ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
あとがきにお知らせがあります。
「オオオオオ! ……お? お???」
「……モンスターが、消えていく……」
空を見上げると結界らしき物が消えている。それはつまり、モンスター達が地上に存在出来なくなった事を意味した。
「エネロマ! リファ嬢達がやったんだな!?」
『ええ、そうみたいね。濃魔結界とやらが完全に消え失せたわ』
「……お疲れ様、コシュタ」
「◾️◾️◾️◾️◾️!」
面倒な仕事だったが何とかなって良かった。……あの気狂いマン達が居なければ、こうはいかなかっただろう。
「あー疲れた……もうやりたく無いわーマジで」
「おうお疲れ! にしてもお前さん本当にスライムか? あんな巨大化出来るスライムなんて居ないと思うんだがなぁ……」
「え。い、いや〜その。あれよ! 俺はレアだぜって奴よ! 気にしない気にしない!」
「……怪しい」
明らかに何かを隠しているが、答える気はなさそう。態々聞く必要も無いか……。
「さて……後はアイツか」
「……」
私達の視線の先には、気狂いマンと倒れた銀の竜人族。気狂いマンはずっと立ったまま動かない。
「まぁ……そうなるんかね。あの怒り様じゃな」
「……多分、そう」
ゴランドと話しながら2人に近づく。ある程度近づいた辺りで、気狂いマンは竜人族に剣先を向けた。そして──。
「【治癒】」
「……え?」
回復魔法を使った。砕け散ったイージスアーマーから剥き出しになっていた体の傷が癒えていく。
「……何故、殺さない……」
「は? 何言ってんだお前」
目を覚ました竜人族が疑問を口にする。それに対して気狂いマンは、心の底から馬鹿を見たと言わんばかりの声色。
「今ならば……トドメを刺せるだろう。イージスアーマーを失った俺に、お前の剣を防ぐ手段は無い」
「やだよ馬鹿。何で俺が人殺さないといけないんだよ。ふざけんな」
「何……?」
「あのなぁ。お前がどんな過去があるのか知らんが、人殺したら犯罪なんだよ。少なくとも俺の国ではな」
「俺のやった事を考えれば……誰もお前を責めたりしないだろう……憂いを断つなら今しかないが……」
「……正直な話、俺自身はやってやったって良いんだ。お前がどうなろうと知った事じゃないし、俺にとってお前は単なるカスだしな」
「ならば……」
「でも俺は良くても、俺の周りはそうじゃない」
気狂いマンの隣に立って顔を伺う。苛立ちはあるものの、殺意は無いし目は正気。……さっきまでのと同一人物とは思えない。
「例え罪に問われなくても世間はそうはいかない。ガチの人殺しする様な奴なんて後ろ指指される。俺の周りの人達にも、俺を救ってくれた正義にも。世の中は容赦しない」
「……」
「俺にはそれが耐えられない。俺みたいな奴の側にいてくれる人達に、人殺しの仲間だの知り合いだのの汚名着せられるかよ。今でさえ風評最悪なのに。分かったか馬鹿野郎」
竜人族は目を見開いた後、ゆっくりと目を閉じる。まるで心の底から負けを認めたかの様に。
「勝てぬ訳だ……」
濃魔結界が無くなった空は、見渡す限りの青空だった。竜人族はその後も、青空の下で倒れたまま動くことはなかった。
◇ ◇ ◇
「セラフィナさん!」
「あん? 何だよ。つーか動いて良いのかお前」
「だ、大丈夫ですわ! この程度ぉぉぉ……」
「ふらついてんじゃねぇかよ。座れや」
アナンタがふらつきながら近付いてくる。いくら傷が回復したからって体力的に限界だろうに。無茶をする奴だ。
「だがまぁ……根性あるな」
「え? わ、私ですか?」
「おう。クソ野郎に不意打ち決めたのはナイスだ。やるな」
「も、勿論ですわ! やられっぱなしで我慢なんか出来ませんもの!」
「ああ、その通りだ。やられたらやり返さねぇとな」
「それよりセラフィナさんもかなり魔法を受けていましたが……」
