ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
「舐めるなよ半端者が!!!」
怒声が聞こえる。王城に向かっていた最中、セラフィナ様が先に向かったとエネロマから伝えられた。どこで合流しようかと思っていましたが……非常に目立つ目印のお陰で、困らなそうですね。
「セーリス、最上階です! 飛びますよ!」
「はい!」
セーリスの手を掴んで地面を蹴る。破壊された壁から玉座のある部屋に入ると、そこでは既に戦いが始まっていた。
「塵も残さず死に絶えろ!!! 【
聞いた事の無い魔法を使うのはエルフの男。奴から強力な魔力の流れを感じる。この事件の首謀者で間違いない。
「(ただの魔力では無い、本来の物と比べ物にならない程の質! 最早魔力と呼んでいい物では……)」
辺り一面を焼き尽くす業火が放たれようと──。
「オラァァァァァァァァ!!!」
「なぁ!? 【
していたが、セラフィナ様が防御も捨て、距離を詰めて殴り飛ばした。玉座の間から外に吹き飛んだ今なら、怪我人の救助が出来る……!
「セーリス!!!」
「【
範囲を指定して一気に回復できる【全体治癒】を使ってもらい、怪我人の命を繋ぎ止める。セラフィナ様が首謀者の相手をしてくれている内に、離れた場所に──。
「ぐ、ぐぅ……!」
「! 動いてはいけません! 傷は癒えましたが、流れた血は元に戻ってないのです! 今動くのは危険です!」
「そ、そうです! 意識があるなら、まずは避難を──」
「それは、出来ませんわ……」
銀色の髪を所々真紅に染めた竜人族の女性は、何かに突き動かされるように立ち上がる。目元には涙を拭った跡があった。
「立たないと……戦わなければ……」
「戦闘ならば私達にお任せください、これでも他の方よりは強い自負があります。必ず犯人を!」
「…………」
「セーリス、皆さんを集めて【障壁】で囲って下さい」
「え、で、ですが【障壁】は自身を中心にしか使えません!」
「分かっています。なのでここは任せます。恐らくあのエルフの男がこの事件の首謀者。濃魔結界とやらもあの男が展開している筈。最優先で倒す相手です」
「わ、分かりました! どうかお気を付けて!」
「頼みましたよ!」
セラフィナ様が向かった方に駆け出す。狙っていたのか偶然か、男を吹き飛ばした方向は人が居ない。ここまで来たら多少の周囲への損害は許容するべきだ。セラフィナ様と相対しているエルフの男に槍を向ける。
「【
私が出せる最大出力。全力の一撃を撃ち放つが、咄嗟に貼られた障壁に阻まれた。やはり、私達が普段使っているような魔法とはまるで違う……!
「(ですが、セラフィナ様の攻撃は通っていた)」
どう言う理由かは分からない。だが今それを考えている暇は無い。重要なのは、奴に対しての有効打を出せるのがセラフィナ様だと言う事。
「援護致します! セラフィナ様!」
「……合わせる気はねぇぞ。メチャクチャにやりてぇ気分だからなぁ!!!」
「どんな動きだろうと合わせますのでご心配無く!」
あの男の障壁を貫けるよう、全力で支援する。それが今の私がやるべき事!
