ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
「つー事でゲスローションのゲル拭いにウォルタリア行くかもしれん」
「はちゃめちゃが押し寄せてきてんじゃん。おもろ」
「どこがやねん」
仕事が終わった後、丁度職場に来ていた高木に今朝の事を伝える。鼻ほじりながら聞いてんじゃねぇよ。汚ねぇ。
「にしてもわざわざウォルタリアに行かないといけないんですか? ダンジョンならこの辺りにだってありますよ?」
「そうなんですよね。ゲルダリアにも聞いたんですけど、出来る限り自国で済ませたいとか何とか……別にSSSランクが出やすい訳でも無いのに」
「んー、詳しくは分からんけど多分国のメンツだな」
「メンツ?」
一緒に居た加奈子さんの疑問に対して、あまり興味無さそうに高木が答える。
「加藤、求めてるアイテムの【清浄なる神樹】ってどんなものか知ってるか?」
「デカい空気清浄機だろ?」
「大雑把にも程がある。あれの正しい効果は、設置した箇所から根を伸ばし続けて成長し、周囲の瘴気やら毒やらを見境なく吸収して浄化しまくるって代物だ。まぁ島国だったら国中に張り巡らす事になるだろうな」
「……あの、なんか聞いてるだけだと相当ヤバいものに聞こえるんですけど……」
「ヤバいっすよ実際。何せ毒性のある植物とか動物すら浄化範囲に入ったら毒消えますからね。生態系乱れかねないエグい物です。幸い人族魔族には害は無いんですけど……どちらにせよ、普通だったら使う選択肢なんか取らない。実際過去にドロップしたのは瘴気汚染地帯に使われた1回だけ。まぁ【清浄なる神樹】自体1本しか見つかった事無いけど」
「あー、なんか小学校の時授業で聞いたな、戦争時に汚染された地域を元に戻したって」
過去に人族と魔族が争ってた時代、お互いの憎悪が煮詰まってきた頃に開発された武器──【ミアズマボム】。効果は単純、使用した地域一帯の土地を生物の生命力を枯らし尽くす地獄に変える最低最悪と言われた爆弾。人族も魔族も動植物も例外なく死に絶える地にするそれは、1度だけ使用されたのち両陣営即座に製造方法を闇に葬ったレベルの特級呪物だ。小学校の社会の授業で教わるレベルで2度と作るんじゃねぇと言う過去の人々の意志を感じる。
「ミアズマボムの場所に使われてたんですね……。確かにそれなら丁度釣り合い取れるのかも」
「今や普通に国出来てますからね。すげぇアイテムなのはそうなんすけど、それを欲しがると言う事は──」
「……ウォルタリアは今よっぽどヤバい事態に陥ってるって事か?」
「そうなるな。情報封鎖してるのか、俺の方には話は来ていない。まぁ所詮他国のダンジョン運営だからな。ウォルタリアのダンジョン運営とは関わり無いし」
「成程なぁ……変だとは思ったんだよ。いくらゲルダリアがショタ追っかけ回してたからって、過剰に縛り付けてるなぁって。単純に追い詰められて余裕無いのか」
「求めている物的に国全体に毒、もしくは瘴気が蔓延してるのかもな。幸いウォルタリアは土地柄【
相変わらず頭が回る男だ。ウォルタリアが【清浄なる神樹】を欲しがってると言う情報だけでよくもまぁこんなに喋れるな……。
「そ、そんなに大変な状況なら自国の人達を避難させた方が良いんじゃないですか!? 危ないですよ!」
「国全体に汚染が及んでいるのなら、それこそ国中の民を他国に避難させる必要がある。ウォルタリアの人口は大体5000万人なんですけど……今すぐに受け入れてくれるとこあると思います?」
「……む、無理かも……」
「受け入れさせるにしても理由言わないといけないし、そうなると弱みを晒す事になる。ウォルタリアは島国で海に囲まれてるから緩衝地域には困ってないが……国の上の方は首を縦に振らなそー。あそこって君主制だっけ?」
「そうだな、確か女王が統治してる場所だ。あそこの王族は竜人族だからなぁ。余裕で戦争時に生きてたし、過去のあれこれの所為で頭の硬さは半端なさそう」
「やっぱゲルダリアだけ行かせて俺バックれるわ。面倒過ぎてやってられん。暫く雲隠れするからよろしく」
「流石の俺も国ぐるみで網張ってるのをはどうにも出来んぞ」
何がクソって秘匿の為にわざわざ効率の悪いダンジョンを周回させられる所だ。この前の新作ダンジョンやった人間からすると、その辺のダンジョンの効率は低過ぎる。勿論出てくるモンスターが全部迷宮のヌシレベルの鬼畜ダンジョンではあるが……周れるからなぁ俺らは。
