ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】   作:1パチより4パチ派

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引き摺り込もうとする友人

 始まりは大学に入学した辺りだった。当時の俺は金が無く、所謂苦学生という物だった。大学に入る為に受けた奨学金の返済を既に考え始めるくらいには将来に不安を覚えていた。地方から東京に出て来たのもあり家賃の高さや物価に面を食らった。バイトをやりながら大学に行っていたがそんな時、友人の1人にこう言われた。

 

『探索者ってめっちゃ儲かるらしいぜ』

 

 迷宮探索者と言う職業があるのは知っていた。実際それで億万長者になるような人が居ると言うのも。だがそれはあくまでほんの一握り、殆どの人はダンジョン入場料や装備、消耗品等の費用で赤字になる。だが俺は1回くらいならやっても良いだろうと思って友人と初心者用ダンジョンに行く事にした。今思えばあれが分水嶺だった。

 

 初心者用ダンジョンで出て来たモンスターは、大した強さではないものの初心者の俺達にとっては苦戦も苦戦、何回死にかけたか覚えていない。才能自体はあったのか、俺と友人はどちらも脱落する事なく、最下層まで進むことが出来た。ダンジョンの最後の部屋に居たモンスターを倒した時は普通に嬉しかった、無事に終わったと言うのが1番の理由だったけど。

 

 踏破を友人と喜び合ってるそんな時、ゴトンと言う音がした。振り向くとそこには宝箱、道中もちょいちょいドロップしたが消耗品とかばかりでパッとしなかった。せめて入場料分くらいの価値は入ってて欲しいよなと友人と笑いながら中身を確認した時──俺の人生が変わった、変わってしまった。

 

 眩い光、テンションの上がる音楽、そして現れたのはランクAのアイテム、【聖人のロザリオ】。日本円にして約700万近くの高レアだった。確率に表したら大体0.0001%くらいだろうか、そんな確率を最初のダンジョンアタックで引いてしまったのだ。その後の事はよく覚えている。半狂乱になった俺と友人は、爆速でアイテムを売り払って金に変えた。飲み屋で飲み歩いてキャバクラで遊んでまさに有頂天だった。そして最後にパチンコでも打つかと店に入って遊んだのだが──。

 

『ぜ、全然楽しくねぇ……』

 

 大当たりを引いても全く嬉しく無かった。例え10万の勝ちで終わっても、それだけ。以前まで感じていた高揚感が全く味わえなくなっていた。俺も友人も──ダンジョンのドロップ以外のギャンブルで喜べなくなっていたのだ。

 

 結局後日、俺達は再びダンジョンに潜ったが成果は無し。ならもっとレベルの高いダンジョンに行こうと言う事になり、俺達の探索者生活が始まった。起きてダンジョンに行って潜って戦う。モンスターからドロップがある事を祈りながら戦う。戦って戦って、1ヶ月の間めぼしいドロップが無くても俺達はダンジョンアタックを止めなかった。

 

 初回の奇跡、それをもう一度、もう一度だけと求め続けた。だが結果は惨敗、レアアイテムを売って手に入れた金は底を突きかけていた。装備やら入場料やらが嵩むとあっという間に金は無くなる。探索者はハイリスクハイリターンなのだ。

 

『もう金も無いし、これで最後にしようぜ』

 

『そうだな……これでダメなら、縁が無かったって事だ』

 

 半ば諦めムードが漂っていた。あれはただのビギナーズラック、俺達が迷宮探索者で成り上がるなんて夢物語なんだ。そう思いながら行ったラストアタック。そこで俺達は再び奇跡を手繰り寄せた。手繰り寄せなくて良かったのに。

 

 入って道中のモンスターから落ちた宝箱。まぁ雑魚だし大した物入ってないだろと友人と笑っていると中から出て来たのは──。

 

 

 

【神聖剣 エヴァルテイン ランクSSS】

 

 

 ランクSSS、国宝級と言っても良いレベルの剣だった。最早悲鳴と言えるレベルの絶叫を挙げた俺達だったが、それだけでは終わらなかった。ひとまず最後まで潜ろうとダンジョンを進んで行くと宝箱が落ちる落ちる。なんかダンジョンがバグってるんじゃ無いのかと思うレベルで落ち始めた宝箱。確かにハズレも多かったのだが、ランクSからSSの超大当たりを俺達は引き当てまくった。最終的に最後のつもりだったダンジョンアタックで、俺達は合計で10兆円を超える資産を手に入れてしまったのだ。

 

