ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
決して血を流している訳じゃない。ただ倒れ伏しているだけ。試しに揺すっても声を掛けても反応は無い。でも脈はあるし薄いが呼吸もしている。明らかに異質な状況だった。
「誰か【浄化】……【
「全て試しましたが効果が無いんです。こんな事初めてで……」
セーリスさんが暗い顔で答える。そりゃやってるか。【勇者の集い】レベルのチームのヒーラーが無理なのだから、誰がやっても無駄だろう。
「パッと見無差別。種族は関係無い……?」
「じゃあ何でアタシらは平気なんだよ」
「それが分かれば苦労は……」
しないと言う前に異常に気付く。勿論住民が倒れているのは異常だが、それ以上にあり得ない事が起きていた。
「……なぁ。魔力が濃すぎないか?」
「た、確かに……。でもなーんか身近と言うか、デジャブと言うか……」
「こりゃヤバいぞ。完全に魔力中毒だ」
「魔力中毒? ゴランド、それは一体……?」
オーガの男は辺りを警戒しながら、道に倒れている住民を担いで道の端に座らせる。あれだけ動かされても起きない辺り、相当だ。
「魔力中毒ってのはな、人間が魔族の国……魔王が治めてる場所だな。そう言うとこに行くと起きるやつだ。魔族の国は、人族の国と違って魔力が濃くてな。耐性が無い奴だと気分が悪くなったりするもんなんだが……」
「にしては症状が重過ぎないか? 言ってるのと違うぞ」
「……今ここ周辺……いや、この首都アクアス全体の大気中の魔力が明らかに増量している。この魔力量の空間じゃ、普通の人族は耐えられない」
「貴方やリファル、セーリスが平気なのはダンジョンに潜り過ぎて魔力量の濃い場所に慣れてるのが理由ね。私とかはそもそも人族じゃないし……でもこの国の人々はほぼ人族。いくら種として優れている竜人族でも、これは耐えられないわ」
「ねぇ。もしかして割とガチでヤバい感じ? ネタにもならない感じ? これ──」
ゲルダリアが話してる最中、少し離れた場所から違和感を感じた。即座に飛び掛かって何も無い空間を蹴り飛ばす。
「ゴバァ!?」
建物の壁にめり込んだローブを着た男は衝撃に耐え切れずに気を失った。取り敢えず近づいて身包みを全て剥ぎ取る。
「そこだったか。なーんか居るなぁと思ってたんだが確証持てなくてよぉ」
「これ……【隠蔽のローブ】よ。ランクSS。私達がこの国に来る前に手に入れた【隠匿のローブ】の完全上位互換」
「マジで透明になるヤツじゃねぇか。……ん? 何だこれ」
セラフィナが男から剥ぎ取った服の中から小さな通信機を見つけた。受け取って指紋認証を伸びてる男の指で突破して少し弄ってみる。
「ん。通話の録音がある」
「コイツが不用心でありがてぇな。流せるか?」
「ちょっと待ってくれ。えーっと……」
録音されている通話を再生する。くぐもった声で聞き取りづらい。音量を最大にして漸く聞こえてきた。
『返答は不要。現在ウォルタリア全域に濃魔結界展開中。一般人は軒並み意識を失うだろうが、一部騎士団はダンジョンに何度も潜ってた為耐性アリ。動きは鈍い為、姿を隠して優先して処理せよ。一般人は放置しろ。次の段階でどの道処理できる。結界の継続時間は1日。それまでに蹴りを付けろ。以上』
「……何だって?」
録音からは訳の分からない単語がいくつか出てきたが、碌でも無い連中と言うのは分かった。コイツらがこのテロを起こしていると言う事も。
「リ、リファル様! このままでは騎士団の方達が──!」
「……エネロマ! 短時間で構いません! 呪いで【隠蔽のローブ】の効果を一時的に抑えて居場所を把握出来ませんか!?」
「無効化は30分だけど……出来なくは無いわ。でも私は動けなくなるから、そのつもりで」
