ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】   作:1パチより4パチ派

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どうしてインフレは発生するんだろう

「まだ起きておられるのか……」

 

 深夜3時、静まり返った城の中を歩いて魔王様の部屋まで向かう。扉から微かな光が漏れている辺り、朝からずっと作業中のようだ。

 

「失礼します」

 

「ん? あぁ、ケルロスか。どうした?」

 

「王よ、そろそろ休息を。食事すら取っておられないでしょう」

 

「うん? ……ああ、もうそんな時間か。気づかなかった。すまんな」

 

「そこまで急ぐ案件でも無いでしょうに」

 

「それはそうだが、時間が掛かるからな。纏まった時間が取れる時にやっておかねば後々面倒だ」

 

 そう言って王は空中に浮遊している魔力の玉……ダンジョンのタネから手を離す。見たところ、殆ど完成しているようだ。

 

「しかし……更に難易度が上のダンジョンを作らねばならないとは思いませんでした」

 

「うーん、前作ったので充分だと思っておったがなぁ。まさかここまでアイテムの供給が減るとは思わなんだ。今回のはドロップ率も高くなるようにしたのだが……」

 

「魔力を固定化してアイテムを生み出す関係で、どうしてもドロップ率を上げるとモンスターの数や質が上がってしまいますね」

 

「それで潜れるのは高レベル探索者だけになる。そいつらが無駄に溜め込む。故に枯渇する……まぁそれだけでは無いがな」

 

「……やはり人族側より魔族側を優先するべきです。過激派連中が最近動き始めています。表立った動きはありませんが……物資などを集めていると」

 

「殺して済むなら楽なんだがなぁ。そうもいかんから困る。それに今魔族側を優先した所で、人族側と貿易している以上結局こちらにも影響は出てくる。故に平等。市場が荒れとる人族側には元に戻してもらわんと困る。金を持ってる連中が更に大きくなって、過激派と組まれでもしたら面倒な事この上ない」

 

「このダンジョンでその辺改善するでしょうか」

 

「まぁ潜る連中次第だな。ちゃんと対処出来るレベルなら良いが……テストしとくかぁ」

 

「では魔族の探索者を──」

 

「いや、人族側の国に設置するし人族の方が良かろう。丁度強い奴ら知っとるし。あ奴らなら普通に潜れるだろ」

 

「あ奴らと言うと……ルロ様がやたら話してる者達ですか」

 

「ちょいちょい電話しとるみたいだな。以前迷惑掛けたし、その詫びついでに頼むとしよう」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

『と言う事でお主らにバカ難易度のダンジョンのテストをしてもらう事になった。嬉しいだろ?』

 

「開口一番、嫌がらせアグロ仕掛けてくんじゃねぇよ!」

 

 バイトの休憩中に魔王から電話が掛かって来たから何だと思ったらいきなり喧嘩を売られた。何が嬉しいだろだよ。

 

『はて? だってお主ダンジョン好きだろ? 宝箱好きだろ? 今回のはドロップ率凄いぞ! バンバン宝箱ドロップするから、演出も見放題だ!』

 

「鬼かお前! アル中に苦しんでる奴にスピリタス点滴するような奴があるか! 絶対やらないからな!」

 

『高木から聞いたが、どうせギアススクロールの契約で1週間に1度潜らねばならぬのだろう? それついでにテストして欲しいのだがダメか?』

 

「ダメだね! そんなバカスカドロップするような場所だとマジで出られなくなる! 症状悪化するかもしれないのにやってられるか! 切るぞ!」

 

 隣に居る加奈子さんがウンウンと頷いている。勘弁しろよ、薬まで飲んで治療中なのにこんなんで振り出しに戻りたくない。

 

『そうか……まぁ強引にやらせても意味無いしな。途中で帰られるだけだし。悪かったな、時間取って』

 

「……まぁ分かればいいよ。じゃあルロによろしく。ちゃんと相手してやれよ。もし前みたいな対応してたら仲間全員でお前の顔面グッバイ宣言するからな」

 

『グッバイでは無くリンチ宣言だろそれ。分かった、気を付けよう』

 

 やれやれ、何とか説得に成功したようだ。早く弁当の残りを食べよう、午後も仕事だ。

 

『しかし参ったなぁ……。新しいレア度のアイテムが出るようになってしまった故、それの確認をしたいのだが……果たしてこのダンジョンを周回できるような奴が他に居るだろうか……』

 

 は? 新しいレア度?