「こんなん慣れっこだ。気にする事でもねぇよ。……アイツが回復かけてくれてたしな」
カス野郎を縛り上げに行ったエルフ女を顎で指す。悔しいことにアイツやアイツの仲間が居なかったら、この国は酷いことになってだろう。気に食わない奴だが……そこだけは有り難がっておく。
「にしても流石にあのカス死んだか? 全力でぶん殴ったが……まぁ蘇生すれば良いか……アイツの仲間なら使えんだろ」
「い、一応生きては居るみたいですわよ。ほぼ死に掛けですが……」
周囲の魔力も普通通りの物に戻っている。あのカスが濃魔結界とやらを作り出していたんなら、アタシ達のやる事は終わった。外は加藤が何とかすんだろ。
「おーい。どうだ、縛ったか? 変に目覚められても怠いから回復は最低限にしろよな」
「……」
「? おい。おいエルフ女。返事しろよ、何してんだ」
「これを……」
エルフ女が指を指した場所にはボロボロになった服が落ちていた。……あのカスの服だ。
「……あぁ?」
この国を危機に陥れた張本人の姿は、跡形もなく消え去っていた。逃げたのかと思い周囲どころかアクアス全体を探したが見つからない。【転門】が使える様な状態でも無かったのに。まるで元から存在しなかったかのように、忽然と姿を消していた。
◇ ◇ ◇
襲撃があった翌日、アクアスの人々も目を覚ましていつも通りの日常を過ごし始めた。俺達が日本に帰る日でもある。
「で、結局首謀者は見つからなかったと」
「【転門】が繋がる様になったから急いで来てみたら初手捜索やらされるとは思わなかったわ」
「オピスさんの魔眼でも見つからない辺り、この国にはもう居ないのでは無いでしょうか」
「使い過ぎて結膜炎になっちゃった……。痛いよぉ、加藤くん治してぇ」
「今メシ食ってるから終わったらな」
「数秒で終わる事じゃん! ケチ!」
あの後、遅れてやってきた高木達と合流して探したが無駄に終わった。仮に死んだとして死体が残らないのが不思議でならない。そもそもセラフィナ達の話だと普通に生きては居たらしいし。ギリ。
「まぁ俺らがどうこう考えてもしゃーないんじゃね? 別に俺らの使命でも無いだろ?」
「え? これから世界を救う大冒険とか始まるんじゃないの? 取り敢えずオーブ6個集めに行こうよ」
「ラーミア復活させてどうすんだよ。バラモスしばきに行けってか」
「アレフガルドに連れて行けないから出番少ないですよね。あれだけ復活に手間かけさせておいて」
「曲が良いからトントンって事にしとけ」
事実俺らが介入するのはここまでだ。侵略の事は世界中に広まったおかげで殆どの国がウォルタリアに同情的、ゼルエネスに対して敵対的だ。同情してくれてる国と連携取って何とかしていくだろ。
「魔王もなんか調べるとか言ってたしな」
「ダンジョン利用されてるからなぁ。そりゃそうだろ。モンスター操ってた方法も分かってないし、リスク考えれば調べない選択肢は無い」
「世の中に役に立つ物でも、使い方次第で人に仇なす物になってしまうのは世界共通ですね……嘆かわしい」
「まぁ魔王がってよりは御付きの奴がバチクソキレてるらしいけどな……」
電話したら『ケルロスの奴がゼルエネスにカチコミ行っちゃった……』って言ってたし。忠誠誓ってる王の作ったもんに唾かけられて壊されたようなもんだから然もありなん。
「まぁ濃魔結界とやらも暴走結晶だの詳細はゼルエネス叩けば出てくるかもな。1番知ってそうな奴が消えたけど」
「暫くサンドバッグは確定だねあの国。無関係の民かわいそー」
「安心してください、ゼルエネスの方にも私の宗教はございますので。不安がる方達に寄り添うつもりです」
「混乱に乗じて入り込むだけだろそれ。邪悪か?」
弱者救済を掲げているせいで見た目マトモだから困る。実質は単なるカルトなのに。
「じゃあもう帰ろうよ。ウォルタリアに居ても仕方ないでしょ?」
「セラフィナが来たらな。何だったら先帰って良いぞ」
