ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】   作:1パチより4パチ派

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狂人達の名は

 翌日の朝、ルロ様を一旦ホテルの方に帰すことになった。

ホテルに持ち物を置いたままと言うのもあるが、高木曰く警備の人達が居ないのに気付けば面倒になるとの事。

どう見ても俺が窓から連れて来たのが原因だった。

 

「コブラごっこなんかしてるのが悪いだろ、アホか」

 

「これに関しては何も言えねぇ……いや落ち込んでると思ったから」

 

「その結果自転車放置かまして誘拐かよ、なーにがマトモになりたいだよ。なる気無いだろ、諦めて探索者に集中しろよ」

 

「ク、クソ……! 最近段々と過去の自分に戻ってる気がする……!」

 

「昔の加藤さんもあんなアホな事してたんですか?」

 

「宝箱狂いは変わりませんが、よく意味不明な事をしてましたね」

 

「テンパった時と酔っ払った時の加藤はマトモな思考回路じゃないからな。後周りにバカしか居ないと必然とマトモになる」

 

「なら昔も平常時はマトモだったんですね」

 

「ん? 加奈子、お前今アタシの事まで──」

 

「何でも無い何でも無い、気のせいですよー」

 

 俺の家がある辺りは人通りが少ない。

今こうして道を歩いてるのは俺達だけだ。

 

「鶴岡、クォーツはついて来てるんだよな?」

 

「はい、手を繋いでますので」

 

「……見つかったら大変。特にお父さんに見つかるのだけは避けないと……」

 

「ならさっさと鶴岡の教会行った方いいな。クォーツも鶴岡に会いたくて来たんだろうし、お前今日は警護抜けろ。いいよな高木」

 

「ん? まぁ良いだろ、戦力だったら正直お前だけで足りてるし。まぁマトモさは加奈子さん入ってギリだけど」

 

「堪えろ俺。子供の前でハゲの観光シンボルを作るのだけは避けないと……!」

 

 くだらない話をしていると鶴岡の足が止まった。

振り向くと本人も戸惑いを隠せてない。

 

「クォーツ、どうしま──」

 

 鶴岡が声を掛けようとしたその時、突然クォーツの透明化が解けてその場に倒れる。

 

「……は?」

 

「逃げられたら困るでな、確実に仕留める為に威圧して気絶させた。何、すぐに終わらせる」

 

 様子を伺う為に振り向いた瞬間に前方から声がする。

ゆっくりと前を向くとそこには無表情で立ち塞がっている魔王が居た。

 

「……なんで居る」

 

「今まで何百体と【道具喰い】を駆除して来た。そんな我が周囲に現れた【道具喰い】に気付かないことなど無い」

 

「ここお前が居たホテルからめっちゃ離れてるはずだが」

 

「この国の中であるならば、それは我の周囲だ」

 

「人類皆友達みたいな事言ってんじゃねぇぞ」

 

 会話しながら倒れたクォーツを魔王の射線から切るように移動する。

魔王自体はこちらに手を向ける事も、武器を取り出す事も無い。

自然体と言った方がいいか、昨日のヘラヘラした態度とは正反対だ。

 

「で? そんな魔王様は何を仕留めるので? 俺頭悪いからちゃんと教えてもらえるか?」

 

「そこの【道具喰い】を仕留めると言った。お主らも分かっているだろう、人族にも魔族にとってもそれは害悪に過ぎない」

 

「……アタシにはそこら辺のガキにしか見えねぇけど? そりゃ大昔だったらアイテムをバカスカ食われたらやってられなかったろうけどよぉ。今この世界にどんだけアイテムが溢れてると思ってんだよ。食わせる分くらいあんだろ?」

 

「彼女はキチンと意思疎通できます。先程も周りから見られぬように透明化を──」

 

「それだ、真の理由は」

 

「真の理由……?」

 

 セラフィナと鶴岡の擁護を一蹴する魔王の目に光は無い。

まるで魔王という役割をこなしているだけの人形に見えた。

 

