ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
翌日、宣言通りケルコットが再びダンジョンに訪れた。俺の職場の。
「どうも! お待たせしました!」
「諦めたら? 試合終われるぞ?」
「分かるでしょう! もう引っ込みつかないんですよ! ここで諦めたらあんなに苦しんだ意味が無くなります! 絶対食べられるものにしてみせますとも!」
「お前が良くても俺や加奈子さんが嫌なんだよ!!! 結局掃除したの俺らだぞ! 何でお前のゲボ掃除しないといけねぇんだ!」
「加藤さんが先に言えば回避出来たかもしれないんですけどね?」
「それに関しての禊は昨日終わりました!」
「ちょっと教えなかった罰が虹まみれはやり過ぎだよね。酷いや」
「昨日に関してはすいません! でも今日は大丈夫、何故ならこれがあります! 【超吸収脱臭ポリマー袋】〜! これにならどれだけ垂れ流しても問題ありません!」
「出す事前提なんですか!? そこまでしてやります!?」
「試験は明日……残された時間はありません。今日に全てを賭ける!」
「絶対普通の料理作った方いいと思うんだがなぁ」
時刻は昨日とおんなじ18時。今日も予約が入っておらず仕事が無いのでダンジョンを閉める予定だった。コイツが来なければ。
「てかさ、1日だけならまだしも連続で私的理由でダンジョン入るのってアウトなんだぞ。お前探索者登録してないだろ。清掃員やスタッフでも無いのに入るのは法律違反だぞ」
「はい、そう思いましてここのダンジョンの管理者に電話をして説明したら許可を得ました! 何故か貴方の事を伝えたら即答でした!」
「高木ィィィ! お前またかぁぁぁ!」
『面白そうだったから……』
「理由が毎度同じなのやめろよ! いい加減読者も飽きとるわ!」
『壱の型しか使えないんだよね俺』
「善逸!?」
悲しい事にこの街のダンジョンは高木の管轄だ。そして高木は無駄に権力を握っているのでコイツが良いと言えばダンジョン関係の事は通ってしまう。鶴岡に頼んで潰して貰おうかな。無理か、アイツにクォーツ用のアイテム融通してもらってるし。
「まぁまぁ。もしかしたら本当に美味しいモンスター料理が出来るかもしれないよ? あの天の川量産物体が食べれるようになるところ見たくない?」
「でもモンスター倒すの俺らだろ? ケルコット戦えないし。 食材取ってくんの俺らだろ? この流れだと」
「そこはほら。袖振り合うのも多少の縁って奴?」
「何でお前はそんなに乗り気なんだよ……わざわざ来てまでそんなに食いたいのか? モンスター」
「いや動画サイトに『モンスター料理してみた!』みたいな動画上げればバズるかなーって。銀の盾欲しいんだよね」
「他人の功績で登録者10万達成して何が嬉しいんだ! 小判鮫かお前!」
「違うよ! 登録者集めた後に僕のクソアイテム紹介動画を上げまくって大勢にクソアイテムを広めたいだけなんだ!!!」
「折角集めた登録者をゴミ捨て場に突き落としてどうすんだよ! 即座に解除で大炎上だろ! そのままチャンネル削除まで目に見えてるわ!」
「どうせSNSに無断転載されてMAD素材にされてネットのおもちゃにされる世の中なんだから気にしたら負けでしょ。インパクトさえあれば良いんだよ」
「迷惑系動画投稿者と何の違いがあるってんだ!」
「加藤さん落ち着いて……。ケルコットさん、本当に大丈夫ですか? 昨日の有り様を見る限り、生半可な調理じゃどうにもならないと思うんですけど……」
「ええ……分かっています。あれ程の物、普通の発想で料理してもどうにもなりません。故に! 自由な発想で! ありとあらゆる調理を試します! 焦がす、和える、塩を振る、粉をはたっく、コンソメパンチなどなど!」
「何でライバルの歌詞風なんだよ。一部無理矢理だし」
「最後に至っては調理法じゃ無いですよね。ただの商品名ですよね」
「もう試験は明日に迫っています……どうか協力お願いします! お礼も用意してますので!」
「お礼? 何だそれ」
「あ、今渡した方良いですかね? 少々お待ちを!」
そう言ってケルコットは突然床にタオルを置き、三戦のポーズを取り始めて、深く深呼吸をし始める。
