ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】   作:1パチより4パチ派

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異変

「あっぷっぷ〜ぷえぷえぷ〜」

 

「おい、ゲルダ。加藤はどうしたんだよこれ」

 

「幼児退行してますわよ!?」

 

「8時間ドーパミン皆無の作業してたらこうなったのよ。私本当に悪くないから。マジで」

 

 取った宿でアナンタと加藤達を待っていたら、人格崩壊した加藤を引きずってきたゲルダリアが帰ってきた。加藤の顔は虚空を見つめて目が虚だ。取り敢えずは加藤の部屋にぶち込んだが……。

 

「もしかしてあれか? 今までの過剰な興奮に脳が慣れすぎてある程度の刺激が無いと正気保てないのか?」

 

「言ってる事ヤバいですわよ!?」

 

「まぁ長時間ってのもあるけどね? 出るモンスターがもうちょい強ければこんな事にはなってない気もするけど……」

 

「あぱぷー」

 

 ダメだこれ。ほっといても帰ってくる事は無さそうだ。仕方ない。

 

「おい加藤」

 

「ぷぷぽぉ〜」

 

「舌入れんぞ」

 

「で? そっちはなんか成果あったのか? こっちは当然ながら【清浄なる神樹】なんて出なかったぞ。こんな調子で騎士団の連中働かされてると考えたら可哀想になってきたわ」

 

「再起動しましたわ! これが純愛パワー!」

 

「いや多分あれは恐怖から来るものよ。生存本能で意識が戻ったと見えるわ。ほら、体震えてるでしょ?」

 

「まるでアタシのキスが劇物みたいじゃねぇか。消し飛ばすぞテメェ」

 

 真心込めたキスしかした事ねぇぞこちとら。ゲルは後でしばくとして、加藤の質問に答えるか。

 

「何も分からねぇよ。そりゃ国が数年かけて調べてんのに分からないもんが、アタシらが見た程度で分かる訳ねぇわ」

 

「うぅ……どれだけ【浄化】を使って水を綺麗にしても、どんどん汚染が広がっていきますわ……。見た目だけだと、普通の水なのが余計に厄介で……」

 

「私達みたいな探索者やら騎士団の連中なら魔力なんて簡単に把握出来るけど、一般人はそうじゃ無いものね〜。地味に気になったんだけどウッカリ飲んだらどうなるのかしら」

 

「ミアズマボムに近い魔力なんだろ? じゃあ即死だな」

 

「ヤバすぎて鼻水出ちゃった。ティッシュ頂戴」

 

「見た目全然分からん。資源の無駄だから我慢しろ」

 

 調査の手伝いと言っても、限界迎えた騎士にポーションで喝入れたり、疲れて立ったまま作業してる奴の顔面にポーション叩きつけて喝を入れたりが殆どだった。原因を探すにも取っ掛かりがどこにも無い。どうすりゃ良いんだろう。

 

「まぁ後6日働けば解放されるからそれで良いじゃない。国側も本気で私達に解決出来ると思って無いでしょ」

 

「そ、そうですわよね。どの道すぐに解決出来るような物でもないですし.…」

 

「私なんてもうこの国に居過ぎて第2の故郷になってきたもの。私の故郷は日本なのに!」

 

「嘘付くなよ。お前海から不法入国したって言ってただろ」

 

「会った時何1つ身分が分かるもの無かったしな」

 

「よく警察に突き出すぞって脅されてたわね。懐かしいわ〜、覚えてろよお前ら」

 

 結局突き出して無いんだから良いだろ。複雑な表情をしているアナンタの肩を軽く叩く。

 

「何しょぼくれてんだよ、元からそう言う話だったろ?」

 

「そ、それはそうなのですが……私、これを機に騎士団に戻るよう言われてて……日本に帰ることは無いのです」

 

「ふーん……じゃあ暇な時来てやるよ」

 

「え!?」

 

「何だよ、嫌か?」

 

「で、でもご迷惑ですし……」

 

「顔見るくらいなら良いだろ別に。迷惑でも何でもねぇよ、アタシが来たいだけだしな」

 

「……き、来てくださるのは嬉しいですわ! 私友達居ないので……騎士団でも何故か孤立してて……」

 

「それはお前の純愛狂いの所為だろ」

 

 落ち込んだり喜んだり、忙しない奴だ。奉仕期間は残り6日、何かしら状況が良くなれば、コイツも喜ぶかもな……。

 

「ねぇ、セラったらどうしたのよ。急にアナンタへの好感度上がってんだけど。アタシより高くない? おかしくない?」

 

「アイツ基本的に身内に入った奴には優しいぞ」

 

「私身内認定されてないの!?」

 

「おーい、兄ちゃん。元気かー?」

 

 ふと部屋の外から宿の主人の声がする。加藤がドアを開くとサンドイッチが乗った大皿を持った主人が居た。

 

