ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】   作:1パチより4パチ派

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パチスロ魔王さま!

 長い廊下を進む。

静寂の中、己の足音だけが反響して大きくなる。

窓から差し込む光は、ガラスに遮られて薄暗い。

誰かとすれ違う事も無く、目的の場所まで辿り着いた。

 

「失礼します」

 

 返答はない、いつもの事だ。

扉を開けて中に入る、広い部屋の奥では我らが王が背を向けて座っていた。

 

「王よ、人族の国の1つ、日本に視察に出るとお聞きしました」

 

「……ああ」

 

「それもルロ様と共に……今からでも遅くありません。お考え直し下さい」

 

「ダメだ、既に先方に伝えている。変更は出来ん」

 

「人族の国などと言う場所に行く事はありません! もし御身に何かあれば大変です!」

 

「だがなケルロス、これは儂が行かねばならんのだよ」

 

「我が王……何故そこまでして人族の国になど!」

 

「そんなの決まってい──あ、少し待て!」

 

「! まさか敵襲──!?」

 

 

 

!!!

 

 

「キタァァァァァァ!!!」

 

「いやスロットかよぉぉぉ!」

 

 煌びやかに光るパチスロの台、周囲を照らす大量の光。

こちらを振り向く王の顔は、興奮しきっていた。

 

「さっき中段チェリー来てたから来るとは思ってたけどやっぱこの演出たまんねぇぇぇ! 人族すげぇもん作るよな! ホント脳内ドーパミンが溢れてやべぇわ!」

 

「前に態々人族が城に入って来て何事かと思いましたが、まさかコレの為ですか!?」

 

「そらそうよ、メーカーの方に頼んで買わせて貰ったんだわ。これまだ世に出てない新台も新台だぞ! ヤバくね? 魔族の王で良かったー、特権使いまくりじゃんねこんなの」

 

「由緒正しい魔族の王の特権をこんなのに使わないで下さいよ!」

 

「こんなのとは何だ! 訂正しろ! こんなにも遊んでる奴の脳を抱きしめて離さないんだぞ! これもうランクSSSだろ!」

 

「これが国宝級のアイテムと同列な訳無いでしょうが! 釣り合わなさ過ぎて地面に天秤めり込んでますよ!」

 

「パチスロ側に?」

 

「アイテム側だよ!」

 

 話してる間にもスロットのボタンを押すのを辞めない我が王。

動きが既にプロのそれである、ふざけんな。

 

「と言うか気付かない間にどんだけ買ったんですか! 所狭しとパチンコとスロットが置いてるじゃないですか!」

 

「台自体はそんなに高くないんだよな、最近初めて知ったわ。新品でも安いやつなら5万とかだし。そりゃ買うだろ」

 

「遊んでないのに電源付けてるから完全にパチンコ屋の店内状態になってるじゃないですか!」

 

「このクソ騒がしい騒音の中で打つから臨場感が出て楽しいんだろ、分かってないなケルロス」

 

「分かりたくないですよ別に!」

 

「そうカッカするな、ほらこの台でも打ってみろ。楽しいぞツインエンジェル」

 

「この大量にある台の中から萌え系勧めんな!」

 

「儂まだ全員とデート出来てないんだよなぁ、ケルロスはどの娘が好きだ? 儂クルミ」

 

「知りませんよ! アンタの好みも聞いてねーし!」

 

「当たった時の曲が中毒性ヤバいぞ? てんてけてんてーん、フォッフォー!」

 

「ダメだこの王! 脳が完全にギャンブルに支配されている!」

 

 嫌な予感が一気に噴き出してくる。

まさか、まさかとは思うが……!

 

「王よ、今回の視察の目的ってもしかして……」

 

「新台入れ替えが丁度視察の日と被るから行ってみたくて」

 

「アンタマジふざけんなよ!? 自分の立場分かってます!?」

 

「いやほら、実機買って遊ぶのもすげー楽しいけどさ、やっぱり金賭けたいじゃん? 儲けた儲けないで一喜一憂したいじゃん? その気持ちに立場って関係無いよねって思う訳よ儂は。ワクワクを思い出すんだってアクア・ドルフィンも言ってただろ」

 

「人族っつーか日本のサブカルチャーに染まり過ぎでしょ! インターネットやめろ!」

 

「え!? それ超てんちゃんのネタやんw知ってる知ってるw」

 

「しかもニワカじゃねーか! 元の曲に『これ〇〇の曲だ!』ってコメントする奴と同レベル!」

 

「でも『まだ見てる人居る?』とか言う動画に1ミリも関係無いコメントする奴よりマシだとは思わんか」

 

「同じだよ! リザードンとバクフーンのステータス並みに同じだよ!」

 

 叫び過ぎて疲れて来た。

王は面倒そうな顔をして、漸くスロットを打つ手を止める。

 

