ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
非力な私を許してくれ(ドルベ)
アクアスから出て数キロ先、モンスターが向かって来ている方向に走る。ある程度後ろに余裕を持たせたいのもあるが、何よりもヘイト役が必要だからだ。
「(頼んだぞゲルダリア)」
走りながら後ろを流し目で見る。後方には首都アクアスをスッポリと囲むように紫色のゲルシェルターが包んでいる。アクアスは円形の壁が街を囲んでいるのだが、その上から覆い被さる形だ。街中の水路の水を吸収して巨大化。分厚すぎるゲルダリアの壁はモンスターが通り抜けるのを妨害出来る。ダンジョンでも高木に魔法で水を出させて一時的に通路を塞ぐなどで使った手法だ。ただし、これをやるとゲルダリアはその場を動けなくなる。ゲルの壁に入り込んだ者を吐き出したり放り投げたりする事はできるがそれだけだ。呼吸が必要な相手なら壁を通り抜ける前に窒息させられるが……モンスターは呼吸なんてしないので意味が無い。文字通りの壁だ。入ろうとしてくる数が多すぎれば、流石に突破されてしまう。
「なら……減らさないとな」
視線の先から音が聞こえる。様々な雄叫び、足音羽音。今まで聞いたことのないような数の暴虐の音色が迫ってくる。
「より取り見取りかよ。あそこのダンジョンで見たことないのも居るし。……【
『GAAAAAAAAA!!!』
強いのから弱いのまで。ありとあらゆるモンスターが一心不乱に向かってくる。そこに恐れは無い。あるのは──殺意のみ。
「ガギャ!?」
1番先頭に居た狼型のモンスターの首を落とす。即座に飛び掛かって来たデカいバッタを半分にし、まだ動こうとする頭部を踏み潰す。
「グォォォォ!」
「キュルルルル!」
目の前で瞬殺された同類を見ようと、他のモンスターは気にも留めない。どれだけ強さが離れていようと知った事かと言わんばかりに襲いかかってくる。モンスター、ダンジョンでアイテムのついでに生まれて来てしまう存在。人族や魔族を見るや否や、何があろうと殺しにかかってくる文字通りの怪物。力量差も状況もコイツらには意味を成さない。生まれた瞬間からある本能で、どこまでも追い続ける。逃げると言う選択肢はこいつらには存在しない。
「少し前に500と言ってたが……とっくに超えてるみたいだな」
2体殺したと思ったら5体増える勢いでどんどんこちらに向かってくる。幸い今居る場所は開けてて戦いやすい。逆に言えば囲まれると言う事だが、それならヘイト役としての役目を果たせるので問題無い。
「おいこら、ここにカス人間が居るぞ。──相手してやるから、かかって来いや!」
俺の挑発が理解出来たのか不明だが、モンスター共が一気に俺に迫ってくる。……仮にコイツらが宝箱をドロップしたとしても、今は全く反応しない自信がある。それくらい──俺は苛ついていた。
◇ ◇ ◇
「何だアイツは……? 何故あれ程抵抗出来る者が居る。この国は探索者がマトモに居ないだろう!? あれは……何だ!?」
ダンジョンを【大暴走】させ、滅びるトカゲ共の様を眺めようと空から見ていたら、たった1人でモンスターの群れに突撃して来た人間が居た。どのモンスターも奴より後ろに通り抜けられない。抜けられる前に切り刻まれ、殴り殺され、踏み潰される。最早その様は、悪鬼羅刹と言える程だ。
「あんな者が居るなど報告に無い……問題無く事を起こせる筈が……おかしいな」
間違いなく俺の力は働いている筈。事実今あのトカゲは俺の傀儡だ。だが現に報告させた話とは違う訳で。
「……確認する必要があるな」
どの道無限に溢れるモンスターに一生対処し続けるなんて事は、あの気狂いにも無理だ。死ぬまで戦わせていれば良い……。
「失礼。水源の方の騎士団は片付いた。それと1つ報告がある」
「……貴様か。何だ、俺は今機嫌が悪いしやる事が出来た。手短にしろ」
「来る途中【大暴走】を引き起こしたダンジョンの近くを通ったが、想定よりダンジョンの限界が近い。恐らく後1000匹程度吐き出したらあのダンジョンは死ぬぞ」
