ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】   作:1パチより4パチ派

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明日は更新出来るか怪しいです


初仕事は人質

 仕事に遅刻した翌日、連続遅刻は流石にやばすぎるのでちゃんと早めに家を出る。

 

「絶対清掃なんかやるよりダンジョン潜った方良いだろ」

 

「……セラフィナ、昨日も言ったが俺はマトモになりたいんだよ、確かに過去の俺は酷い有様だった。連日ダンジョンに行って宝箱に一喜一憂しながら狂う毎日。楽しかったのは事実だ、でもな……世間一般からしたら気狂いにしか見えないんだ」

 

「世間の評価なんか気にするからダメなんだろ? 無視しろよ」

 

「お前そうやって社会復帰しようとしてる人間に『貴方はそのままでいいのよ?』的なこと言うのはマジで罪深いからな!」

 

「世界がお前を否定してもアタシは必ず肯定してやるよ」

 

「じゃあ探索者やらないでサラリーマン目指す俺も肯定してくれ」

 

「悪い、それは無理」

 

「話は終わりだバッキャロー」

 

 しょうもない問答に少しだけ時間を取られたが、無事に仕事場のダンジョンに到着する。

中に入ると既に加奈子さんが待っていた。

 

「加藤さん、おはようございます!」

 

「おはようございます、早いっすね」

 

「初日にやらかしたので……反省してます……」

 

「かなり興奮してましたからね、何で?」

 

「いやまさか漫画みたいな恋愛が存在するなんて思わなくて……」

 

「あれが恋愛に見えるのは相当疲れてるので休んだ方がいいですよ」

 

 純度100%の一方通行だろ。

相手の社会復帰を止めようとする恋愛がどこにあると言うのだ。

 

「(ギアススクロールに書くくらいだから、マジで油断ならねぇんだよな……)」

 

 ギアススクロール、あれに書かれた名前の数はメンバーの数と同じ。

俺を除いて6人が俺を再び沼に笑顔で突き落とそうとしてくる訳だ。

それも悪意とかじゃ無くて善意や愛情、友情で。

これがイカれてなかったら何だと言うんだ。

そもそもギアススクロールなんて代物は国同士で交わす条約で使うような代物だ。

それを個人で使うなんざ馬鹿がやる事。

……いや、馬鹿だからやるのか、そりゃそうか。

 

「(ガチで拒絶出来ない俺にも、非はあるんだろうな……)」

 

 どんなに好き勝手やられても、多分俺は友人達の事を嫌えない。

口ではあれこれ言ってるが、探索者時代に苦楽を共にした仲だ。

俺らだって最初から高難易度のダンジョンに潜れてた訳じゃない。

何度も失敗したし、自分自身何度も死んだ。

スランプに陥って碌に戦えなくなった時もある。

そんな時に隣に居てくれた友人達の事が……好きなんだろうなぁ。

死んでも言わねぇけど、これだけは。

 

「昨日は手続で終わっちゃったから、実質的には今日が初日ですね」

 

「ダンジョン関連の仕事は色々と複雑ですからね、魔族との取り決めとかで書類が多いんすよ」

 

「やっぱり使用料とか取られちゃうんですか?」

 

「1割は納めることになってますね」

 

「探索者の入場料だけで、それを賄うの大変だと思うんですけど……」

 

「一応他にも運営側が得られる収入があるんですけど……これに関しては臨時収入の側面大きいんですよね、実際にあったら教えますわ」

 

「? 取り敢えずわかりました。 仕事の方、ご迷惑かけますが教えてください!」

 

「勿論、昨日から同僚ですから。お互いバイトだけど」

 

「すいませーん、探索者の方が次の層行きましたので、清掃お願いしまーす!」

 

「はーい、じゃあ行きましょうか」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

◇ ◇ ◇

 

「スゥゥゥ……ハァァァァ……」

 

 ダンジョンに入って深呼吸をする。

昨日は結局ダンジョン内に入る事が無かった為、後少しで震えが出る所だった。

ダンジョン内特有の濃い魔力が体に入って澄み渡る。

 

「ああああ……ふぅ……」

 

「……あの、完全に薬物中毒者のそれなんですけど大丈夫なんですか? 治したいんですよね?」

 

「大丈夫大丈夫、これはあくまで震え抑えてるだけなんでノーカンです。宝箱見るとスイッチ入るだけで、こっちのはただの禁断症状対策なんで」

 

「ヤニカスと言ってる事大差ないんですけど。大麻やってる訳じゃないからセーフ理論なんですけど」

 

 ダンジョン内で深呼吸するくらいなら、世間から白い目で見られないだろ、多分。

 

「さて、早速仕事やりますか。今入ってる探索者次第ですけど、二層目も掃除する事になるかもしれませんしね」

 

「はい! ……でも、その。ちょっと酷くないですかね……」

 

