ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
「ドスケベ大将軍! 無理矢理は許されませんわ! ちゃんと愛を育んだ行為で無ければこのアナンタが許しません!」
「ねぇ何で俺覗き見してた奴にいきなり意味不明な理由で怒られなきゃいけないんだ? 俺なんかした?」
「これからする気でしょう! その娘をどうするつもりですか! どうせホテルや家に連れ込んであはんうふんエッチッチーするつもりでしょう! このケダモノ!」
「ふざけんな! やる訳ねぇだろそんなの! 何だったら俺の方が被害者だわ!」
「え……リバ? 不味い! リバは考えてなかったですわ! ちょっとお待ちを! 今購入済み作品を確認して対応を考えます!」
「ガッツリ他人が居るところでエロ同人読み始めるなぁぁぁ!」
「タブレット持ち歩くの大変じゃなぁい?」
「新型ですので軽くて運び易いから大丈夫ですわ!」
「女将さん、マイペースすぎ」
いきなり店の外で音がしたから確認してみたら銀髪ドリルの竜人族が騒いでいた。
うるさいのでさっさと追い払おうと思ったら突然純愛以外認めないとか言い始めて訳が分からない。
「……さっきからうるせぇな」
「え?」
「またアタシをガキ扱いか、どいつもこいつも……」
「ど、どうしたのですウボォ!?」
「テメェ覚悟は出来てんだろうな……!」
セラフィナが銀髪ドリルに飛び掛かって馬乗りになる。
首元も掴み上げてほぼゼロ距離メンチを切っている。
やばい、こんな所でハンバーグ工場稼働されたら店が大惨事だ。
「落ち着けセラフィナ! 店内で人体粉砕ショーを始めるな! せめて外でやれ! いや、やっぱダメだ! やるな!」
「ぐおおお! その体のどこにこんなパワーがぁ!?」
「人がよぉ……折角好きな男と飲んでるって言うのによぉ……邪魔するって事は死にてぇって事だよなぁぁぁ!?」
「……え? 好き?」
「あん……?」
先程まで首を絞められて苦しんでいた銀髪ドリルは、突然起き上がってセラフィナに詰め寄る。
マジか、セラフィナがパワー負けするなんて。
「純愛なのですか!? 貴女はそこの人が好きと!?」
「な、何だよ。だったら悪いのかよ」
「じゃあそこの! 加藤さんでしたわよね!? 貴方はどうなのですか!?」
「ゑ?」
「貴方はこのゲキマブロリ娘の事をどう思ってますの!?」
「誰がロリだ! クソッ! 何だよこのパワー!?」
「さぁ! さぁさぁ!」
マジで何なんだコイツ……。どう思ってるなんてそんなん決まってんだろ。
「いやまぁ……好きだけど……それが?」
「…………は?」
「あらぁ」
銀髪ドリルはセラフィナを解放した後、全力ガッツポーズを決めながら飛び上がった。
「純愛認定!!! ヨッシャァァァァァァ!!!」
ガッシャーーーーン!
「照明がぁぁぁ!!!」
「おいふざけんな! なら何で付き合わねぇんだよ! おら! 早く婚姻届出しに行くぞ!」
「人権がぁぁぁ!!!」
「もしもし、うん私私。ちょっと今から役所開けてほしくて……うんうん。ありがとう、今向かわせるわぁ」
「逃げ道がぁぁぁ!!!」
バカ共を全員落ち着かせるのにたっぷり30分はかかった。
いやまぁ女将は完全に悪ノリだったんだけども。
「1つずつ処理していくぞ。まずお前は誰だよ!」
「私はアナンタ! フリーの探索者ですわ!」
「富竹みたいな自己紹介で誤魔化すな! お前映画館で騒いでたアホだろ! 何でここにいる!」
「え、そ、それは貴方がこの娘を騙して襲って泣かせてエチエチすると思ったから、それを阻止する為ですわ!」
「意味分からねぇよ! 何だ騙してって……ああ、そうか。人族の女だから分からないのか。いいか、コイツ……セラフィナはハーフサキュバスの27歳。俺より歳上の立派な成人だ」
「……嘘!? 貴方が性欲のまま見つけた性癖二郎系少女では無いのですか!?」
「俺どんだけケダモノに見えてんだよ!」
何だよこの爆乳ドラ女。凄まじい勢いで勘違いするやん。妄想癖が激しいのかな。
「良かった……世間に隠れて行う純愛も良いですが、やはり大手を振って共に歩いてる方が良いですわ。成人でいてくれてありがとうございますわ!」
「は? ……?」
アナンタとか言う女はセラフィナの手を取ってブンブンと振る。
完全に毒気を抜かれて唖然とするセラフィナ。
