ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
高木から電話がかかってきてから既に3日経過した。
幸いあれから仲間の凸は来ていない、興味が無くなったのか、用事があるから来てないだけかは分からないが。
「あ、やばい。震えが……」
結局あれからダンジョン清掃の仕事は取れていない。
そもそもの話として清掃員なんて既に雇っている場所ばかりなのだ。
元から居た人を押し除けてまで俺を入れる理由なんてどこにも無かった。
規模が大きい場所なら人手が欲しいだろうから行けるかなと思ったが……。
「家から近いデカいダンジョン、高木が運営してんだよなぁ……」
絶対何かされる、何だったら契約内容にダンジョンアタックしろとか盛り込んできてもおかしくない。
アイツは昔からかなり強引な所がある。
その強引さが経営者として上手く機能したからこそ、ダンジョン運営が成功したのもあるんだろうが……。
現状だと全く不必要な要素だ、マジいらねぇ。
「どうすっかなぁ……また医者行くか?」
一度病院で診てもらった事がある。
薬をもらって飲んでいた時期はある程度は解消されたのだが、効果が切れた時に反動で一気に症状が来て意識を失ってからは怖くて行っていない。
あの時は本当にやばかった、意識が無いのに気付いたらダンジョンアタックしてたから。
「早くまともになりてぇよ……」
元カノに振られたと言うのもあったが、何よりも両親に申し訳なかった。
大学を留年しまくった俺は結局勉強についていけなくて中退。
最終学歴高卒、しかも数年間迷宮探索者として暴れまくっていた俺は世間から見れば完全にヤバい人なのだ。
この国、と言うより人族は確かにダンジョンから得られる資源で一気に発展していった。
だからこそ迷宮探索者と言う職業は、世間にも認められるちゃんとした物なのだ。
だが、いくら職業がマトモでもやってる奴らが……探索者自体が基本的に問題ありまくりな奴が多い。
戦う仕事なのに軍の様に統率を取る者が存在しない為、好き勝手暴れるような荒くれ者ばかりなのだ。
実際探索者が起こした事件や迷惑行為は非常に多い。
故に世間の人達からしたら、迷宮探索者やってる奴……それも強い奴らは基本的に頭がおかしいと思っている。
全く自慢にもならないが、俺や高木と仲間達は探索者の中ではかなり上澄みの方……だとは思っている。
馬鹿正直にこんな経歴書いたらドン引きされて終わりだ、だから俺は面接の際それを隠している。
その為、俺は書類上では遊び呆けて大学を中退した数年間職を転々としてるフリーターなのだ。
終わってんな、俺。
「いや! 諦めたらダメだ、頑張ろう!」
自分で決めた事なのだ。
必ずダンジョン中毒から抜け出すと。
まともな人間になって、後ろ指刺されない様になって。
いずれはサラリーマンになって安定した人生を送るんだ。
「今日は少し遠出して営業しよう! もしかしたら雇ってくれる所があるかもしれない!」
職安にはダンジョン清掃の仕事は募集されない。
故に雇われるにはコネ、もしくは自分からアピールするしかないのだ。
幸いダンジョン清掃の仕事なら元探索者だと言う事はメリットに働く。
普通の仕事よりは俺の印象は良いはずだ。
冷蔵庫からコーヒーを取り出して一気に飲み干す。
スーツに着替えて靴を履き、俺は震えを気合いで抑えながら家から飛び出した。
「きゃあ!」
「おわぁ!?」
飛び出した先に待ち構えていたのだろうか。
以前アイテムをあげた加奈子と言う女性が玄関のドアの真ん前に居た。
勢いよく飛び出したからぶつかりそうになった、危ない。
「ご、ごごごごめんなさい!」
