ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】   作:1パチより4パチ派

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腰に願いを

「無茶させ過ぎ。所々壊れる寸前じゃんか。調子乗って好き放題やるから……」

 

「い、いやぁだってパワーもスピードも負けてる相手にするなら仕方ないじゃん? ちゃんと事前に無理させっからって言ったし? セーフだし?」

 

「応急処置はするけど、さっきみたいな操作はしたらダメだよ。分かった?」

 

「ウス……」

 

 何とか不正ゴレ娘を倒した後、高木との決勝が始まる迄のインターバルでロールのメンテをしてもらっていた。【魔光石】を使った強力なボディでも無いロールの体は、俺のめちゃくちゃな操作のせいで消耗が激しい。

 

「おーい、そろそろ時間だぞ?」

 

「もうちょい待てや。応急処置するから」

 

「どうせ俺に負けるんだから、ある程度で良いって。ちゃんとルール守るからコアは無事よ無事」

 

「うるせぇ。お前の頭スクラッチしてフロア縦ノリさせてもいいんだぞ」

 

「会場に縦ノリする程人居ねぇよ。ほぼ俺らだけだわ」

 

 ゴーレムは自己再生能力があると言っても、別に即座に回復出来る訳ではない。周囲の魔力を吸収して、崩れた土を元の体に戻す以上時間は掛かる。

 

「ロール、すまん。無理させた」

 

 頭に血が上っていたとは言え、ほぼ強制的に動かせてボロボロにさせてしまったので罪悪感がある。変に好みの顔にしてしまったから余計しんどい。

 

「マスター、そんな事はありません。まだ動けます。それに次勝たなければ、ギアススクロールは手に入りません。マスターはそれが欲しくて私を作ったのでしょう?」

 

「いやその通りなんだけどな? 本音言ったらもう1試合頑張って欲しいんだがな?」

 

「ではやりましょう。マスターの操作なら、どんなものも応えて見せます」

 

「お、おお。頼りになるわ」

 

 可笑しいな、いつの間にこんなに好感度上がったんだ? さっきの前マスターぶっ飛ばしたからか? 確かにクソパワハラ元上司をぶっ飛ばしたら俺でも好感度上がりそうだ。まぁだとしても最初の好感度底辺の時と比べると対応がダンチ過ぎるが……まぁ良いか! 言うこと聞いてくれるなら何でも!

 

「……よし、取り敢えずは大丈夫かな」

 

「サンキューオピス。よし高木、今行くから先行ってろ!」

 

「お! 了解了解! では行くぞぉぉぉ! 決戦のバトル・フィールドへ!」

 

「望むところだぁぁぁ!!!」

 

「加藤さん、所々テンション異常に高くないですか?」

 

「目の前の人参がもう少しで取れるからハイになっているんですよ。彼はそういう所がありますから」

 

「こういう時の加藤くんってよく調子乗ってやらかすんだけど、ロールに無理させちゃダメだよ? 可哀想だよ」

 

「安心しろ、ちゃんと作戦がある」

 

「作戦? どんな?」

 

 好き放題言ってたオピス達をスルーして、ロールの肩に手を置く。

 

「ロール、試合が始まったら時間稼ぎするぞ。ひたすら耐久だ。正直高木の操作に付いていけるほどの余裕は、今のお前の体には無い。だが耐えるだけならそこそこ出来るだろう」

 

「了解しました。……しかし、耐えた後はどうすれば……」

 

「なぁに、後は天に任せるさ。何せ─今日の俺の運勢はかなり悪いらしいからな」

 

「運勢……?」

 

 会話も程々にしてKBF(決戦のバトル・フィールド)に向かう。フィールドには両手にそれぞれ剣を持ったメアリスーと、腕組みしながら待ってる高木。コイツらに勝てば、俺はギアススクロールを手に入れられる……!