 その後、俺達は狂ったようにダンジョンに潜り始めた。金が欲しいとか、良いアイテムが欲しいとか、最早そんなものはどうでも良かった。俺達を夢中にさせたのは宝箱が開く時のワクワクだった。何が入っているんだろう、ハズレ? 当たり? 超当たり?無駄に豪華な開く演出もあって、俺達はとにかく当たりの宝箱が見たくて見たくて仕方なくなっていた。

 

 もっと宝箱のドロップ率を上げる為に、更に難易度の高いダンジョンに向かう。その為に装備や消耗品に死ぬほど金をかける。全てはあのワクワクを、あの高揚感を得たいが為に。最初の金が欲しいと言う目的は、完全に消えていた。

 

 気づけば俺の周りには同類しか居なくなっていた。寝ても覚めてもダンジョンアタック。宝箱が欲しい、激レアが欲しい、演出が見たい。多少の違いはあれど、やる事は同じだった。あの時は本当に楽しかった、人生で1番幸せな時間だった。俺はこれからずっと、こいつらとダンジョンに潜り続けるんだ。本気でそう思っていた。──ある日、彼女からあの言葉を言われなければ。

 

 

『ちょっとキモすぎ、いきなり探索者になるとか言ってから会話が全部ダンジョンの話だし……顔付きも目がガンギまってるし……さよなら』

 

 

 冷や水をかけられたような感覚だった。高校からの彼女の言葉で目が覚めた俺は、自分の現状を確認せざるを得なかった。大学には碌に行かずに留年確定、ひたすらにダンジョンに潜って戦ってたからなのか、開き切った瞳孔、凄まじく近づきがたい風貌。これが……俺なのか……?

そう思わずにはいられなかった。

 

 目が覚めた俺は探索者を辞める事にした。友人や仲間からは半分くらいから反対された。もう半分は「どうせ耐えられなくて帰ってくるだろ」だった。目が覚めたから分かるが、友人や仲間達も俺と同じく完全にヤバいやつオーラがこれでもかと出ていた。ああ、俺って人からこう見えてたんだなと思ったら余計に離れないといけないと思った。

 

「あれから2年……早いもんだ」

 

 本来入っていた清掃がパーになったのでやる事も行くところも無い為、公園のベンチで項垂れる。買った時には暖かかった缶コーヒーがすっかり冷めるくらいには、座り込んでいた。

 

「はぁ〜……またどっかのダンジョンに営業でも……」

 

「あ、あの!」

 

 聞き覚えのある声がする方に顔を向けると、そこには以前助けた女性が立っていた。名前は確か……加奈子とか言ってたか。

 

「どうも。何か御用で?」

 

「いえ、その……たまたま見かけたので何をしてるのかなって」

 

「ああ、この前のダンジョンに契約打ち切られたせいで仕事が無くなっただけですよ。つまりただの無職です」

 

「えぇ!? ク、クビになっちゃったんですか!?」

 

「なっちゃったんですよ、困った事に」

 

 幸いドロップした【光竜の宝玉】を売り払えば金には困らない。だが俺が働いているのは金のためじゃ無い、社会復帰……いずれはちゃんとした企業に雇ってもらってマトモな人間になる為だ。そのおかげか、目付きは少しマトモになったと思う。

 

「でもダンジョンじゃ無くても清掃の仕事ありますからそれを……」

 

「いや、自分はダンジョン清掃じゃ無いとダメなんですよ」

 

「どう言う事ですか?」

 

「手がね、震えるんですよ」

 

「……え?」

 

「1日くらいなら平気なんですけどそれ以上ダンジョンに入らないと手の震えが止まらなくなるんです、酷くなると全身が震え始めて最終的には意識を失うんです」

 

「ど、どうしてそんな事に!?」

 

「自分は以前ダンジョンに入り浸ってたんですけど……そのせいか、体がもうダンジョン内の魔力が多く漂ってる環境が通常だと認識してるみたいなんですよ」

 

「つまり今ここにいる事自体が体にストレスで、それを抑えるには……」

 

「定期的にダンジョンに行かないといけないんですよね」

 

 そう、これが俺が探索者をやめたのに態々ダンジョン清掃をしている理由。体がダンジョンに適応してしまって、外に居ると禁断症状が出てしまうのだ。我ながら終わっている、アル中と大差ない。

 

「本当ならもう少しあそこのダンジョンで働かせて貰えてた筈なんですけどね」

 

「ほ、本当に申し訳ありません……」

 