「お! 立ち直ったみたいだな! 良かった良かった! 宿来たと思ったらFXで有金全部溶かした様な顔してたからよ! 心配してたんだわ!」

 

「あ、ご心配かけてすいません……」

 

「ダハハ! パチンコで大負けでもしたか!? ドンマイドンマイ! これ食って元気出せよ! あまり物で作ったやつだけどよ!」

 

「え、ありがとうございます。えーっと財布……」

 

「いらねぇいらねぇ! あれだ! 宿止まってくれたオマケだよ! ウチあんまり人気無くてな! 1週間も泊まってくれるなんて太客だ! 遠慮すんな! ほれ!」

 

「ううう……あったけぇ……! 虚無の心と空の胃袋におっさんの優しみが染み渡る……!」

 

「顎と鼻が伸びてるのはツッコミ待ちか?」

 

「私のお株取らないでよ!」

 

「ほらアナンタ。お前も食えよ。腹減ってるって言ってたろ? 一緒に食おうぜ」

 

「は、はい! 頂きますわ!」

 

◇ ◇ ◇

 

 あれから2日経過した朝、今日も今日とて虚無かけご飯みたいなダンジョンに向かう事を強いられているので絶望しながら目を覚ますと丁度電話が掛かってきた。高木からだ。

 

「…………」

 

 1人1つの部屋を取れたので、今の俺は1人。セラフィナもゲルダリアも居ない。アナンタは騎士団の宿舎。じゃあ……やるか。お茶を淹れる用の金属製のやかんにスマホを入れる。当然口に布を詰めるのも忘れない。スピーカーモードにして電話を繋げる。

 

『おーい、親友のモーニングコールだぞー。そっちの調子はどう──』

 

 高木の声が聞こえた瞬間に蓋を閉じ、部屋にあった靴べらで全力でやかんをぶっ叩く。

 

ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!!

 

『ギャァァァァァァァァァァァ!!!』

 

 やかん内で叩いた際の金属音が反響。高木の無様な悲鳴が共鳴。それを聞いた俺は感動。素晴らしい朝だ。悲鳴が途切れたのでやかんからスマホを取り出す。

 

『何すんだテメェェェ!!!』

 

「やつあたり」

 

『はい呪ったー! この通話が終わり次第、お前は神罰に遭う! 精々ネゴシエーターの如く通話を引き延ばすんだな!』

 

「鶴岡の宗教が何のお咎め無い時点で神罰なんか降る訳無いだろ。で? 何?」

 

『ああ、そうそう。お前ウォルタリア居るじゃん? 気になる事あって色々調べたんだがちときな臭い状況になってきてな?』

 

「きな臭い? どう言う事だ?」

 

 椅子に座って高木の話に耳を傾ける。ふざけが入っていないので、おそらく真面目な話だ。

 

『各国の霊酒が──』

 

「あ、それは知ってるぞ。色々あって」

 

『あ、そう? じゃあ飛ばして……ウォルタリアが過去に周辺国家に侵略受けてたのは分かるだろ?』

 

「おう。弱み握られたく無いから他国に助け求められないとかも、お前が言ってた通りだったぞ」

 

『んでその他国の1つ【ゼルエネス】なんだが……動きが怪しくてな。どうもトップが変わってから、国の方針も丸っと変わったみたいなんだわ』

 

「今まではどんな国だったんだ?」

 

『良くも悪くも現状維持。過去にウォルタリアに攻め込もうとしたのも、ウォルタリアの豊富な資源を求めてだ。ダンジョンのお陰で資源供給が安定してからは特に何もアクションを起こしてなかったんだが……それが反転。今のゼルエネスはかなり好戦的でな、他の周辺国家に対してめちゃくちゃ圧とちょっかいかけてる』

 

「そんな事したら敵増やして囲まれてボコられるんじゃねぇの? ……もしかしてそれ全部敵に回しても勝てる自信がある的な?」

 

『それがなぁ、今存在するSSSランクのアイテム。その5割をゼルエネスが保有してるって言ったら?』

 

「……それマジ? 魔王んとこが1番持ってるんじゃ無いのか?」

 

『あそこは魔王が強過ぎて無くても良いからなぁ極論。しかも種類が全部武器防具と来た。よくもまぁ集めたもんだよ』

 

「全部ねぇ……。ダンジョンから手に入れたやつじゃ無いんだろうな」

 

『持ち主自体を引き抜いてるみたいだな。ちなみに何人かはそのまま行方知れず。さて魚の餌か大地の糧か。どっちにしろ碌でもねぇ手を使ってる』

 

「ふーん……。じゃあ何か? 今のウォルタリアにちょっかいかけてんのはゼルエネスだって言いたいのか?」

 

『証拠は無いけどな。ほぼ黒だろこんなの。あっちのダンジョン運営もかなーり国に乗っ取られてるみたいであんま情報入って来ないわ』

 