 

「メアリスー様ぁ! 御身のお力をお貸しください!」

 

「操作者よ! 共に世界を救う為、あのギアススクロールで世界各国の首脳に無理やり契約させるのです! 資本主義から共産主義へ切り替えると!!!」

 

「あれ? おかしいな。なんかアカいな。どうなってんだ鶴岡ぁ!」

 

「作る際にコアを教育しました。素晴らしい心構えだと思いませんか?」

 

「宗教のマスコットなんだからそう言うのからは引き離しとけって! なんか操作しづらい!」

 

「ハハハ! それ信者の前でだけは言わないでくださいね。後々怠いので」

 

 そもそも教育出来んのかよ。まぁ鶴岡の場合、教育(洗脳)とか普通にやりそう。……まぁ犯罪じゃ無いし良いか。

 

「さて……やるか」

 

「やる気満々だなぁ加藤。だが! お前が俺に格ゲーで勝った事はない!」

 

「格ゲー強いくらいでイキってんじゃねぇよ。俺のロールが勝つさ」

 

 お互いフィールドの初手位置に着く。審判が確認を取った後、開始の宣言と共に試合が始まった。

 

「先手必勝! 下BAAA右上Cィィィ!」

 

「しょーりゅーけーん!」

 

「上から飛びかかって昇竜拳は何もかんも間違ってんだろ!」

 

 ふざけた動きからふざけた攻撃が繰り出されるが、その密度は半端ない。次から次へと放たれる斬撃を防ぐので手一杯だ。

 

「(さっきみたいな動きをさせれば、ボディが崩れて自分から負けに行く。基本的な動きしかさせられない……!)」

 

 前の試合では圧倒的格上相手に俺の戦い方をロールにやらせる事で勝てはしたが、それはロールのボディに耐えられる物では無かった。そもそもの話、今回のレギュレーションで使えるゴレ娘のボディ自体、そこまで強い物ではない。俺の戦い方は体の負担を一切顧みない力任せの強引なもの。要は何でも使って相手を倒すゴリ押しの極みだ。そりゃガタも来る。

 

「単純な手数で負けてるのに、そんな臆病風吹かせて勝つ気あるのかぁ!? 加藤くぅぅぅん!」

 

「人族と魔族を救うには共産主義一択なのです!」

 

「鶴岡ぁ! 試合終わったらこれ何とかしろや!」

 

「検討kskさせますね」

 

「検討使!?」

 

 軽口を叩きながらも収まる事の無い連撃。最小限の動きで防いでいるが、段々と被弾が増えてくる。1発自体は軽いが、それが何度も繰り返されると洒落にならない。ジリジリとヤスリで削られるようにロールの体が傷付いていく。

 

「ロール! まだ……耐えられるか!?」

 

「勿論ですマスター。何度でもいつまでも耐えてみせます……!」

 

 声を荒げる事はなく、それでも少し離れた俺にもはっきり聞こえる声。

 

「私を信じてくれた貴方を……私は信じます……!」

 

 俺を信じると言うロール。無理をさせている事に罪悪感が凄まじいが、ここまで来たのなら、やるしかない。

 

「カウンター狙いか? なら少し距離を取る──訳なぁい! 休ませなぁい! 攻撃は最大の防御ってなぁ!」

 

「攻め攻めですね! 操作者! 勝利は目の前です!」

 

 耐えろ、耐えろ耐えろ耐えろ!

まともな動きが出来ない以上、俺達が勝つ方法はただ一つ! よく──当たるんだろ!? 

 

「高木ぃぃぃ!」

 

「どうした加藤! 降参か!? お前好みの顔が傷付くの嫌だもんなぁ!?」

 

「俺はお前の事を親友だと思っている!」

 

「……は? いやまぁ俺もそう思ってるが……」

 

「俺の人生で1番の友だとすら思っている!」

 

「お、おお? まぁ……うん」

 

「お前は! 俺の! 親しい人間だ! だから──宜しくお願いしまぁぁぁぁぁぁぁす!!!