「【清浄なる神樹】はSSSですよね? ……少しやった程度でドロップするとは思えないんですけど。最悪帰って来れないんじゃ……」
「取り敢えずゲルダリアを捕まえにきた騎士団長ってのと話する事になってます。その時に適当に落とし所見つけて何とかしますよ」
「まぁ最悪脅せば何とかなるだろ。愛剣チラつかせてビビらせてやれや」
「怖過ぎだろ。ヤクザじゃねぇんだぞ俺は……まぁどうにもならなかったらやるけど」
「いや小声で賛成しないでくださいよ! ダメですよ!? 穏便に済ませてくださいよ!?」
相手側もかなり強引だし、多少なら許される気がする。どちらにせよ話し合い次第だ。今はやれる事をやろう。
「んじゃ今日は取り敢えず行くとこあるから帰るわ。加奈子さん、お先失礼します」
「え、あ、はい。その騎士団長さんとの話し合いですか?」
「いや、それとは別です。……引き受けてくれるかな」
「あー、ゴレットの所行くのか? そうか。まぁ精々有利な条件結んで来いよ。あ、ウォルタリアに同行は出来ないんでよろしく。サボり過ぎてドラツが殺意の波動に目覚めちゃったんだよね」
「セラフィナに出しといてって言われたからな。じゃお先」
「……あの、今会話おかしかったんですけど。噛み合ってなくないですか?」
「え? ……あ! 高木、お前その太字のセリフそこじゃねぇぞ!」
「は???」
「 」
「ほら見ろ馬鹿! セリフ先取りしたからここ空白になったじゃねぇか! どうすんだよ!」
「いやどういう現象ぉぉぉ!? 最早ただの誤植ですよね!? 流れるように狂った事しないでくださいよ!」
◇ ◇ ◇
客が来ない。もう既に1ヶ月は碌な仕事が入ってきていない。楽なのは助かるが、暇すぎるのも考え物だ。幸い蓄えがある為、生活に困窮する事は無いが。
「おいあそこ……ゴブリンが鍛治やってんのか?」
「何だ知らないのかよ。この辺だと有名だぞ。碌に人が来ないのに何故か潰れないゴブリンの鍛冶屋。どうなってんだろうな」
「ゴブリンかぁ。やっぱ鍛冶はドワーフだろ。あんな体で何を作れるって言うんだよ」
通り過ぎて行った探索者共が好き勝手言ってくる。舐めやがって。
「どいつもコイツも……種族じゃなくて仕事で見ろや」
こちとらどんだけあの連中の装備作ったと思ってんだ。バカみたいな速度でダンジョン潜りまくるから消耗激し過ぎて、一番酷い時だと直した次の日に直してくれと持って来た時もあった。雑に使ったならまだしも普通に使って消耗した結果なのが狂ってる。
「まぁアイツらのお陰で経験は積めたからな。そこは感謝しとくか」
あのビリーブブートキャンプもビックリな速度で叩き上げられた俺は、時間こそかかれどSSランク級の装備くらいなら問題なく作れるようになった。直近の仕事だってあの超有名チーム【勇者の集い】の装備更新したんだぞ。
「いつになったらゴブリン軽視は終わるのかねぇ」
元々魔族の中ではゴブリンは下級も下級。大昔には奴隷以外の身分を認められてない事もあったらしい。今の魔王様はその辺全部取っ払ってくれてありがたい限りだが……俺達ゴブリンへの差別がすぐに無くなるわけが無かった。同じ魔族ですらこれなのだから、人族からしたら汚い虫程度に思われてるのかもしれない。
「(懐かしいな。アイツらに会った時もこんな風にボーッとしてたな)」
鍛冶屋として大成したくて、元居た国から出て心機一転。比較的魔族への反感が少ないって言われてる日本に来てみたが……結果は散々だった。マトモに仕事が来るどころか、チンピラに絡まれた。
『何だお前。ゴブリンのくせに鍛冶屋なんてやってんのかよ!』
『クソチビのテメェが鍛冶なんて出来るわけ無いだろ。ハンマーマトモに振れまちゅか〜? オラァ!』
『ゴフッ! ゲホッ! ゲホッ! ……うるせぇ……失せろ馬鹿野郎……!』
『雑魚魔族の癖に偉そうにしてんじゃねぇよ!』
店を構えてたら囲まれてボコられて、せめてハンマーだけは奪われないように必死に守って。段々と意識が薄れて来て。
『(ここも……同じか)』
どこに行ってもゴブリンはこの扱い。俺らをゴミ扱いする奴はどこにでも居る。分かっていただろうに、それでも信じたく無かった真実が突きつけられて。もうどうでも良くなって。
