ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】   作:1パチより4パチ派

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王は人の心が分からない


届かない想い

 

 ゴトン

 

「また落ちた……!」

 

「お願いしますよセラフィナさん! 絶対離したらダメですからね! ルロ様に開けさせるんですからね!」

 

「あああああああ開けさせてくれぇぇぇぇ!!!」

 

「分かってるよ! 加藤! 今回の探索では諦めろ!!!」

 

「宝箱ぉぉぉぉぉあけたぁぁぁい!」

 

「……加藤、開ける?」

 

「ルロ様ダメです! 甘やかして餌与えないで下さい!」

 

「獣みたいな扱いになってきましたね」

 

 加藤さんを撃ち落としてから2時間ほど経った辺りだろうか。

あれからはもう彼の事を一切信じずに、セラフィナさんに取り押さえてもらう事にした。

本人は『もう一度チャンスください!』って言ってたけど普通に無視した。

 

「……! これ……」

 

「あ、それは『息災のネックレス』っすね。ランクは確かSだったかな」

 

「うわぁ! 急に落ち着かないで下さいよ!」

 

「相変わらず中身に興味ねぇなお前」

 

「演出見せないよう視界を封じてた甲斐がありましたね」

 

「どんだけ自分で開けたいんですか……」

 

「何て情けないだろうとは思ってますよ。誰かカスの俺を殺してくれねぇかな」

 

「役所に行ってセラフィナさんと婚姻届でも出してくれば良いのでは? 式執り行いますよ。ウチの教会で」

 

「それは人生の墓場だろ! 誰が美少女フィギュアが御神体の教会で式あげたいと思うんだバーカ!」

 

「なんだ、アタシじゃ嫌か」

 

「? 加藤、セラフィナと結婚するの?」

 

「しません。沼から俺は抜け出したいのに阻止してくる奴なんて嫁に出来るか」

 

「でも本気で追い出そうとしてないですよね? 仕事の時毎回お弁当作ってもらって来てるし」

 

「どうしますルロ様、まだ潜りますか? ここで出るアイテムってランクSが関の山ですけど」

 

「目が泳ぎすぎて地平線の彼方に消えていってますけど」

 

「あのまま地球一周するんじゃねぇか?」

 

 ルロ様は少し考えた後、満足そうにネックレスを胸に抱き締める。

 

「……これの効果って、何?」

 

「えーっと確か装備すれば毒、瘴気、病気完全無効じゃなかったっけ?」

 

「あれ? 呪いは無理でしたっけ」

 

「呪い無効は確かSSランク辺りのアイテムじゃないと付いてねぇだろ」

 

「だから呪いは強いんだよなぁ……無効手段無さすぎるわ」

 

「加藤さんそんなやばい物を高木さんにかけたんですか?」

 

「あれに関しては積み重なった怒りが爆発しただけです。普段はやらない、筈」

 

「……これあればお父さん、喜ぶかな……?」

 

 期待と不安が両立した顔を浮かべるルロ様。

加藤さん達と軽く目を合わせて頷く。

 

「勿論! きっと喜んでくれますよ!」

 

「王が病気になったら大変だしなぁ」

 

「姫さん、今から撫でられる準備しといた方良いんじゃねぇのか?」

 

「撫でられすぎて擦り切れたら大変ですからね」

 

「……うん! うん! 早くお父さんに渡しに行く!」

 

「じゃあテレポ石持ってきてるんで、外に出ますか」

 

「あ、待って」

 

 加藤さんが脱出の準備をしていると、ルロ様が手に入れた複数のアイテムを漁り始める。

 

「はい、これあげる」

 

 その中の1つを加藤さんに手渡した。

確かAランクの『攻刃の指輪』って言ってたっけ。

付けるとシンプル攻撃力上がるアイテム。

 

「……これルロ様が手に入れたアイテムだから無理しなくて良いっすよ」

 

「ううん、良いの。加藤にあげる」

 

「はぁ、そう言う事なら……」

 

 加藤さんは若干困惑しながら受け取ろうとするが、直前で動きを止める。

 

「あー……成程ね?」

 

 どこか納得したような顔をした加藤さんに首を傾げていたが、ルロ様を見るとその理由がわかった。

 

「…………」ウズウズ

 

 期待一色。何かを待っているような顔。

数時間前の加藤さんの発言からして、きっとそう言う事だろう。

 

「……フー……よーしよしよしよしよしよしよしよし! いやーマジありがとうございます! 家宝にするっすわ! こんなに良い物くれるなんてなぁ!」

 

 一息付いてからルロ様の頭撫でまくる加藤さん。犬かな?