「ゴランド! クロム! 散開して炙り出された工作員を倒して下さい!」
「……生死は?」
「……難しければ、止めはしません」
「……ん。善処する」
「騎士団は耐性アリとか言ってたな。ならまだ耐えてるかもしれねぇ! 俺は北の水源に向かうぞリファ嬢!」
「……じゃあ私は南。行ってきます」
「セーリスは私と共に。加藤様! 首都内の騎士団は各地に散っている為、数が少ないです。敵が複数居るとすれば狙われる確率がその分上がります。どうか──」
「……オッケーっす。おいゲルダリア。お前ここに居ろ」
「え、何で!?」
「何でってエネロマ先生守る為だろ。今から【隠蔽のローブ】の効果剥ぐのに無防備になるんだから。頼んだぞ! セラフィナ行くぞ!」
「分かった。ゲルダ、しっかりやれよ」
「ちょ、ちょっと加藤! セラもアンタらそんなキャラじゃ──」
ゲルダリアが何か言ってるが聞いてる暇は無い。俺達やリファルさん達が走り出した瞬間、エネロマ先生の呪詛が広がっていく。それと同時に俺が使える魔法の1つ、【
「……」
「セラフィナ? どうした」
「何でも……いや、アナンタが心配だ。さっき電話掛けたが出ねぇ」
「そうか。じゃあ探しに行けよ」
「は? いや今は襲撃者共を──」
「ダチじゃねぇの?」
「──良いのか?」
「何とかするわ」
「……悪ぃ!」
俺から離れていくセラフィナを見送った後、速度を上げる。気配がした場所に到着し、騎士団の竜人族を殺そうとしている奴が居た。【隠蔽のローブ】の効果が切れているのに気付いていない。
「!? なん──」
「オラァ!!!」
「ガボオ!?」
鞘に入れたままの剣で顔を砕く。顎がひしゃげた男は無様に地面に転がっていく。……またエルフだ。偶然か、はたまた。
「おい、大丈夫か!」
「ぐ、ぐぅ……がはっ……」
うつ伏せに倒れている竜人族に声を掛けるも返ってくるのはうめき声。意識は殆ど無い。動けると言っても、これでは一般人の状態と大差ない。【治癒】を使っても意味がないのは分かっている。これ以上構ってられない。
「他に行く! 騎士なら耐えろよ!」
「ガ……あ、アァ!」
聞こえたのだろうか、苦悶の返事をした竜人族から離れて次の箇所に向かう。残り10人程。リファルさん達も居るから俺は5人ほど倒せば良さそうだ。移動中にスマホで電話を掛ける。
『んー? どした。天罰の苦情は受け付けてねぇぞ』
「高木! 今すぐにウォルタリアに来い! 鶴岡とオピスも連れてこい! 良いな!」
『は? ちょ、おい──』
そろそろ接敵するので通話を切る。アイツらが来てくれれば何とでもなる。特に鶴岡の魔法……いや、禁術とか言ってたな。あれの汎用性は凄まじい。問題はあれはアイツが本気でキレた時しか使えない事だが。
「……」
先程リファルさん達に言われて外に出る最中、宿のカウンターで突っ伏してる主人のおっさんが目に入った。あの時は寝てるのかと思ったが、極度の魔力中毒とやらを起こして昏倒していたのだろう。
「クソが……!」
このバカ騒ぎを起こした奴は絶対にしばき倒す。そう誓いながら少しながら抵抗していた騎士団員を襲うカスをぶっ飛ばす。──空は濃魔結界とやらが広がっているせいか、紫色だった。
◇ ◇ ◇
「一体何が……この空は一体……」
早朝、北の水源の浄化作業を手伝っていたら瞬く間に空を包み込むような紫色の結界が張られた。こんな大規模な物、見た事が無い。
「皆様、しっかり……!」
他にも作業していた騎士団の人達は呻き声は上げるものの、私のようにマトモに動けない。私とて、決して万全の状態じゃ無い。結界が現れてからずっと体調が悪い。……ですが、弱音を言ってはいられない。
「王妃様が……! 王妃様の元に行かなくては……!」