「いや大丈夫ですけど……え? なんで居るんです? 出待ち?」
時間としては午前9時、人を訪ねる時間としてはまぁ許容範囲だ。
確かにエリクサーを買った後、余りの金を返したいと言うから住所は教えたが……。
「あ、朝でしたのでまだ寝てるかもと思ったら中々呼び鈴を鳴らせなくて……」
「あーそうでしたか……」
今の季節は春、まだ午前中は肌寒い。
態々訪ねてきたと言う事は金関係の話だろう。
「取り敢えずあがってください」
「い、良いんですか?」
「良いですよ、汚いですけど」
ひとまず家に入れる事にした。
俺の家は家賃が安い代わりに、それなりに郊外にある。
彼女は駅近に住んでると言っていたから、ここに来るのに時間がかかった筈。
体も冷えてるかもしれないから、お茶くらい出してやろう。
◇ ◇ ◇
「こちらお返しします……」
「え」
一息付いた辺りで加奈子さんから、以前渡した光龍の宝玉を手渡された。
てっきり換金していると思ってたんだが……。
「もしかして買い取ってもらえませんでした? 国の方でやってる取引所ならどんなものでも売れる筈なんですけど……」
「い、いえ。ちゃんと買取は受け付けて貰えたんです」
「じゃあ何故?」
「……エリクサーが、無かったんです」
沈痛な表情で聞かされた言葉は、俺にとって耳を疑う内容だった。
「エリクサーが無い? そんな馬鹿な、確かにランクSだからレアと言えばレアですけど……高レベルダンジョンからそれなりにドロップする消耗品ですよ。バカスカ買われる様な物でもないし、枯渇するなんて事は……」
「係員さんに聞いたんですけど、どうも2年程前から高レアアイテムの流通量が著しく減ってるみたいなんです。特にエリクサーに至っては他の高レアアイテムより欲しがる人が多いから、その分減りが早かったみたいで……」
「はぁ……流通量が減るねぇ……」
こんな事あるんだな、最近市場の様子なんて確認して無かったから全然分からなかった。
2年前かー、丁度俺が探索者辞めた頃じゃん。
…………あれ?
「色々探し回って海外の取引所とかも確認したんですけど無くて……グス、しかた、ないんですけどね、他の人だって使いたいのは当たり前ですから……」
「……ソッスネ」
「魔族の友人にも頼み込んで、母国の方で探して貰ったんですけど……ダメでした……」
「ソレハソレハ……」
「なので、お返しします。……残された時間は少ないけれど、母と大切に過ごしたいと思います。加藤さん、迷惑かけたのに親切にしてくださってありがとうございました」
「イヤソンナソンナキニシナイデクダサイ、エエホントニ」
「お茶ご馳走様でした……ダンジョン中毒の方、きっと良くなりますよ。治療の方、応援してます。それでは……」
「……どうも」
深々とお辞儀して部屋から出ていった加奈子さんを見送った後、俺はおもむろに電話をかける。
相手は勿論──。
『潜るんだな!? 潜るんだろ!? よっしゃキタァァァァァ!!! どこのダンジョンにする!? 俺の管轄してるとこでも良いぞ!? ん? ん!?』
「ワンコールしない内に出るんじゃねぇよ」
『毎日数秒事にスマホ確認してるからな、お前から連絡無いかなって』
「気持ち悪ぃ……」
すぐに通話を切りたくなるが、グッと堪える。
聞いておかねばならない事があるからだ。
「おい、お前ダンジョン運営してるなら今の市場の状態とか分かるだろ?」
『どうした藪から棒に。そりゃ分からなきゃ経営者やれねぇよ』
「今、高レアアイテムの流通量がめちゃくちゃ少ないらしいんだけど……理由知ってる?」
『は? そんなん当たり前だろ。何せ──』
頼む、違っててくれ。
何かの偶然であってくれ。
俺の頭をよぎった最悪の原因で無ければ、それで良いから!