 

「おい待て! 凄まじく嫌な予感が──!」

 

 全力で天に叫ぶ俺の声は、俺の願いは──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グギィ

 

 

 

 

 

 

 高木の腰に、届いた。

 

「ギャァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

「キタァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

『……え?』

 

 俺と高木以外の全員が困惑の声を上げる。だがこのチャンスを、俺は逃すわけには行かない!!!

 

「ロォォォルゥゥゥ! メアリスーを場外に押し出せぇぇぇぇぇ!!!」

 

「え? え? あ、え?」

 

 ロールを操作しても抵抗は無い。そのまま動きが止まったメアリスーを押し出し始める。

 

「そ、操作者? 操作者!? どうしたのですか!?」

 

「──アッ、──カッ」

 

 声すら出せない程の激痛に一切の行動を封じられた高木を放置して、メアリスーを外に押し出す事に成功した。場外に出てしまう。つまり──。

 

「俺の勝ちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 全力でコロンビアして喜びに打ち震える。あーやばい! ドーパミンドバドバですよ神!

 

「やった! やった! やったったー!!! 激キモ吸血鬼! お前の占いマジで当たるわ! 占いサイコー! 高木! お前も占いサイコーと言いなさい! あ、そんな余裕無いか! メンゴメンゴ!」

 

「カフゥー! アフゥー!」

 

 今日ここに来る時に会った変態吸血鬼の占い、それは確か──。

 

『貴方の親しい人が地獄の苦しみを味わう事でしょう! 貴方の物が傷付けられる事でしょう!』 

 

 俺の物が傷付けられる、これはロールの事だ。そして親しい人が地獄の苦しみを味わう……つまり高木が呪いによる魔女の一撃(ギックリ腰)を喰らうと言う事! 信じて良かった! ロールの部分が当たったからもしかしたらと思ったが、信じて良かったぁ! ありがとうペロリスト! 今度会ったら血やるわ!

 

「はい俺の勝ち! はい俺の勝ち! ギアススクロールはよはよはよ! 光回線よりはよ!」

 

「えぇ!? で、ではどう……ぞ……」

 

「ヤッフゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

 引ったくるようにギアススクロールを受け取って、急いで書き込み始める。白紙のスクロールに俺が書いた事で、所有者が俺に確定。もうこのギアススクロールに誰かが書き込むには、俺の許可が必要になった。仲間に弄られる心配も無くなったのだ。

 

 全力で喜んでいると、痛みに慣れてきたのか。高木が腰を抑えながら苦悶の表情をこちらに向けてくる。

 

「おい待てよ! おかしいだろ! ゴレ娘編10話以上も引っ張って終わりがこれ!? ここから俺が勝って加藤が絶望する話はどこだよ!」

 

「ある訳ねぇだろそんなもん! お前の毛根の方が絶望案件だろうが!」

 

「自分で剃ってるだけだわ! せめてもう少しお前の力が介入する戦いにしろよ! ほぼ運ゲーじゃねぇかぁ!」

 

「残念だったな! 世界が俺に勝てと言ってるんだわ! これが運命だぁぁぁ!!!」

 

「ふざけんなぁぁぁ! 爆発オチより最低だぁぁぁ!」

 

 有頂天になっているのは俺だけ。会場はヒェッヒエだ。だが知った事では無い。賞品が手に入ればそれで良いのだ。

 

「い、いやぁこれにて大会は終了! お疲れ様でしたー! それでは……」

 

『逃すかぁぁぁ!!! 弁償しろぉぉぉ!!!』

 

「待って待って待って!? おい、【金工房】に連絡……え? 着信拒否? 嘘でしょ!? うわぁぁぁぁぁ!」

 

 とんずらしようとした運営を他の参加者が囲んで乱闘が始まった。然もありなん、賄賂貰ってたのが悪い。

 

「じゃあな高木。精々苦しんでから帰ってくれや」

 

「ま、待て! 待ってくれ! もっかい! もっかいやろう!」

 

