ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】   作:1パチより4パチ派

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ムキムキの身

 

「はぁ? 明日居ない?」

 

「用事があってな。悪いんだけど明日は飯いらな──ぐべぇ!」

 

 深夜、家に帰って何故か寝ないで待っていたセラフィナと話しながら飯を食う。あ、これわざわざ作り直したな? 手間かかる事しなくていいんだがなぁとか思ってたら反応できない速度で胸倉を掴まれる。

 

「お前な、2日連続でこんなに遅くなるし明日の予定は埋まってるとか完全に浮気だろ。ぶち犯すぞ」

 

「まだ殺される方がマシかもしれない脅し来たんだけど。脅迫罪と不同意でしょっ引いて貰ってくれ」

 

「さっさと正直に吐け。5秒以内に言わなきゃ生まれるぞ」

 

「何が生まれるとかは死んでも聞かない事にするわ。落ち着け? ちゃんと教えるから」

 

 顔に血管バキバキのセラフィナを宥めつつ、ケルコットの件を伝える。話しているうちに落ち着いてきたのか、怒りの表情から呆れ顔になってきた。

 

「あのよぉ……ほっとけばいいだろ、そんなゲロ鳥女。自分の力でギルドに入れないなら、そこまでの実力って事だろ」

 

「前半はクソ言い過ぎだけど、後半に関しては言いたい事は分かる」

 

「だったら──」

 

「でもお前も最初は弱かっただろ? それで俺が誘って戦い方とか教えてここまで来ただろ。なら教えて貰える機会を手に入れる事くらい、手伝っても良くね?」

 

「……そーかい。お優しい事で」

 

「まぁ加奈子さんが手伝うからって言うのが5割だけどな。残りの5割は俺の優しさだ。そしてダンジョン潜らなそうなケルコットに恩を売り、ギアススクロールにサインをしてもらうのだ!!!」

 

「半分は優しさじゃなくて私欲だったか。なら納得だ。でも肝心のモンスター料理とやらはダメだったんだろ? どうすんだよ」

 

「それに関しては何とかなる予定だ。オピスが伝手で超希少食材を持ってくるって言ってた。何でも魔族の国でしか手に入らないし、人族の国に出回らない物なんだとよ。それを料理すれば楽々試験突破って寸法よ!」

 

「絶対どっかで躓く未来が見えるな」

 

「そんな事ない! そうだよなロール!」

 

「勿論です。マスターの計画はダイジョーブ博士の能力増強が成功するくらい完璧です」

 

「それ3割しか成功しないじゃねぇか」

 

「仕方ないだろ! 猶予期間がほぼ無いんだから! 考えた結果食材のポテンシャルで殴る以外無かったんだよ!」

 

「しかし……魔族の国でしか無い食材ねぇ……。殆ど日本から出た事ねぇし分からねぇな。地味にウォルタリア行ったのが初の海外だし」

 

「いろいろ番組とか見てると結構出てきてますね。どうも魔力濃度の関係で突然変異した生物が多いとか」

 

「テレビあんま見ないから分からんが、何とかなるだろ! オピスも俺達が調理出来るような奴選ぶはずだし!」

 

「……まぁ頑張れよ。気が向いたら足運ぶわ」

 

「マスター、私を呼び込みくんとして連れて行くのはどうでしょうか。無限に喋れる自信がありますよ。あの耳に残りまくる音楽をアカペラで延々と流して見せます」

 

「周囲の人の頭おかしくなるわ! 広域テロすんじゃねぇ! そもそも受験者のアシスタントは3人までだからダメだ!」

 

「いや私人間でも魔族でも無いのでノーカンです。装備品で通りますよ。なので早く装備してください。どこでもいいですよ? 腕でも足でも背中でも股間でも。装備したら離れる気はありませんが」

 

「呪いの装備過ぎるだろ! 何で周囲を精神汚染してくるブツ身に付けなきゃいけないんだよ!」

 

「マスター以外の人間がどうなろうとあまり興味無いので……」

 

「主人にもしっかり降りかかってんだよ! 人族相手への積年の呪詛が!」

 

「ハッ! いつまで引きずってんだか。主人の言う事聞かないで強請るような人形に何の価値があるんだ?」

 

