ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】   作:1パチより4パチ派

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正月休みが終わる事を受け入れられません


死刑宣告(好意100%)

 夜の帷が降りた中、大勢の人族や魔族が地面に倒れ伏している。どれも息はあるが、動く事は出来ないほど叩きのめされている。

 

「あっちか。行くぞ!」

 

『了解!』

 

 部下を引き連れて鉄火場に突貫する。……と言っても、最早我々の出番なんて物は存在しなかった。

 

「ち、ちく、しょう……」

 

「動かない方が良いわよ。呪いに抵抗し過ぎれば体が限界迎えてバラバラになるわ。死にたく無いなら言うことを聞く事ね」

 

「ご、ごはぁ……」

 

「何だこのチンケな武器は? オーガの俺にほんなの通る訳無いだろ? せめてもうちょい良い武器をだなぁ……ん? おーい? ……何だもう終わりか」

 

「……殺しはダメ。リファルの名に傷が付く」

 

「めちゃめちゃ手加減したぞ? 本気出したらコイツら程度粉微塵だ」

 

「……証拠残らないなら、まぁヨシ」

 

「良くないです! 自重して下さい!」

 

 誰1人、軽い怪我すら負っていない。流石は探索者チームの中でもトップクラス、【勇者の集い】だ。……自分達警察が役立たずに思えてきた。

 

「あら、後詰のSATの人達」

 

「他に構成員は……」

 

「……部下は全員鎮圧終了。今リファルがトップを──『ギャァァァァァァ!』……倒したみたい」

 

「ガッハッハ! 突っ込んでまだ10秒も経ってねぇが、流石はリファ嬢だな!」

 

 早い、早すぎる。奴らだって決して弱い訳じゃない。武装もしてるし、何なら魔法使いもかなりの数雇っていた。それを正面から食い破る。逃げる時間も与えずに。

 

「(化け物……いやいや、彼女達にその様な呼び方をしてはいけない。こうして協力してくれているのだから)」

 

 失礼極まりない考えをさっさと振り払う。ダンジョンに潜る暇など存在しない我々と、何年も潜り続け強くなった彼女らとでは基準が違うのだ。傲慢な物だらけな高レベル探索者、その中で例外的に謙虚で協力的な【勇者の集い】は、アイテムで言ったらSSRレベルで貴重な存在だ。感謝しなければ。

 

「SATの人、悪いんだけどリファルの方行って欲しいわ。私達はコイツら抑えとくから。トップを最優先で連行した方良いでしょ?」

 

「その通りですね。了解です。行くぞ」

 

『ハッ!』

 

 精霊族の魔法使いに指示された通り、アジトの奥に移動する。奥の部屋では、2mを超える大男が完全に気を失っていた。そして部屋の中心では槍を持ったハイエルフの美しい女性。ギャップが凄まじいな。

 

「SATの方々、こちらは鎮圧しました。連行をお願いします。ですが罠がまだあるかもしれません。お気を付け下さい」

 

「心遣い感謝します。捕縛対象確認! 連行する!」

 

『ハッ!』

 

 大男を拘束して連れ出す。高ランク素材で作られたと思われる武器が粉微塵な所を見て、最早この男に哀れみすら覚えた。どれだけ装備が良かろうと、使い手の差があり過ぎれば無いに等しいか……。

 

「……? リファルさん。どうかなされましたか?」

 

 リファルさんは答えず、何も無い壁から視線を外さない。徐に槍を構えて壁に向かって1突き。壁は当然砕け散った後、本来あるはずの無い空間が現れた。

 

「!? これは……」

 

「古典的であり原始的。ですが魔法に頼らない事で逆に隠せる……成程、探知魔法にかからない訳です」

 

「良くお分かりになりましたね……見た目は全く普通の壁でしたのに……」

 

「勘……ですね。申し訳ありません、月並みな回答で……」

 

 リファルさんが中に入っていくので後に続く。露わになった空間には、多くの資料と思われる物が保管されていた。

 

「何だこれは……。密造した【霊酒】のリスト……? ただの在庫管理か?」

 