「いやいや、話聞きましたけど貴女はお咎め無しだったらしいじゃないですか、なら俺から言う事は無いですよ」

 

 察してはいたが主犯はあの金髪男、目の前の彼女はガチ初心者だったので男が何をしてるのか理解出来なかったのだ。それに便乗した他の連中は一緒にお縄についたが、彼女だけは厳重注意で済んだとの事。まぁ俺からしたら正直どうでもいい、だって結局クビになったから。

 

「と言うか貴女みたいな人があんな連中とつるんでいたのが不思議なくらいです、付き合う連中は選んだ方がいいですよ。俺が言えた事じゃ無いけど」

 

「そ、それは……どうしてもお金が欲しくて……大金が必要なんです……」

 

「大金?」

 

 気になって聞き返すと、ぽつりぽつりと語り始める。顔が暗いから明るい話では無いのだろう。

 

「……母が末期癌で、余命半年なんです。もう現代医療じゃどうにもならなくて……」

 

「癌ですか……回復魔法も癌には効きませんしね」

 

「そうなんです、もう残された時間を大切にしないとって思ってたんですけど……どんな怪我や病気も治せる薬があるって調べ物してたら知ったんです」

 

「【エリクサー】ですか?」

 

「そうです! 【エリクサー】で癌が治ったって症例があったみたいで! それなら母の命を救えると思って……でも【エリクサー】は……」

 

「アイテムランクS、買うにしても相当な金額が必要ですね」

 

「はい、それでどうやったら稼げるかなと考えていたら……」

 

「あの金髪男に声をかけられたと」

 

「そうなりますね……」

 

 確かに、家族の命がかかってると思えばしのごの言ってられない。素人でもダンジョンで一攫千金を狙うのは自然な流れだ。まぁ【エリクサー】が手に入るのはかなり高レベルのダンジョンじゃなければダメだけど。

 

「……ま、いっか」

 

 ポケットに手を突っ込んで入ってた物を彼女に投げ渡す。あわあわしながら受け取った彼女は、一瞬呆然してから死ぬ程目を見開いた。

 

「こ、こここここれこの前の……!」

 

「光竜の宝玉です、ランクSSSなんで売っぱらったらエリクサーなんて1ダースは買えますよ」

 

「いやいや! これは貴方のもので──」

 

「別に良いですよ、一応金にはそんなに困ってないし……そりゃ手に入れた時は脳汁出まくったけど、俺手に入れた後のアイテムにあんま興味ないんすよね」

 

「え、えぇー……」

 

 確かにレアなアイテムが欲しくないのかと言われれば嘘になる。だが1番はやはりあの何が入ってるか分からない高揚感だろう。あれが堪能出来れば俺はいくらでも飯が食えるくらいだ。……やばいやばい、またダンジョンに突貫したくなってきた。前のは特別、人命救助の為だから。ノーカンだから。

 

「い、1本で良いので余りはお返ししても良いですか……?」

 

「まぁ良いですよ、何でも」

 

「あ,ありがとうございます!!! 本当に……ほんとうに……」

 

 泣きながら喜ぶ彼女を見ると、もしかして俺って相当良いやつなんじゃないかと思ってきた。こんだけ徳を積めばダンジョン中毒も改善するかもしれない。後で神社行って願っておこう。

 

 彼女が去るのを見送ってから5分程、突然俺のスマホに着信が来る。電話番号を見ると、見覚えがあり過ぎる番号が並んでいた。

 

「……もしもし?」

 

『お・か・え・り❤️ 待ってたぞ加藤❤️』

 

「そのクソキメェ猫撫で声辞めろハゲ」

 

『スキンヘッドにしてるだけでハゲじゃありませ〜ん、残念でした〜』

 

「……で? 態々なんだよ高木」

 

 俺をダンジョンに誘った友人、高木が電話をかけてきた。前にクソみたいなメッセージを送ってきたのもコイツだ。

 

『おいおい、電話した理由なんて分かりきってるだろう? ──ダンジョンアタック、いつやる?』

 

「やらねーよ!!!」

 

『何言ってんだよ、聞いたぞぉ? 明け方まで暴れまくったみたいじゃねぇか、最初のドロップでタガが外れたか?』

 

「うるせぇ……不可抗力、ノーカンだ。俺はちゃんと我慢出来る、もう探索者はやらん!」

 

『我慢のしすぎは体に毒だぜ? ダンジョン清掃員なんざやってるのだって、ダンジョンに居ないと禁断症状出るからだろ? お前の天職は迷宮探索者なんだよ!』

 