「はて? マスターの事を信じる前に浮気だなんだと結婚もしてないのに宣うようなお子ちゃま知能の方よりは価値があると自負していますが……あ、もしかして自分の価値を高く見積もっていらっしゃいます? ダメですよ? そう言う人はほぼ100パー行き遅れになりますからね。まぁ27でこれじゃ未来はまっくろくろすけですけど」

 

「「……(メンチの切り合い)」」

 

「じゃあ俺はさっさと寝るんで。朝までには終わらせろよ」

 

 喧嘩する2人を放置して食器を片す。風呂に入ってる間も寝つこうとしている間もずっと喧騒が聞こえてきた。逆に仲良くなってるみたいで良かったなぁ。

 

◇ ◇ ◇

 

 翌日、料理ギルド試験会場に向かう為に家を出た。ロールに連れてけコールを10分も受けたが全て受け流す事に成功した。凄いな俺。俺好みの顔からのおねだり回避できるなんて。

 

「さて……確か会場はあっちだったな」

 

 スマホで地図を見ながら通った事のない道を通る。今通っているのは探索者の一部が事務所を構えている場所。【金工房】の事務所も確かあった筈。拠点があった方が何かと便利なのは事実だ。まぁ俺らは基本的に現地集合して飲んで解散しかしないので要らないけど。

 

「お、あそこだな」

 

 ある程度歩くと騒がしい声が聞こえてくる。やたらとデカい飲食店のような見た目の建物があった。他の参加者と思われる人々が建物内に入っていく中で、1人だけ動かずに立っている女性が居る。加奈子さんだ。

 

「あ、加藤さーん」

 

「加奈子さん。おはようございます」

 

「はい、おはようございます。今日は頑張りましょうね!」

 

「まぁ出来る範囲でやりますよ」

 

「ケルコットさんは……まだですかね?」

 

「いや、受験者本人だから先に入ってる筈です。入りましょうか」

 

「え、オピスさん待たなくて良いんですか?」

 

「多分ギリギリになるって言ってたんでまだ来ないっすね」

 

 荷物の受け取りとかあるんだろうか。どちらにせよ先に入って準備しておいた方がいいだろう。

 

「うわ……これ全員受験者か?」

 

「お、多いですね……倍率凄そうだなぁ」

 

 ギルド内は人だらけ。様々な種族の人達が調理器具やら食材やらを持って来ている。受付は長蛇の列だ。

 

「えーっとケルコットさんは……」

 

「あそこっすね、あの隅っこ」

 

 会場の隅の隅。多くの荷物を持ったままケルコットは縮こまっていた。小動物みたい。

 

「あ、お2人とも……」

 

「あの……大丈夫ですか? 体調悪いんですか?」

 

「き、緊張しちゃって……結局モンスター料理はダメだったし、オピスさんが持ってくる予定の食材もよく分かってないし……お、落ちちゃうかなって思ったら……」

 

「あー……まぁ大丈夫だろ。別に普通通り料理すればいい。食材パワーで乗り切るって話になっただろ。だったら後は野となれ山となれだ」

 

「……はい! 頑張ります! お三方のご好意無駄にしません!」

 

「その調子だ! ところで上手くいったら書いて欲しい書類があるんだけどいいかな?」

 

「? 私でよければなんでも書きますよ!」

 

「……加藤さん最初からそのつもりでしたね?」

 

「そんなうさみちゃんの目で見てくるのやめてください。悪気は無いんです、ただ見返り欲しいだけなんです」

 

「後でちゃんと説明して、同意を得たらにしてください! 同席しますからね!」

 

「はい……」

 

 受付は済ませたとの事で、開始時刻とオピスを待つだけとなった。周りの参加者達も俺達のようにアシスタントらしき人員を連れている。

 

「人多いですね……ちょっと手狭な気がします」

 

「2次試験のこと考えたら、人手必要だから仕方ないんですけどね。ノルマ200食だから……だいぶキツイ。まぁそこはケルコットに頑張ってもらう方向で」

 

「頑張ります! 頑張りますよ! 量を作るのは得意なんです!」

 