分かる、だって訳わかんないもん。
「あー……じゃあもう良いのか?」
「はい! 何か大事な事を忘れているような気もしますが、忘れるという事は大した事ないのでしょう!」
「絶対脳味噌ショッキングピンクに染めたせいだろ……」
「頭の中覗いてみたいわねぇ」
満足気になったアナンタはカウンター席に座ってウーロン茶を飲み始めた。俺の。
頭に生えてる角でウーロン茶代くらいにはなるかな。
「お、おい! 次! 次は!」
「え? ああ、お前の事が好きって事ね」
「そうだよ! 何で言わなかったんだ! アタシ1度も言われた事無かったぞ! 顔とか体とかしか言わなかっただろ!?」
「人聞き悪い事言うな! そう言う意味じゃなくて単なる性癖だ!」
「いやあんまり変わらないわよぉ?」
「す、好きなら付き合えよ! なぁ!」
「いや、それは無理」
「ざっけんなテメェ! キープか!? キープだな!? 許さねぇぞゴラァ!」
「グェェェ! 違うわぁ! 話は最後まで聞けぇ!」
興奮したセラフィナに首元を掴まれて振り回される。
やばいゲボりそう、耐えろ俺。ここで出したら店に最悪のスプリンクラーをすることになる。
「はぁ……はぁ……は、早く言え。もう限界なんだよアタシは!」
「何でそんな必死なんだよ、落ち着けって」
「そうですわセラフィナさん。落ち着かないと加藤さんも話せませんわよ?」
「お前はお前で常識人面すんじゃねぇよ!」
何てこった。この場のマトモさは完全に俺のワントップだ。女将さんに関しては完全に面白がってるから何の役にも立たん。俺が何とかしなければ。
「まず前提として俺は基本的にチームの仲間達は皆好き寄りだ。高木を除いて」
「それは分かってる。何だかんだお前アタシ達に甘いからな。高木を除いて」
「その高木さんって方、めちゃめちゃ嫌われてません?」
「あのハゲの事は取り敢えずいい。で、お前はその中でも好感度で言えば更に高い。何故なら見た目が好きだから」
「……好きなのは見た目だけって事か?」
「いや、前より若干性格丸くなったけど丁度いい気の強さだし、家事やってくれるし飯美味いし話し相手になってくれるからその辺も好きだわ」
「じゃあ良いだろ! 何が不満だ!」
「でもさぁ……お前が好きなのって『前の俺』だろ?」
「……え?」
何となく分かっていた事だが、今の言葉で空気が凍った。だから言いたく無かったんだがなぁ……。
「お前が惚れたのは狂ってる俺って言ってただろ。今の俺の事は『別に嫌いな訳じゃない』……だったか?」
「い、いや! それはキッカケで──」
「ギアススクロールにサインしてまでか? 結局の所、お前が求めてるのは前の俺。……今こうして、マトモになろうって足掻いてる俺じゃない。勘違いすんなよ、別にそれを否定している訳じゃない」
重い気分を振り払うように、セラフィナの飲んでたハイボールをガブ飲みする。
飲まなきゃ流石にやってられん。どうせこの状態じゃ絶対酔えないし。
「フー……お前や他のメンバーが、前の俺に戻って欲しいって思うのは自由だ。俺的にはそれが普通とすら思ってる。なんせ俺達が一緒に好き勝手やって、1番楽しい期間だったしな。……でもな、それでも俺は変わりたい。ずっとあのままじゃダメだって、少しでもマトモだって胸張れる人間になりたいんだ」
「……加藤」
「俺さ、探索者になる前はもっと普通だったんだよ。マジで普通。強い訳でも無いし頭がいい訳でも無い。何者かになりてぇとか思った時もあった。だけど……探索者になって、ダンジョンに篭るようになって、アホみたいな額の金稼いで使って暴れて……そんな事ばっかやってたら、無くなったんだよ」
「……何がだよ」
「それこそ【普通】さ。普通に他人の事考えたり、これやったらどうなるかとか、やったらやばいんじゃねぇかとか。そう言うブレーキみたいな物が無くなったんだ」
今思えば、元カノには感謝するしか無い。
何せ、そのブレーキが無くなっているのに気付かせてくれたのは彼女だったのだから。
「怖くなったよ。俺どこまで行くんだろうって。このままどうすんだろうって。それこそ目の前に崖や壁あっても何にも考えずに突撃するんじゃねぇかって思うと……怖かった。それに着いてきていたお前達を巻き込むのも……怖かった。だから辞めた。お前らとも最後の飲み会した後に連絡すんの辞めて引っ越した。……高木とはギリメッセージだけやり取りしてたけどな」