「おい聞いたかお前ら。用済みだから帰れだとよ! 絶対普段から女に飯だけ作らせてもう良いから帰れとか言ってるぜコイツ」
「何と言う……セラフィナさんが普段苦労しているのが目に浮かびます。よよよ」
「ヤるだけやったらポイ!? サイテーだよ加藤くん! もうお婿に行けない!」
「よし分かった。お前ら全員この国に骨埋めさせてやるよ。今日中に火葬場送ってやる」
「ウォルタリアは土葬ですよ加藤さん」
「そこじゃねぇだろボケェ!」
◇ ◇ ◇
「まだ取り調べもやっていない。5分だけだぞ」
「団長、ありがとうございますわ」
「いや……今回私は何も出来なかった。これくらいは、な……」
厳重な牢屋。投獄された者は常に魔力を吸収する特殊な鎖で縛られてマトモな動きを許されない。そんな牢屋の中に……私のたった1人の家族は居た。
「……」
「大丈夫か」
「……はい、平気ですわ」
我儘言って着いてきてもらったセラフィナさんに励まされて覚悟を決める。鉄格子の前に立って、目を閉じたままの兄に声をかける。
「兄様……お久しぶりですわ」
「……死刑の執行か?」
「ウォルタリアに死刑はありませんわよ」
「そうか。特例を作っても良い気もするがな」
「法に例外はありませんのよ? 1つ学べましたわね! 兄様より少しだけ頭が良くなったかもしれませんわ!」
「……お前はとっくに、俺なんかより頭が良いさ」
拘束具に包まれた竜人族は懺悔するかのように話し出す。……いや、話すと言うより吐き出している。
「お前と離れた後、犯罪組織に捕まって裏に売られた。それをゼルエネスが買った訳だが……お前が居なくなってから俺はやる事が無くなった。……俺があの頃生きていたのは、お前を生かそうと……お前に良い暮らしをさせてやろうと。それが理由だったんだ。当時は自覚が無かったがな……」
「……」
「最終的に流されて、詭弁の正義を信じ、このザマだ。自分で物を考えず、言われた事をやるしか能が無かった。そら、愚かだろう?」
「……私だって、バカですわ。言われた事を1回で覚えられませんし、興奮してすぐ暴走するし、何の策も無く突撃するし……ほんと、ほんとうにバカですわ……おんなじですわ……」
「……何故泣く。お前は正しかった。正しい方に居られた。喜びはすれど、泣く必要は無いだろう」
「だって……だって……いっしょが……よかったんですもの……」
「……何?」
堰が切れたように、アナンタの目から涙が溢れ出す。嗚咽混じりに、今まで隠していた思いをぶち撒ける。
「ほんとうは! あのとき! おにいちゃんがいっしょならそれでよかった! ずっといっしょだとおもってた! なのにわたしだけ! わたしだけたすかって! おにいちゃんはひどいめあって……」
「……アナンタ」
「いっしょに……ウォルタリアにこれてたら……こんなことにならなかった……どうして……せっかくあえたのに……おりのなかなんて……」
泣き続けるアナンタの背中を軽く摩りながら、ダチを泣かせた馬鹿を睨む。
「テメェ、コイツを泣かせんじゃねぇよ」
「……お前は、アナンタの仲間か?」
「ダチだよ」
「そうか……全ては俺の責任だ。もうどうしようもない。……妹を頼む」
「は? お前投げ出す気じゃねぇだろうな」
「どう言う意味だ?」
「コイツの兄貴を投げ出すのかって聞いてんだよ」
一歩前に出て銀色の竜人族の目を睨む。何を言ってるか分からないって目だ。腹立つ。
「テメェは何で諦めてんだよ。もう出られませんってか?」
「当然だろう、何を言っている」
「尋問自体まだなんだろ? じゃあテメェの居た国の情報ベラベラ教えまくれば罪軽くなるんじゃねぇの?」
「……それは出来ない。仮にも元居た国に砂を掛けるような真似は……」
「元々禁止されてる人身売買で買われただけだろうが。内心嫌な仕事をやらされてたんだろ? なら好きなだけかけてやれば良いんだよ」
「俺を侮辱しているのか?」
