ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】   作:1パチより4パチ派

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『前』より『今』

「ギャハ、ギャハハ、ギャハハハハハハハ!!!」

 

 高木が狂った笑い声を上げる。その目に正気なんて物は欠片も無い。

 

「漸くボケが取れたわぁ! 悪りぃな加藤! もう後先考えるのはやめだやめだ! 魔王殺し! 良いねぇ! 最高にイカれてて愉快だぁ! 【流星(メテオ)】ォォォ!!!」

 

 高木が我から見ても膨大な量の魔力を練って、それを天に放つ。当たれば無傷ではいられない。

凄まじい勢いで上空から降り注ぐ破壊の雨を薙ぎ払って打ち消す。

 

「死ね死ね死ねぇぇぇ!」

 

 その一瞬の隙を突いてハーフサキュバスが突っ込んできた。

己の体すらも傷付ける威力で乱撃を撃ち込んで来る彼女に【消滅】を込めた拳で打ち合うが──。

 

「ッ! ……し、らねぇ!!! んなもんで止まるかぁ! ムカつくんだよテメェ! アタシを殴ってきた奴らと同じだ! アタシを踏み付けて来やがった奴らと同じだ! 格下だと思いやがって、舐め腐ってやがる! ざけんなぁぁぁ! 死に晒せよクソがぁぁぁ!」

 

 憤怒の表情と共に我に迫るその姿は、最早怒りそのもの。

【消滅】すら振り払う圧倒的な自我は、我を殺そうと牙を突き立ててくる。

 

「【踏み付けられし手】」

 

 一度距離を取ろうとする我の体に、何処からともなく黒い手が迫ってくる。

圧倒的な数と速さに全てを避けることも出来ずに足や腕などをこの世の物とは思えない力で押さえつけられた。

 

「重いでしょう。ええ、当然です。その手は貴方が踏みつけてきた者達の手です。勿論貴方に正義はあるのでしょう。多くの民を救ったのでしょう。貴方は何も間違っていません。ですがそんなものは切り捨てられて踏み付けられた者達には──何一つ関係ない」

 

 黒い手には人族魔族【道具喰い】と多種多様。潰しても振り払っても湧いてくる。

 

「今もこうして貴方は踏み潰す。それが大多数の正義と言わんばかりに。ああ反吐が出る。何故助けない? 何故救わない? 貴方ならそれが出来るのに。魔王である貴方なら不可能では無いのに。救えるのに救わなかった過去の私のようだ。縊り殺したくて仕方ない過去の私のようだ! ──ならば殺すしかありませんねぇぇぇ!!!

 

 神父の体から闇が吹き出し始める。

明らかに邪法。過去に禁じた禁呪すら齧っているだろう。

神父でありながら神に中指立てる男の妨害に足を止めた。

 

「オラァァァァァァァァ!!!」

 

 そこを見逃す程、加藤は甘くない。

首を狙った斬撃。先程とは話が違う威圧感を感じた故、防御する。

 

ブシャッ!

 

 首を守った腕の一部から血が噴き出る。

奴の剣を見ると、沈黙を保っていた神剣は加藤の感情に呼応しているのか。

美しい刀身からは考えられない程のどす黒く鈍い輝きを放っていた。

 

「(仕方あるまい……!)」

 

 この者達の強さは最早先程とは格が違う。

急に強くなった、と言うよりは無意識に抑えていたタガが外れたと言う方が正しい。

そんな相手に、加減は出来ない。

セーブしていた力を解放して拘束も接近していた2人も吹き飛ばす。

 

「セラフィナァ!」

 

「行けやぁぁぁ!」

 

 吹き飛ばしたハーフサキュバスが、同じく吹き飛んでいた加藤の足裏を蹴り飛ばす。

ミサイルのように射出された加藤は迷いなく我の頭蓋を狙ってくる。

 

「休むなよ魔王サマァァァ!? 俺の相手もしてくれやぁ!」

 

 数えるのも億劫になる数の魔法を弾幕のように打ち出してくる高木。

 

「踏み付ける者に返す時が来たのです! 彼に力をぉ! 【踏み台の怨念】!」

 

 神父が唱えた邪法によって、加藤の全身に言葉に出来ない程の怨念が宿る。

受けた本人すら蝕みかねない物だが、加藤は全く意に介していない。

我の頭蓋目掛けて貫こうとしてくる剣を魔力を宿した拳で鍔迫り合いになる。

 