何にも知らない人からしたら、不敬と思われても仕方ないかもしれない、が──。

 

「嬉しい?」

 

「嬉しいっすよ! ええ! マジマジ!」

 

「んふふ……偉い?」

 

「偉いも偉い! こんなに良いアイテムを俺にくれるなんて太っ腹が過ぎますわぁ!」

 

「そう……? 良かった」

 

 目を細めて嬉しそうに撫でられまくるルロ様。

まぁ言い出しっぺですもんね加藤さん。

沢山褒めてあげてください。

だから──。

 

「セラフィナさん、眉間の皺戻してください」

 

「………………別に何もねぇよ。ガキに嫉妬する訳ねぇから」

 

「(説得力無いんだよなぁ……)」

 

 キレてるセラフィナにビクビクしながら、ルロ様が撫でられ終わるのを待っていた。

 

◇ ◇ ◇

 

 ダンジョンから出ると、もう既に日が沈み始めていた。

時計を見ると18時。まだ春だから昼がそこまで長く無い。

 

「確か泊まる所って中央のクソデカホテルだよな?」

 

「ええ、あの資本家連中が踏ん反り返っている場所ですね」

 

「今そう言うの良いから。じゃあルロ様送って行くか。魔王様がどこいんのか分からんけどその内帰ってくるだろ」

 

「そうですね。ルロ様、それでも良いですか?」

 

「うん、大丈夫」

 

 今日の朝会った時よりずっと笑顔が増えた。

少しは打ち解けれたのかな……?

 

「……ん? おいアレ高木じゃねぇのか」

 

「え? あ、ホントだ……」

 

 セラフィナさんが顎で指し示した方には、確かに高木さんとドラツェルバさん。そして、いかにもなローブを身に纏った大柄な魔族の人が居た。

 

「お父さん……」

 

「あ、あの人ですか……でっか……」

 

「まぁ魔王ですからね。人間よりかは大柄でしょう」

 

「おーい、ダンジョン終わったかー?」

 

 高木さんが手を振りながら声をかけてくる。

よくよく見ると、高木さんと魔王さんはニッコニコ。ドラツェルバさんは虚無な顔をしている。

 

「終わったけど何でドラツさんはあんな顔死んでんだよ」

 

「さぁ? 俺と魔王様がパチスロでFEVERしてたの後ろで見てただけなんだがな」

 

「原因まんまそれじゃねーか」

 

「いやぁやはり新台は新鮮な気持ちで遊べるからたまらんな! 儂、年甲斐もなくハッスルしてもうたわ! それで? お主が加藤か!」

 

「え? まぁそうですけど……」

 

 ガハハと笑いながら加藤さんに無理矢理肩を組んでくる。

カエルが轢かれたような声を出して苦しんでる所を見ると、相当強い力みたい……。

 

「いやぁ! 高木から聞いたぞ! お主ダンジョン中毒だそうじゃないか! そんなに好きかダンジョンが! いや、どちらかと言うとダンジョンで手に入れた宝箱の方か!」

 

「いや好きか嫌いかで言ったらバカほど好きですけど! 今はその中毒を治そうとしてまして──」

 

「それも聞いたぞ! 制作者としてはそれはやめて欲しいぞ! 何せ作り甲斐のあるダンジョンは難易度が高くなりやすくてな。お主のようなイカれた強さの探索者がおらんと作っても誰も入らん! それにお主の狂ってる姿がめっちゃ面白いらしいではないか! 見せてくれ!」

 

「高木ぃ! お前魔王様に何吹き込んだぁ!」

 

「お前の狂いザマ、かな……」

 

「頭の中くり抜いてジャックオランタンにすんぞ!」

 