「ん……! ふぐぅ……うぅん! うく……あぁ!!!」
「「(絶句)」」
「わーお。凄いなぁ」
数分後、3個の綺麗な白い卵がタオルに着地した。ケルコットはそれを拾って綺麗に拭く。
「ハァ……ハァ……産みたてです。どうぞ、召し上がれ!」
「「上がれるかぁぁぁ!!!」」
「ごびゃぁぁぁぁぁ!!!」
とんでもない物差し出してきたバカ鳥に、加奈子さんと共にチョップをぶちかます。やたらと殻が硬いのか、床に落ちても卵は割れてない。頭も割れてない。割れて良かったのに。
「お前何いきなり産卵おっ始めてんだ! 頭おかしいのか!」
「ち、違います! 皆さんに手伝ってもらうお礼を……」
「ハーピーのお礼って目の前で喘ぎながら産卵するのを見せつける事なんですか!? 現代社会に適応してないですよ! やるなら鶏小屋でやってくださいよ!!!」
「聞いてください! これは私の料理人としての矜持なんです!」
「どう言う事だい?」
「ほら、丸亀製麺って職人が作るところ見えるじゃないですか。あれってお客さんが作る所が見える事で、何をしているのか、どんな風に作ってるのかが分かる事で安心出来るんです。実際それで売り上げ上がってますし。なので私もそれに倣って食べる人へ安心を──」
「食材の生産を見せつけてる訳じゃねぇだろそれ! 安心届ける前に不快感届けてどうする!」
「肉料理作るの見せるのと、屠殺見せるのじゃ話が違うんですよ! と言うかこんなの食べられませんよ!」
「え? でも祖国で店やってる時、男の常連さんいつも私の卵買って行きますよ? すぐに売り切れになるから美味しいんだと思うんですが……」
「それ性欲10割だから! 下衆な目的でお前の卵買われてるから! 目を覚ませ!」
「で、でもほら! 食べていらっしゃいますよ!?」
「んぐっんぐっんぐっ──んぐぶぁ!?」
オピスがケルコットの卵を丸呑みにしていたので蹴りで卵ごと顔面を蹴り飛ばす。転がったバカ蛇の胸ぐらを掴んで持ち上げてやる。
「あのさ、お前何してんの? キモすぎるからやめてくんない?」
「いや卵があるなら丸呑みしないと失礼じゃん?」
「こんな所で蛇アピールしなくて良いんだよ!」
やたらと嬉しそうにオピスを見るケルコット。コイツもしかして変態か? 変態はゲルダリアだけで間に合ってるから勘弁して欲しい。
「加奈子さん、俺帰ったらダメですかね」
「……『今日残業よろしく!』って言う連絡が高木さんから来てます」
「ち、畜生……!」
何でこう言うことだけ用意周到なんだろう。変にクビにでもなったら本当に社会から弾き出されてしまう。無職になるのだけは嫌だ……探索者が職業になるのも嫌だ……。
「従うしか……無いのか……」
「き、きっと何とかなりますよ! 別に私達が食べる訳じゃ無いですし!」
「そ、そうですよね! 時が過ぎ去るのを待てば良いだけですよね! アハ、ハハハ!」
「あはは! あはははは!」
「お2人はどうして笑っているんですか?」
「現実逃避かなぁ多分」
◇ ◇ ◇
ダンジョンに入って適当なモンスターを仕留めて死体を引っ張ってくる。最初に倒したのは猪型のモンスター数体だ。見た目的にはジビエって事で何とかなりそう。
「ほらよ。これで足りるか?」
「一先ずは! さて……早速始めます!」
「最初はどんな料理にするんだい?」
「試験用に作らないといけないんですよね? 個性的な料理……でしたっけ」
「はい。所謂創作料理って感じです。オリジナルの料理を作れば、一次試験は乗り切れる筈……」
「一次? もしかして段階があるのか?」
「あ、すいません。言ってませんでしたね。一次試験が審査員に自分の料理を作って審査してもらって、それをクリアすれば2次試験。一般のお客さん相手にどれだけ食べて貰えるかって言う試験があるんです」
「えーっと……あ、あった。どうも試験自体、一般人も見ることが出来るみたいだね。入場チケットとかあるよ」
「なんかラーメンフェスタみたいなノリですね……」
成程、だから奇抜な料理が必要なのか。味が分からない以上、人が食べる食べないの判断をするのは見た目だ。ラーメンハゲも情報を食っているとか言ってたし。
「まずは捌いて……よっと」
シュバババババ!
