ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
魔王達を明日ルロを迎えに来させる事にして一先ず家から追い出し、好き放題してた高木とオピスをしばいた翌朝。普通に俺はシフトが入っているので朝の準備をしていた。
「うわ、最悪。冷蔵庫空なんだけど」
ダンジョンアタックで疲れていたのか、セラフィナは珍しく寝ていた。起こすのも忍びないので久々に自分で朝食を作る事になったのだが、冷蔵庫の中身は碌な材料が無かった。
「あんの馬鹿共、酒のアテに食い尽くしたな?」
片付けやルロの相手してる間もアイツらは飲み続けていた。まぁ御付きのケルロスとか言う奴は魔王の酌してただけだったが……。参った、これじゃ朝食を俺、セラフィナ、ルロの3人分は作れない。
「……2人共少食だし、俺が我慢すればいけるか」
しかしながら腹は減ってる訳で。どうするかと色々キッチン周りを漁っていると、セラフィナが転がり込んでくる前に買っておいたカップ焼きそばが出てきた。
「……朝からカップ焼きそばは重たいけど、背に腹は変えられないか……」
電気ポットに水を入れて電源を入れる。セラフィナ達の飯は焼きそば食ってから作ろう。食べるのにそんな時間かからないし。
「久々だなぁインスタントなんて」
前は自炊とインスタント半々って感じだったが、今となっては食べる事はほぼ無い。仕事から戻ってきたらセラフィナが作ってくれてるからだ。……あれ、なんか完全に専業主婦みたいになってないかアイツ。あれ? もしかしてマジで追い込まれてる? いやそんな事無い。まだ耐えてる。多分。
「そろそろ良いかな……」
現実から目を背けてカップ焼きそばに集中しよう。ちゃっちゃとお湯を捨ててソースを……。
「ハァイ、調子いい?」
捨てようと思ったらシンクの排水口にゲル状のバカが顔を覗かせていた。キメ顔でウインクしてる目と目が合った瞬間、隙だと気付いたので煮えたぎっている焼きそばのお湯をぶっかける。
「アッチャァァァァァァァァァァ!!!」
「どっから侵入してんだテメェはぁぁぁ!!!」
朝っぱらからバカスライムの悲鳴が鳴り響く。熱さに耐えきれなかったのか、排水口から出てきてシンクをゲルで満たす。昨日掃除したのに。
「あっつ! 熱い熱い熱いって! ちょっと! 体の中に小さい麺の欠片入ったんだけど!? なんか全身からほのかに焼きそばの麺の出汁香ってるんだけど!? わかめスープじゃ無いわよ私!」
「知るか! せめて玄関から入ってこいよ! わざわざ汚ねぇ排水口から来る必要ねぇだろうが!」
「ちゃんと玄関から入ったわよ! その後に排水口しっかり掃除して、それから待機してたんだから! 汚くないわよ!」
「くだらねぇドッキリの為に体張りすぎだろ! 売れない芸人かテメェは! イロモネアで2人しか笑わせれないレベルだぞ!」
「そんな! 100万円チャンスがぁ!」
「うるせぇぞ! 何してんだ!」
「マスター、どうなさいました。何でもお申し付けくだ……どなたですか? そのスライムは」
騒いでたらセラフィナとロールがリビングに入ってきた。てか最近ロールが歩行程度なら自力で出来るようになったんだよな……。何で? オピスに聞いても『わ、わかんないっピ……』しか返ってこないし。
「……あん? ゲルダじゃねぇか。お前こんな朝っぱらから来るんじゃねぇよ。帰れ」
「ちょっとセラ! 仲間にそれは酷いわよ! 久しぶりの再会よ? もっと歓迎して頂戴!」
「何でシンク占領してるような奴歓迎しなきゃいけねぇんだよ。干物にすんぞ」
「……マスターの仲間の1人……と言う事でしょうか?」
「まぁ……そうだな。ゲルダリア、見ての通りスライムだよ。焼きそば出汁風味の」
「それは加藤がカップ焼きそばのお湯ぶっかけたからでしょ!? 聞いてよセラ! 私加藤に顔にぶっかけられたのよ! ぶっかけ!」
