ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
「着きました! ここがイオンです! 昔っからよく来てるんですよ」
「イオンなんて全然来ないなぁ、人多いと疲れない?」
「土日なんか人でギッチギチだしな」
「うーん、行き交う人々皆楽しそうですねぇ。その幸せはいずれ持たざる者に分ける事になりますよ」
「あの、何かヤバいこと言ってる人が居るんですけど、どうしたらいいですか?」
「口にポテトでも詰めとくか、セラフィナ」
「おう、オラァ!!!」
「喉奥ポテト剣山!?」
「……口からポテト生えてる」
途中で鶴岡さんがうるさかったのでモスバーガーに寄りつつも、何事も無くイオンに着く事が出来た。
仕事の方は高木さんが無理やりダンジョンを休業させる事で休みを取れた。
本当はダメらしいんだけど……魔族の王様が来てるし、仕方ないよね。
「そんでどうすんだ? まさかプラプラ回るだけで終わんのか?」
「まさか! 今日はいくつもイベントがあるんですよ!」
「……確かにイオンって行けば何かしらやってるイメージあるな」
「大型商業施設ですからねぇ、常にある程度の集客が出来てないと一気にガタが来ますから、その対策かと」
「? ポテトでいっぱいなのに、どうやって喋ってるの?」
「ルロ様、あまりコイツに構わない方良いっすよ」
「酷いですね、これは孤児院の子供達を笑わせる為に会得した腹話術ですよ。声を遅れて聞かす事もできますよ」
「こんな胡散臭いいっこく堂が居て良い訳無いだろ」
「頑張れば教育番組に出れたりしますかね?」
「お前が出て許されるのは朝の報道ニュースな、まぁ出る時は世間から許されて無いけど」
「話脱線し過ぎでしょ! ほら、丁度今イベントの1つが開始しそうだから行きますよ!」
ルロ様の手を繋ぎながら歩き出す。
イベントの場所は1階の中央、少し行けば着ける距離だ。
「そのイベントって何やってんだ?」
「えーっと、何でも書いた絵を3Dにして巨大スクリーンに移せるみたいです!」
「……え? それだけ?」
「まぁ無料ですし……最悪誰かが書いてるの見るだけでも良いかなって……」
「ルロ様がそれで楽しめるのかって話では無いですか?」
「う……ル、ルロ様、嫌ですかね……?」
「……ない」
「? 何がっすか?」
「絵、描いたことない」
「え」
「今のわざとか?」
「違いますよ!!!」
絵を描いた事が無い。さっきここまで来る際年齢とかを聞いたけど、ルロ様は今8歳。
そんな歳の子が、絵を描いた事無いなんて……。
「普段何してるんすか?」
「本読んでる、ずっと」
「漫画とかでしょうか?」
「ううん、歴史とか法律の」
「……なんか、遊んだりしねぇのか?」
「しない、よく分からないから……」
「おおう……」
確かに、魔族の王の娘なら将来は魔族のトップに立つ訳で。
幼い頃から勉強をしなければならないのは間違っては居ないけれど……。
そう思ってると、鶴岡さんが指を立てながら話し出す。
「それでしたら、生まれて初の絵を描くと言うのも良いのでは」
「良いと思います! 折角ならやった事ない経験をした方良いですよね!」
「何を描けば良いの?」
「好きに描けば良いんじゃねぇの? 適当にさ」
「取り敢えず移動するか……変に混み合ってもアレだしな」
イベントの場所まで行くと、チラホラと椅子に座って絵を描いている子供が居る。
皆、親御さんと一緒だ。
「奥の方空いてるな、あそこにするか」
「そうですね。ルロ様、それで良いですか?」
「うん、良いよ」
「特に受付とかは必要無いようですねぇ」
「机に全部置いてるみたいだぞ」
白い長机の上には画用紙と色鉛筆やクレヨンなどの色鮮やかな画材が置いてある。
他の子供達を見ると、皆好きな色を好きなだけ画用紙に塗りたくっている。
「……それで? 何描くんだ?」
「好きな物……思い付かない」