「おー、見事な爪捌き」
「あっという間にバラバラ……内臓とか無いんですね」
「血も無けりゃ呼吸もしないですからね。モンスターは」
「へー……モンスターって何なんですかね?」
「ダンジョンがアイテム作る時に出るなり損ないみたいなもんですよ。たい焼きのバリですバリ」
「たい焼きのバリが人殺しに来るって字面おかしく無いですかね!?」
そう言われてもそう言う物としか言えない。当たり前のように存在するからちゃんと考えた事はないけど。モンスターなんてアイテム落とせばそれで良いし……。
「出来ました!」
「え、早くね?」
「下手な鉄砲数打ちゃ当たる! 色々試して地獄味を改善するしかありません! と言う事で最初はこれです! 【モンスターゲイジーパイ】!!!」
「お前これパイに頭ブッ刺しただけじゃねぇかぁぁぁ!!!」
出されたパイにはモンスターの生首がぶち込まれた凡そ料理とは言えないナマモノだった。
「舐めてんのか! 料理じゃねぇだろこんなの! お前料理人か!?」
「で、でもインパクトあるじゃないですか! 見た目が派手じゃないと評価が……」
「派手と言うより最早下品なんですけど……」
「流石にこれで試験突破は無理じゃない? ウケ狙いが過ぎるよね」
確かに見た目は凄いが悪い意味でだ。これを食べたいと思う奴は恐らく山育ちだけだろう。
「そもそも碌に調理してない時点で味に変化無いだろ」
「先に作っておいたパイの部分は味を濃くしています! きっとあのモンスターの味もこれで緩和されヴォェエエエエエエエ!!!」
「流れるように味見してゲボが流れて行ったね」
「あれがこの程度で消える訳ないだろ! つーか今パイ部分食ってないから! 頭齧っただけだから!」
「脳味噌なら美味しいかなって……」
「臓器無いって言ってんだろ!!!」
ケルコットはフラフラしながら再びモンスターの死体に手を伸ばす。どうやら諦める気は無さそうだ。
「今度は……そうだ! オリーブオイルの上に肉を浮かべると言うのはどうですか!?」
「これダメっぽいな……」
「ダメそうですね……」
※以下ダイジェスト
────────────────
「見てください! 今流行りのデカ盛り! 溢れいくらならぬ溢れモンスター丼! ちゃんと火を通してスパイスで味付け! ご飯にも味付けしてるので虹ヲロロロロロロ!!!」
「これで10回目ですね……」
「絶対に自分で味見をすると言う姿勢だけは評価出来るんだけどなぁ」
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「こ、今度は背徳感増し増し! 二郎系ラーメン! モンスターの出汁を取ったスープは虹の輝きロロロロロロ!!!」
「す、すげぇ……ゲーミングラーメンだ……目が痛くなって来た」
「不味い物から出たダシだからそりゃ不味いですよね……」
「チャーシューもモンスター肉だから逃げ道が無いねこのラーメン」
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ゴトン!
「うおおおおおおお! 宝箱ぉぉぉぉぉ!!!」
「きゃぁぁぁ! モンスター調達中にドロップしちゃったぁぁぁ!」
「あー暴走始まった? 仕方ないね、僕もついてこ」
「ダメですよ! 止めてください!」
「なんで???」
「あ、そうだった! この人加藤さんの狂ってるとこ好きだからギアススクロールにサインしてるんだった! ううう……えーい!」
「ほびゃぁぁぁぁぁ!!!……すいません加奈子さん。手間取らせました」
「エイム良過ぎるね。探索者でいいとこまでいけるよ加奈子さん」
「1ミリも嬉しく無いんですけど!」
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「」
「とうとう起き上がれなくなっちゃったね」
「あんだけ作って吐いて繰り返してたら当然だろ。もう3時間経ってんだぞ」
「あの、加藤さん。落ち着いたなら頭の矢抜いて欲しいんですけど……。視界に入るたびに申し訳なくなるので……」
「何言ってるんですか加奈子さん! 前にも言いましたけど、加奈子さんの射った矢が頭に刺さってる間なら俺は狂わないんですよ! ……やっぱダンジョン行く時は加奈子さんにブッ刺してもらうべきでは?」
「額から血流し続けながらヤバ過ぎる事言うのやめてくださいよ! 目怖いし! うぅ……だからやりたくなかったのにぃ……でもやらないと止まらないし……」
でも事実として目がギンギンだ。頭も冴え渡っている。今ならヴォイニッチ手稿でも読める気がする。
「ぅぅ……ま、まだまだ……」
「……ケルコットさん、もうやめませんか……?」
「そ、それはできません。だってやらないと試験が……」
「モンスター料理に頼る必要は無いはずです! このままだと自分を傷み付けるだけですよ! 準備が出来ていないなら来年またやるとか、少なくともここで苦しみ続けるよりずっとマシなはずです!」