「まさかここまでとはな……!」

 

「どうでも良いどうでも良い! 今! お前を殺せればそれ以外はどうでも良い!」

 

「短絡的な考えも極まれば力になるか! 迷いを払うのではなく、塗り潰すとは!」

 

「死ねクソ魔王ォォォ!!!」

 

「悪いが……役割を果たすまで我は死ぬ訳にはいかん。王とはそういう物だ! 魔族の存続! その為に我は作られた!」

 

「知るかぁ! 役割しか果たさないで自分を持たないゴミ人形なんざ、俺がぶっ壊してやらぁぁぁ!!!」

 

 何度も何度も打ち合う。その間にも加藤の仲間が攻撃を差し込んで来る。

徐々に追い詰められていくのが分かる。

 

「(そうか、此奴は炎なのだ。辺りを焼き尽くす程の凄まじい炎。普通の者なら焼き焦がされて終わりだが……この者達は違う)」

 

 狂気の炎に見惚れる者も居るだろう。

燃え盛る炎に暖められた者も居るだろう。

そんな者達は喜んでその炎に飛び込んでいく。

そして共に同じ炎となって、更に勢いを増していく。

故に立ち上がる。倒れない。

例え意識が無かろうと、掛け声1つで這い上がる──!

 

「テメェが何処の誰だろうと関係ねぇ! テメェを殺した結果がどうなろうと知ったことか! 俺のようなカスを! 好いてくれる奴らに手を出すならぁ! 人族だろうが魔王だろうがダンジョンだろうが神だろうが! 全員殺してやるよぉぉぉ!!!」

 

 加藤が持つ神剣の鈍い輝きが強くなっていく。

見る者を焼き尽くす程の光が、我の視界を覆い尽くす。

 

 

 

「【極光剣】」

 

 

 瞬間、我を光が飲み込んだ。

吹き飛んだ我は何とか致命傷は避けた。

が、かなりのダメージを受けた。

ここまで我に迫れるのは、此奴らが初めてだ。

 

「……まだまだ余裕そうだな」

 

「これでも魔王ぞ。だが、お主らを下に見ていたのは認めよう。故に……ここからは全力でお主らを潰そう」

 

「先に死ぬのはテメェだがなぁ!」

 

 最早此奴らは敵だ。

ここで倒さなければ、今後何をしでかすか分からない。

潰さねば、ならない。

 

「「おおおおおおおおおおお!!!」」

 

 お互い絶叫しながら再びどちらかが斃れるまで終わらない戦いを始める。

その筈だったが──。

 

 

 

 

 

 

 

「……加奈子さん、邪魔です」

 

「そうですか」

 

「退いてください」

 

「退きません」

 

「退いてくれ」

 

「退かない」

 

「どけぇ!!!」

 

「絶対どくもんかぁ!!!」

 

 我と加藤の間に入ってきた人間の女によって、それは中断された。

女は加藤を見据えたまま動かない。

常人ならば気を失いかねない加藤の怒気を物ともしていない。

 

「何をしているんですか、このまま殺し合い続けるんですか。それが加藤さんのやりたい事ですか?」

 

「……そうだ。俺はこのクソ魔王を殺す! そう決めた! 決めたなら貫き通す! 押し通す! それが俺だ! 俺達なんだ!!!」

 

「嘘吐くなぁぁぁ!!!」

 

「!?」

 

「違うでしょ!? 加藤さんがやりたいのはルロ様やクォーツちゃんを守る事じゃないんですか!」

 

「……」

 

「昨日ルロ様の為に怒ったのも! さっきクォーツちゃんを守ろうとしたのも! 自分の事を見てくれる人だから、自分の事を慕ってくれるから! だから守りたい、大切にしたい、酷い目に合うのが我慢出来ない! 違うんですか!?」

 

「それは……」

 

「それがどうなったら! 魔王を殺す事になるんですか! この人殺したらルロ様は家族を失うんですよ! この人殺したらクォーツちゃんはこの人の部下に原因として何が何でも狙われるんですよ! それ何にも守ってないじゃないですか! 何が貫き通すですか! 1番最初に決めた事を! 怒りのまま殺意で塗り潰してるだけじゃないですかぁ!」

 

 全く引かない彼女に、加藤が押され始める。

加藤の目から狂気が減っていく。

 