「別に死なねぇから良いだろ」
「死ぬよか嫌なんだけど! 貴女だってインスタントの香り体臭にしたい!?」
「マスター、私はいつでも大丈夫です」
「何が? 何を言ってんの? いや言わなくて良い、つーか言うな頼むから」
「てかマジで何しに来たんだよお前。忙しいとか高木から聞いたぞ」
「そう! それよ! その話よ!」
体から指のような物を出してセラフィナを指差す。相変わらず不定形過ぎる。
「私がここにいる理由……それは加藤! 貴方に助けを求めに来たのよ!」
「助けぇ? 一応聞いてやるけど、どんなのよ」
「少し長くなるけど……我慢して聞いて欲しいわ。これは貴方がチームを離れて大体3ヶ月程経った時の話……」
…………………。
「あ、ほわんほわんほわ〜〜〜ん」
「回想に入る効果音入れなくて良いからはよ言えや!!!」
◇ ◇ ◇
貴方が抜けた後、私もダンジョン潜る気が失せて趣味の『若い男の子に声掛けてそれっぽい事言いまくって勇者気取りにさせる』をしてたんだけど……。
「相変わらず外道な趣味やってたんだな」
「しかも思春期の奴狙い撃ちだろ? 終わってんだろ」
どうも私の悪事……趣味! 趣味が保護者に回ってたみたいで、碌に相手にされなくなっちゃったの。
「こうして少年達の平和は守られたのだ。これで終わりで良くね?」
「諦めろ加藤、コイツがここに居る時点でそれは無い」
「いやそうなんだけどな?」
日本のどこに行っても不審者扱い。何なら普通に警察呼ばれて注意も受けたわ。酷いわよね。
「マスター、私にはゲルダリア様が酷いと思うのですが間違っているのでしょうか」
「正解満点花丸ぴっぴだから安心しろ。お前は正しい」
そこで日本ではもうダメ。なら他の国に行けば良いじゃない! そう思った時の私の脳細胞は間違いなく灰色だったわ。まぁ脳なんて無いけど。
「ドブ色の間違いだろ。しかも何? お前他国に行ってまでやってたの? 侵略的外来生物じゃん」
「駆除した方いいんじゃないか? 生態系守る為に」
そこで目をつけた国がそう! 【ウォルタリア】! あそこは日本と同じで島国でしょ? 情報入るの遅そうだし、私の事流石にバレないでしょって思った訳。丁度観光もしたかったし。
「ウォルタリアって確か水の国とか言われてるとこだろ? 海水を真水に変換して国中循環させてるんじゃなかったっけ」
「オピス様の所に居た時にテレビで見ました。とても綺麗な風景でしたけど、SNSだとヴェネツィアのパクリとか言われてました」
「パクリも何もウォルタリアの方が先に出来てただろ! 確か日本の半分くらいはある島国だった筈……だよな?」
「アタシに言われても何も分からねぇぞ。学無ぇんだから」
そこで私はいい感じの顔のいい思春期の少年を探してたんだけど……何と言う偶然か、目の前にバチクソ顔のいい少年が通りかかったのよ! 速攻で声掛けたわ。
『あら貴方、どうしたの? 武器なんて携帯しちゃって』
『? 貴女は……』
『私はゲルダリア。見ての通りスライム……一応探索者ね、休止中だけど』
『ゲルダリアさん……初めまして。僕はデュルート。丁度今からダンジョンに行こうとしていたのです』
『ダンジョン? どうして? 身なり的に貴方良いとこのご子息よね? 無理にダンジョンに行く必要無いように思えるわ』
『……ですが、強くなりたくて……』
『強くなりたいのなら別にダンジョンに潜る必要は無いわよ。その様子だと探索者登録もして無いでしょ? ならまだ戻れるわ、探索者なんてなるものじゃ無いわよ』
親切心で忠告してあげたんだけど、聞かなくてねぇ。いくら生き返ると言ってもショックで精神病む人もそこそこ居るじゃない? 顔のいい少年がそうなるのは嫌だったのよ。仕方ないから、同行を申し出たのよ。そしたらね!?
