ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】   作:1パチより4パチ派

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尊厳木っ端 チクビラガン

 

「取り敢えず中に入れはしたが……」

 

「魚ッ」

 

「どうするんですか、これ……」

 

 割り振られた調理場の大部分を占領しているキモマグロは、陸に上げられて長いくせに未だに生きている。

 

「うぅ! 生きているうちにムキミマグロに触れることが出来るなんて……!」

 

「感涙してるところ悪いんだけど1ミリも共感出来ないから。したくも無いけど」

 

 周りの受験者は自分の料理を作りながらもこちらをガン見している。ちょいちょい『勝てねぇよ……』的な声が聞こえてくるが、そんなにコレが凄い食材なのだろうか。

 

「と、兎に角料理しましょう! 制限時間もありますし!」

 

「じゃあ……取り敢えず捌くか……これ普通に魚として扱っていいんだな?」

 

「魚類だからね。まずは鱗取らないと」

 

「鱗何処!? きったねぇ胸毛しか見えませんが!?」

 

「もしかしたら深海魚の仲間で鱗が無いのかもしれないね」

 

「全然これの事分かってねぇじゃねぇかあ! お前いい加減にしろよ!」

 

「数が少ないせいで研究が進んで無いんだよ、仕方ないね」

 

 渋々包丁を取り出す。どれだけ文句を言おうとこの化け物を調理して提出しなければケルコットの合格は無い。ここまで来て投げるのも癪だ。早いところやってしまおう。兎にも角にもこの気持ち悪い毛を取ってしまおう。そうすれば視界に入れてもまだ耐えられる。

 

「あ! 加藤さん! ダメです、包丁を入れたら──」

 

「もう見たく無いんだよこの胸毛! ちゃっちゃと処理して──」パキャン!

 

 しまおうと包丁で毛を剃ろうとしたら、刃が砕け散った。粉々になった包丁は床に散らばって沈黙する。

 

「……あの、砕け散ったんだが。毛に力を入れた瞬間耐久値ゼロになったんだが」

 

「ダメなんです! ムキミマグロの毛は筋肉と同じ性質を持ちます! そしてムキミマグロの筋肉はあの【不沈鎧イージスアーマー】にすら匹敵するほどの防御力を持ちます! そのままでは文字通り刃が立ちません!」

 

「見た目や存在で飽き足らず強さまでふざけてんじゃねぇぇぇ!!! 

 

 ケルコットの解説に頭の血管がブチギレそうだ。てかブチギレてる。こんな物が食い物であって良いはずがない。

 

「ど、どうするんですか!? 包丁使えなかったら何にも出来ませんよ!」

 

「よし、今から家帰って愛剣取ってくる。そして【極光剣】ぶち込む」

 

「お、落ち着いてください! ちゃんと調理方法があるんです! 決められた調理法が!」

 

 ケルコットがしがみ付いてくるので一先ず落ち着く。冷静になって考えれば今まで食べられた事があるのだから、このバカみたいな防御力を何とかする方法もあるのか。

 

「すまんすまん。あまりの不条理さに我を忘れていた。で、その調理法とは?」

 

「えーっとですね、【筋肉の部分を優しく撫で回す】です! そうすると硬過ぎる筋肉が弛緩して包丁が入るようになります! 毛も剃れますよ!」

 

「加奈子さん、俺家帰ります。必ず戻ってきますので。全てをふざけ倒してるこの魚を消し飛ばして見せます」

 

「こんな所であの技ぶっ放したら全部めちゃくちゃになりますよ! 落ち着いてください! 一旦ステイステイ!」

 

「例えブッパしても周囲が吹っ飛ぶだけでムキミマグロは無傷だと思うよ」

 

 今度は加奈子さんにしがみつかれてしまったので渋々落ち着く。こんな事をしている間にも時間は進んでいる。さっさと調理をしなければならない。

 

「仕方ない、筋肉の部分を撫で回せば良いんだな? キモ過ぎるがやってやるよ」

 

 イヤイヤながら素手で青い肌の筋肉を撫で回す。胸毛以外も所々に毛が生えている所為で触り心地は最悪だ。死にたくなってくる。

 

「……なぁ、全然変わらないんだけど本当にコレで合ってるのか?」

 

「あ、あれ? おかしいですね……。ごめんなさい、間違えて覚えてたかもしれません……」

 

「あー間違っては無いけど抜けがあるね」

 

「抜け?」

 

「【筋肉の部分を優しく撫で回す(20歳未満の童顔女性のみ)】の間違いだね」

 

「舐めてんのかコイツはぁぁぁ!!! 何で魚に女の好みがあるんだよ! しかも20未満って! キモ過ぎるだろ!」

 

「ど、どうしましょう。私21歳です……このままじゃ……」

 

「………………加藤さん、私帰って良いですか?」←19歳童顔

 

「いやほら、その……頑張ってください……」

 

 今まで以上に死んだ目になった加奈子さんにエールを送る。一体どういう偶然か、すべての条件が当てはまってしまっている哀れな彼女は、処刑台に向かうようにマグロに近づいていく。

 

「い、一応聞きたいんですけどどうしてそんな訳分からない条件なんですか……?」

 