「ダメです加藤さん! 昔の加藤さんが、どうだったかは分かりませんが、ドン引きするくらい酷かったって言うのは他の人の反応とかで何となく察しがつきます! なら! それに戻ったらダメなんです! 自分はカスだからとか言い訳して、戻ったらダメなんですよ!」

 

「お、俺は……」

 

「お願いです! 立ち止まって! 私は貴方が言っていた『マトモになりたい』って言葉は嘘じゃないって知ってます! 本当に過去の自分から抜け出したいんだって分かります! 周りが! 世界が! 【凶戦士】としての加藤さんを望んでいたとしても! 私は何だかんだ良い人で収まってる今の加藤さんの方がずっと良いと思ってるし、合っていると思います!」

 

 彼女はそう言うと加藤の剣を握る手に優しく触れた。

 

「──だからどうか、落ち着いてください。でなければ、私は絶対にここを退きません。それが私の──エゴです」

 

 その言葉が放たれた瞬間、狂気が霧散する。

あれだけ纏っていた殺気も消え失せた。

ゆっくりと剣を鞘に収めた加藤は、後ろを振り向いて仲間に声をかける。

 

「──すまんお前ら。さっきの無し」

 

 たった一言。それだけで仲間達は止まる。

種火から燃えるなと言われた彼等は不完全燃焼ではあるが、それでも止まった。

 

「……おう、分かった」

 

「……」

 

「焚き付けといて変な話な気もしますがね、分かりましたよ」

 

 加藤達が収まったのを確認した加奈子と呼ばれた人間はこちらを振り向いてきた。

その顔は怒りに染まっている。

 

「王様の癖に人の話聞かないとか役割出来てないですね、王様って民の声聞くものですよ?」

 

「……王とは国を守る物だ。その為に生まれる。その際に民の声を全て聞く事は出来ない」

 

「勝手に無理って決め付けて思考停止してるだけですよそれ。そんなんだから自分の子供に対して酷い事出来るんですよ」

 

「? 酷い事とは何だ……? 我は先代から教わったものをそのままやっているだけだ。何も問題は……」

 

「あるでしょ。貴方も酷い事されまくってたのは同情しますけど、それとこれとは話が違います。ルロ様あんなに泣いているのに、心配しないなんておかしいですよ」

 

「泣いている……?」

 

 その言葉が気になり、我はルロを見た。

まさか。ルロは魔王の血を引く子。例えどんな事があろうとも泣く事なんぞ無い。我がそうだったように──。

 

「お、おとうさん……もうやめて……おねがい……や、やめ……ヒック……やめてよぉ……」

 

「────────」

 

 泣いていた。大粒の涙を流しながら。

いつからだ? まさかずっと? いやだったら気付くはず──。

 

「泣いてるの気付かなかったんですか。呆れますよ、何にも見てないじゃないですか」

 

「……儂は……何を見ていたのだ……?」

 

「知りませんよ。貴方が子供の事ちゃんと見ないダメ親父って事しか私には分からないです」

 

 泣き続けるルロを見て、過去のルロとの関わりを思い出す。

執務に追われてパチンコにハマって。

儂はこの子に何かしてあげただろうか。

何も……していないのでは無いか?

 

「……おい魔王。お前にまだルロに対して思う事があるんなら……ルロの望みを聞け」

 

「望み……?」

 

「その望みを叶えられるのはお前だけだ。それすら出来ないんなら、お前はもうそいつの親じゃない」

 

 泣いているルロに近づく。

この子はこんなに小さかったのか。

しゃがまなければ目線を合わせる事も出来なかったのか。

 

「ルロ、儂は……何をすれば良い?」

 

「ヒック……やめて……戦わないで……み、みんなの大切なもの壊さないで……」

 

「……分かった。あの【道具喰い】を仕留めるのは、ひとまず止めよう……。他には、あるか?」

 

「……わ、わたし……ずっとがんばった……べんきょういっぱいしたしとっくんもたくさんやった! おとうさんにぷれぜんともよういしたぁ! だから、だからぁ──」

 

 

 

 

 

「ほめてよぉ……なでてよぉ……さびしいよぉ……おとうさぁん」

 

「──────」

 

 恐る恐るルロの頭に触れる。

過去の記憶を遡っても撫でた覚えが無い。

それが当然だと思っていた。己がそうだったから。

だが……この子は違ったようだ。

 