『俺らのチームが探索辞めたから、高レアを市場に売り払いまくる奴が居なくなったからだよ。他の上位層は手に入れたレアアイテムなんざ売るわけねぇからな。俺らくらいだぞ、ダンジョンに潜る為にレアアイテム売って入場料にしてたのなんて』
「やっぱりぃぃぃぃぃ!!!!!」
最悪の予想をど真ん中的中しやがった。
俺が探索を辞め、続く様に仲間も辞めた結果市場に今まで出回っていたレアアイテム達の価値が暴騰。
哀れエリクサーはそれに巻き込まれ、市場から姿を消してしまった。
『てかなんで急にそんな事聞くんだ? 何か欲しい物でもあったのか』
「エリクサーが欲しくてな……」
『エリクサーァ? 常日頃エリクサーとか要らねーって言いながら、ある日酔っ払った時に巫山戯てご飯にエリクサーぶっかけてエリクサー茶漬け言いながら掻っ込んでゲロってたお前がエリクサーが欲しい???』
「黒歴史を掘り返すのは辞めろ!!!」
あの時は馬鹿すぎた。
既にボトルを3本開けた俺にまともな判断力は無く、飲み過ぎでの気持ち悪さをエリクサーで治そうとした結果あれだったのだ。
そもそもお茶じゃないから茶漬けじゃないだろ、脳味噌入ってなかったのか俺は。
『じゃあ何でエリクサーが欲しいんだよ、一応言っとくと俺も持ってないからな』
「……実はな」
高木に加奈子さんの母親の話を伝える。
エリクサーが欲しいで既に懐疑的だった高木の声は、更に疑いを隠さなくなる。
『いや欲しい理由は取り敢えず分かった、でもお前そんなキャラじゃないだろ。困ってる人が居たら手を差し伸ばす人間か? どっちかと言うと自業自得、俺は知らねーって率先して言う様な冷血人間だろお前は』
「言い過ぎだろ! お前俺の事なんだと思ってんだ!」
『ずっと前にダンジョン潜った際に運営側の不手際で他の探索者とブッキングしただろ? その時たまたまお前が殺した魔物の死体がそいつらに吹っ飛んでって下敷きになって死んだ事あったじゃん。まぁ完全な事故ではあるけどその時のお前の第一声が「まぁいいか、別に。知らねぇ奴だし」だぞ。これが冷血じゃ無かったら愛染様の血なんて温もりに溢れてるだろ』
「……あの時は探索ハシゴして5日ぐらい寝てなかったから。普段はそんな事しないから。冷静な判断出来なかっただけだから」
『冷静ではあったぞ、冷酷でもあったが』
クソ! 過去の過ちが付いてきやがる!
やっぱ探索者やってると頭おかしくなるんだって! 辞めなきゃダメなんだって!
『クソほど似合わない事やろうとしてるのは、他の理由あるんだろ? 早く言えよ、親友だろ? 俺ら』
「……シンプルにその人が悪い人じゃないってのはある、母親の為に金稼ごうとするくらいだからな。だから宝玉あげた訳だし。後間接的とは言え俺が探索者を辞めたのも原因と言えば原因だろ?」
『ふーん、それだけ?』
「後は……そうだな。俺が探索者辞めるって言った時、お前ら反対しただろ?」
『そりゃそうだ、お前が居なきゃ始まらねぇし』
「どうせ無理で帰ってくるだろって言ってたやつもいたな、お前ら以外もそうだったよ。街であったダンジョン運営の職員や鍛冶屋、道具屋の連中も無理だから諦めろってな。でもよ……」
【ダンジョン中毒の方、きっと良くなりますよ。治療の方、応援してます】
「社交辞令ってのは分かってる、それでも唯一俺を応援してくれたんだよ」
『……つってもエリクサーは買えないぞ? 俺のコネでも無理だ、何せ物その物が無いんだからな。そんな状況だが……お前はどうするんだ?』
「なぁ、高木」
『何だ』
「エリクサー出やすいダンジョンって、何処だっけ」
◇ ◇ ◇
「ぐふ、ぐふふふふ」
「キモすぎる……頼むからその終わってる笑い方辞めてくれ……」
「悪い悪い、他のメンバーより先にお前とダンジョンアタック出来ると思うと、つい」
「2年前までは腐る程やってただろ」