「その迷宮探索者続けてたらどんどん人間として終わっていくから嫌なんだよ! 元カノに振られてから鏡見たけどあの時の俺の顔マジやべぇぞ!?」

 

『みんなガンギマってたから大丈夫だろ、気にすんな』

 

「少しはヤバいと思えや!」

 

 コイツは2年前から全く変わってない。ダンジョン運営を始めたとは聞いていたが、コイツの価値観を変化させる事は無かったようだ。つーかよくそんなんで運営の代表務まるなコイツ。

 

『えー、お前が復帰すると思って俺めちゃめちゃ嬉しかったんだぞ? 俺の気持ち考えろよぉ』

 

「勝手にお前が勘違いしただけだろ、他のメンツと潜れば良いだろうが」

 

『うーん、やっぱ復帰1発目は親友のお前とじゃなきゃよ!』

 

「……あん? お前は別に現役だろ?」

 

『いや? お前が辞めてから俺潜ってねぇよ』

 

「え」

 

 耳を疑う言葉が聞こえた。俺が辞めてから潜ってない?

 

「お前……引退してたのか?」

 

『引退と言うよりは休止だな、運営の方に集中してたわ。俺だけじゃ無くてメンバー全員、お前が辞めてから探索者休止中だぞ』

 

「はぁ!?」

 

 とんでもない爆弾を投下された。あのダンジョンキチ共が休止!? 寝ても覚めてもダンジョンの事しか考えれない連中が!?

 

「何でそんな事に……」

 

『お前が辞めたからだよ』

 

「俺は関係ないだろ? 皆ダンジョンに狂ってたから潜ってたんだし」

 

『あー……加藤、お前勘違いしてるな』

 

「何を?」

 

『確かに俺らはダンジョン狂いの狂人連中だがな……1番の理由はお前なんだよ』

 

「俺が……理由?」

 

『そうだ!』

 

 凄まじい大声が俺の耳を貫く。耳鳴りに苦しんでる間にも、高木の言葉は止まらない。

 

『俺らは確かにダンジョンの探索が大好きだ! 激レアドロップ引いた時なんて天にも昇る心地になる! だが……それはお前が居たからだよ、加藤!』

 

「何で俺が居るからって話になるんだよ!」

 

『今だから言うけどな、正直俺は初回のダンジョンで終わるつもりだったんだ。お前を誘った1回でな。だが……あの時のお前の顔を見て、俺はその考えを捨てた。何故なら──』

 

「な,何故なら……?」

 

『お前のダンジョンへの狂い様が! めちゃくちゃ面白かったからだ!!!』

 

「」

 

 開いた口が塞がらない。言葉が出ない間にも、高木は興奮しながら語り続ける。

 

『あの初めてオモチャを与えられた子供のような顔なのに気狂いみたいなガンギマった目! あんなんおもろいに決まってるだろ!』

 

「お、お前……」

 

『あの時俺は確信した! コイツと一緒に迷宮探索者やれば最高に楽しいって! 実際楽しかった! あの時の選択に1ミリも後悔はない! 他のメンバーだってそうだ! お前のダンジョン中毒っぷりに惚れたから付いてきたんだよ!』

 

「何だよ中毒っぷりに惚れるって……」

 

『元々ダンジョンが好きだったと言うのもあるだろうが……お前の狂い様に当てられたんじゃないか? 俺はおもろいからだったけど』

 

「……じゃあ何か? 俺が辞めたから皆ダンジョンがつまらなくなったってのか?」

 

『そうだよ』

 

「知りたくなかったそんな情報……」

 

 高木が俺の狂乱を楽しんでいたとか言うのも腹が立つが、何よりメンバーの皆が入ってきた理由が俺だったなんて……。てっきり同類だからと思ってたのに……。

 

『と、言う訳でいつ潜るんだ?』

 

「だから潜らねぇよ……もう切るぞ……」

 

『……まぁ仕方ない。今日は取り敢えずいいわ。急だしな、また電話するからヨロ』

 

「ああ……」

 

『あ、今更だけど他のメンバーにはお前がダンジョン潜った事とっくに伝えてるから。ほんじゃばいなら』

 

 電話を切って再びベンチで項垂れる。他のメンバーに伝えている、つまり高木の様に俺に復帰を迫ってくると言う事だ。俺が居なくなってつまらないと言われて嫌な気はしないのが、余計に嫌だった。

 

「出家したら何とかならんかな……」

 

 高木の頭を思い出して過った考えは、すっかり沈みかけた夕日と一緒に消えていった。

 

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