「……すまなかった……儂は……親になるべきでは無かったな……」

 

 己とは違う。何故そんなことに気付かなかったのだろうか。

血を引いているから。ただそれだけであって──ルロはルロ自身の我があると言うのに。

そんな愚かな父の謝罪に、ルロは泣きながら──。

 

 

 

「ううん……お父さんは、私のお父さんだよ……!」

 

 

 心の底から嬉しそうに笑った。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 ようやく撫でてもらえたルロ様を遠目から眺めてたら加藤さんが話しかけてきた。

 

「加奈子さん、すいませんでした」

 

「……怒るに足る理由だと思いますし、仕方ないと思いますよ」

 

 謝る必要は無い……と思ってる。

どちらかと言ったら加藤さん達と違って何も出来ずに地面に突っ伏してた自分の方が謝らないといけないくらい。

 

「やっぱ……ダメっすね俺」

 

「何がですか?」

 

「変わろう抜け出そうなんて言ったところで俺の本質は何にも変わらない。結局俺は……あの頃と変わらない」

 

 自虐的な顔で笑いながら、頭から流れていた血を手で拭う彼。

 

「人を顧みない自分が怖くなって、半ば無理やりチーム抜けて空中分解させてまで探索者から離れてもずっと俺の過去はくっ付いてくる。過去は消えないってやつですよね。挙げ句の果てには自分の本当の目的も忘れて、その時の感情に支配されて……何やってんだか、本当に。まんま欲望抑えられない中毒者ですよ」

 

 前から感じていたが、加藤さんはどうやら自分が相当嫌いなようだ。

たまに自分を下げるような事を言っていたのは、自己嫌悪によるもの。

そんな彼を私は──。

 

「……過去は確かに消えません。ダンジョン中毒もずっと尾を引いている。今回みたいな事が起きた時、また我を忘れてしまうかもしれない。……まぁ我を忘れるのに関しては割といつもではありますけど」

 

「そ、そうっすよね……すいません本当に……」

 

「じゃあ──私が引き戻しますよ。今日みたいに」

 

「……え?」

 

 恩人で面倒見が良くて、よく怒ってやられたら仕返しをして、過去に苦しんで、それでも変わりたいと足掻く彼の力になりたい。

 

「ちゃんと止めれば止まってくれるって、今回分かりましたから。だったら大丈夫になるまで、私が何度でも今の加藤さんに引っ張って戻しますよ」

 

「いやそれは迷惑が過ぎる──」

 

「良いんですよ。返せない程の大きな恩を最初に貰っているので。少しずつ返していかないと借金嵩んで目が回っちゃいます」

 

「……俺に気を使っているなら」

 

「使ってませんよ。使ってたら頭に矢なんか射ちませんし。何と言うか……友達? 先輩? どちらにせよ、ちょっとほっとけないですから」

 

「あれ? 俺もしかして『仕方ねぇ奴枠』に入ってます?」

 

「今更ですか?」

 

「おぅふ……」

 

 最近、割と言い合いが強くなった気がする。

この人と一緒に居ると突っ込まないといけない事が多過ぎるから、それのせいだと思うけど。

 

「あ、ほら! さっきから鶴岡さんが介抱してましたけど、クォーツちゃん起きましたよ! いまいちあの子の事情分かってませんけど、鶴岡さんの家に住んでるんですよね?」

 

「あー……家と言うか、カルト宗教と言うか……まぁそうっすね」

 

「魔王さんもクォーツちゃん狙うのやめてくれましたし、早めにちゃんとした所で休ませた方いいですよ。ちょっと他の人達にも伝えてきます!」

 

「は、はい……あ、あの!」

 

 移動しようとしたら後ろから加藤さんに呼び止められる。

振り向くと自虐的な表情は無くて、穏やかな顔だった。

 

「どうしました?」

 

「その……もっと早く言うべきだろって話なんですけど……」

 

 

 

 

「……ありがとう、ございます」

 

「……いいえ! 好きでやった事ですから!」




ここまで読んでいただきありがとうございます。
突然のシリアスで困惑した方も居たと思います。
ですが、加藤が何でダンジョン中毒を抜け出したいのかと言う動機をはっきりさせるのに必要だったので入れました。
コメディなのにシリアスなんてと不快に思われましたら、申し訳ありません。
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