「何? あの暴走結晶は間違いなく成功品だぞ!」
「いや、どちらかと言うとダンジョンが初期型なのが原因だ。暴走結晶を耐え切れるのは近年作られたダンジョンだけなのだろう。魔王がテストの意味合いも込みで作ったこの国のダンジョンでは底がある」
「ぐっ! ……いや仕方ない、どの道この国でやる以上避けられなかった事だ。それより奴だ……」
「……あれは、強いな。この国の探索者にあれ程の者は居ない。となると他の国の者だろう、種族も人間のようだしな」
「先にアクアスに入った連中からの反応が無い。恐らく奴の仲間があの首都の中に居る……始末せねば」
「私が行くか?」
「いらん。貴様はあの男を殺せ。あれの持ってる剣、【神聖剣エヴァルテイン】はランクSSSの武器だが……お前の鎧を砕く事はできん。勿論俺があれを殺しても良いが、タイマンの相手ならお前のが得意だろう。精々国の為、俺の為に働け。それくらいしか価値が無かろう、お前にはな」
「成程、それもそうだ」
我が国ゼルエネスの軍に拾われたトカゲが地上に降りていく。相変わらず気に食わん奴だが……強さだけは認めざるを得ない。新たな力を得た俺でさえ手こずるレベルだ。勿論全力を出して戦えば俺が勝つに決まっているが。
「【転門】」
濃魔結界は外側から魔力による干渉を受ける事はないが、内側では普通通り使える。攻め込むこちらまで不便では困るからな……。
「あの爬虫類め……肝心な時に役に立たん。どの道殺すのだ、早めに処分しておくか」
◇ ◇ ◇
「──!!!」
100体はモンスターを殺した辺りで、凄まじい殺気を感じた。即座にその場から大きく離れると、俺が居た場所はまるで巨大な隕石が落下したかと思うほど陥没した。モンスターも数体巻き込んで死んでいる。
ガギィ!!!
「──お前、この騒ぎの首謀者か?」
「反応するか、やはり只者ではないな。よくそこまで練り上げたものだ」
「質問に……答えろ!」
「あぁすまん。碌な教育を受けずに育ってな」
急接近してきた竜人族と鍔迫り合いになる。銀色の鱗に黄金の鎧。やたらと光って煩わしい。
「(コイツ、セラフィナよりパワーが……!)」
「ではこれならどうだ」
「!──クソが!!!」
鍔迫り合いしてた所唐突に力を抜かれて無駄に踏み込んでしまう。後頭部に後ろにすり抜けた奴の拳が迫ってくる気配がしたので、根性で体を捻って蹴り飛ばす。
「む……めちゃくちゃな動きだな……。本当に人間か?」
「やかましい、ガキの好きな折り紙ランキング上位の色してる奴に言われたくねぇよ」
距離を取って様子を伺おうとしたが、状況がそれを許してくれない。何故なら──。
「GAAAAAA!」
「ッ! やべっ!」
当然だがモンスターは俺の都合なんて知った事ではない。俺に襲いかかってくるのも居れば、アクアスの方に通り抜けて行こうとするのも居る。急いで抜けたモンスター達を3枚にするが──。
「隙だらけだ」
「ガッ!!!」
追って来た奴に背中をぶん殴られる。受け身も取れずにアクアスの方に吹き飛ばされるが、俺が地面に叩きつけられる事はなかった。
『加藤! しっかりしなさいよ!」
「悪い、助かった」
『モンスターなら私止めるから! あの成金ドラゴンマンさっさと倒しなさい!』
アクアスを包んでいるゲルダリアがこちらの方までゲルを触手のように伸ばして受け止めてくれた。幸い鎧を殴られたお陰で大したダメージは無い。
「いい鎧だ。俺の拳を受けても無事な辺り相当な物と見える。……だが、いつまで受け続けられるかな」
「……その前にお前を叩き潰すだけだ」
「成程、だがそれは無理な話だ。お前程の男なら、俺の鎧が何なのか分かるだろう?」
奴が言っているのは決してこちらを舐めている訳では無い。事実、俺はあの竜人族をどうすれば良いのか、まるで思い付いてない。
「【
ランクSSSアイテムの中でも頭抜けている性能。装備者をありとあらゆる攻撃から守るとされている黄金の鎧。
「俺の名はゲオルグ。加藤とやら、悪いが死んでくれるか」
「もう勝ち確煽りか? お前クソ早漏だろ、くたばれ」
「女性経験は無いから真偽は分からないな」