「今回の連中はかなり乱雑っすね」

 

 入ってすぐ分かることだが、あちこちにモンスターの死体が散らばっている。

恐らく強い力で力任せに殴ったせいで、バラバラになったのだろう。

そんな死体ばかりある、先までずっと。

 

「これ全部片付けるんですか……? 何時間かかるんだろう」

 

「全く殺し方が下手くそなんですよねぇ、こんな散らかしてガキのおもちゃじゃねぇんだけどなぁ」

 

 ぱっと見、強いモンスターと弱いモンスターが混在している。

敵の力量が分からないから常に全力で攻撃、結果弱いモンスターは死体ごとバラバラになって散らばる。

 

「(こりゃ強くなれそうに無いな……)」

 

 あまりにも雑すぎる、こんな戦い方してたらすぐに限界が来るだろう。

迷宮探索者に置いて大切なのは体力管理だ。

ダンジョン内では基本的に安全地帯と言うものは存在しない。

四六時中、どっからでもモンスターが湧いてくるので休憩がそう簡単に出来ないのだ。

となればリスクのある休憩の回数を減らして行くしかない、その為には消耗を抑えつつ最低限の攻撃で倒して行くのがベターだ。

まぁこのダンジョンは五層しか無いので、割と飛ばしても平気だと思うが……ここから上は目指せないだろう。

 

「ダンジョン清掃ってこう言うのがザラなんで、結構大変なんですよね」

 

「そうなんだ……お給料がやたら良いのは、その分大変だからなんですね」

 

「強い探索者ばかりのダンジョンだと楽なんですよね、ここまで散らからないから」

 

「え!? でも加藤さん暴れまくってモンスターの死体大量生産してましたよね!? 一回最下層まで降りたのに引き返してモンスター倒し続けてたから、辺りがモンスターの死体で埋まってたって高木さん言ってましたよ!」

 

「……こ、殺し方自体は綺麗にやったから……片付けも自分でやったし……」

 

 偉そうに言うもんじゃ無かった。

てか高木め、チクるなよ。

 

「重いモンスターもチラホラ居るので、腰をいわさないように気をつけて下さい。無理だったら呼んでくれれば」

 

「あ、わかりました。仕事しなきゃ!」

 

 半ば無理やり話を打ち切って仕事に入る。

と言ってもやる事は単純だ。

死体を拾って荷台に乗せる、荷台が埋まったら処理口に持って行く。

この繰り返しをひたすらにやっていく。

細々したのは箒で掃いて一塊にすると楽だ。

 

「あのー、こう言う大きいのはどうすれば良いですか? ちょっと持てない……」

 

「ああ、良いっすよ。俺やるんで」

 

「いやでも加藤さんに頼ってばっかだと私戦力にならないじゃ無いですか、持つのは無理ですけど何か良い方法ないかなーって」

 

「ああ、それなら千切れば良いっすよ」

 

「……なんて?」

 

「ほら、こうやって──」

 

 デカいモンスターの死体に近づいて両手で掴む。

そのまま手に力を入れると、ミチミチと肉が裂けていく。

ブチっとある程度の塊に千切った死体を荷台に放り込む。

 

「こうやって千切っては投げ、千切っては投げってやって行けば楽ですよ!」

 

「いや千切っては投げって言う言葉を文字通りで使う人初めて見たんですけど、どんな握力してるんですか。ゴリラ転生ですか?」

 

「でも知り合いの清掃員のおばちゃんもこれやってましたよ。てかその人から教わったやり方だし……」

 

「おばちゃん強すぎません!?」

 

 探索者辞めてから割とすぐに受けたバイト先で会った人だったが、お菓子とかくれて優しい人だった。

元気にしてるだろうか、確か旦那さんが働いてないって愚痴ってたけど。

 

 それから結構な頻度で加奈子さんから質問を受けながらも仕事を進める。

加奈子さんは飲み込み自体はとても早いので、作業スピードもどんどん上がっていった。

大体3時間ほどだろうか、すっかり綺麗になった第一層を見て一息つく事になった。

 

「ふぅ……何とか終わりました……」

 

「お疲れ様です。休憩しましょう、飲み物何本か持ってきてますよ」

 

「あ、ありがとうございます。ならお茶貰おうかな……」

 

 お茶を加奈子さんに手渡して、適当なバケツを椅子代わりにして座る。

加奈子さんを見ると支給してもらった作業服に汗が滲んでいる。

慣れない仕事だから大変なのだろう。

 

「そう言えば今日平日ですけど、大学の方は大丈夫ですか?」

 

「あ、私大学入ってないんです。現状フリーターですね……アハハ……」

 

「あー……そっか。お母さんのサポートとかありますもんね、そりゃ入る暇無いか」

 

「大学行くお金と時間あったらお母さんの治療費に当ててますからね」

 

「兄弟とかは居ないんです?」

 