「貴様! 【勇者の集い】のリファルか!!! 何故この国に居る!」
「貴方に言う必要は感じません!」
「ハイエルフの癖にゼルエネスに……エルフの国の邪魔をするのか!」
「……生憎、種族や派閥で味方を決める考えは持ち合わせておりません!!!」
憤怒を激らせている方の隣に立つ。私の怒りなどこの人の1割にも足りないだろう。だが──。
「我が名はリファル! 【勇者の集い】リーダー、リファル! 未だ勇者になれぬ未熟者! それでも成ろうと足掻く! 憧れに近付けるように! ──貴方のような外道を相手取るには、丁度いい相手でしょう!」
「ほざけぇぇぇ!!! 俺は与えられたのだ! 変わったのだ! これは俺に成り上がれと授けられた力! これで、これで! 俺は世界に食い込んでみせるぅぅぅ!!!」
「だったらテメェのプライド諸共、全部肥溜めに叩き込んでやらぁぁぁぁぁ!!!」
◇ ◇ ◇
「ゼァァァァァァァァァ!!!」
狂人が吼える。紅蓮の光を放つ剣が向かってくる。鎧の籠手部分で受け止めるが──。
「ヌゥゥゥ!」
明らかに先程までとは違う威力。何より今まで何のダメージも無かった攻撃が、全力で受け流さなければ負傷は免れない物になった。あらゆる攻撃を、魔法を通さない【不沈鎧イージスアーマー】がだ。
「(一体何が起きている……! 何だ、この男は、あの剣は!)」
目の前の狂人が持っている剣。それは事前に聞いていた通り【神聖剣エヴァルテイン】の見た目をしている。だが違う。あれはエヴァルテインでは無い。もっと違うナニカだ。あの憤怒の炎のような魔力とは似ても似つかない力は、【魔力】を焼き尽くす!
ドォォン!
「何!?」
一旦距離を。そう思い奴から離れた瞬間、何と地面に転がっていたモンスターの死体がこちらに向かってくる。奴が死体を蹴り飛ばして来たのだ。
「(不味い、視界が!)」
当たってもこのモンスターの死体からはダメージを喰らわないだろう。だが奴が蹴り飛ばしたのはモンスターの中でも巨体な物。距離を取ってしまったのもあり、奴が見えなくなってしまった。
「クソッ!」
咄嗟に飛んでくる死体を躱す。だが避けた方向に待っていたのは、無造作に振るわれた一撃だった。
「オァァァァァ!」
「グォォォォォ!」
ガードが間に合わずにマトモに喰らった。刃で切り刻まれる事は無いが、衝撃が内臓に重い負荷を与えてくる。だが……!
「【
「! ヂィィィ!」
返す刃で爪の一撃をかます。これまでのダメージもあったのか、奴の鎧の右側が壊れ、顔の頬にも傷を与える。しかし無理な体勢だったため、ダメージは浅い。今度こそ一度距離を取って、体勢と息を整える。奴が周りを見渡して状況把握をしている今だから出来る事だが……。「──ッ!」
「おい、休んでる場合かよ」
「─ッ! 怯む様子無しか!」
「こんなダメージ【治癒】使うまでもねぇ──よぉ!!!」
再び始まる猛攻。確かに速いし重い。だが決して追いつけない訳ではない。敵わない訳でもない。
「(徐々にこちらのペースに持ち込む!)」
流れと言うのは勝敗を決めるレベルのものだ。戦いの中にあるイニシアチブを取り続けてれば、自然と相手は崩れていく。今は完全に取られている側だが……まだ巻き返せる!
「その程度の攻撃ならば、ダメージはあれど戦えん程ではないぞ!」
「喋くってて随分余裕だな」
「な──ぐぶっ!?」
剣撃を受け流したと思ったら、突然飛び上がって顎に膝を入れられた。再び攻撃が来る事を警戒して、尻尾で辺りを雑に薙ぎ払うが後ろに跳躍されて躱される。
「(なんと滅茶苦茶な戦い方だ……! 力任せの剣撃に加えて足癖も悪いと来た!)」
明らかに我流。誰かに教わる事もなく、ここまで練り上げられたこの男にしか出来ない戦い方。どんな手でも勝ちを貪欲に求めるその欲望! これが──この男の狂気!!!
「舐めるなァァァ!!!」
まだ鎧が機能しているうちに勝負を決める。奴の最大打点は【極光剣】なる技。何度も打ってこない辺り、連発出来る物では無い筈。撃てないうちにこちらの最大火力を叩き込む!