『ありがとうございます……貴方に会えて良かった……!』
『(んほぉぉぉぉぉ! ショタに信頼されるのたまんねぇぇぇ!!! よし! それっぽーい事言いまくってあげよう!)』
そんな経緯で彼、デュルートとダンジョンに潜るようになったんだけど……デュルートが私好みの反応しまくってくれて、テンションぶち上がっちゃってね。段々エスカレートしていったんだけど、ある日──。
『おい貴様……。よくもまぁ私の弟を誑かしてくれたな?』
『は? え? 誰?』
『私の名前はライラ。この国の騎士団長だ』
『……逃げろぉ!』
『逃すかぁ! 奴を魔法で拘束せよ!』
『ぎょわぁぁぁぁぁ!!!』
てな感じであっという間に捕まったのよ。私知らないとは言え国の重鎮に手出してたみたいで、いやー焦ったわねあの時は。
『あ、あのー……私どうなるのかしら……?』
『……ふむ。貴様の事を調べたが、どうやら名のある探索者のようだな。悪評の方だが』
『そ、それは……』
『丁度良い。今は少しでも人手が欲しい。国の危機に協力してもらおう。拒否権は無い』
『Nooooooo!!!』
どうもウォルタリアは数年前から水質汚染が止まらないらしくて……それに対応する為にSSSの【清浄なる神樹】を探してた。それから毎日毎日ダンジョンでタンク役やらされてたわ。団長と他数名の騎士と潜らされてたんだけど、全然楽しく無いの! 碌に会話してくれないし! それが嫌で嫌で! 耐えられなくて逃げ出してきたのよ。日本に。……でも、結局この前追手に捕まって……。
『な、何で分かったの!? 私の隠密は完璧だった筈!』
『金で美形の少年を雇っておいて正解だった。お前なら引っかかると思っていたぞ。さて……逃げ出した罪も込みで、期間をさらに増やすからな』
『いい加減にしてよぉ! 前だって1年とか言ってたのに伸びて伸びてもう2年よ!? 不当よ! 訴えてやるわ!』
『伸びたのは貴様が途中で抜け出して国の至る所で少年に手を出しまくったからだろうがぁ! 完全に拘束してダンジョン以外に出られなくしてやる!』
『ち、違うわ! 逃げたんじゃないの! ホントよ!』
『ほう? では何故日本に来た? どう考えても逃亡目的だろう。まぁ理由があるなら言ってみろ、嘘だったら更に期間を伸ばすからな』
『(やば! 勢いで変な嘘吐いちゃった! ど、どうしよう!)』
『さぁ! 理由を言え! やはり嘘で──』
『リ、リーダー! 私のチームのリーダーに応援を求めに来たのよ!!!(大嘘)』
『何? ……貴様のチームは確か【自我中心】。この国のトップレベルの探索者集団。そのリーダー……?』
『国難なんでしょう!? なら私達のリーダーに助力を乞うべきだと思ったのよ! ウチのリーダーバカ強いわよ〜ダンジョン中毒だから頼まなくても潜ってくれるわよ〜ウォルタリアにあるダンジョン程度ならソロですらクリアできるレベルよぉ〜』
『…………そのリーダーとやらは手を貸すと?』
『勿論よ! 仲間の私が頼めば2つ返事よ!』
『……良かろう。なら連れてこい。もし今の言葉を違えば……瓶に詰めて海に流してやろう』
『そうなったらメルクストーリアに出演出来るかしら』
『名作ソシャゲに貴様のようなショタコンスライムが出られる訳無いだろ』
◇ ◇ ◇
「って感じなのよ! さぁ加藤! 新たな冒険の始まりよ! いざ行かん、ウォルタリア!」
「要するに俺を売っただけじゃねぇかぁぁぁぁぁ!!!」
「ギャァァァァァ! ごめんなさいぃぃぃぃぃ!!!」
予備も含めた2台のハンドミキサーを両手持ちし、裏切りスライムを撹拌する。
「いや違うのよ! もう切羽詰まっちゃって! 咄嗟に出たのよ言葉が! 誰にだって迂闊な事はあるでしょ!? だから許して!」
「おいセラフィナ! 片栗粉出せ! ダイラタンシー現象発生させて、でんじろうに売っぱらうぞ!」
「分かった。アタシも泡立て器で手伝うぞ」
「あ、やめてやめてやめて! あぁ! 体にデンプンが! 揚げられたらカラッとしちゃうぅぅぅ!!!」
「黙れ下水スライム! テメェの人格諸共撹拌して訳分かんなくしてやらぁ!」
「人格排泄ならぬ人格撹拌は特殊性癖過ぎるわよぉぉぉ!!!」
「これまた厄介な方ですね……」
「焼きそば伸びてる……」
茹で汁スライム(焼きそば)の作り方。
スライム…1体
カップ焼きそば…1個
不法侵入され、保身の為に売られた事に対する怒り…適量
合計金額…プライスレス