 流石に余所者が少し調べた程度で出るボロは無いという事か。……現在進行形で起こっている水源への魔力汚染。隣国ゼルエネスの動き。そして──リファルさんの見解。

 

【恐らく、国側に内通者が居るかと】

 

 冷静に考えて数年間も国を上げて調査して何にも分かりませんはおかしいだろ。ウォルタリアの上層部も、騎士団も無能だとは思えない。そんな無能だらけだったら、とっくの昔に他国に侵略されてるだろ。問題は、どこに内通者が居るのかだが──。

 

「(これ俺らが抱え込む事かぁ……?)」

 

 正直どうこうしようと言う気がほぼ無い。いや確かにこれ解決すれば俺の評判くらい上がるんだろうが……にしたって所詮一般人だぞ。探索者がいくら強くなろうと身分的には一切変わらない。そもそも変わるんだったら俺の評判はこんなに落ちてない。リファルさん達の評判が良いのは、ダンジョンアタック以外にも幅広く人の役に立ってるからであって、俺達には一切該当しない。そんな俺らが国同士の問題に首突っ込みまくるのは……。でもワンチャン解決すれば……どうやって?

 

「面倒くさくなってきた。帰りたいかもしれん」

 

『全部投げ出して帰国すんのか? 俺は別にそれで良い気がするけどな。ウォルタリアにそこまでやる義理が無いだろ』

 

「んー……でもまぁゲルダリアの落とし前は付けないといけないし、その間に問題があれば手伝うくらいで」

 

 王妃と約束したしな。1週間はシフト代わりに入るって。約束は出来る限り守りたい。どれだけやる気が無くなってもそこだけは守るべきだと思う。

 

「一先ず分かったわ。この話俺で止めとくべき?」

 

『言いたきゃ言っても良いが、言う相手は考えろよ? ゲルダリア辺りに言ったらそこら辺のショタにポロッと言うかもじゃん?』

 

「確かに。アイツ口軽いし」

 

『と言うか全身口みたいなもんだろアイツ。じゃ、切るぞ。神罰しっかり受けろよ』

 

 そう言って通話を切られた。時計を見るとそろそろ出ないといけない。さっさと着替えて……。

 

 ドンドンドン!

 

「え、何」

 

 突然部屋の扉を激しくノックされる。驚きながらも部屋の鍵を開けて誰か確認しようとした時──。

 

「加藤様! 緊急事態です! どうかお力をお貸ししてください!!!」

 

 リファルさんが勢いよく扉を開いた。この宿の扉は全て内開きだ。廊下を歩いてる人にぶつかったら大変だから、これに関しては何も問題無い。あるとすれば、今のような外側から思いっきりドアを開く人が居て、丁度ドアの前に鍵を開ける為に立っている部屋主が裸足で居る場合。油断し切ってる俺は同程度の実力を持つリファルさんが開くドアの速度に反応なんか出来るわけも無く──。

 

 メキャッ

 

 俺の左足の小指どころか中指あたりまで、思いっきりドアの角が食い込んだ。

 

「ギャァァァァァァァァァ!!! 神罰執行RTAェェェェェ!!!」

 

「え!? あ、あぁ! 加藤様、申し訳ございませぇぇぇん!!!」

 

 凄まじい激痛が全身を駆け抜ける。電話切ってまだ10秒経ってないのにこれだ。この世界おかしい。

 

「はわわ……い、今癒します! 本当に、本当に申し訳ございません! 罰は如何様にも……!」

 

「い、いやだいじょうぶっす。わるぎが、あったわけじゃ、ないってわかるんで。カヒュー」

 

 脂汗がナイアガラの滝しているが根性で耐える。泣きそうな顔をしているリファルさんが回復魔法をかけてくれるから足の見た目は問題無いが、痛みが消える訳じゃない。ひたすらに苦しみが快速列車で消える事を祈る。お願い神様、今だけ助けてくれ。今だけ。

 

「と、所で何の用ですか……? てか何で泊まってる宿知ってるんですか……? 何で俺の部屋がどこかまで知ってるんですか……?」

 

「そ、そうです! 緊急事態です。私達だけではどうにも──「おい加藤! 起きろ! ってクソエルフ!? お前何で居るんだ!」と、兎に角外へ!」

 

 ここまで取り乱すと言うことは余程の事なのだろう。痛みを押し殺して靴を履いて部屋を出る。愛剣を持つのも忘れない。

 

「か、加藤! 起きたのね! あれ見なさいよ!」

 

 外にはゲルダリアだけで無く、【勇者の集い】のメンバーも居た。アナンタは居ない。

 

「一体何が──は?」

 

 外に出て辺りを見た俺の目に飛び込んできたのは──道のありとあらゆる場所で倒れて動かない首都アクアスの人々だった。

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