 

「おい待て、何だよ新しいレア度って」

 

『ん? あーいや、今回のダンジョンはな? アイテムの流通を正常化する為に、ドロップ確率を上がるように設計したのだが……その副産物でSSSより上のアイテムが出るようになったのだ。まぁ仮に名付けるならLR(レジェンドランク)か』

 

LR(レジェンドランク)!? ソシャゲかよ! ……なぁ、そ、それって出た時の演出……」

 

『SSSよりずっと派手なモノにしたが……それがどうした? テストしないのだろう?』

 

「あ、あ、あ」

 

「か、加藤さん!? ダメですよ? 罠ですよ!?」

 

『LRはそれこそSSSの何倍も出にくくてなぁ……演出もそれに見合うくらい力入れたんだがなぁ……いやぁ残念だ。詫びとしてお主にチャンスをあげたかったのだが……うーん。まぁ治療が優先だな! それではこの話は無かったことに──』

 

「やるやるやるやるやるやるぅぅぅ! 潜る! 潜るから日にちは!? 時間は!? 何時何分何秒地球が何回回った日ぃぃぃ!?」

 

「ちょっとぉぉぉ! 即堕ちじゃないですかぁぁぁ!」

 

『お? やるか? なら日程や場所は後で連絡するとしよう。お主も仕事中だしな。では当日よろしく頼む』

 

「よろしく頼まないでください! 依存症の人の目の前に人参見せつけないで!」

 

 そう言って魔王は電話を切った。ゆっくりと加奈子さんの方を振り向くとめっちゃ怒ってた。さぁ、説得タイムだ。こう言う時に有効なのは──!

 

「お願いします加奈子さん! 1回! 1回だけ! 1回やったら辞めますからぁぁぁ!」

 

「土下座外交が通ると思ったら大間違いですよ!!! ダメったらダメです! 中毒治すんでしょ!? なのに余計ビカビカする物見たらダメでしょ! 今すぐ魔王さんに断りの電話してください!」

 

「待ってよお母さん! 魔王くんもきっと楽しみにしてると思うんだ!」

 

「だぁれがお母さんですかぁぁぁ! どうせ1回って言っても周回するのが目に見えてますよ! ほら、電話貸してください! 私が連絡します!」

 

「ちょ! 取らないで! スマホ取らないで!」

 

「この……! はやく……渡してくださいぃぃぃ!」

 

 土下座カードが打ち消されただけでなく、俺のスマホを強奪しようと俺の背中に乗って来た加奈子さんと攻防を繰り広げる。分かってる、我慢するべきだって。でも出来ねぇって! 出来たら中毒なってないって!

 

「加藤さぁぁぁん! スマホを渡しなさぁぁぁい!」

 

「ご勘弁! どうかご勘弁をぉぉぉ!」

 

 

 

 

 

 

「清掃員の2人、ほんと仲良しねぇ。付き合ってるのかしら」

 

「いや確か加藤さんって同棲してた筈よ? チームメンバーの1人と。ハーフサキュバスだったかしら」

 

「え? 私この前加藤さんが金髪ツインテールの美少女と歩いてるの見ましたよ?」

 

「あの人、常に女侍らせてるわよねぇ……」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 『今度高級ケーキビッフェに連れて行く』を条件に今回だけ許してもらえた。ありがとう加奈子さん。必ず良いとこ連れてくから。

 

「や、やばい。LRの事しか考えられん」

 