「【道具喰い】、取り入れたアイテムの力を己の物にする存在。過去に国宝級……今で言うと貴様が持っているその剣と同等のアイテムを喰らった個体が居た。その【道具喰い】は更にアイテムを喰らい続け、際限なく強さを増していった……。最終的には数え切れん程の人族と魔族がその個体の振り回す力の犠牲になった。一度凄まじい力を持つアイテムを取り入れた故、歯止めが効かなくなった奴には手こずったものだ」

 

 知らん歴史をペラペラ話す魔王の圧が徐々に上がっていく。

どうする、剣を抜くか?

だが昨日とは状況が違う、抜けば完全に敵対行動と見做されるだろう。

 

「か、加藤さん……」

 

「加奈子、下がってろ」

 

「セラフィナさんまで……」

 

 後ろでセラフィナがガントレットを付ける音がする。

それを見ていただろう高木が、この空気はまずいと思ったのか。

わざとらしい声をあげて魔王に近づいていく。

 

「いやぁ……魔王様。確かに魔王様の言う通りなんですが……こちらにも事情がありましてね? こんな道の往来で話すには難しいものがあります。ですので、一旦ホテルの方へ──」

 

「先に言おう。許せ。──【消滅(ロスト)】」

 

 魔王の右手に魔力の奔流が起こる。

俺が次の瞬きをした瞬間──。

 

ドゴォォォ!

 

「──カハッ」

 

 高木の体が宙に舞った。そのまま落下した高木は起き上がる事はなかった。

 

「高木!」

 

「我は歴代魔王の中でも魔法が不得手でな。魔法を使う場合、手の付近からしか打てない有様だ。故にこうして手に宿して使っている。荒々しいやり方ですまない」

 

 一瞬で距離を詰められる。

俺の腹部を狙って放たれる拳に対して、剣を抜き放ち弾き返しを試みる。

 

「(おっも……!)」

 

「防ぐか、加減してるとは言え大したものだ」

 

 今まで戦った数多くのモンスター達。

何度も死にかけたりなんだったら死んだりしてきた。

それでもこの一瞬で勝てないと思ってしまった。

それ程までに、この拳が重かった。

衝撃を吸収しきれずに後方に吹っ飛ばされる。

 

「前出るぞ!」

 

 俺と入れ替わるようにセラフィナが魔王に立ち塞がる。

受け身を取っている最中に鶴岡が魔法を唱えようとしているのが見える。

 

「先に手ぇ出したのアンタだからなぁ!?」

 

「そうだな、その通りだ。いくら抵抗しようと【お主ら】は罰したりしない」

 

「ダメだセラフィナ! 受けるな! 避けろ!」

 

 俺の声が届くのが遅かったのか、魔王の拳をセラフィナは受け流しつつカウンターしようとする。

魔王相手で無ければ、それは間違いなく決まったものだろう。

だが魔王の拳には──【消滅】が込められている。

少しでも触れてしまえば。

 

「───」

 

 目の光を失って崩れ落ちるセラフィナに追い討ちと言わんばかりに地面に叩きつける魔王。

地面にクレーターが広がり、中心でセラフィナが倒れ伏す。

 

「【停止(ストップ)】!!!」

 

 鶴岡が魔法で魔王の時を止めようとする。

俺ですらマトモに受けたら10秒は動けない。

そんな魔法は魔王に間違いなく発動したが……。

 

パキン

 

「なんと────」

 

「それを匿っていたのだろうが……それは許されることでは無い。それが決まりだからだ」

 

 殴られて地面を何度もバウンドしながら近くの木にぶつかって止まる鶴岡。

気合いで何とか魔王に剣先を向ける。

 

「お、お父さん待って! やめて! 加藤達に酷い事しないで!」

 

「辞めておけ加藤。お主は強いがあくまで唯の人間の範疇を出ない。勝てぬよ我には」

 