これだけの異常事態。王妃様の身を1番に考えなければならない。王が崩御なされ、まだ成人していないデュース様は王にはなれない。故にずっと代わりに王妃様が国を引っ張ってきた。……突然王の代わりをやらされて、うまく行かない時のが多かった。それでも、王妃様は国の為に必死に頑張っていた。
「必ず……! 必ず貴女の元に!」
重い身体に鞭を打って全力で走り出す。目指すは王城。愛武器のハルバードを握り締めて。
「いや、それは叶わない」
「──え……」
とても、とても聞き覚えのある声がした。懐かしくて、安心する低い声。それは私の進路を妨害するように立ち塞がっている、銀の鱗を身に纏った竜人族から放たれた。
「まさかこのような再会になるとはな。残念だ」
嘘だ。
「見るに随分と大きくなったな。……良き人々に拾われたと見える」
嫌だ。
「俺の方は……どうだろうな。恩はあるが、今の、今からの行いは正しいのかと疑問になる時もある。だが、こちらの国からしたら正義なのだろうな」
やめて。
「ゴミ屑のように死ぬだけだった俺を拾ってくれた国の為に。俺は今から他者を殺そう。お前の国の人々を殺そう。命令も理由ではあるが……どこまで行っても、俺がやるべきだと思ったから俺は殺す」
「あ、あぁ……ああああああああ!」
「暫く眠っていてくれ。アナンタ」
その言葉が聞こえた後、腹部に強烈な衝撃を受けて意識が遠のいていく。
「おにい……ちゃ……ん……」
◇ ◇ ◇
ダンジョンの受付として働いて早10年。この国は殆ど探索者が居ない為、ハッキリ言って退屈な日々が続いていた。ここ最近になって突然騎士団が国の命令でダンジョンアタックしていたので、ようやく仕事らしい仕事が始まったなと思っていた矢先だった。
「そ、んな……」
何年もの付き合いだった同僚が血の海に沈んでいる。ダンジョンの稼働が多くなってから入ってきた明るい新人が壁を背にして動かない。ダンジョンが設置された初期からずっと働いていた清掃員の人は、最早竜人族としての形を保てていない。
「ふん」
「あ、ぐぅあ……」
この惨状を作り上げたエルフの男達。その1人に首を掴まれ持ち上げられる。
「コイツらのように死にたくないのなら、ダンジョンの処理口へ案内しろ」
「……!」
「貴様はこのダンジョンに勤めて長いのだろう? だからこうして意識がまだ保てている。分からないなんてバカな事は無いはずだ。そうだ──ろっ!」
バキャッ
「アアアアアアアア!!!」
「次は足か? もう片方の腕か? 従わないのならこのまま首を折るのもアリかもしれんなぁ」
「お、おりて……み、ぎで……」
「よし、お前らは先にアクアスに向かえ。騎士団の連中が途中で居たら殺せ。良いな?」
『ハッ!』
宙に浮かされながら案内させられて、10分程で魔物の死体を投入するダンジョンの処理口。ダンジョンの心臓と言って良い場所まで連れて来られる。
「ダンジョンによって場所はバラバラ。職員の許可が無ければ開かれない。面倒だ。一律にしとけ魔王め」
男は懐から握り拳程度の結晶を取り出して、無造作にそれを処理口に放り投げる。結晶は処理口に落ちていき──。
凄まじい轟音が鳴り響く。それはまるで、ダンジョンの悲鳴の様に聞こえた。
「行け! この国は今、お前達が外に出ようと消える事はない! 高難易度ダンジョンと同レベルまで上がった、魔力が満ちたこの島国で! トカゲ共を皆殺しにしろ!!!」
『GAAAAAAAAAAA!!!』
男の瞳が怪しく輝くと、それに従うようにダンジョンからとんでもない量のモンスターが生み出され続ける。本来自分自身の維持に使う分の魔力、アイテムを作る分の魔力。全てをモンスターに注ぎ込むかのように。
「トカゲ共の国は終わり、我らの……いや、俺の! 俺の国を更に増やす! この力さえあれば、それが出来る!!!」
私の首を絞める力が強くなり──。
「さぁ! 【
バキッと言う音ともに、私の意識は消えていった。