 今回の連中は取引所を通さずにアイテムを裏に流して金を稼いでた、言ってしまえば小物だと思っていたのだが……。いくつか漁っているとリファルさんが1枚のファイルを手に取って開く。ポツリと溢した彼女の一言は、不穏そのものだった。

 

「──【大暴走(スタンピード)】……?」

 

◇ ◇ ◇

 

「加藤よ。儂普通に焼肉の方が好きなのだが。今からでもこの良い肉を使って焼肉きんぐした方良いのでは無いか? 儂一応王だし」

 

「は? 加藤お前何でセリの根っこ入れてんだよ。ここ食うとこじゃ無いだろ? 貧乏性かよ」

 

「おい人間。お前はどうもルロ様に気に入られているようだが……勘違いするなよ。本来お前如きが関わって良い様な方では無いのだ。後もう少し具材は小さく切れ。ルロ様が食べにくいだろう、気が効かんな全く」

 

「うるせぇぇぇぇぇ!!! 俺はルロが泊まりたいって言うから家に泊めただけで、お前らなんか招いてねぇんだよボケェ! 巣に帰れ阿呆共! 後セリの根は食えるし美味いんだよ!」

 

 人がすき焼き作ってる最中に後ろからギャーギャー言ってくる馬鹿共をキッチンから追い払う。広いキッチンがマイナスに働くなんて思わなかったぞ。

 

「高木くんダメだよ、料理の邪魔したら。今日は加藤くん機嫌悪いんだから」

 

「別にお前も来るの許可した覚え無いけどな」

 

「そんな酷いよ! 沢山材料持って来たんだから、少しは感謝して欲しいな!」

 

「何が材料だ! 生卵しか持って来てねぇだろお前! 何ここぞとばかり蛇アピールしてんだよ!」

 

「いやいや、卵に卵付けて食べるんだよ。ゆで卵にマヨネーズつけて食べるでしょ? なら、ゆで卵に溶き卵付けて食べても良いじゃん?」

 

「黙れよ卵ジャンキー。生卵ジョッキ飲んでロッキーごっこしとけよ1人で」

 

「ちゃんと通しで見たはずなのに修行シーンと生卵イッキしか記憶に残らないよね、あの映画」

 

 手伝う事もしない役立たず4人に怒りを覚えながらすき焼きの準備を進める。作る奴が俺とセラフィナしか居ないから時間かかるな。

 

「加藤、私も手伝う……」

 

「ん? いや大丈夫だぞ? 適当にゲームでもして待っててくれ」

 

「でも……」

 

「姫さんは手伝いたいんだろ? なんかやらせてやれよ」

 

「そうなん?」

 

「うん……」

 

「じゃあ……食器出してもらおうかな……取り皿とかコップとか」

 

「うん、分かった。やる」

 

「なっ!? ルロ様を小間使いのように扱うな! 不敬だぞ!」

 

「じゃあテメェも手伝えや犬コロが! 口だけ番長のくせに!」

 

 魔王の御付きがマジでうるさい。後ろから一生ヤジ飛ばしてくるくせに何もしないし。人族嫌いなんだと言うのは分かる。まぁ露骨過ぎだろとは思うが。

 

「はぁ……結局LRの演出は思い出せないし、飯たかられるしで良い事ないわ」

 

「後はアタシがやっとくから休めよ。火通せば終わりだし」

 

「今抜けてもあのバカ共のせいで最大HP削られるからいいわ。さっさと作って食わせて追っ払うぞ」

 

 特に魔王なんて泊めたくねぇし。つーか少し前まであんなに自分の嫁に怯えてた癖に切り替え早過ぎだろ。数分後、具材に火が通ったので鍋を持ってリビングに向かう。

 

「加藤、鍋敷き敷いたよ」

 

「おお、ありがとうなルロ。そこの木偶の坊共とは大違いだ」

 

「出来たか! 良かった良かった。カキラが思念で見られてるのが分かった以上、ルロと一緒に食事したり親らしい事しとかないとタマ爆破されるからな!」

 

「これがホントの金爆って奴っすね!」

 

「鬼龍院翔に赦しを請えよ」

 