「一人っ子です、お父さんは居なくてお母さんと二人暮らししてます。子供の頃からずっと」

 

「そうすか……色々大変でしょ」

 

「そうですね、でも今はかなり楽ですよ! お母さんの病院代とかも終わったので! 加藤さんと高木さんのおかげです! 本当に!」

 

「そう言ってもらえるならエリクサー掘りに行った甲斐がありますよ」

 

 昔エリクサー茶漬けかましてた事は絶対黙っていよう。

またドン引きされて俺の株が下がる。

そんな中、俺のスマホにメッセージが届く。

このダンジョンの運営の人からだ。

 

「お、探索者引き上げたみたいっすね」

 

「あー、あれですよね。テレポ石」

 

「はい、態々テレポ石使うって事は……良いのが出たっぽいすね」

 

 ダンジョンで手に入れたアイテムは、ダンジョン内で手放すと一定時間で消えてしまう。

全滅してしまうと、当然持っていたアイテムも全部落としてしまうのでロストしてしまうのだ。

その為のテレポ石、名前のまんまだが使うとダンジョンの入り口まで飛べる便利な石だ。

ただそれなりの価格がするので、目当てのアイテムやレアなアイテムが出ない限り使う人はそう居ない。

 

「もう少し休憩したら第二層やって今日は終わりですね」

 

「はーい、頑張ります!」

 

◇ ◇ ◇

 

 二層目の掃除も終わって今日の作業が終わった。

ダンジョンの入り口まで戻ってくる。

 

「今日はお疲れ様です、初めてなのにテキパキやってて凄いっすね」

 

「やる事は単純だったので何とかなりました! 流石にモンスターの死体を引きちぎるのは無理ですけど……」

 

「慣れればいけますよ、大丈夫大丈夫」

 

 雑談をしながら運営の人に清掃員用の道具を返却する。

もう17時、退勤の時間だ。

 

「じゃあ帰りますか、明日もよろしくお願いします」

 

「はい! ……そう言えばセラフィナさんって今どうしてるんですか?」

 

「……俺の家に居ますよ」

 

「結局どうするんですか?」

 

「家で服を着てもらう条約は結べました」

 

「もう負けてる……」

 

「負けを認めない限り、それは負けじゃない。諦めない心が奇跡を起こす事だってあるんだ……」

 

「なんてみじめであわれな生き物……」

 

 加奈子さんに哀れまれていると電話が鳴った。

番号は高木だった。

 

「どうした高木。なんか用か?」

 

『いや実質初仕事だったからさ、心配して電話した』

 

「そうか、で本音は?」

 

『セラフィナに頼まれて、あいつの住所お前の家にしたから一応お前にも言おうと思って』

 

「今度会ったらお前の頭にひじき移植するわ」

 

 これもう侵略だろ、許されてええんか。

ダンジョン運営は国にとって大事なのは分かるがこんな奴に好き勝手出来る権力与えたらダメだろ。

 

『まぁまぁ、それで今度セラフィナの引越し祝いに加藤ん家行くから久しぶりに飲もうぜ!』

 

「家主が認めてない引越しかました挙句飲み会繰り広げようとするんじゃねぇ!」

 

『良いだろ、俺たちは全員宇宙船地球号の乗組員だろ? 仲良くしようぜ』

 

「今すぐ故郷に帰してやろうかグレイ星人」

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ハゲにキレ散らかしていると加奈子さんの悲鳴が聞こえた。

悲鳴がした方を振り向くとそこにはボロボロのローブを着た男が加奈子さんを捕まえている。

首元には短剣を添えている。

 

「(あいつ、午前中から待合所に居た……!)」

 

 仕事前から何故かずっと座っていたから変だとは思ったが……まさかまだ居たとは。

加奈子さんを狙っていたのか?

 

「全員動くんじゃねぇ! この女がどうなっても良いのか!」

 

「た、助けてぇ!」

 

 一気に騒つく周囲に男が叫んで動きを止めさせる。

運営や警備員の人が出てきて男を説得しようとする。

 

「な、何ですか! 何がしたいんですか貴方は!」

 

「目的は何だ! 言え!」

 

「俺の目的だと……? そんなもんは決まっている!」

 

 ローブの男はフードを取って俺の方を睨んでくる。

 

「お前だ! 【凶戦士】加藤! 俺の目的はテメェだ!!!」

 

「その呼び名辞めろぉ! 痛過ぎるわ!」

 

『当時はあんま気にならんかったけど改めて考えるとブレイズクローみたいな呼び名だよな』

 

「誰が火文明1マナパワー1000だ! お前だってクルトみたいな頭してるくせに!」

 

「いや漫才してる場合ですか! 助けてくださいよ!」

 

 冴えない男が俺が目的だと叫んでいる。

どうやら家に帰れるにはまだかかりそうだ。

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