 一旦落ち着こう、そもそもSSSより出る確率が低い以上、テストの際に出るとは限らないのだ。もしかしたらテストのダンジョンアタックでは目にすることは出来ないかもしれない。その時は潔く諦めよう、一度だけと約束したし。諦める、諦めれたらいいなぁ。

 

「……あ、家着いてた」

 

 仕事が終わって帰ってる最中、ずっとLRの演出の事しか考えてなかったからか、家の前まで来てるのにすら気付かなかった。我ながらアホ過ぎる。

 

「また病院行こうかな……」

 

 前一気飲みしてしまった薬は今はもう飲んでいない。『加藤さんにはこう言う一滴だけ飲むみたいのは難しいみたいだから、前に処方したタイプの弱い版にしますね』と言われたからだ。看護婦さんにもめっちゃ怒られた。でも結局このザマだし……カウンセリングだけでもしに行った方がいいな。

 

「ただいまー」

 

「……おかえり」

 

 家に入ると、いつもの如くエプロンをつけたセラフィナが出迎えて来た。俺が仕事から帰ってくると必ずだ。要らないって言っても無視してくる。

 

「……何で不機嫌?」

 

「あのよぉ……1つ言いたい事あんだが、良いか?」

 

「お、おう」

 

「『アレ』は何なんだよ、なぁ」

 

 セラフィナが指を刺したリビングのソファには──。

 

「お帰りなさいませマスター。一緒にテレビ見ませんか?」

 

「掃除中も延々とテレビ見続けてクソ邪魔なんだがぁ!? 飯作ってる時も一生話しかけて来て迷惑なんだがぁ!? 何でこんなの連れて来たぁ!」

 

 寝っ転がってテレビを見ているロールが居た。よし! 昨日と何にも変わらねぇ!

 

「……その、オピスがいい加減ウチに置いとかれるの困るって言うから……。ギアススクロール手に入れれたのロールのお陰だし……家に置くしか無くて……」

 

「それは聞いた! 100歩譲って家に置くのは良いが、家事の邪魔してくるダッチワイフってのは聞いてねぇぞ!!!」

 

「聞きましたかマスター。私の事ダッチワイフって言いましたよ。下品過ぎません? 日中話してた時からですけど、どんだけこの人育ち悪いんですか。仮に過去が悪かったとしても、改善しようとしないのであれば余りにも向上心がありませんよね。プルスウルトラの精神が足りないんじゃないでしょうか。ヒロアカ5周した後にマナー講師のクソマナー全部網羅させるべきですよこれは。マスターも家政婦を雇うのならもっと良い人が居ると思いますよ」

 

「一々台詞クソ長いしよぉ! この煽りずっと聞かされてんだぞ! 今すぐ改善しねぇとストレス解消に明日足腰立たなくすんぞゴラァァァ!!!」

 

「イヤァァァ! イエローサンシャインだけは見たくないぃぃぃ!」

 

 キレたセラフィナに胸倉を掴まれる。従順になったと思ったロールだったが、それはどうも俺にだけらしい。それ以外の人間は普通に今も嫌いらしく、こうして長文煽りをぶちかましてくる。直せと言ってもここだけは直さないのでどうしようもない。

 

「すまんセラフィナ! 許してくれ! こう言う奴なんだよ! ほら! 多様性の時代じゃん?」

 

「ほーう? 多様性を煽りの言い訳に使うってんならこっちにも考えあるぞ?」

 

「考え? どんな?」

 

「今夜コイツをお前の部屋に固定して、お前に〇〇〇〇〇〇〇〇した後【自主規制】して最後に空中で──」

 

「ロール! 今すぐその態度をやめろ! 主人を守る為に! 少なくとも家事の邪魔すんのやめろ! 良いな!」

 

「私も見せつけられても困るので家事の邪魔はもうしません。ごめんなさいでした」

 

 良かった、このままだと俺がめちゃくちゃにされる所だった。セラフィナはやるって言ったらマジでやるから洒落にならん。

 

「全く……飯出来てるからさっさと食えよ」

 

「あ、ああ……悪い、迷惑かけた」

 