「そもそも見られてるのにそれ言ったら結局爆破されるんじゃねぇのか?」

 

「……ルロ、元気でな。新たな魔王の誕生だ、頑張ってくれ」

 

「お父さん、加藤の家に引っ越していい?」

 

「反抗期ってプレミアム入ったらスキップ出来ないか?」

 

「魔王様、そんな物があったら世の中の親は苦労しません」

 

 ふざけた事抜かす魔王を放置してすき焼きを置く。本来俺とセラフィナの夕飯だったのに、人数が増えた所為で大鍋になってしまった。テーブルの占有率がやばい。

 

「わーい、僕肉多めで良い?」

 

「待てって、ルロの分が優先だ──バカ! 自分の箸入れんな! 取る用の菜箸置いてんだろ!」

 

「日本の食事なんぞ普段食わんから初めて見たな。スキヤキと言うのか。昔来た時はテンプラを食ったぞ懐かしい」

 

「我々の国には醤油なんてありませんからね、お気に召したら取り寄せます」

 

「おーい加藤、俺の分もよそってくれよ〜」

 

「高木、お前はこっちらしいぞ。ほらよ」カラン

 

「すいませんカルシファーの朝飯(卵の殻)しか入ってないんだけど。こんなんじゃ城動かせないって」

 

「食えるだけありがたいと思えよ。てかお前また知らねぇ間にタンス裏に酒保存してたろ。アタシの掃除増やすんじゃねぇよ殺すぞ」

 

「当たりつえー。良いのか? あんまやると俺砕け散るぞ?」

 

「高木くんどうせ元戻るでしょ」

 

「高木化け物?」

 

「こんなお茶目で可愛らしいスキンヘッドを化け物呼ばわりとか教育が間違ってるんじゃないか?」

 

「成績オール5レベルで正しさの塊だし、お前そのものが間違いの化身だよ」

 

 結構な量あった食材がどんどん消えていく。7人が同時に食べているから当たり前と言えば当たり前なんだが、少し前の1人暮らしの時とはギャップが凄まじい。

 

「ルロ、口に合うか?」

 

「うん、美味しい」

 

「そうか。まだあるからな」

 

「加藤くんって子供に優しいよね」

 

「ガキに優しくするのは当たり前だろ。ガキなんだから」

 

「言い方さえもう少しどうにかなれば、僕達のチームももう少し風評マシになるかもね」

 

「無理無理。コイツ口悪いの完全に素だぞ。元カノから聞いたけど高校の頃からだから筋金入りだ。直らないって」

 

「ち、違うし! 直るし! ダンジョンから縁を切れれば、中毒治れば! 口の悪さも世間からの悪評も老後の人生も全部上手くいくんだ!」

 

「現実逃避発動し始めたな。可哀想に!」

 

「聞こえないちゃむねぇ〜」

 

 耳の痛い言葉に蓋をしながらすき焼きを喰らう。高い肉だから美味い。脂が甘味だ。

 

「鶴岡くんも来れば良かったのにねぇ」

 

「あー……まぁほら、宗教運営してるし忙しいんだろあいつ」

 

「あの神父か。宗教運営までやっているとは、お前達は何なんだ?」

 

 鶴岡はクォーツの様子を見る為に帰ったのだが、オピスはまだしも魔王の御付きにクォーツの事をバラす訳にはいかない。魔王は見逃してくれたが、長生きして実際に【道具喰い】から被害受けてそうなコイツにバレたら面倒な事に発展するに決まっている。適当にはぐらかしておこう。

 

「……そう言えば! ダンジョンのテスト感謝するぞ! 近いうちに運営側の目処が立ったら本設置する予定だから、出来たら頑張って潜ってくれ!」

 

「演出自体は見れなかったけど、確か結構アイテム落ちたよな? 中身見てないからアレだけど」

 

「結構どころかバカみたいに落ちたぞ。何だったら出てくるモンスターがどいつもこいつも落としていった。すげぇぞあのダンジョン。世界変わるぞ」

 

「そうだろうそうだろう! 問題点はお主らレベルの者しか入れんと言う事だが……まぁ万人にバカスカ入られても困るしな。暴落しそうで」

 