「好物とか無いんですか?」
「出された物食べてる……」
「良い事なんだが……どうするか」
「私に任せてくだ「「「やだ」」」……まぁまぁ、聞いてください。流石に話してる最中に打ち消し飛ばされたらコンシードせざるを得なくなりますので」
「アグロで顔面崩壊されるよりマシだろ、ありがたいと思え」
鶴岡さん、物腰は凄く柔らかいんだけど本当に胡散臭い。
糸目なのもあるけど、もう声が胡散臭い。
絶対何処かで裏切りそうな声してる。
「私自身、孤児院を運営していたり、宗教の方で信者の方のお子さんを預かったりするのですが……その際に保父の様な事をしています。なので絵なども多少心得がありますよ」
「面倒見てるのもっと歳低い子供だろうが……まぁ今回に限って言えば適任……かもしれないな」
「大丈夫かぁ? 詐欺岡の事だから魔族の姫から金巻き上げるとか考えて、変な契約書書かせるとかしねぇだろうな?」
「信用無さすぎますね、流石に泣いて良いですか? あと子供相手にそんな事しませんからね?」
「まぁそこまで言うなら、鶴岡さんに任せましょう!」
「はい、任されました。ルロ様、不肖ながらこの鶴岡がレクチャーさせて頂きますね」
「うん、分かった」
「まずはとても簡単な絵から描きましょう。クレヨンだけで描ける物ですから誰でも描けますから」
鶴岡さんが教えながらルロ様が画用紙にクレヨンを走らせる。
あまり表情が変わらないからあれだけど、少し楽しそうな雰囲気を感じる。
「……にしても目立つなぁ、俺ら」
「姫さんがクソ目立つからな、お忍びになってねぇぞこれ」
「この辺魔族の人少ないですもんねぇ……余計に目立っちゃいますね」
今回護衛という事で加藤さん達はフル装備だ。鎧を着ていたり剣を携帯している。
鶴岡さんだけはいつも通りだけど、彼はサポート魔法中心だから問題ないとか。
イオンの中にこれからダンジョン潜るような見た目の人が居るだけで目立つけど、何よりも目を引いてしまうのはルロ様の容姿だった。
素人目から見ても凄そうなローブを羽織ってるアメジストの様な色の長い髪の小さい子供。
何より角、こめかみの上あたりより生えて後ろに伸びている立派な角は非常に目立つ。
魔族には沢山の種族が居るけど、これだけの角を持った種族は非常に少ないらしい。
そんな子供がフル装備の探索者を護衛にしている、そりゃ目立つよね……。
「少しでも楽しんでくれれば良いんですけど……もっと遊園地とかにするべきだったかな」
「流石に離れすぎるんでダメっすね、まぁ何とかなるでしょ」
「あんま気にすんな、ぱっと見割と楽しそうだしよ」
「……そうですよね、うん」
「出来た……!」
そんな話をしていると、どうやら絵が出来上がったみたい。
簡単な絵と言ってただけあって、数分で完成している。
「うまく出来た?」
「おお! これは素晴らしい! 赤色が実に映えてますね」
「へぇ! どんな感じですか? 見せて下さい!」
描かれた絵は、真っ赤な長方形に左上に黄色い⭐︎と☭が……。
「いやアカ過ぎるでしょぉぉぉ!」
「……アリか?」
「ナシでしょ!」
「でも初めて描いた絵にしては上出来だろ」
「これが子供が初めて描くのに相応しい絵ですか!?」
「加奈子さん、何故そこまで怒るのですか? こんなに素晴らしい絵はそうそうありませんよ」
「思想強っ! 台詞赤っ! 良いから早くその両脇の特殊タグ外してきて下さい!!!」
結局無難にりんごの絵とかドラゴンフルーツの絵とかに変更させる事になった。
……まだ赤引きずってるなぁ……。
◇ ◇ ◇
絵もそれなりに描いた後、加奈子さんがスマホで今日行われるイベントの確認をしていた。
「えーっと……あと少しで外でヒーローショーがあるみたいですね」
「ヒーローショー? それは何?」
「え、えーっとヒーローショーってのは……わ、悪者をかっこいい人が倒す! ……みたいな?」
「実際何も知らない人に教えるってなると難しい概念だな……」