「アッハッハ! まぁまぁ! 今度また連絡する故、その時はダンジョンに行こうではないか! まぁ儂は見てるだけだがな!」

 

 楽しそうに笑っている魔王様に近づきたそうにしているルロ様。

あんなに渡したがってたんだし、今渡しても良いんじゃないかな……。

 

「あ、あの! すいません!」

 

「ん? お主は……すまん。名前が分からん」

 

「か、加奈子です! 今日はルロ様と一緒に居ました!」

 

「ああ! 護衛をしてくれてたのか! ご苦労ご苦労! よくやってくれたな!」

 

「ど、どうも……そ、それで! 実はルロ様から魔王様に渡したい物があるんです!」

 

「ん? 渡したい物? 何だ?」

 

 魔王様の視線が自分に向いたのを確認したルロ様は、近づいてプレゼントを渡す。

 

「お父さん、これ……」

 

「? 何だ?」

 

「え、えっと……ダンジョンに行って、モンスター倒して手に入れたの。じ、自分で倒したの! ランクも高いから……そ、その!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「要らんぞ、()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 自分の耳を疑った。聞き間違いなんじゃないかって思った。

でも、はっきりと言った。

言ってしまった。

 

「儂魔王ぞ? 毒も病気も瘴気も効く訳無かろうて。どうしてこんなものを儂に渡す?」

 

「あ……え……」

 

「そんな事より明日の予定だが……儂は周辺のダンジョンの視察をする。流石にスロットだけやって帰ればケルロスにどやされてしまうからな。仕事せねばならん」

 

「お、お父さん──」

 

「まぁ宝箱の作成にスロットの演出参考にしてるから、パチスロも仕事の1つか! アーハッハッハ!」

 

「…………」

 

「さて! 今日の所は宿に帰るか! 高木! ドラツェルバ! 案内頼むぞ!」

 

「……え? あー……わ、分かりました……。ドラツ」

 

「はい……分かりました。送迎車の方へ」

 

「うむ! ではなお主ら!」

 

「──ッ! テメッ!」

 

 セラフィナさんが限界を迎えたのか、食ってかかろうとするが鶴岡さんが止める。

邪魔した鶴岡さんを睨むセラフィナさんだったけど、笑顔を消した鶴岡さんが首を横に振る。

そうだ、もし魔王様に物申してなにかあれば、人族と魔族の友好にヒビが入るかもしれない。

人の家庭の問題だ。外部の私達は関わってしまえばどうなるか。

 

「──ま、まって! まって! お父さん!」

 

 魔王様が去ろうとしてる所に縋り付くように走り出すルロ様。

父親に渡したかったプレゼントを差し出すように、祈るように、受け取ってもらおうとする。

その顔は見ていられないほど、悲惨な物だった。

 

「お願い、お父さん。受け取って! ほ、ほめ──」

 

「要らんと言ってるだろう?」

 

 差し出された『息災のネックレス』を視線も合わせず、何の事でも無いように払い除けた。

 

「あ──あぁ──」

 

 払われたネックレスは手から零れ落ちて地面に落ちて行く。

そのままアスファルトの地面に──。

 

 

 

 

 

パシッ

 

 

 

 

 

 

「──か、とう?」

 

 落ちる前に、加藤さんがキャッチした。

さっきまで全然違う位置に居たのに、一瞬で移動したようだ。

 

「……」

 

「加藤……?」

 

 そっとルロ様の手の上にネックレスを戻した加藤さんは、そのまま早歩きを始める。

方向は──こちらに背を向けて歩く魔王。

鼻歌を歌いながら歩く魔王の肩を、加藤さんは掴んだ。

 

「おい」

 

「んん?」

 

 背後を振り向いた魔王に待っていたのは、凄まじい勢いで胸ぐらを掴まれる経験だった。

 

 

 

 

 

「今のは、無いだろ」

 

 

 

 