「……」
「だから俺は絶対に、前の俺には戻らない。少しずつでも俺は過去の俺を否定する。お前達と出会えたのは確かに過去の俺があったからだ。それでも……取り戻したいんだよ。あの頃、探索者になる前に間違いなく持っていた【普通】を。……自分の好きな部分を否定して消し去ろうとしてる俺に、お前はこの先耐えられるのか? そんな妥協が、お前に出来るか?」
「そ、れは……」
「無理だろ? お前が自分の想いに嘘付く訳が無い。それがお前と付き合わない理由だよ。別にキープでもお前が嫌いな訳でも無い。付き合った結果、妥協させたくねぇんだよ。……後悔させるからな」
俯くセラフィナを横目に酒を飲む。
残りの2人も黙り込んでしまった。最悪だ、折角そこそこ楽しんでたのに。全部アナンタのせいだ。何だその爆乳、エロい通り越して最早ギャグだろ。
「……お前がそこまで以前のお前から抜け出したいのは」
「……なんだ?」
「加奈子が居るからか?」
「─────────────」
コイツ俺の事見てるなぁ……。
「……顔に出てたか?」
「魔王とやり合った際に加奈子が止めた後、お前加奈子に礼を言ったろ。……その時の顔が……穏やかで……優しかった」
「そうか、そんな顔してたのか。自分では1ミリも分からなかったわ」
「姫さん見送る時に加奈子と話した時も、同じだった」
「マジかぁ……俺顔に出やすいんだな」
「……好きなのか?」
「いや、好きと言うより感謝だな。1番最初に中毒治そうとするの応援してくれて、あの時俺を止めてくれた恩人。多分人生で1番感謝してる人で、俺を──今の俺を、肯定してくれる人」
もし、あの時。
加奈子さんに会うより先にセラフィナに再会してたら、今の俺は無いのかもしれない。
魔王とやり合った際に止まらなかっただろう。
そのまま前の俺に逆戻りしてた、絶対に。
「俺みたいな人間を応援してくれる人を裏切りたく無いからな。引き戻してくれるって言ってくれる人に無駄な苦労かける程、腐ってねぇんだわ」
「……」
「これが理由だ。分かったか? ……失望して離れるなら今のうちだぞ。お前が何を言おうと何をしようと、俺は過去の否定を辞めないからな」
そう言った瞬間、床に突き飛ばされた。
そのまま馬乗りされて、完全にマウントを取られる。
まぁそうか、セラフィナからしたらキレる内容だからな。半殺しくらいは目を瞑ろう。
そう思っていた。
「……ふざけんなよ」
「……セラフィナ?」
「お前マジでふざけんなよ」
「本気だよ、俺は──」
「アタシが! そんな事で! お前の事諦める訳ねぇだろうがぁ!」
「……は?」
顔に水滴が落ちてくる。雨漏りなんて馬鹿な話は無い。セラフィナの──涙だ。
コイツが泣いているのを……初めて見た。
「確かに惚れたのはお前の狂った目だよ。あれにアタシは焦がされた!」
「だったら──」
「だがなぁ! それと同じくらい! お前が加奈子に向けたあの顔が忘れられねぇ! あの穏やかで優しい笑顔が! あの時からずっと脳裏にこびりついて離れねぇんだよ!」
「……」
「あの顔を……アタシに向けて欲しい。アタシだけに向けて欲しい! あの優しい感情の時のお前を! アタシは独占したいんだ!」
「おい、落ち着──」
「自分に嘘は付けねぇよ! 惚れた期間が長すぎて! あの目に焦がれた時間が長すぎて! 未だに好きなのは狂ったお前だ! だが……だが! だったらそれを超えるくらい! 今のお前を好きになってみせる! お前が過去の自分を否定したいんだったら、アタシだって過去の自分の気持ち否定してやるよ! そんな昔の気持ちより、今の気持ちの方をデカくして見せる! だから──」
「側に居させろよ……クソボケが……」
俺の胸に顔を埋めて静かに泣くセラフィナ。
体を起こして抱き締めてやる。
「……泣かせて悪かったな」
「許さねぇ……絶対ぶっ飛ばす」
「勘弁しろよ、俺だって譲れないもんがある」
「……仕方ねぇ。気持ちのデカさが入れ替わったら嫁にするで勘弁してやる」
「すいません、流石に段階踏んでくれませんか? 初代のポニータの図鑑説明くらい飛び過ぎだから」
「知らねぇよそんなの。責任取れや殺すぞ」
「えぇ……怖……」
泣くのが落ち着くまで軽く背中を撫でてやってるとふとアナンタが視界に入った。
「───────」
「し、死んでる……!?」