軽口を叩くが状況はかなりヤバい。打ち合う事自体は出来なくは無いが、ゲオルグに集中すればモンスターが野放しになる。先ほどより戦線を思いっきり下げてしまった以上、モンスターは先程よりアクアスに向かう率が増えてしまった。そしてモンスターを殺しながら相手出来るほど……コイツは甘くない。
「ゲルダリア! 増えれるか!?」
『水足んない! 空気中から取り入れる事は出来るけどすぐには増えれないわよ!』
「それで良い! 早めに頼むぞ!」
多少無理してでも対応するしかない。7:3の割合でゲオルグと戦いながら片手間でモンスターを殺す。向かってくるモンスターを数体切り刻みながらゲオルグに接近する。
「戦いに正々堂々なんてものは存在しない。恨んでくれるなよ」
「ブーメラン投げるの随分と好きだなぁ! フラグ乱立して楽しいかぁ!?」
何があれってモンスター共はゲオルグには向かっていかない事だ。恐らく何かしらの方法でモンスターを操って、味方陣営には攻撃しないようにしているのだろう。随分と便利な話だ、こんな碌でもない事に使わなきゃ良いのに、馬鹿がよ。脳内で悪態を付きながら数回打ち合って居ると、周りに居たモンスターの体がひしゃげて吹き飛んだ。
「悪りぃな! これでも全力で来たんだ! 許してくれや!」
「……普通に守り優先しとくべきだった。やらかし」
「新手か。エザレルが言っていた話とはまるで違うな。やる事は変わらんが」
1度ゲオルグを弾き飛ばして距離を稼ぐ。この2人なら任せられる……!
「2人とも! 雑魚狩り頼む! あの早漏野郎は任せろ!」
「いや言い方な? 遅れちまったから従うけどよぉ」
「……下品。言葉遣いも生き様も」
「流れるようにディスんな!」
人間、オーガ、デュラハン、スライム。チグハグな即席チームが完成した。リファルさん達が王妃の確認と、首謀者の捕縛が終わるまで耐えられれば良いが……。
◇ ◇ ◇
『まぁ……! 酷い怪我……今治しますからね……!』
『王妃様! この子供は治安が悪い国からの【転門】で来た子供です! 近づけば危険です!』
『馬鹿な事を言わないでください! すぐに手当しなければ死んでしまいます!』
『王妃様に何かあれば我々は……!』
『手を伸ばせば助けられるのです! 死なせませんからね……! 大丈夫、貴女は生きて良いのです!』
ボロボロの汚い私を、汚れるのも厭わずに抱きしめてくれた王妃様。あの時の、あの方の優しさが無ければ今の私は居ない。
「ぐぅ……ガハッ! ハァ……ハァ……」
内臓がいくつか傷付いたのだろうか、血を吐いてしまった。骨もかなりの数折れている気がする。翼も折れて碌に動かない。【治癒】は使えないし、手持ちにポーションも無い。それでも、走るのをやめない。
「王妃……様……! 今、行きます……!」
兄様が生きていた。生きて、ウォルタリアの敵になった。優しくて頼りになる、私の唯一の家族が。辛い、苦しい、泣きそうになる。でも、それでも……動かないと。私を救ってくれた方に何かあれば、私は生きている価値なんて無い。
『わ、わたくし! つよい騎士になって、おうひさまをお守りしますわ!』
『ふふふ……ありがとう、アナンタ。頼りになるわね』
「約束……しましたもの」
守る。絶対に。視界が霞む中、最短距離で城まで走る。倒れている人々を踏まないようにだけ考えて、多少の障害物は突進してぶち抜く。そうして何とか城まで着き、玉座の間に向かう。
「王妃、様! 王妃様!!!」
玉座の間まで辿り着き、扉を開け放つ。目の前には見慣れた後ろ姿。
「ライラ団長……!」
良かった、団長が居るなら大丈夫だ。他の人々のように倒れていない。こちらに背を向けて立っている。
「団長! ご無事で何よりですわ! 王妃様は──」
ライラ団長は振り返ることもなく、その場に倒れた。
「……え?」
瞬く間に広がる鮮血。急所は外しているが、腹部に【
「デュルート様……近衛の方達も……?」
同じように血を流して倒れている。【
「─────。」
「お、うひさま……?」
光のない瞳のまま、ライラ団長に手のひらを向けていたのは、私を救ってくれた王妃様だった。