「まぁ安心しろ、ちゃんと普通の視察もやるから。ダンジョンの様子も見たいしな」

 

「……先程も言いましたが、私は反対です。人族の連中は個人的に好かないのもありますが、王とて過激な愚か者共を増長させる可能性が高いのは分かっているでしょう」

 

「まぁそうだな」

 

「そこにルロ様まで連れて行くなど……態々隙を晒す必要が何処にあるのですか」

 

「ルロは現状この城と城下町にしか出た事がない、そうだな?」

 

「勿論、姫ですから」

 

「現状人族の国に魔族が住む事は多くあれど、その逆は無い。あまりにも環境が違うからな……故にルロはまだ人間を見ておらん。魔族の次の王になるのに、人族の事を見た事もない状態で、友誼を結び続けれるか?」

 

「……それは」

 

「ケルロス、儂はもうあの争いに疲れた。ひたすら殺して殺されて、何体の魔族が死んだ? 何人の人族が死んだ? そして得られた物は何だ? ほんの僅かなアイテムと大量の死と嘆きか? それらは本当に価値があったのか?」

 

「……」

 

「あれを繰り返したく無いのだ。理解をする必要は無い、だが許容せねばならない。相手の存在を。その為の社会勉強と言うやつだ」

 

「王よ……」

 

「分かってくれたか、ケルロスよ」

 

 

 

 

 

 

 

「パチスロしたい為にルロ様をダシにするのはお辞め下さい」

 

「畜生! そこは騙されておけよ!」

 

 何百年の付き合いだと思ってんだ馬鹿野郎。

 

 

◇ ◇ ◇

 

「さて、高木への復讐もこんくらいにするか」

 

「う、うぼあー……」

 

「これに懲りたらお前も新品のギアススクロール探せよ? 流石にこれからずっとギックリ腰と付き合うの嫌だろ」

 

「そ、それだけは断る……例え一生ギックリ腰に苦しもうとも、お前を探索者から逃しはしない……!」

 

「絶対その執念は別の場所で使うべきだろうが!」

 

「俺の覚悟を舐めるなよ加藤……! 何処まで逃げようとも必ず縋りついてやる……! お前の発狂姿を見続ける為に!」

 

「最早コイツがSAN値ゼロだろ! 不定の狂気発症してるって!」

 

「高木さんって昔からこんな感じなんですか?」

 

「そうだぞ、キメェだろ」

 

「変わらないですねぇ、実家のような安心感があります」

 

「恒例行事なんだ、これ」

 

 縋り付いてくる高木を剥がすのに四苦八苦しているとドラツさんが書類を渡してくる。

どうやら視察に関しての書類の様だ。

 

「1週間後か……」

 

「はい、日程としましては2日間。初日は接待、2日目に視察をメインの流れに持っていきたくはあります。あくまであちら側の希望が無ければですが」

 

「魔族の王が酒飲むのかは知らないけど、飲むとしたら娘の方は夜暇になるな」

 

「その辺少し考えておく必要があるかもしれませんね」

 

「考えるつっても何をどうすんだよ」

 

「王の娘って何が好きなんだ? 誰かなんか知らないか?」

 

「さぁ……殆ど表に出てこないらしいので……」

 

「箱入り娘と言うやつでしょうか、ならマックとかに連れて行けば感動したりしません?」

 

「そんなお嬢様にジャンクフード食わせたらめっちゃ喜ぶみたいなの成功する訳ないだろ」

 

「まず幾つなんだ?」

 

「さぁ……」

 

「何もわかんねぇ!」

 

 こんな状態でどうしろと言うのだ。

何も分からない相手を持て成すってめちゃくちゃ難易度高いだろ。

 

「加奈子さんどうしたらいいと思います?」

 

「あれ? もしかして私も既に頭数に入ってたりします?」

 

「嫌なのか?」

 

「嫌ですよ! 私なんか居たところで何も出来ませんし!」

 

「でも加奈子さん居ないとマトモ枠が居ないし……」

 

「いや加藤さんマトモ枠になりたいなら頑張ってくださいよ!」

 

「コイツら全員の暴走止めるなんて俺には出来ない!」

 

「リーダー仕事して!? 兎に角そろそろ休憩時間も終わりますから、私はこれで──」

 

「ドラツ、加奈子さんの給料2倍で」

 

「はい、今月の分から上げておきます」

 

「頑張って視察に来る2人をおもてなししましょう! 私達ならきっと何とかなります!」

 

「変わり身早かったな」

 

 結局来てからその場その場で対応すると言う事になった。

何も無く終われればいいが……。

 

◇ ◇ ◇

 

 視察の日、転移魔法を起動して予定していた場所に向かう。

 

「王よ、お願いですからパチスロは考え直してくれませんか?」

 