「そのずっとやってたのがいきなり止められると調子も狂うだろ」
「狂ってたのか、調子」
「お前が辞めてから3ヶ月くらいはクソみたいなミスをしまくって運営傾けたわ」
「影響出すぎだろ!」
「俺も俺でダンジョンに定期的に行かねぇと禁断症状出るからなぁ、お前はどんなやつ? 俺頭痛」
「体の震えだな、頭痛よりはマシかもな」
久しぶりに装備を引っ張り出した。
加藤が辞めてからマジでやる気が無くなったから埃かぶってたわ。
杖だから多少メンテほっといても大丈夫だろ、多分。
「相変わらずその剣なんだな」
「これより良いのなんて無いだろ」
「俺との思い出の品だもんな!」
「やっぱ他のにするか」
「辞めとけよ、どうせお前の本気に耐えられなくてぶっ壊れるんだからさ」
「本気ではやるつもり無いぞ?」
「無駄無駄、どうせ夢中になって気づいたらフルパワー出してるよ」
加藤が装備しているのは、俺との探索で手に入れた【神聖剣 エヴァルテイン】。
手に入れてからはずっと加藤の愛剣のそれは、以前の変わらぬ輝きを保っていた。
「ちゃんとメンテしてんじゃん。本心では戻ってきたかったんだろぉ?」
「うるせぇ、非常事態の為にやってただけだ。今回みたいのな」
「はいはい非常事態非常事態」
「チッ……そろそろ行くぞ」
「あいよー、他の探索者の心配はしなくて良いぞ。俺の権限で予約突っぱねて暫くの間、このダンジョンは貸切だ」
「便利な役職だ事」
2人でダンジョンに足を踏み入れる。
加藤の様子を見るが特に変わりない。
「どのくらいで出ると思う?」
「10時間くらい周回すれば行けるんじゃね?」
「じゃあ沼ると20時間だな……まぁ行けるか」
そんな話をしていると目の前に巨大な狼が現れた。
ギガントウルフ……あらゆるモンスターの中でもかなり上の強さを誇る。
ギガントウルフは俺達を視認した瞬間、巨大な口を開いてこちらに突っ込んでくる。
2人まとめて食われても余裕でお釣りが来る程の範囲だ。
「さぁて早速──」
魔法を放とうとした瞬間、ギガントウルフが真っ二つになった。
悲鳴すら上げる事なく地面に落ちていく巨狼の死体を、俺は眺める事しか出来ない。
「……ハハハ」
何だよ、2年間のブランクあるだろうから手を貸そうと思ったのに。
全然いらねぇじゃん。
「…………」
剣を振り切った状態で静止している加藤。
横に並び立って顔を伺う。
「(ああ、お前何も変わらねぇな)」
2年間、ダンジョンから離れて丸くなったと思ってた。
実際今までの加藤なら、少し知り合った人の為にレアアイテム掘るなんて事考えもしなかっただろう。
マトモな人間になりたい、そんな加藤の目標はコイツの性格も変えちまったのかと思った。
だがそれは杞憂だった。
何故なら今の加藤の目は──。
「(あの時と同じ、バッキバキのイカれた目だ)」
【凶戦士】──過去に加藤に付けられていた通り名の通り、およそ人間とは思えない目をしていたのだから。
「……落とさねぇ」
「ん?」
「宝箱落とさねぇ、次行くぞ」
「まぁまぁ、いきなり飛ばしても仕方ないだろ? ゆっくり行けば──」
「あ??? 何言ってんだ高木ぃ! やるとなったらやるんだよ! 宝箱を開けて! モンスターぶっ殺して! ダンジョンアタックしまくる! そうだろ!?」
「……アッハッハ! そうだわ! その通りだ! 悪い悪い俺ボケてたわ! 行こうぜ!」
「やっぱ足りねぇよ……前のじゃ足りねぇ……もっともっともっと!!! 宝箱を! レアアイテムを! 脳味噌にダイレクトで来る興奮を!!! 俺にくれぇぇぇぇぇ!!!」
そう言って爆走し始める加藤。
以前は戦うだけならこうはならなかった筈。
どうやら我慢し過ぎてたのを前回少しだけ発散した結果、抑えが緩くなったようだ。
俺からしたら──好都合。
「
移動力を上げる魔法を自分にかけて、加藤に追い縋る。