「お父さん!!!」

 

「仲間に関しては申し訳ない。先ほども言ったが匿っていたからと言って詰めたりはしない。魔族でも同じような事件があったのでな。そちらだけ責めるような事は出来ん」

 

「……ダメ元で聞くが、辞めてくれないか? 駆除にしても今じゃ無ければダメか? 今この瞬間、今すぐにクォーツを殺さないとダメなのか?」

 

「ダメだな。人族にも魔族にも【道具喰い】に恨みを持つものが多い。現に我の部下であるケルロスという男は自身の種族を全て【道具喰い】によって殺されている。許容出来る範囲を超えている」

 

「クォーツがやった訳では無いだろ!」

 

「可能であるなら根切りしたいが、出現条件も分からぬ以上発見次第駆除の方法を取るしか無い。そしてこれはお主達の為でもある……もし人族側で【道具喰い】を匿っているのが露見すれば、人族からも魔族からも追及されるだろう。マトモな生活は送れなくなるぞ」

 

「……」

 

 分かっている。俺達側が間違っているなんて事は。

今の世の中を考えるのなら、魔王は何も間違っていない。

間違ってはいないが……。

 

「最後通牒だ。そこを退け」

 

「……一度遊んだ仲なんでな」

 

「そうか……なら寝てろ」

 

 俺目掛けて飛んでくる拳を躱しながら剣で振るう。

当たりはしたが碌にダメージは無い。

それどころか刃が通らない。ランクSSSである俺のエヴァルテインが。

ダメージは薄い事はあれど、全く傷付けられないのは初めてだった。

 

「どうした、迷いがあるか?」

 

「!!!」

 

「迷いがあるのなら──我に傷すら付けれんぞ」

 

 その言葉が耳を通り抜けた後、俺の意識は遥か彼方へと飛んでいった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

「加藤さぁぁぁん!」

 

 加奈子の悲鳴が辺りに響く。

もう加藤もセラフィナも高木も鶴岡も。

誰も立っていなかった。

 

「さて……」

 

「うぐ!?」

 

「安心しろ、少しの間動けぬだけだ。駆除する際に邪魔されると怪我させてしまうかもしれんからな」

 

「か、加奈子……」

 

「〜〜〜〜〜!!」

 

 加奈子は普通の人間、加藤達みたいに強く無い。

そのせいでお父さんの起こす魔力の奔流で地面に押さえつけられてしまう。

 

「(どうしよう、どうしよう!)」

 

 怖い。怖い。怖い。

さっきから私の声を聞いてくれない。

私を見ていない。

後ろで震えている私の声も姿も、お父さんには眼中に無い。

 

「(私は……私は……)」

 

 その時私の頭によぎったのは──【道具喰い】……クォーツと楽しそうにしていた加藤達だった。

 

「……何のつもりだ。ルロ」

 

「ダ、ダメ……ダメ……こ、この子を、殺さないで……」

 

 気付いたら私は、クォーツに触れられそうな程近づいていたお父さんに立ち塞がっていた。

手を広げて前に進むお父さんを邪魔する。

足の震えが止まらない。怖くて涙が止まらない。

 

「【道具喰い】の事を分からないのか? 退け」

 

「し、知ってる。勉強したから知ってる! でもダメ!」

 

「何を言っている?」

 

「こ、この子は加藤達が守ろうとしたから……わ、私によくしてくれた加藤達が守ろうとした大切なものだから……だからやめて!」

 

「……仕方あるまい。我と同じ血を引いているなら耐えられるであろう」

 

「ダメダメダメダメダメ! やめてやめてやめてぇぇぇ!」

 

「目覚めた時にはお前の部屋だろう。ケルロスに面倒見るよう伝えておこう」

 

 私ごとクォーツを【消滅】が宿った拳で殴ろうとするお父さん。

怖くて魔法も冷静に使えない私は、その拳を──。

 

 

 

 

プツン

 

 

 

 

 