「あー検討しとく検討検討、これで良いか?」

 

「絶対行くじゃないですか! 貧乏揺すりヤバいし! 禁断症状出てます!?」

 

「よし、ルロよ。準備はいいな」

 

「うん……」

 

「ルロ様、どうかお気を付けて。王がそこら辺の人族程度に手を焼く事は無いとは言え、警戒する事に越した事はございません」

 

「分かった。ケルロス、あまり心配しないで。大丈夫」

 

「大丈夫大丈夫、さーてどの店から行こっかなー」

 

「頭痛くなって来た、王よ! 本当頼みますよ!?」

 

「地味に持ってない北斗から打とうかなー」

 

「聞けやギャンカス王!」

 

 怒るケルロスを無視するお父さん。

前に人族からぱちすろって言うのを貰ってから、変わっちゃった。

今じゃ毎日毎日うるさい部屋ですろっとをやってる。

……あまりお話し、しなくなっちゃったな。

お父さんが開いたゲートを通る。

暗い闇の中を通ってすぐに明るい光が私たちを照らした。

 

「さて、確かここだったが……お、お主か? 儂、魔族の王だけど」

 

「お待ちしておりました、ようこそ日本へ。お2人を心より歓迎させていただきます」

 

 おっきな尻尾と羽のメイドさん。

確か竜人族って言う人族だ、本で見た事ある。

 

「いやーこんな所によく来てくださりました。あ、肩でもお揉みしましょうか? へへへ」

 

「ん? あーそんなに下手に出なくても良いぞ。割と無理を言ってる自覚はあるしな。多少は無礼講よ無礼講。それより早速行きたい場所があるのだが良いか?」

 

「行きたい所ですか?」

 

「新台入れ替えって今日だよな?」

 

「……成る程! 分かりました! 娘様は……」

 

「ルロ、お前は適当に人族を見て回らせてもらえ。社会勉強社会勉強」

 

「うん、分かった……」

 

「……では、姫様。護衛の者が待機していますのでそちらに」

 

 ツルツル頭の人間と話してるお父さんから離れてメイドさんに着いて行く。

着いて行った先には人族が4人……1人魔族の気配、ハーフサキュバスかな……?

 

「姫様、こちらが今回の視察中の護衛の者で御座います。『腕』は非常に立つ者達ですのでご安心ください」

 

「まるで他が全部ダメみたいな言い草ですね」

 

「詐欺師と元キャバ嬢とフリーター2人だから今更だぞ」

 

「一緒にするの辞めてくださいよ!」

 

「事実だろ、諦めろ加奈子」

 

 ……確かに強そう、少なくともケルロスが戦ったら一瞬で負けそう。

でも、お父さんには勝てない。そのくらいの強さ。

 

「初めまして……私、ルロ」

 

「あーどうも、加藤です。こっちは仲間のセラフィナと鶴岡。そんで普通の人の加奈子さん」

 

「普通の人ってそれ褒めてます?」

 

「めっっっっっちゃ褒めてる、マトモさだとこの中で1番だし。2番は俺だけど」

 

「まぁアタシより1つマトモだからな、褒め言葉だろ」

 

「マトモと言ったら加奈子さん、次に私。オセアニアでは常識ですよ」

 

「全員他のメンバーより自分はマトモだと思ってる! あまり言いたく無いけど大して変わらないですよ!」

 

「「「マトモって意味?」」」

 

「逆ですよ逆!!!」

 

 1人、凄く弱いのに仲良くお話ししてる。

友達なのかな、良いなぁ……。

 

「あー、それでルロ……様はどこか行きたい所とかあります?」

 

「行きたい所……? 何があるのか分からない」

 

「じゃあまずはロッテリアで腹ごしらえするのはどうですか?」

 

「お前まだジャンクフード食わせるの諦めてないのかよ」

 

「いや単に私がポテト食べたいだけです」

 

「スーパー行ってアンパンマンポテト食ってろや」

 

「……」

 

 何処に行けば良いんだろう、変に出かけないで大人しく待ってようかな。

お父さんも明日になったら視察終わるし……。

 

「……ルロ様」

 

「えっと……加奈子? だっけ……?」

 

「はい、加奈子です。よろしくお願いします。行きたい所が無いなら、私が良く行く様な場所に行きませんか?」

 

「? ……それで良い」

 

「それじゃ行きましょう! 皆さんもそれで良いですか?」

 

「まぁ……良いって言ってるしな」

 

「んで? 何処に行くんだよ」

 

「私がよく行く場所……それは大型商業施設です!!!」

 

「イオンだろそれ」

 

「良いじゃないですかイオン! さぁ行きましょう!」

 

「うん……」

 

 そう言って加奈子って言う人間が、手を握ってくれた。

驚いたけど……何だろう。

少し、嬉しい。

 

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