移動中にも次々と襲ってくるモンスターを加藤が斬り殺して、俺が魔法で消し飛ばす。
「ハハハハハハハハハハ!!! そうだよ! これだよ! 俺はこれがやりたかったんだ! 2年間の間ずっと!!!」
「落とせ、落とせよぉ! 宝箱落とせぇぇぇ!!!」
「そうだ! さっさとくたばって宝箱献上しろモンスター共ぉ!!!」
あの頃と何ら変わらない。
最高に楽しくて、最高にイカれてる。
ダチとのダンジョンアタック。
たった2人の狂った行進が、始まった。
◇ ◇ ◇
病院、加奈子さんに連絡を取って向かった病室に俺達は居た。
「お母さん、これ飲んで……」
「……ウウ」
癌の痛みで言葉も話せないのか、呻き声で返事をした加奈子さんの母親は俺達が取ってきたエリクサーを飲む。
途端に優しい光が彼女を包んだ後、溶けるように霧散した。
「……嘘、苦しくない……」
「本当!? 良かった、良かったぁぁぁ!」
「こ、これがエリクサーの力……」
「こんなのがあったら、医療なんて無価値ですね……」
喜び合う親子と、驚愕する医師と看護婦。
確かにこんな物が誰でも使えるような世の中になったら医療は必要なくなるかもしれない。
「加藤さん、高木さん……ほんっとうにありがとうございました!!!」
「ドウイタシマシテ」
「か、加藤さん? どうしたんですか? 元気無いですけど……」
「あー気にしないでください。コイツ今折角2年もダンジョン探索耐えてたのに振り出しに戻ったからショック受けてるんすよ。ウケるでしょ」
「ええ!? そんな、ごめんなさい、私が……」
「キニシナイデクダサイ、カッテニヤッタコトナンデ」
自分で決めた事なのだ、後悔は無い。
例え2年我慢してマトモになったと思ってたのに、いざ久しぶりに潜ったら宝箱に狂喜乱舞してモンスターを皆殺しにする以前の自分のままと言う現実を突き付けられたとしても。
長時間居るのも迷惑という事で、俺達は帰る事になった。
加奈子さんにも加奈子さんの母親にも死ぬ程感謝された。
……あれだけ感謝されると、やった甲斐あったと思える。
「いやぁ〜楽しかったなぁ! 結局48時間ぶっ通しでさぁ! 途中エリクサー出たのに続けたよな!!!」
「勘弁してくれ……」
「エリクサー出て2人で大喜びした後、お前が1人で『もっとくれぇぇぇ!!!』って言って突撃して行ったの見た時は笑いが止まらなかったわ!」
「クソ! クソ! 俺の馬鹿! 何であそこで辞めなかったんだ! エリクサー出たなら終われよ! 何で更にアタックするんだよ! 沼らないで10時間くらいでドロップしたのにぃ!」
「ギャハハハハハハハ!!!」
自分のバカさ加減に当たり散らしながら病院の外に出る。
2日徹夜したからか、日光がしんどい。
「まぁ良かったんじゃないか? たまには人の為にダンジョン潜るってのも」
「まぁな……あれだけ喜んでもらえるなら、嬉しいよな」
「探索メンバーが欲しいアイテムあるってなって潜った事はあったけど、やるのが普通だったからな。あんま感謝とかしなかったかも」
「お互い様で流してたからな、別にそれ自体は良いんだけどな……」
2人で雑談しながらバス乗り場まで向かう。
時間的に30分は待つだろうな……。
「おいおい、加藤。そっちじゃないぞ」
「あん? バス乗り場はこっちって表示がさっきあったぞ?」
「部下に車で迎えに来させてるんだよ、バスより良いだろ」
「ああ、成程」
ダンジョン前にバスが通っていたから、そのままバスで来たが帰りの足があるならそっちで良いか。
兎にも角にも、今日は帰って寝よう。
流石に疲れた。
「……なんか車多くね? 今日平日だろ?」
「病院なんていつも混んでるだろ」
「まぁ……そうか」
にしたってギッチギチじゃねぇか駐車場。
しかもみーんな黒の高級車。
この病院って金持ち専用じゃなかったよな?