「入場料で破産する連中も大量に居そうだね、中堅冒険者程度じゃあのダンジョン無理だよ。後半地獄だもん」

 

「あのレベルだと幾らだ? 大体1回1人500万か? アタシらがよく潜ってた最難関ダンジョンがそんくらいだったろ?」

 

「途中で死ねばパーだし、何だかんだでバランス取れそうな気もするね」

 

 魔王が助け舟を出してくれたので、それに乗っかる。実際、今の市場相場を落ち着かせるにはあのダンジョンは完璧だ。勿論ハズレと言うか低ランクのアイテムも出るのであれだが……それでも試行回数を稼ぎやすいのは今までのダンジョンと比べようもない。ダンジョン内の造りも一本道、出来る限り効率化されている。

 

「最終調整し終わったらお主らもバンバン潜ってくれ! 最近人族側のインフレがこっちまで来始めた。ここら辺で食い止めて欲しい」

 

「物が無いと言って魔族の国まで来てアイテムを買い上げていく者が増えてきた。お陰でこちらのアイテムの物価も鰻登り。全く、欲を出し過ぎだろう。……まぁ魔族の高レベル探索者も居るから、これに関しては文句言えんが……」

 

「そうだな、きっと他の探索者が潜ってくれるよ多分。【勇者の集い】とかそこら辺がさ」

 

「LRの演出覚えとらんのに、もう潜らんのか?」

 

「どうせまた興奮し過ぎて死ぬからもう良い。泣き喚いたら諦めついた。あれは俺にとって劇薬過ぎる。次同じ死因で死んだら全ての記憶が吹っ飛ぶ気がする」

 

「自覚があるだけマシと考えれば良いのか、分からない方が幸せだと考えるか……どっちもどっちだね」

 

 絶対次の休みに病院行く。ダンジョン内だから良かったものの、これが普通に外だったらそのまま昇天してた。高木蘇生魔法使えないし。死に慣れてるのは確かだが、あんな死に方は想定外も良いところだ。

 

「そういえば、LRのアイテムってどんなの?」

 

「あー……ルロ様、それがよく分から無いんすわ。後で鑑定士に投げてみる予定っすわ」

 

 高木がそう言いながら、サンタの袋みたいな大きさの袋からLRのアイテムを取り出す。それは馬鹿デカい透き通るような水晶だった。何に使うのかさっぱり分からない。

 

「お父さんは何か分からないの?」

 

「分からん。儂は確かにダンジョンを生み出してきた訳だが……あくまで魔力を固定化してアイテム化させる機構を作っただけで、それによって生まれる物をどうこう出来る訳では無いのだ。出来るのだったら高レアアイテムしか出ないようにするしな。宝箱に関しても、外側や演出は弄れるが、中身に関してはさっぱりだ」

 

「そっか……。鑑定士の人なら分かるの?」

 

「半々って所っすね〜。アイテム鑑定士もピンキリだし、最近は新発見のアイテムなんて殆ど無かったんで腕落ちてるかも」

 

「分からなかったらクソ邪魔なデカい置物にしかならねぇな。漬物石にでもするか?」

 

「やめろよ、臭い出るし。アタシあんま好きじゃねぇんだよ漬物の臭い」

 

 どちらにせよ現状何も分からない。LRとかいう世界初レアリティのアイテムのくせに、盛り上がらない話だ。

 

「そうなんだ……加藤は、中身には興味無いんだもんね」

 

「全くと言うのは語弊があるが……まぁ大体は要らないな。俺のエヴァルテインが手に入った時も演出とワクワクが占めてたし」

 

 そう返すと、隣で俺がよそったすき焼きを食べながら、ルロは笑顔になる。

 

「じゃあ私が魔王になったら、お父さんのより凄い宝箱作ってプレゼントするね!」

 

「………………ソッスカ」

 

 満面の笑顔に、俺は拒絶出来なかった。LRより凄い演出とか、俺の存在が消えてしまうんじゃなかろうか。謎の恐怖で背筋が冷たくなった。

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