 辺りの空気が凍る。

決して大きい声な訳じゃない。

でも、よく聞こえる。聞こえてしまう。

まるで地獄から送られてるような重量の声。

聞く者を底冷えさせてやまない憤怒の声。

加藤さんが怒った事は別に初めてじゃ無い。

主に高木さん関連でキレてる姿はよく見ている。

でも、今の加藤さんは違う。

今まで怒っていたのは演技だったと言われても信じる程の圧倒的な圧。

無表情に近いながらも、その目は視線の先を殺してしまう程の殺気。

私は──私達は、誰も動けなかった。

 

「………………」

 

 先程の笑顔はどこに行ったのか、暖簾に腕押しかの如く何とも思って無さそうな無表情の魔王。

環境音すら聞こえなくなって、永遠かの様な時間が過ぎる。

 

「…………か、加藤!!! 何やってんだ!!!」

 

 1番初めに動き出したのは高木さんだった。

素早い動きで加藤さんが魔王の胸ぐらを掴んでいる手を払い飛ばす。

 

「ま、魔王様! い、今のはですねー……」

 

「……ハッハッハ! 良い良い! 今日は無礼講と言ったからな!」

 

 先程の無表情をすぐに隠して再び笑い出す魔王。

加藤さんの肩を軽く叩きながら笑い続ける。

 

「よく分からんがお主の怒りを買ってしまったようだな! すまんすまん! 悪かった! 人間の勝手はよく分からんでな!」

 

「…………」

 

「怒りに支配されとるお主と儂が会話したとて、火に油を注ぐだけだろう。ここはお互いに下がるとしよう! 後で追求するなどくだらん真似はせんと約束する故、気にしなくて良いぞ! ではな! ハッハッハ!」

 

 そう言って去って行く魔王に高木さんとドラツさんが後を追う。

 

「加藤! お前後で詰めるからな!?」

 

「早く行けよ」

 

「──ッ! 分かったよ! 頭冷やせよ馬鹿! ドラツ!」

 

「は、はい……」

 

 怒る高木さんと戸惑うドラツさんが去った後、その場を再び沈黙が支配する。

 

「……加藤、大丈夫かお前」

 

「加藤さん、流石に今のはいけません。貴方の今の行動で人族と魔族の──」

 

「知るかよ」

 

「加藤! 落ち着け! 頭に来るのはアタシも同じで──」

 

「私、帰る」

 

「ルロ様……?」

 

「ホテルの場所、知ってるから。じゃあね」

 

「姫さん! ちょっと待てって!」

 

 セラフィナさんの静止も聞かずにルロ様の姿が消えた。

多分転移魔法。

静けさが気まずい環境の中、加藤さんが歩き始める。

 

「なぁ、お前ら」

 

 こちらを見ずに、歩きながら加藤さんはこう言った。

 

「少しやりたい事あるから手伝ってくれよ」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 ホテルに転移して自分の部屋で何もしないで座る。

もう2時間くらいこうしてる。

何もしたく無い。

 

「………」グスッ

 

 泣いても何にもならないのに、涙が止まらない。

お父さんに払われて、加藤が受け止めてくれたネックレスを握る。

 

「ゥゥゥ…………」

 

 苦しい。悲しい。辛い。

ダメだった。加藤達にも手伝って貰ったのに。

プレゼント受け取ってもらえなかった。

もっと良い物じゃなきゃダメなのかな。

それとも私だからダメなのかな。

 

 勉強を沢山しても、特訓をいっぱいしても。

お父さんに褒められたり、撫でられた事は無い。

生まれてから一度も、無い。

お父さん凄いから、私がまだまだだから。

そう思って、今まで頑張ったけど。

また──ダメだった。

 

「もういや……」

 

 このまま消えたら楽になれるかな。

自分が魔力で出来てれば【消滅(ロスト)】で消えれるのに。

 

「……だれ?」

 

 窓の外から気配を感じる。

とても強い気配。でも嫌な感じはしない。

もしかして──。

 

「加藤?」

 

 閉まっていたカーテンを開いた。

そこには──。

 

 

 

「ピーターパンさ」

 

 左手に大きな変な形の銃を付けて自転車に乗ってる加藤が居た。

 

「…………」シャッ!

 

「あ、待って。頭冷えてる冷えてる。だからカーテン閉めないで。ちょ、お願いしますマジで」

 

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