「ウォォォォォ!」
「同じ手は食わん!」
再び地面に転がっていたモンスターの死体を飛ばして来た。避ければこちらの攻撃が撃てない。どの道視界を遮る程度のもの。このまま貫く!
「【
今の俺に出せる全力を前方に叩き込む。モンスターの死体諸共、後ろの奴を切り刻む──!!!
「は ず れ ❤️」
「な……!」
目の前まで迫っていたモンスターの死体が砕けた瞬間、中から大量の紫色のゲルが溢れ出して俺に纏わりついてきた。体の自由が効かない。何だったら体内に入ってこようとする。
「(バカな!? いつだ、いつの間に……!)」
俺が体勢を整えている時に周りを見ていたあの時……!? まさかあの一瞬で!? 言葉も無しにだと! アクアスを囲っている本体らしきスライムから距離もあるのだぞ!
「悪いわね。こちとら散々ダンジョン一緒に潜って戦ってたもんだからさ。修羅場も経験してる訳。そんなんだからいちいち言葉にしなくてもやりたい事くらい分かるわよ」
「ぐぅ、ぐぅぅぅぅ!!!」
「ええそうね。かなり強めに作った複製だけど、加藤とタイマン張れるアンタをずっと押さえ付けられる訳じゃ無い。でもそれでいいの、私はただのお膳立てだから」
辺りを見渡しても奴が居ない。何処だ、背後か? 気配は無い。どこから──。
「(ま、さか)」
「加藤の【極光剣】ってね。一瞬でも立ち止まらないとうまく撃てないのよ。アイツも結構練習してたけどついぞダメだったわ。アンタ程の相手にぶち込むにはそれなりの隙が必要。それも距離を取りがちなアンタに近づきながらね。じゃあもう──落ちながら撃つくらいしか無いでしょ?」
視線を空に向ける。そこには──こちらに落ちてきながら、莫大な量の赤い光を剣から発している狂人が居た。
「ご大層な鎧も正偽も──吹き飛びやがれェェェェェ!!!!!」
赤き光の奔流に飲み込まれながら、俺は気付いた。自分が負けた理由を。
『これは……本当に正しいのですか?』
『軍に拾われた分際で口答えするな! 国が正義と言ったらどんなものも正義となる! 我々はただ、任務を遂行するだけでいいのだ!』
『……承知しました』
アナンタを逃した後、捕まって人身売買に流された俺はゼルエネスに買われた。言いたくも無いような事をやらされた。思い出したくも無いような惨劇をやらされた。でも、それでもこれが正しいのだと……妹も居なくなり生きる価値の無くなった俺がやれる唯一の事なんだと、信じていた。だが結局の所……。
「(俺は、国の正義を信じていなかったのだな……)」
片や自分に言い聞かせ無ければいけない程度の正義を信じる者。片や自分を救ってくれた正義を守る為。穢さないために戦う者。──比べる事すら、烏滸がましい。
「(生まれ変われるのなら、今度は……)」
お前の信じるような優しい正義を……信じてみたいものだ。そのまま俺は──光に飲まれて意識を手放した。
◇ ◇ ◇
今思えばアタシは、アイツに出会うまで碌な奴に出会わなかった。身なりも汚い、体も小さい。何より嬲っても誰にも文句を言われない。クソ共からしたら随分と都合の良いサンドバッグだったもんだ。
「【
クソエルフが放った魔法が空中で弾けて集中豪雨の様に光の矢が飛んでくる。高木ですらこんな魔法は使えないだろう。まぁ──。
「オオオオオオオオオ!!!」
知ったことでは、無い。突っ込んでぶん殴りに行く。体を光が貫いて血が噴き出る。痛みが全身を走る。止まる気はない。
「き、貴様! 気狂いか!? 何故それだけ貫かれて生きている!」
「知るかァァァァァ!!!」
「【強障壁】! 【強障壁】!!! ──ぐぎゃあ!!!」