「ああ、めっちゃバカだからな。お前がやらなきゃならないのは、コイツと一緒に居る事なんじゃねぇの? 例えどんなに無様だろうと裏切り者のレッテル貼られようと、たった1人の家族と一緒に居る事の方が大事じゃねぇのか? なんせコイツが居たから生きる理由があったなんざ言うくらいなんだからよ」
「……」
「セラ、フィナさん……」
「そろそろ5分だ。出るぞ」
背を向けて牢屋から離れる。言いたい事は言った。後は──あのバカ兄貴次第だ。
◇ ◇ ◇
「ん、終わったか」
「高木達はどこ行ったんだよ」
「帰った。アイツらあんなに文句言ってた癖に結局帰るとか何したいんだよマジでよ……」
「じゃあアタシらは次のポータルか。ゲルダは居ねーの?」
「王子と最後に触れ合うとか言ってそれっきり」
「置いてくか、アイツ」
「良いね、賛成」
どうせそのうち勝手に来るだろうし。何だったらまた粗相して追加労働していくのも良いだろ。
「加藤様! セラフィナ様!」
「あ、リファルさん」
「んだよお前かよ……」
「やめろって。どうしたんですか?」
「いえ、お三方の見送りをしようと思いまして!」
「え? リファルさん達は日本に帰らないんですか?」
「私達は後処理もですが、濃魔結界や暴走結晶などが他に流出していないか、しているのであればどう対処するかで国と話し合いもありますので……帰るのは先になりそうです」
「そうなんすか……なんか先に帰って申し訳ないっす」
「そんな! お2人が居なかったらこの国はどうなっていたことか……私達だけではどうにもなりませんでした。ありがとうございます」
「あー……はい」
なんかめちゃくちゃ感謝されてるけど、実際何で勝てたか分からないんだよな……急にイージスアーマーにダメージ入るようになって終いにはぶっ壊せたし。不良品だったのだろうか、そんな事ある?
「(……後で調べてみるか)」
俺自身に覚えがないと言う事は、まぁ剣の方だろう。ちょうど良い機会だし、メンテついでにゴレットに聞きに行こう。
「あ、それと王妃様からの伝言を預かっております。『ウォルタリアを救って下さりありがとうございます。いつでも来てください、出来る限り歓迎します』だそうです。現在起き上がる事が出来ないので、私が代わりに」
「【傀儡】って魔法の影響でマトモに歩けなくなったんでしたっけ。治る見込みあるんですか?」
「手探りになりますね……私自身聞いたこともない魔法でしたので。首謀者のエザレルなら分かるかもしれませんが……」
酷い話だ。操られて実の娘と息子に手を出させた挙句歩行困難。悔やんでも悔やみ切れないだろう。それでも国の為に動いてる辺り大した人だが。
「まぁ……何だ。困ったら呼んでくれればなんかしますよ。なんか」
「……! はい、しかと伝えます!」
「セラフィナさーん!」
リファルさんと話していると、アナンタが走ってきた。何やら手に持っている。
「さっき急に物取ってくるとか言ってたがそれか?」
「はい! セラフィナさんに贈り物ですわ!」
アナンタがセラフィナに手渡したのは小さな青い宝石が付いたネックレスだった。
「これは?」
「アイテムでも何でもないのですが……ラピスラズリのネックレスです。私が昔買った物ですわ!」
「何で買ったんだ?」
「加藤様、ラピスラズリは友情の石と言われています」
「……もしかしていずれ出来るかもしれない友達を夢見て買ったのか? プレゼント用に?」
「初任給で……はい……」
悲しくなってきた。いや今こうして出来た友達に渡してるから無駄では無いんだが……なんか、うん。
「……」
「あ、その……い、いらなかったら捨ててもらっても……勝手に盛り上がって申し訳ありません……」
「いやいらねぇなんて言ってねぇだろ。面食らっただけだ。……ありがとよ」
そう言ってセラフィナはすぐにネックレスを付けた。
「似合うじゃん」
「! ……そうか?」
「わぁ……とってもお似合いですわ! じ、実は自分の分もあるのですが……友達とお揃いにしたくて……つ、付けても?」