「あらぁ、尊死かしら。難儀な子ねぇ〜」
「最後まで意味わかんねぇなコイツ!」
純愛純愛言ってた馬鹿は、鼻血を垂らしながら床に横になっていた。
椅子に座ってたのに何してんだお前。
◇ ◇ ◇
会計をして店を出た時には、既に22時を回っていた。
飲み食いと騒動の後また飲み直しでかなり時間を食ってしまった。
「じゃあまた来ますわ」
「はぁい、また来てねぇ? あ、アナンタちゃんは照明の付け直しお願いね?」
「壊して申し訳ありません……」
「いいのよぉ弁償さえしてくれれば。それじゃ今日は早いけど店じまいね。またねぇ」
「それでは純愛のお2人! 良い物を見せてもらったお礼は必ず致します!」
「要らない要らない、刹那で忘れちゃってくれ」
眠ってしまったセラフィナを背負ってその場を後にする。
そこまで酔っ払っては無かったと思うが、酒と泣き疲れで限界が来たのだろうか。
可愛いところもあるもんだ。
「……うーん、泣かせるつもり無かったんだがなぁ」
諦めると思ってたのに乗り越えて来るとは思わなんだ。
流石セラフィナ、そんじょそこらの女とはレベチだぜ。
家に向けてダラダラ歩いていると、背中でセラフィナが動き出した。
「起きたか、別に寝ててもいいぞ」
「……なぁ、1つ聞いていいか」
「ガンスルーで草。何だ?」
「気持ちの大きさ変わるまで……どのくらいまで待てる?」
「あん? 別にいくらでもかかっていいんじゃねぇの? 好きにしろよ、俺も好きにやるし」
「良いのか?」
「おう、泣かせちまった負い目もあるしな。あそこまでお前が俺を思ってるとは思わなかった。すまんすまん。ま、精々努力するんだな」
「分かった。なら──早い方いいよな」
「え?」
その瞬間、背中に居たセラフィナが抜け出して俺を組み伏せる。
そのまま腕を掴まれて引き摺られ始めた。
は?
「はぁ!? 何!? 何してんの!?」
「ん? 確かこの辺だろ? ホテル街。今空いてるとこ入るから安心しろ」
「わぁいそれなら安心な訳ねぇだろうがぁ! イミワカンナイ! 何をしたいのお前!?」
「何をしたいって……努力だよ。今さっきお前が言っただろ? 努力しろって。惚れた気持ち塗り替えるんだったら、今のお前とヤった方がいいと思って」
「よくねぇぇぇぇぇぇ!!! 馬鹿だろお前! パワープレイが過ぎるわ! そんなんで変わるわけ──ンゴォ!?」
凄まじい力で無理矢理接吻された。抜け出そうと全力でもがいても全て抑えられる。
やばい、やたらと吸われるせいで酸素まで吸いやがるんだけどコイツ。窒息する。
「ゴヘェェェ! 何なんだよマジで! セラフィナ! いいかげ……ん……に」
「大丈夫だ、安心しろ加藤。すぐに塗り変わるからよ」
「あの? セラフィナさん? 大丈夫ですか? 正気失ってませんか? 目怖いんですけど」
「痛いような真似はしねぇよ。忘れる事は出来なくなるが……別に良いよな。どうせ何回もやるし」
そう言うセラフィナの目は普段と全然違った。
何が違うって、よくあるハイライトが消えてヤンデレみたいな……じゃない。
逆も逆。ギラッギラに目を輝かせている。
何が恐ろしいってその目に性欲が一切無い。
あるのは希望と慈しみと──それらが霞む程の愛情だった。やば、ちょっとチビった。
5秒くらい見惚れる程の笑顔だったせいで一瞬良いかなって思った自分を殺したい。
「ほら、肌合わせれば情が移るって言うだろ? だったらさっさと、今のお前に情移っといた方が良いだろ? 色々とな」
「あ、あ、あ……」
「お前もアタシの事好きだって言ってくれたし……今までは多少遠慮してたがそれ辞めるわ。マジでアタシ以外考えられなくしてやるよ。変な虫に付かれたら困るからな。無駄に最近湧いてきてるし」
「た、たす、たすけ──」
「なぁ加藤────絶対離さねぇからな?」
「やだ! いやだ! だれか! たすけ、たすけ、たすけたすけてたすけてたすけてたす────────────イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ────あっ」
その後、その2人の姿は夜の街に消えて行き、微かな助けを求める声がしたが……夜の帷に消えていった。
Game Over
師走の影響で仕事が忙しく、投稿頻度が落ちそうです。
多分週3〜4回になるかと。
そうなる前にここまで書ききれて良かった……。