「姫さん、本読んでるなら絵本とか読まねぇのか?」
「あまり……勉強には必要無いから……」
「もっと遊んだ方良いっすよ、親父……魔王様もきっとそう思ってますって」
「……そんな事ない」
「え……?」
「……何でもない、ヒーローショーって言うの、見たいかも」
「なら見るべきでしょうね。加奈子さん、時間の方は後どのくらいですか?」
「あ、はい。後10分くらいで始まっちゃいますね」
「なら早めに移動しとこうぜ、絵と違ってそっちは混みそうだ」
「そうだな……あ、俺トイレ行ってから向かうわ。すまん」
「分かりました、外の特設ステージですのでそこにお願いしますね」
「はーい」
早足でトイレに行って用を足す。
幸いタイミングが良かったのか、並ぶ事もなく済ませる事が出来た。
「さて、早く合流を……」
ふと視界の端に自販機が目に付いた。
そう言えばここに来てから結構経つが、何も飲んでいない。
意識した途端に喉が渇き始める。
人間の体は不思議なもんだ。
「……まぁ1本飲み切るくらいなら時間あるしな」
自販機に近づいていつも飲んでいるコーヒーを買う。
下の取り出し口からコーヒーを取り出したが、手が滑って落としてしまった。
「やべ、炭酸じゃ無くて良かった──」
落としたコーヒーはコロコロと転がって行ってしまう。
早く拾わないと。
そう思い近づく前に何故か立てかけてあった掃除用のモップに缶コーヒーがぶつかった。
「あ」
モップはそのまま倒れて、近くのテナントが出していた立て看板にぶつかる。
更にその立て看板が倒れて、キャラクターが描かれた大きいスタンディパネルにぶち当たる。
「え?」
スタンディパネルも当然倒れて、これまた何故か落ちていた大きなスーパーボールにぶつかった。
スーパーボールは衝撃を受けて大きく弾んで空に舞う。I can fly!
そのまま宙吊りに吊られていた装飾に当たる。
装飾は繋がって1本になっていたらしく、スーパーボールの衝撃で一部が落ちたせいで、落ちた箇所から一気に全部下に落ち始める。I can fall!
「は?」
装飾はドミノ倒しの如くどんどん落ち始めて遂には先で繋いでいた照明まで落ちる。
俺の場所から50mは離れた箇所に落ち始める照明の下には──。
「よし! ヒーローショー頑張るぞー!」
これからヒーローショーでの仕事が有るのだろうか。
あまり見かけない衣装を着ている男性が居る。
当然、落ちてくる照明に気付くわけも無く──。
ガシャァァァァァァン!!!
「ぐぎゃぁぁぁぁぁ!」
男性の頭にクリーンヒットした。
そのまま男性は床に倒れて動かなくなった。
「イヤァァァ! ヒトコロスイッチィィィィィィ!!!」
何という事でしょう、あり得ないような偶然と偶然がかけ合わさった結果とんでもない事が起きてしまった。
こんな匠が居るなら今すぐ存在をリフォームするしかない。
すぐに駆け寄って壊れた照明を蹴飛ばして男性を助け出す。
「しっかりしろぉぉぉ! 何だよ今の! Anotherじゃねぇんだぞ!」
「」
「
幸い心臓は動いてる為、一命は取り留めそうだ。
だが回復魔法はあくまで傷を癒す物、意識を取り戻す訳じゃない。
当然男性は気を失ったままである。
「え? これ俺悪いの? 嘘だろ? 最早悪いのピタゴラスだろ。何が『あらゆる物事には数が内在している』だよ。内在してるせいでこの惨状じゃねぇか。三角定規で顔のパーツ全部直角90°にしてやろうかクソが」
混乱し過ぎて自分でも訳分からん事を口走る。
やばいどうする、取り敢えずこの人を近くのベンチに座らせて、その後係員呼んで……。
「ん?」
床に男性の持ち物が散乱している。
その中に台本の様な物があった。
その表紙には『ヒーローショー(主演用)』の文字が。
「……え? この人もしかしてヒーローショーのヒーロー?」
確かにさっきヒーローショー頑張るぞとは言っていたがまさか主演?