「まぁ……良いんじゃねぇの?」
セラフィナが顔を逸らす。コイツ照れてんな、昔っから誤魔化す時に顔逸らすのが癖だ。
「ど、どうですか!」
「……なんかタダでさえ小さいのに余計小さく見えるのは気のせいか?」
「ちょ、ちょっとアナンタ様にはサイズが……小さいかなと……」
「胸デカ過ぎるせいでぱっと見付けてるかすら分からねぇな」
「ぼかして言ってんのに台無しにすんなよ! ほら見ろ! お前の友達落ち込んでますわよ!?」
「わ、悪かったって。すまん」
人の気遣いを何だと思ってるんだコイツは。デリカシースキル身に付けてこいよ。
「さて……そろそろ行くか。遅れてもだるいしな」
「そうだな、いつでも来いよアナンタ」
「はい……あの! お2人が居なかったら……何一つ守れませんでしたわ……だから、その……ありがとうございました!」
セラフィナと顔を見合わす。なんかやたらと感謝されて変な感覚だ。罵倒の言葉ならいくらでも受け慣れてるのに。
「まぁ、どういたしまして。それじゃ」
「またなアナンタ。元気でやれよ」
セラフィナと並んでポータル屋に向かう。昏倒してたのに翌日には働く辺り、この国の人達はタフが過ぎる。
「セラフィナ」
「あん?」
「良かったな」
「……まーな」
「……ブッ! ダハハ! しんみり笑顔似合わねー! 解釈違いってぇぇぇぇぇ!!!」
「うるせぇ蹴ったぞ」
「傷害罪の事後報告とかただの自首なんだよふざけんな!」
騒ぎながら慌ただしい街中を歩く。家に着くまで終始、セラフィナは笑顔だった。
「……」
「リファルさん! 復興協力感謝ですわ! 早速ですが私と一緒に……リファルさん?」
「おーいリファ嬢。見送り終わったかー?」
「……リファル? どうしたの」
「リファル様? リファル様!」
「え、あ! だ、大丈夫です! すいません! さぁ早速復興作業を始めましょう!」
「ちょ、ちょっとリファル! そっち違う──」
ガァン! ドガァ! バキバキ! ボキャン! ドッポーーーーーン!!!
「リファルゥゥゥゥゥ!? どうしたのぉぉぉぉぉ!?」
「すげぇコンボで周囲破壊して水路落ちてったな」
「……明らかに動揺してる」
「リファル様ぁぁぁ! 大丈夫ですかぁぁぁ!!!」
「……え? まさかそう言う? ……セラフィナさん! 私はセラフィナさんの味方ですわ!」
日本に帰って数日後。漸くウォルタリアの件が世間に公開される事になった。ネットニュースや新聞、テレビなどの媒体であの事件の概要が出る。それはつまり──。
「高木ィィィ! 新聞来たか!?」
「今回だけだからってウチの事務所に届くようにすんのやめろよ。そんでもって俺に届けさせるのもやめろよ」
「仕事終わってから見る気だったから仕方ないだろ! そんくらい働け! どーせ仕事サボってるだけだろ!」
「何で分かるんだよ。エスパー?」
投げ渡された新聞を開いて食い入るように読む。今日は俺の悪評が全て消え失せるサラダ記念日より記念度が高い日だ。
「か、加藤さん! ちょっと待って……速いですよ! まだタイムカード切ってませんって!」
「加奈子さん! 遂に俺の普通の人生への第一歩が踏み出されたんですよ! 見てください!」
「え? ……ああ、この前の事件のですか?」
「そうなんすよ! ここ! この一面の輝かしい功績によって今までのバットイメージが全て消えて大逆転ですよ!」
「……あの、加藤さんの事何処にも書いてませんけど……」
「……え?」
冷や水をかけられたように血の気が引いていく。落ち着いてもう一度記事を読み直す。
「……あれ? 俺どころかセラフィナやゲルダリアの事すら書いて無いんでございますが?」
「今ネットニュース読んでるけどこっちも無いぞ」
「は?」
「と言うより……これ全部【勇者の集い】の事ばかりなんですけど」
よくよく読んでみると確かにリファルさん達の事しか書いてない。【勇者の集い】がウォルタリアを救った。そんな感じ。