「別に良い。今度アイツが邪魔してきたら多分殴るが」

 

「コア以外だったらまぁ良いか……」

 

「マスター、お願いします。そこは止めてください」

 

 話もそこそこに夕飯を食べる為にテーブルに着く。食べながらセラフィナにダンジョンのテストの話を伝える。

 

「は? 魔王が? LRねぇ……」

 

「後で詳細伝えると言ってたから、近いうちダンジョンアタックするつもりで頼む」

 

「いや良いけど……お前治すんじゃ無かったのか? 悪化しないか? 一応、中毒治すの応援してたんだが……」

 

「うぐっ!?」

 

「約束しちまったなら今回は仕方ねぇけどよ、次は気を付けた方いいぞ」

 

「は、はい……」

 

 普通に注意されてしまった。少し前から今の俺を好きになるとか言ってから、セラフィナが加速度的にマトモになってる気がする。やばい、マトモさで負けるじゃん。このままだと完全に口だけ番長になる。

 

「マスター、我慢する事はありません。気の赴くまま好きな事をすればいいと思います」

 

「おいテメェ。アタシの男を無責任に焚き付けてんじゃねぇぞ。ぶっ壊されたくなかったら黙ってろ」

 

「私はマスターの所有物です。セラフィナ様に破壊する権利は御座いません。それに本人が我慢出来ないのなら、無理に抑える事の方が苦ではありませんか?」

 

「ハッ! 何も分かってねぇな! ダンジョンから離れてぇ、マトモさを取り戻してぇって言ったのはコイツだ! 上っ面だけ見て判断してる脳味噌土塊のテメェには難し過ぎたようだなぁ!」

 

「私は脳では無くコアで思考しているのでその罵倒は的外れも良いところですね。まぁ3大欲求が全て性欲で出来てるような方には理解に難儀だと思いますが……」

 

「「………………」」

 

「分かった、この話はやめよう。 ハイ! やめやめ! 無言でメンチ切り合うのやめてくれ! 俺の家が殺伐さで満たされてしまう!」

 

 何でコイツらこんな仲悪いんだよ! ……ああ、そうか。どっちも我が強いからか。何でこう言う奴らばっかり寄ってくるんだろう。ゲームだったら選択肢間違い過ぎてバッドエンドだろこれ。

 

「勘違いされている可能性があるので言っておきますが……私は道具です。故にマスターの伴侶云々に興味はありません。ただ私を使って欲しい。それだけですので」

 

「ああ……うん。ロール、お前取り敢えず俺の部屋に行っててくれ……。これ以上は逆効果だから。見ろよウチのセラフィナを。顔がバキバキ血管ですよ? 誠に殺意ですよ? お前がぶっ壊されるの嫌だから大人しく言う事聞きなさい」

 

「承知しました。失礼します」

 

 ロールを操作して俺の部屋に向かわせる。最初に比べて上手くなったもんだ。さて、こっちも上手くやらないと……。

 

「あー……いつも家事ありがとう! いっぱいちゅき」

 

「…………」 ピキピキ

 

 やばい即死選択肢選んじまった。シベリアより冷たく、マグマより熱い怒りの篭った視線だ。急激な温度変化で体が破壊されそう。無言で自分の分を食べた後、セラフィナはそのまま皿洗いし始めてしまった。リビングから離れてスマホを取り出し、グループ通話で高木達に助けを求める。

 

「なぁ、お前らのリーダーのいえが修羅場でピンチなんだが助けた方良くないか? と言うか助けて? お願いします」

 

『酒飲みながら指差して笑うわ』

 

『面白そうなので観戦してもいいですか?』

 

『撮影してYouTubeにあげていい?』

 

『いいね〜! なんなら実況付けてやれば伸びるんじゃね!?』

 

『収益はウチの孤児院に入れて欲しいですね』

 

『これで僕らもインフルエンサーだ!』

 

『『『アッハッハッハッハ!』』』

 

 薄情者のカス共を全員着信拒否にぶち込んだ後、俺はスマホの電源を落とした。

 




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