「悪いが何も聞こえないよ? 耳にバナナが詰まっていてね」

 

「どっから出したそのバナナァァァ!」

 

 痛みに悶える高木を放置してポカンとしてるロールと一緒にオピス達の方に戻る。鶴岡以外微妙な顔してる。

 

「加奈子さん! 見てください、ギアススクロールです! 漸く一歩前進しました!」

 

「え、あー……あの、あれって一瞬の隙を突いて大逆転とかそういう展開なのかなーって思ってたんですけど……」

 

「応急処置程度しかしてないのに、そんな無茶したら負けちゃいますよ。もう高木が呪いでダウンするしか方法は無かったんです」

 

「いや勝ちは勝ちだけどさぁ……不完全燃焼感凄いよ? 一酸化炭素中毒も夢じゃないよ」

 

「嬉しすぎて目眩起こしそうだわ」

 

「そうじゃなくてね?」

 

「とうとう手に入れてしまいましたか……ですが、まずはおめでとうございます。取り敢えずそのギアススクロールは売って恵まれない人々に寄付しませんか? 私がやっておきますよ」

 

「もう書いたから無駄無駄無駄ぁ! 全て負け犬の遠吠えよぉ!」

 

 確かに運で勝った。しかし、元より高木と真正面で戦ってもアイツの操作練度からして普通に負けていただろう。呪いかけてて本当に良かった。つまり今回の勝利の女神は──!

 

「エネロマ大先生!!! ありがとうございまぁぁぁす!!!」

 

 俺の恩人に届け! 感謝の思い!

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ヒィィィィィィィィ!!!」

 

「!? エネロマ! どうかしましたか!?」

 

「お、悪寒が……悪寒が止まらない……。歪んだねっとりした感謝が私の背筋に纏わりつく……」

 

「何言ってんだ?」

 

「……不定の狂気」

 

「も、もしかして加藤さんじゃないですか? 前にエネロマ様の事を先生と言ってましたよね?」

 

「嫌ぁぁぁ! 何!? 何なの!? 何で私なのよ! 別に感謝も尊敬もするような事してないでしょ!? もう呪いでしょこれ! 教会! 教会行って来るわ!」

 

「お前さんなら呪いくらい自分で解けるだろ」

 

「無理! これは無理! だってなんかねっとりしてるんだもの! アロエ軟膏くらいねっとり!」

 

「加藤様のねっとり……エネロマ、話があります」

 

「あああああ! もうキャパオーバーロードなのぉぉぉ!!!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 届いた気がする。良かった、今度会ったら食事でも奢ろう。

 

「アハハハハハハ! アハハハハハハハハ!」

 

 喜びの余り笑いが止まらない。加奈子さん達の凍てつく視線でエメンタールチーズになりかけながらも、俺は笑い続けた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 とても楽しそうにはしゃぐマスターを眺める。ずっと欲しいと言っていた物が手に入ったのだから、無理もない。例え締まらない勝ち方だったとしても、勝てて良かった。

 

「あ、そうだ。すまんロール、忘れてたわ」

 

「? どうかしましたか?」

 

 突然笑うのをやめて私に向き直るマスター。先程までのはしゃぎっぷりはどこに行ったのか。

 

「最初はいきなり喧嘩売られたからアレだったが……お前のお陰で欲しかったギアススクロール手に入れれたよ」

 

 今までとは違う笑顔。優しくて、穏やか。

そんな顔で──。

 

「お前と会えて良かった。ありがとな」

 

 ああ、土塊の体で良かったと本当に思う。だって、そうでなければこの顔を保っていられなかっただろうから。私がずっと、渇望していた言葉をくれたこの人の作ってくれた顔を。

 

「お気になさらず……」

 

「そうか。まぁ礼はちゃんとしないといけないからな。適当に受け取っておいてくれ」

 

「……マスター」

 

「どうした? ロール」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方のお役に立てて……私は幸せです」

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