『ヘヘッ! この辺は警察も防衛軍も来ねぇよ! 諦めな! そら、くれてやるよ! 【氷槍】!』
調子に乗っていた男は、蹴り飛ばされて距離があった俺に魔法を放ったがあらぬ方向に飛んでいく。そしてその斜線上には──。
『加藤くんのせいでまた出禁だよ。どうするの、これでもう20軒目だよ』
『駅前の店は全滅しましたね。どうしますかリーダー』
『今モツ煮込み食ってるから後にしろぉ! べぇつに構わねぇよ! どうせまた新しい店出来んだろ! ウェッヘッヘ!』
『完全に酔っ払ってるね。ダメだこりゃ』
『今日に限って他のメンバー居ませんしね。セラフィナさんでも居てくれれば良かったのですが』
『セラちゃん居たらオープン尻触りが閲覧出来るだけだよ?』
『PV10000は硬いですね』
『何言ってんだ! アイツの尻は柔らけぇよ!!!』
『最低最悪の訂正飛んできたんだけど。どうしたら良いかな』
酔いまくった変な男と神父とバジリスクが歩いていた。魔法は変な男の持っていたモツ煮込みに直撃して、中身が地面にぶちまけた。
『クソッ。外しちまった。次は当てて──ぐべぇ!?』
魔法を撃ったチンピラは宙に浮かび上がる。酔った変な男が瞬時に移動して胸ぐらを掴み上げたからだ。
『おい』
『は、離せ──』
『食えよ』
『は?』
『落ちたモツ煮込みを全部食えって……言ってんだろうがぁぁぁぁぁ!!!』
『ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
変な男はチンピラをそのままモツ煮込みが撒かれた地面にダンクシュートした。地面は当然コンクリートなので骨が砕ける音がする。
『な、何だお前!?』
『よくも仲間を──ごぼっ!?』
『食えやぁぁぁ!!! お残しは許しまへんでぇぇぇい!!!』
『『うわぁぁぁぁぁぁ!!!』』
『あーあ。怒っちゃった。暫く収まらないよあれ』
『まぁ彼らには反省してもらうと言う事で。大丈夫ですか? 気付くのに遅れて申し訳ありません。酒が入っていて』
『え? あ、ああ……。大丈夫だ』
神父とバジリスクがこちらに寄ってきて、神父が俺に手を差し伸べる。人間に助けられたのは……初めてだ。
『安心してよ! 君をリンチしてた連中は暫く再起不能だろうし! 仲良くモツ煮込み食べた後ぐっすりさ!』
『種族的に力が劣る者を寄ってたかって攻撃するとは……富の分配がうまく行ったとしても、こう言った問題があると言うことはキチンと覚えておかねばなりませんね』
『……なぁ、アイツは……何だ?』
『めちゃくちゃ強いし酒癖悪いしダンジョン中毒発症してるけど、頼りになるリーダーだよ!』
『今はプッツンしてるので放置安定です。傷の手当てをしましょう。さぁこちらへ』
『死ねゴミ共! 謝れ! 大地に帰った食材に赦しを請え! じゃねぇとお前ら全員のモツを家畜の餌にすんぞぉぉぉ!!!』
これがアイツら──【
「お、おーい。ゴレットー……」
「……久しぶりだな。風の噂で探索者辞めたって聞いてたが」
「いや不本意ながら復帰したと言うか……それより……その」
「何だ、ハッキリしろ」
気まずそうに来店した加藤は俺の目の前に8割程崩壊したガントレットを出してくる。セラフィナの装備だなこれ。
「これ直してほしくて……」
「……期限は」
「……明日いっぱいまで」
「ハハハハハ! ──失せろ馬鹿野郎」
「そんな! 頼むよお前しか居ないんだって! 悪評のせいでお前以外俺達の装備直してくれる奴居ないんだよぉ!」
「知るかぁ! クソ納期指定してくる奴は例外なく消え失せろ!」
「わ、分かった! 2倍払う! いや3倍でも良い! だから明日中に頼む! 最悪明後日には日本出るかもしれないから!」
「金さえ払えば何でも通ると思ったら大間違いだ! 分かったらそのエメンタールチーズみたいな脳味噌取り替えてこい!」
「ま、待ってくれゴレット! 見捨てないでぇぇぇ!」
帰ってきたと思ったらこれだ。相変わらず……変な男だ。全く。
作中で多分語られない設定
現魔王は超穏健派。自身の父が人族ぶっ殺しゾーンを作るのに必死だったのを見て「いやこれ命が勿体無さ過ぎるだろJK……」と思い、先代魔王が崩御するタイミング見計らいながら人族側のトップと話を付けて争いを終わらせた。魔族の格差による差別も抑えるなど、世界的に見るとガチの賢王。パチカスのクソ親父なのは世間にはバレてない。