ケルコットの苦しむ姿に限界を迎えた様子の加奈子さんが説得を試みる。実際加奈子さんが言っている事は正論だ。わざわざモンスターを使う必要なんてどこにも無い。
「……」
「さっきから完成した料理見ているが……どれも見た目が派手なのばっかりだ。所謂バズ狙いとかそんな感じの。気になってスマホで検索してみたが……アンタ、店じゃ普通の料理しか作ってないだろ。なのにネットやらテレビやらで持て囃されている料理を作ろうとした……モンスターって言う誰も使ったことの無い食材かも分からん物で」
「それは……その……」
「料理人じゃ無い僕が言うのも何だけどさ、変に目立とうとして料理作るより普段通りの作った方が美味しく出来るだろうし、試験も通りやすいんじゃ無いかな。どうしてやらないの?」
「……普通なんです。私の料理の味」
「普通?」
俯いたまま話す彼女に元気を感じない。散々吐いて疲れたのもあるだろうが……何より自分が情けなくて落胆している感じだ。
「結構な期間お店やってるんですけど、料理の感想聞くと『普通』しか返ってこないんです。昔からそうでした、いろんな国の料理作ったけど、形にはなるんです。でもそれだけ。食べれて見た目が悪くない。それだけ。……誰も私の料理に感動なんてしない」
「ケルコットさん……」
「でも……でも! 私は料理が好きなんです! だから上手くなりたくて……ギルドに入れさえすれば、様々な料理の天才に教えてもらえる……そ、そうすればきっと……『美味しい』って……言って貰えると思って……」
無茶な料理をしている理由が分かった。普通か……ギルドに入ろうとする連中はそれこそ料理に精通している連中だろう。普通の料理しか作れないケルコットが入るには、インパクトで勝つしかなかった……か。
「……明日休みだしな。もうちょい付き合ってやるよ。どうせ続けるんだろ?」
「い、良いんでしょうか……私何度やってもダメなんですが……」
「……そうですよね! こうなったらとことん付き合います! だから頑張りましょう、ケルコットさん!」
「う、うう……ありがとう、ございますぅ……」
さて、長引くことが決定した以上セラフィナに伝えないとな。取り敢えず電話を……。
「……加藤くん、どう言う風の吹き回し?」
「え? 何が?」
「いや加藤くんなら普通に見捨てるかなーって思ってた。ほぼ初対面の相手だし」
「高木もだけど俺の事を冷酷人間だと思ってんだな。いい加減にしろよ」
「そこまでは言ってないよ。でも変だなーって思ってさ。ごめんごめん」
悪いと1ミリも思ってない感じで謝ってくるオピスに背を向けて新しいモンスターを取りに向かう。立ち去る前に、1つだけ言葉を残して。
【応援してます】
「言ってもらいたい言葉が、俺にもあったからな」
俺は言って貰えた。他人から見れば大した事ない言葉でも俺にとっては何よりも価値のある言葉を。なら、まだ言って貰えてない奴の為に手を貸すのも悪くないだろう。
◇ ◇ ◇
現在時刻は23時。開始から5時間経過したが、ついに進展が見られた。
「おい! ゲーミングが出なくなってるぞ!」
「これいけるんじゃないですか!?」
「後少し……後少し……! 完成です!」
ケルコットが作ったのはカレー。ラーメンを作った際にはあの不味さが出汁として溶け込んでいた為虹色だったのが、無くなっている。見た目は普通のカレーだ。
「掃除も考えればこれが最後の料理だね」
「はい……では」
ケルコットが味見をする。口に入れてから1分ほど経ったが、特に変化は無い。あれだけ苦しみもがいていたモンスターを材料にした料理がだ。
「で、出来た! 出来ました!」
「おお! ちょっと俺らにも食わせてくれよ!」
「僕も僕も!」
「私も……少しだけ。お腹すいちゃって……」
出来上がったカレーをご飯にかけて口に運ぶ。ゴロゴロと入ったモンスターの肉を噛み締める。
「こ、これはぁぁぁ!!!」
「うん! うん!」
「カ、カレーです! これはカレーですよ!」
「噛み締めても何の味もしないし他の具材やルーに移っている訳でも無い!」
「や、やりましたぁぁぁ! 処理に成功しましたぁぁぁ!!!」
「ああ! 肉を噛んでも味はしないし他の具材やルーに移ってない! これは、このカレーは! どこに出しても問題ない! 【普通のカレー】だぁぁぁぁぁ!!!」
「「「やったぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
『それ意味無いじゃん……』
全員で床に膝をつく。食べられる。吐く事もない。だが特別な味はしないし食感も無いに等しい。ちゃんと固形として残っているのに強制的に普通のカレーに変換されている。ある意味凄い技術だ。今は全く役に立たないけど。
「冷静になって考えたらダンジョンから出せばモンスターは消えるんだから、材料にしたモンスターも全部消えるんじゃないかな?」
「あ」
「「俺(私)達の時間返せぇぇぇ!!!」」