「……あ、ありましたよ加藤さん」
「本当すか! いやぁ良かった! そうだよな! あんなに頑張ったのに何も無しなんてあり得ないよな! で、どこですか?」
「多分……これかなぁ……」
加奈子さんの指差す文をゆっくり読んでみる。そこには──。
『ウォルタリアがゼルエネスに侵略行為を受け、首都アクアスが攻め込まれた。しかし独自調査を進めていた【勇者の集い】と他探索者によって被害は最小限に抑えられた』
勇者の集いと他探索者。他。他。あの時居た他は。俺。
「え? こんだけ?」
「みたい……ですね」
「あんなに必死こいて戦ったのに? 何で?」
「た、多分その……言いづらいんですが……
加藤さん達だと読んでもらえないからじゃ無いですかね……?」
「え」
「ブフォ! ククク……そ、そう言うことね。ヒヒヒ……」
「おい何がどう言うことなんだよ! 言え! 言えよ! 教えろよ!」
「要するに俺達【
「……つまり、俺の、活躍が世に出ることは」
「ありませぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!! ダーハッハッハッハッハッハッ!」
開いた口が塞がらない。目の前が真っ暗になりそうだ。俺の冒険をここで終えてしまおうか。
「そ、そうだ! ウォルタリアの人達は俺が頑張ったこと知ってるだろ! 何とかお願いして広めてもらって──」
「濃魔結界で昏倒してたから見てないし知らんだろ」
「お、王妃様にお願いしてお触れを──」
「今ウォルタリアって復興でてんてこ舞いなんだぞ? そこに自分の名誉の為に動いてくだちい! って言えるんなら良いんじゃね? 俺だったら耐えられんがな。惨め過ぎて」
「う、う、う、うあああああああああ!!!」
「アーヒャヒャヒャヒャヒャ──ごぼぉ!?」
「世界が俺に優しくねぇぇぇ!!!」
「まぁ俺らが世界に優しくしてないからな。ギャハハゲボォ! ゲハハドボォ!? ダハハぶべらぁ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ! ちくしょぉぉぉぉぉ!!!」
「……南無」
一発逆転。そんなものに頼ろうとした時点で、俺の運命は決まっていたようだ。何事も地道にコツコツ。明日からそうやって生きよう。ゲラり続ける煽りハゲを殴りながら、心に刻んだ。
──────────────────
一方その頃……ウォルタリアのトイレの一室。
「……弁明は?」
「いやほら、もう日本に帰らないといけないじゃ無い? だから最後に一緒にお風呂入っただけよ。何にも悪いことしてないわ!」
「湯が無くなっているが?」
「ごちそうさまでした」
「さらばだ」ジャーーー
「いやぁぁぁぁぁ! 下水流しは嫌なのォォォォォ!!!」
ゲルダリアが日本に帰ったのは、アクアスの下水管を堪能させられた後だった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
お知らせなのですが、拙作「ダンジョン中毒から抜け出したい」の書籍化、コミカライズ化が決定しました! 読者の皆さんのおかげです! ありがとうございます! そして「これが!?」と思った方、ご安心ください。作者が1番そう思っています。趣味&おふざけ100%で書いてた物がラノベや漫画になるなんて夢にも思っていませんでした。繰り返しになりますが、いつも読んでくださる皆さんのおかげです、本当にありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。
この小説が短編で投稿されてた時に自分が調子に乗って書いた(今は消してる)『需要があったら続き書きます』とか言う舐め腐ったあとがきに、『需要ありまくりです』と感想を送ってくださった方、まだ読んでくれているでしょうか?貴方のお陰でこの作品は続いています。本当にありがとう。