか言ってた装備はクォーツに食わせてたのに、俺等に嘘ついてお前の装備集めの為だけに死ぬほど周回しずらいクソダンジョンをマラソンさせられたのか?」
「その節はありがとうございましゴブォ!?」
俺は顔、セラフィナは腹。
同時に鶴岡に叩き込んだ拳はメリメリと音を立てた後、鶴岡は床に倒れ込んだ。
「騙しやがったな! おかしいと思ったんだよ! 高木の探知にも引っかからないし、オピスの魔眼にも映らないからさぁ!」
「クソボケが! お前頭イカれてんのか!」
「待ってください! 加藤さん、セラフィナさん、私達のチームの共通認識で【どんな物でも使う】と言うのがあるじゃないですか。あれを守っただけなんですよ。なので私は正常です」
「そうだな、異常なのはお前の頭の細胞配列だもんな」
「今すぐ綺麗に整頓してやるよ。道具無し、麻酔無し、技術無しのフルカスタムで高度なオペやってやらぁ」
「あれ? おかしいですね、お2人の言葉がどの言語で翻訳しても『お前を出来るだけ苦しませて殺す』にしか変換出来ないな。もしかしたら本当に異常があるのかも?」
「良かったな、聴力と言語能力は正常だぞ」
鶴岡を詰めているとふと、俺のジーパンを引っ張られる。
「……! ……!」フルフル
クォーツが足元で必死に首を横に振っていた。
やめてくれって事なのだろう。
セラフィナと視線を交わして共にため息をつく。
「今日は勘弁してやる」
「後で覚えてろよ」
「後回しになっただけですかね?」
「そのうちな」
俺等が鶴岡を攻撃しないのを察したのか。
半泣きだった顔を笑顔に変えて、鶴岡の側に近づく。
「♪♪♪」
「どうしました? ……あぁ遊んで欲しいのですか。ならそこの人達が遊んでくれますよ」
「俺達かよ」
「ここには基本私しか入れないので、クォーツは私以外と会う事が無いのです。なのでたまには他の人と遊ぶのも良いかなと思いまして」
「これがお願いか? さっきも聞いたが俺等にはクォーツの事教えて良いのか?」
「不用心なんじゃねぇのか? どうしても守りてぇんなら身内にも隠せよ」
「お2人なら大丈夫かなと。お願いします加藤さん」
「……分かったよ」
「チョロくて助かります」
「やっぱり今からオペ始めちゃおっかなぁ!?」
「ガキが見てない所でやれよな」
◇ ◇ ◇
神など居ない。
神父の親から生まれた自分は、幼い頃から確信していた。
信じる者は救われる、父はそう言った。
信者にそう言った。
道行く者にそう言った。
言い続けた。
【(ならば、何故あそこの人は震えている?)】
ダンジョンの普及は確かに世界を豊かにした。
だが、その豊かさを受ける事が出来なかった者も確かに居る。
その結果として貧困街があり、家なき者が道の隅で縮こまっている。
その事を父に伝えた。
すると父はこう言った。
【彼らも神を信じれば、神がお救いくださるよ】
理解出来なかった。
神なんて待たずに、今助ければ良いじゃ無いか。
そもそも居るなら早く救えば良いのに。
その事を伝えたが叱られてその場は終わった。
時が過ぎても私はずっと理解出来なかった。
父の後ろをついて行っても、別に助けない。
神を信じろと言うばかり。
信者もそう、腹を空かせている子供に食事を出すくらいできる余裕があるのに、やらない。
尋ねても返ってくる言葉は【神を信じなさい。きっと救ってくれる】だった。
どいつもこいつも神を信じろ信じろ。
目を背けているだけのくせに。
助けたく無いだけのくせに。
自分の下が居ないと安心出来ないだけのくせに。
本当に反吐が出る。
何よりもそんな連中と同じ自分が1番嫌いだった。
平等だ、平等にしなければならない。
神など居ない、居たらとうの昔にあの屋根なき子達は救われている。
変えなければならない、この世界を。
あらゆる者が笑顔で満たされた世界へと。
でもどうすればいい……?
そんな事を考えていたある日、たまたまダンジョン前で騒いでいる探索者が居た。
遠目から様子を伺うと、どうも捨て子とぶつかったらしい。
探索者は荒くれ者が多い、完全に捨て子を下に見て恫喝していた。
怯え縮こまる子供を見て、すぐに駆け寄ろうとした。
そんな時──。
【邪魔!】
【ゴバホ!?】
【……え?】
剣を携えた目がイカれてる青年が、子供を恫喝していた探索者をぶっ飛ばした。
突然の事に驚いていると、私の隣を2人の青年が通り過ぎる。
【ハァ……ハァ……ハァ……た、高木……入場料分は……!】
【無いでーす、今回ぜーんぶFランク! 残念!】
【うわぁぁぁぁぁ! そんな! もう潜れない!? 嘘だぁ!】
【ギャハハハハ! まぁそう言う時もあるわ! 切り替えていけ!】
【あぁ……潜らなきゃ良かった……アタックしなきゃ良かった……どうしてやってしまったんだ俺は……どうするんだ生活費……使い込んだらダメな金も入場料にしちゃった……】
【クソオモロいけど実際家賃とかお前どうするん? 借金?】
【その辺の当たり引いた探索者襲うか】
【負け過ぎて頭イカれちゃった、落ち着け落ち着け。お前のだーいすきなあのキャバ嬢に慰めて貰って来いよ】
【キャバに行く金すら無ぇよぉぉぉ!!!】
絶望し続ける青年とそれを見て笑う青年。
私の事を認識しておらず、そのまますれ違う。
だが私は絶望していた青年の言った言葉に天啓を受けたのだ。
当たりを引いた探索者、つまり富がある者。
そこから奪う……!!!
【そうだ!金に余裕のある人間から搾取して、恵まれない人々に分配しよう! これを広めれば、世界はきっと平等になる!!!】
どうして気付かなかったのだろうか、どう足掻いても人を救うのには金が要る。
じゃあ持ってる者から持ってない者に、金を移動させれば良い。無理矢理。
こんな簡単な事にも気付けないなんて、自分はなんて愚かだったんだ。
【そうと決まれば作りましょう! 新しい宗教を! 恵まれぬ人々に救いを与える宗教を!】
こうして私の活動が始まった。
しかし新たに宗教を作るにも金が必要だった。
故に──。
【初めまして、鶴岡と申します。強化魔法と弱体魔法が主なのでサポーターとしてですが……仲間に入れてもらえませんか?】
金稼ぎの為に、彼らの仲間になる事を選んだ。
どうせなら、この気づきを与えた彼の力になりたかったのだ。
「おい! おい鶴岡!」
「あ、はい。すいません何ですか?」
「さっきからクォーツとトランプしてるけどおかしいぞ! 何でロイヤルストレートフラッシュが3連続で出せるんだ!? 強運だったりするのか!?」
「いや〜いざという時に役に立つかなと思いまして、私の十八番を仕込んでおきました。今では私と遜色ないですよ」
「いやそれイカサマじゃねぇか」
「子供にサマ教えんじゃねぇよ!!!」
いずれ変わる世界でも、恩人の貴方には変わらないで欲しい。
貴方に探索者でいて欲しい理由は、それだけです。
鶴岡の年齢は29です