 実際昨日もかなりの数料理を作っていたが、見た目によらずケルコットは非常に要領が良い。次から次へと作業を進めていくのであっという間に出来上がる。俺やセラフィナじゃスピードは相手にならないだろう。俺らも手伝えばなんとかなるかなと考えていると、離れた位置から何やら大勢の声が聞こえてくる。困惑や動揺、怯え混じりの声だ。

 

「なんだ? 人集りが出来てるぞ」

 

「誰か居るんでしょうか?」

 

 人の隙間から覗いてみると中心にはいけ好かない笑顔をした人間の男が突っ立ってる。

 

「あ、あれは……【超飯店(ちょうはんてん)】の店主、飯茂……」

 

「有名な人なんですか?」

 

「凄い料理人なんですけど、お客さんや自分以外の料理人を見下してる人です。以前ここのギルドに所属してたんですけど、何度も問題起こして脱退させられてたんですけど……」

 

「1から入り直すって事なのか? でも普通問題起こして追い出されたなら永久追放な気もするが」

 

「彼の料理の腕を賞賛する人は多いんです。本当に、腕だけは確かなので……。多分料理ギルドの運営側にあの人のファンが居て……」

 

「無理やりねじ込んだって訳か。そこまでする程の腕なら例外もあり……そう言う事ね」

 

 実力さえあればある程度の事は何とかなる。それは探索者も料理人も同じなんだろうな。事実俺らも問題ありまくり集団なのに探索者除名されてないのは、アイテム流しまくるし腕がそれなりに立つからだ。

 

「……合格者って何人まで枠あるんだ?」

 

「えっと……今年は1人です。去年が5人くらい入った筈なのでその分少ないです」

 

「1人!? この数の中で1人ですか!? 倍率凄まじいんですけど!」

 

「相当厳しいな……本当にオピス次第か」

 

 やったら自信満々に『僕に任せてよ! すんごいの持って来てあげるから! あ、代わりに僕のクソアイテム解説に付き合ってね。ケルコットちゃんじゃなくて加藤くんね? え? 何で俺って? 君が僕のベストパートナーだからだよ⭐️ あ、パンチやめてキックやめて。鼻フックはもっとやめて?』とか言ってたし。アイツがあんだけ大口叩くのは珍しいので、それなりに期待ができる。

 

『開始時刻が近づいて来ましたので、改めてルールの説明をさせていただきます』

 

「わわ! もう少しで始まっちゃいますよ!」

 

「一応説明で15分ほどかかるので大丈夫……大丈夫……?」

 

 慌てる2人を尻目に運営の進行は続いていく。それなりに長々と話しているが要するに一次試験は1つの料理を作って提出してね。2次試験は外の広場に一般のお客入れるから、それ相手にして1番最初に売り切った人が合格ね。と言う事らしい。だいぶめちゃくちゃな試験だが、コレだけの人数居るとなると厳しくなるのも仕方ないのかもしれない。

 

『以上を持ちまして説明の方を追えさせていただきます。それでは調理に移ってください。作業場に受験者の名札を置いているので、そこで行なってください』

 

 とうとう始まってしまった。一斉に調理に取り掛かる受験者達。食材は持ち込み。当然俺らはメインの食材が来てないので作れない。

 

「おいおい、始まっちまったぞ。アイツ何してんだ」

 

「と、取り敢えず手を洗いましょう! 清潔は大事です!」

 

「あの加奈子さん! 私の翼は洗わなくていいです! ちょ、待って待って!」

 

 若干加奈子さんがテンパってる中、漸く返信が返ってくる。『今着いた』……?

 

「おーーーい! 加藤くーん! 外来て外!」

 

 ギルドの外からオピスの声が聞こえる。外に出てみるとそこにはめちゃくちゃデカい荷物を持ったオピスが居た。

 

「おいなんだそれ。もしかしてそれが食材か? デカ過ぎんだろ」

 

「そう? 3mくらいしか無いよ? 大きい奴だと5mなんだけど、このサイズしか無かったんだよね」

 

 梱包材らしきものでぐるぐる巻きにされた食材は、形的に魚のような形状をしている。細長いわけでもなく、何だったら分厚い。

 

「え、何ですかコレ!?」

 

「食材……ですか? こ、こんな大きいの調理できるかな……」

 