 

「……何故立っている?」

 

「かとう……」

 

 受けたのは、さっきまで倒れていた加藤だった。

お父さんの拳が頭に直撃したせいで、沢山血が流れ始める。

 

「先程お主に入れた一撃より遥かに強く振るった我の拳を受けて、何故まだ立っている?」

 

「……だろ」

 

「何?」

 

「良い訳ないだろ」

 

「何を言って……」

 

 目の前にいる加藤は、私が知ってる加藤じゃなかった。

怖くて竦んでしまうような目と顔をした、狂っている加藤だった。

 

「自分のガキ触る最初の手が……拳であって良い訳ねぇだろうがぁぁぁぁぁ!!!」

 

 絶叫と同時に加藤がお父さんを剣を振るって吹き飛ばした。

先程まで傷すら出来なかったお父さんが、吹き飛ばされるなんて。

 

「おい、お前ら何寝てんだよ」

 

 ドスの効いた低い声。昨日お父さんに怒った時と同じ声。

その声の届け先は……セラフィナ達。

 

「高木ぃ。お前前にボケてたわとか言ってたが、まだ治ってねぇようだなぁ? 何でクソ魔王なんざに媚び売ってんだよ。情けなくねぇのか?」

 

「セラフィナァ。何してんだ、俺の家に転がり込んでから丸くなったか? お前あのクソ魔王にキレてただろ。の癖して同じ気持ちだの何だの言ってこのザマか?」

 

「鶴岡ぁ。このままだとクォーツ死ぬぞ。お前の救いたいとか言うのは【消滅】喰らったくらいで掻き消えるようなゴミクズみたいなもんなのか?」

 

 仲間にかける声とは思えないそれを、加藤は言い続ける。

 

「俺はなぁ! 今この瞬間! 宝箱開けるよりも! マトモな人間になるなんて事よりも! 兎に角! 俺に懐いてきたガキ2人を殴ろうとした! このクソ魔王をぶち殺したくて仕方ねぇんだよ!!! お前らもそうだろ!?」

 

「だったら立てやぁぁぁ! 俺らが自分の欲、抑えてくたばるタマか!? 違うだろ! 世の中の事? 人族と魔族の友好? 過去に【道具喰い】から被害受けた連中の為!?」

 

「知らねぇ要らねぇ興味もねぇ!!! そんな殊勝な連中じゃねぇだろ俺達は! 思い出せ、俺達の名(チーム名)を!」

 

「周りなんか関係ない、自分さえ良ければいい! 他人にどれだけ迷惑かけても! 自分達を貫き通す! その結果どう思われようが! どう扱われようが! 知るかボケと唾を吐く!」

 

「そんなカスな俺達の名(チーム名)は──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「自我中心(エゴイスト)」」」」

 

 

 

 

 

 立ち上がった。

セラフィナが、高木が、鶴岡が。

さっきまで完全に昏倒していたのに。

声なんて聞こえない筈なのに。

加藤の声で、立ち上がった。

全員、加藤と同じ目をしている。

 

「あり得ん……」

 

 お父さんが驚いている。

私も驚いている。だって【消滅】は魔王の一族の切り札のような魔法。

それをマトモに受けたのに、起き上がれる者なんて──。

それこそ、1番最初の魔王と争ったとされる勇者だけ。

たった1人で魔王城に突入して、最初の魔王と相打ちした勇者だけの筈。

 

「おいスロカス毒親クソ魔王……お前がどれだけご大層な使命だの役目だの持っていようがな……俺達の我欲(エゴ)、止められると思うな

 

 4人の狂人(勇者)が、お父さん(魔王)に立ち塞がった。




自我中心(エゴイスト)
加藤達のチームの名前。他人の事を一切顧みないカスの集団。
自分達の行いでどれだけ他人が迷惑を被ろうと、知った事ではないと言い切る終わってる連中でのみ構成された彼らは、己の欲を満たすまで止まる事はない。
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