必死に貼ってくる障壁をぶち壊す。アタシの戦い方はいつもこんなもんだ。被弾なんて知った事じゃない。兎に角突っ込んで敵を殴る。これしか出来ないのなら、これを何処までも貫くだけ。
「【治癒】! 【
エルフ女から回復と補助が飛んでくる。奇しくも鶴岡や高木が居る時と同じような戦い方になっている。いつもの方がやりやすいから丁度いい。
「何故だ!? 何故お前の攻撃だけ防げない! あのリファルの攻撃すら無効化出来る障壁だぞ!」
「テメェの薄っぺらい壁なんざ無いとの同じなんだよ!」
理由は自分でも分からない。別に知りたいとも思わない。唯ひたすらに、目の前のカスを殴りたい。
「もうウンザリなんだよ! 偉そうにヘラヘラしてる奴らに好き勝手されんのも! 体もプライドも踏み躙られてるのにやり返す事も出来ず、半ばそれを受け入れていた自分自身も!」
口では言い返していたが、どうせずっと底辺で彷徨うんだろうと思っていた。何をされてもやり返す力も無いから諦めていた。加藤と出会わなかったら、野垂れ死んでただろう。──だが、今は違う。
「やらせるかよ、やられてたまるかよ! 昔とは違う! 殴れる力がある! 立てる気力がある! 漸く手に入れたモン手放してたまるか!」
好きな奴が出来た。同じロクデナシの仲間が出来た。それで割と満足していた。自分の居場所が出来て、それで良かった。だが似た様な境遇でも真っ当に生きてる奴が居た。暴走こそすれど、アタシ達みたいなはみ出し者じゃなくて、真面目に頑張ってる奴が居た。
「しんどい事があっても前を見て歩いてる奴だった。初対面の時は訳分からん奴だったが、今はアタシのダチだ! アイツのダチになってやりたいって、なりたいってアタシが思った! だったら……アイツの大事なモン踏み付けるテメェのようなカスなんざ、居て良い訳ねぇんだよォォォ!!!」
「狂人が……ふざけるのも大概にしろォォォ!!!」
殴っても即座に回復魔法を使っているのか、すぐに反撃してくる。チマチマ殴ってたら終わらねぇ。デカい一撃をかますしかねぇ。
「消し飛べ! 【風刃──「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
魔法を放とうとしていた奴の足にハルバードが突き刺さる。背後からアナンタが奇襲を仕掛けていた。アイツ、いつの間に……。
「ト、トカゲェ! 障壁の合間を……姑息なぁ!」
「知った事では……ありませんわ! 私の大切な人々を! 国を! 滅茶苦茶にした貴方には、私の怒りをくれてやります!」
「こっ……のぉぉぉ!!!」
時間にして一瞬、その一瞬でエルフ女も奴に槍を投擲した。
「
「【強障壁】ィィィ!」
障壁があるからアイツはエルフ女の攻撃を防げる。故に防がざるを得ない。足元に居たアナンタを振り払って、エルフ女の攻撃を防いで、奴は手一杯になった。
「よぉ……覚悟は出来たか?」
「ふ、ふざけるな……ふざけるな! 俺は、俺は選ばれたんだぞ! 助けろ! 誰か! ゲオルグ何をしている! いずれ国の王になるんだぞ俺は! 誰か! 誰かぁ!!!」
奴の懐に飛び込んで拳を引き絞る。これで……終わりだ!!!
「た、たすけて──」
「そんなに助けて欲しけりゃ祈ってやれよ──居もしねぇ神様に、『助けて下さい』ってなぁぁぁぁぁ!!!」
「あああああああ──ゴギュ!?」
骨の砕ける感触が手に伝わった後、壁やら物やらぶっ壊しながら遥か後方に吹っ飛んでいく。数回地面をバウンドした後、あれだけ余裕こいていたエルフの男は見る影もなく無様に倒れて動かなくなった。