「おお、あそこだあそこ」
高木が指を刺した場所には一台の高級車。
何故かそこだけ周りに車が停めていない。
「(……なんかおかしくね?)」
停め方がどう考えてもおかしい。
いくらマナーがなってない奴らだとしても、真ん中辺りが空いてるのに停めないとかあるか?
「……なぁ、高木。お前なんか俺に隠して──」
「
高木に尋ねようとした瞬間、魔法で拘束される。
芋虫のような状態になった俺は、駐車場にもんどり打って倒れる。
「おい高木! 何すんだ! 早く解け!!!」
「ああ、すぐに解くさ……やる事やったらな」
パチンと高木が指を鳴らすと高級車から次々と黒服が出てきて俺を押さえ付ける。
完全に囲まれた……!
「油断してくれて助かったわ、これなら何とかなる」
「何を──」
「いやさぁ、どうせお前の事だからまた『もうダンジョンアタックはしない!』って言うと思ってさ。どうやったらお前に迷宮探索者に戻せるか考えた訳よ。そ・こ・で!」
高木は懐から何かを取り出した。
それはまるで羊皮紙のような──。
「お前それ──ギアススクロール!?」
「That's right! これを用いて契約した者は、必ず契約を履行すると言うとんでもねぇ激レアアイテムよ! 手に入れるのに死ぬほど苦労したわ!」
ギアススクロールを見ると既に複数人の名前と血判が押されている。
1番上には俺の名前だけ書かれている。
「ギアススクロールは契約する人数が多ければ多いほど、その強制力が強くなる。契約内容は──死ぬまで迷宮探索者であり続ける事」
「ま、まさか」
「お前に最初に電話した後、俺がただお前の電話を待ってたと思うかぁ? 探索メンバー全員のとこ行って、サインと血判もらってきてたんだよぉ!」
「う、嘘だろ! お前含めて全員、俺を探索者に戻す為だけに自分も死ぬまで探索者やるって言ったのか!?」
「言ったぞ! 当たり前だろ! お前が居なくなっただけで空中分解するような連中だぞ! お前が戻ってくるなら命賭けるわ!」
「イカれてんぞ、てめぇら!!!」
頭おかしいだろ俺の友人達!
どんだけ俺がダンジョンに狂ってる所見たいんだよ! あいつらが1番の気狂いだろ!
「さて、このギアススクロールはお前の血判があれば完成する……後は分かるな?」
「い、嫌だ……死ぬまで迷宮探索者だなんて……俺は普通のサラリーマンになって……マトモな人間に……」
「おいおい……そんなの無理だって自分が1番わかるだろ? 定期的にダンジョン入らないと震える時点でお前がマトモな人間になるなんて無理なんだよ」
ゆっくりと近づいてくる高木。
俺にはそれが、死刑宣告に思えた。
「何度でも言うぜぇ? 加藤──」
「お か え り」
「誰か助けてくれぇぇぇぇぇ!!!!!」
俺は迷宮中毒から抜け出せるのか。
俺はマトモな人間になれるのか。
それがいつになるのか。
それを知っている者は、まだ居ない。