いや10分前ならこんな所に居るんじゃねぇよと思わんでも無いが、そんな事は重要じゃ無い。
今大事なのは、ヒーローショーなのにヒーローが居ない事だ。
当然そんなものはヒーローショーでも何でも無い、間違いなく中止だろう。
姫様が見たいと言ったヒーローショーが中止、つまり──。
「こ、このままだと──」
【うえ〜ん! お父さ〜ん! クソ人族共が私にヒーローショー見せてくれないよぉ〜!】
【しょうがないなぁルロ太くんは。はい、白い手袋〜! 全面戦争じゃ人族共が】
「やべぇぇぇ!!!」
まずい、このままだと泥沼の戦争が始まってしまう。
そしてそれは俺の所為になる。
いや、俺の所為では無い、無いけど冤罪を着せられる。
間違っても俺の所為では無い!
「な、何とかしないと……何とか、何とか……!」
もう時間が無い。皆と別れた時点でヒーローショーまで残り10分。
当然トイレや今のヒトコロスイッチの所為で更に時間は減っている。
どうする、どうする──!?
「……あれは」
焦りまくってる俺の視界に映ったのはパーティー用品が売ってあるテナント。
その中にはいくつか、コスプレに使うような物が置いてある。
顔を全部覆うヘルメットや、ダークヒーローの様なライダースーツ。
「…………」
俺は数秒の逡巡の後、そのテナントに走って行った。
◇ ◇ ◇
「加藤さん来ないですね……」
「何だよアイツ、糞か?」
「あのセラフィナさん、あまり汚い事を言うのは……」
「ハハハ。無駄ですよ加奈子さん、セラフィナさんが自身の口を改めた事なんて1度もありませんから」
「ルロ様が居るんですよ! 今くらい我慢して下さい!」
「姫さん、アタシの口調直した方良いか?」
「? よく分からないから……変えなくて良い」
「良いってよ、魔王の娘の許可貰ったから問題ねぇな」
「分かってないだけじゃないですか!」
「まぁまぁ、もうそろそろ始まりますよ」
来るのが少し出遅れた所為で私達の立ち位置はかなり後ろになってしまった。
幸い踏み台を置いてくれているので、ルロ様が見えないと言う事は無さそうなので安心。
『お待たせしました! ヒーローショー開始の時間でございます!』
ステージのお姉さんがマイクで元気よくオープニングトークを始める。
慣れてるのかな、凄くハキハキしてるしトークも面白い。
だがこれはヒーローショー、本題はここから。
『ホーッホッホ! 大人しくするんだよぉ!』
『キーーー!』
『キャァァァ! 助けてぇぇぇ!』
「捕まっちゃった……どうするの?」
「ここからヒーローが来るんですよ!」
「ヒーロー……」
司会のお姉さんが捕まって、怪人が手下達を使って周囲の子供達を脅し始める。
怪人もその手下も全員魔族の人達だ、非常に役にハマっている。
そんな中、司会のお姉さんがマイクでこう叫ぶ。
『助けて、ヒーローォォォ!』
「さぁ来ますよ!」
「うん……」
司会のお姉さんが助けを求めると──。
『そこまでだ!!!』
聞き覚えがあり過ぎる声が聞こえた。
「「「…………は?」」」
「?」
遥か後ろからした声の主は、凄まじい跳躍力で観客達を飛び越えてステージに降り立つ。
観客は当然として、スタッフや役者の人達も唖然としている。
『……え? 誰?』
『な、何だお前!?』
『誰だよお前!?』
『こ、コラ! キャラ崩れてるよ!』
『あ、キーーー!』
こんな時でもキャラを保とうと努力する彼女達は間違いなくプロの鏡だと思う。
そんなプロ達を困惑させる張本人は、フルフェイスの黒いヘルメットにアメコミヒーローの様な黒いライダースーツ。
スーパーウルトラ不審者の見た目のその人はどこから手に入れたのか分からないピンマイクに声を入れる。
『助けを求める声がする……助けを求める手が伸びる……誰もその手に触れないのなら! この俺がその手に触れてみせる!!!』
仮面ライダーの様な決めポーズして、こう叫んだ。
『おさわりマン、ここに参上!』
「何やってんですかあの人はぁぁぁぁぁ!!!」
そこには私の恩人(一応)の加藤さんが、何故かおさわりマンを名乗っていた。
「おさわりマン……!」
「おい、姫さんがめっちゃ目を輝かせてるぞ」
「初めてかっこいい物を見たような顔ですね」
「あんなんがヒーローな訳無いでしょうがぁ!」