 加奈子さんとケルコットも外に出てくる。2人ともあまりの大きさに面を食らっている。

 

「あのよぉ、大丈夫か? デカいのって味も大味になるイメージあるんだが」

 

「安心してよ! これは知る人ぞ知る超超ウルトラハイパー高級希少食材! あまりに希少過ぎて市場にはほとんど出回らないんだよ!」

 

「はー……そんな凄いのか。で? どんなやつなんだ?」

 

「今見せるね……とぉ!」

 

 オピスが梱包を解く。中の物はは頭のあたりから露わになっていく。……マグロの頭だ、つまりこれは巨大なマグロという事か。だがただのマグロがそんなに大層な食材になるか?

 

「……え」

 

 そう思っていた矢先、変なものが出てきた。明らかにマグロの顔なのに、顔から下がおよそ魚類としての見た目を保っていなかった。何故なら──青い毛が生えているからだ。

 

「は?」

 

 更に見えてきたのは青い胸筋、腹筋、大腿四頭筋。圧倒的なまでの鍛え抜かれたボディにもっさりと毛が生えている。そして閉じていた口が開いて──。

 

(ウオ)ッ」

 

 ボソッと鳴いた。

 

「これが希少食材【ムキミマグロ】! さぁ、頑張って捌こうね!」

 

「「ギャァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」」

 

 加奈子さんと共に全力で悲鳴をあげる。オピスはとんでもない物を持ってきてくれました。ただの化け物です。

 

「お、おま、お前ぇぇぇ! 何なんだよこれはぁぁぁ!!!」

 

「いやだからムキミマグロって言う魚で……」

 

「何処が!? どの辺が!? こんなのただの変質者ですよ! 完全に人型じゃないですかぁ!」

 

「違うよ! よく見て、足が無くてちゃんと尾でしょ? 頭も魚だし大体2割魚だよ」

 

「8割筋肉じゃ困るんだよ!」

 

「これ食べれるんですか!? 食べて大丈夫なんですか!? 倫理の問題で!」

 

「大丈夫だって。研究の結果本当に魚類って事が分かってるから。まぁ確かにキモイよ? でもナマコとかもキモイけど美味しいじゃん? そう言う事だよ」

 

「限度があるわぁぁぁ!!! こんな人間的なキモさは論外なんだよ!」

 

(うぉ)ッw」

 

「おいコイツ今笑ったぞ。嘲笑ったぞ! 嘲笑える程の知能あんぞ!」

 

「何なんですかこの冷笑筋肉むなげマグロ! こんなの料理出来ませんよ! てか絶対美味しくないし食べたくないし!」

 

「いやいや確かに人間の2人には馴染み無いと思うけど、魔族で昔から食べられていた食材だよ。捕獲レベルは大体100くらいかな」

 

「今すぐグルメ界に返してこいや! 大体こんなのケルコットだって──」

 

 嫌だろと言いかけて、辞めた。だってケルコットが──。

 

「ま、まさか目にする事ができるなんて……ムキミマグロ……! こ、こんな素晴らしい物を料理していいんですか!?」

 

「勿論さぁ! これで試験頑張ってよ!」

 

「ありがとうございます! ありがとうございます! これならきっと、きっといけます!!!」

 

 バチクソ喜んでいた。何だったら感動のあまり泣いていた。このTSとりっぴーの頭がおかしいだけだろと思い周りを見渡すと。

 

「あ、あれはムキミマグロ! そ、そんな! 何であの激レア食材がここに!?」

 

「あんな物を出されたら、私達の料理なんて霞んでしまうわ……!」

 

「無理ゲーよ! あれの為に魔族間で殺し合いが起こったくらいなのよ!? 料理の腕でどうにかなるものじゃない!」

 

「こ、このままだと合格者はあのハーピーだぞ! どうする!?」

 

 阿鼻叫喚。全員このキショい魚もどきに慄いている。盛り上がってる2人と周りを尻目に、隣に居た加奈子さんと目を合わせる。

 

「俺ら間違って無いですよね?」

 

「大丈夫です。間違ってるのはこの世界です」

 

「壊すしか無い、この終わった世界を」

 

 お互いハイライトの消えた目で、青い胸毛の生えたマッシブマグロを眺める事しか──出来なかった。

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