「好みの問題じゃない? そこは本人……いや、本魚に聞かないとねぇ。まぁ喋れないけど」

 

「魚ッ魚ッ魚ッ魚ッ!」

 

「おいコイツなんか興奮し始めたぞ」

 

「お気に召したようだね」

 

「最悪なんですけど!?」

 

「加奈子さん……私が不甲斐無いばかりに……すいません……」

 

「いやこれに関してはケルコットさんが悪い訳では……と、とにかくやってみますね……」

 

 加奈子さんが恐る恐るムキミマグロの肌に触れる。数秒手を置いた後、ゆっくりと旗を撫で始める。そしてムキミマグロは──。

 

「ヲッ……ヲッ……(ウオ)ッフ……」

 

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 無理無理無理無理生理的に無理ぃぃぃぃぃ!!!」

 

「……頑張りましたね」

 

 気持ち悪い声を上げ始めたマグロから離れて俺にコアラみたいに抱きついてきた加奈子さんを労いながら頭を抱える。どうすんだこれ、詰んだか?

 

「おいオピス、何とかしろ」

 

「そう言われてもねぇ。ここは加奈子さんに我慢して撫でくりまわして貰うしかないんじゃない?」

 

「鬼かお前、見ろよ加奈子さんを。気持ち悪さに体が拒絶して高速で震えてるんだぞ。震えが早過ぎる所為で軽く残像まで見えてるんだぞ。こんな状態の人にやらせれないだろ」

 

「まぁ人目も憚らずに君にしがみ付いてる時点で相当なのは分かるけど」

 

「……どうしたら、どうしたら良いんでしょう。加奈子さんに無理はさせられませんし……」

 

 包丁すら受け付けないバカ耐久のマグロを見つめながら思案する。頭ならいけるかと思い軽く叩いてみたがどうも同じらしい。一部でも軟い所があるならまだやりようがあるんだが……。

 

「つっても毛すら硬いんならどうにも……ん?」

 

 どうにかならないかとあれこれ試していると、青い胸毛の中から変な物が出てきた。青い突起のような──。

 

「いや乳首だコレ」

 

「何で魚に乳首があるんですか! 哺乳類!? マグロですよね!?」

 

「もう乳首程度じゃ大してインパクト無いよね」

 

「インパクト云々の話してるんじゃ無いんですよ!」

 

 青い乳首がキモさを倍増させている。試しに壊れた包丁の柄で突いてみるが、筋肉と同じくらい硬い。

 

「待てよ? ……イケるか?」

 

「え、何がです?」

 

「なぁケルコット。コイツって別にイージスアーマーそのものと同じって訳じゃなんだよな? 防御力が高過ぎるだけなんだよな?」

 

「は、はい。その筈です。なので筋肉を弛緩させて捌かないと……」

 

「いや、その必要は無い。このまま筋肉をぶっ壊す」

 

「壊すと言っても包丁は全然だし武器も持ってきてないしどうするんだい?」

 

「こうするのさ」

 

 ストレスも溜まっていた所だ。発散ついでに丁度いい。徐にムキミマグロの左胸に手を伸ばす。

 

「コイツの筋肉に歯が立つのなんて、それこそ同じくらい硬い物だろ」

 

「そうだね」

 

「じゃあ……こうすんだよぉぉぉ!

 

 

ブキャチィィィィィ!!!

 

「ウ魚ォォォォォォォォォォ!?!?」

 

「乳首引きちぎったぁぁぁぁぁ!!!」

 

 やはりそうだ。無駄に飛び出ている乳首なら、てこの原理のお陰で破壊しやすい。陥没してなくて本当に良かった。

 

「そしてコイツで……ぶち抜く!!!」

 

 引きちぎった乳首を全力でムキミマグロの腹筋に撚りを入れて投げ付ける。超硬度を持つ乳首は真っ直ぐ腹筋の真ん中に回転しながら吸い込まれていき──。

 

 

ギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリ!!!

 

「魚ォォォォォォォ!!!」

 

 ドリルのように突き進む乳首は確実に奴の腹筋を破壊する。やたらととんがっていたのも功を奏した。乳首の先がドリルで言う所の先端の刃になって力が伝わりやすくなっている。

 

「凄いです! 腹筋にヒビが! これなら……!」

 

「乳首で腹筋にヒビがって言葉がおかしいですよ!」

 

「待って! 様子がおかしいよ!」

 

「ずっとおかしいでしょうが! 何もかも!」

 

 オピスの言う通り段々と勢いが落ちている。俺の投げた力が足りなかった……いや、違う!

 

「乳首が……焼き消えただと!?」

 

「そんな! 腹筋を貫き切れなかったんですか!?」

 

「火力は十分だったけど腹筋側の厚みがあり過ぎたようだね……半分ほど削って乳首が崩壊してしまったみたいだよ」

 

「畜生! ここまで……ここまで来て! 結局ダメなのか!?」

 

「ダメなのは貴方達ですよ!?」

 

 現実に歯噛みするしか無かった。物量差で負けてしまったのだ。もう……諦めるしか……。

 

「まだです!!!」

 

「ケルコット……」

 

「加藤さん、私は料理人。いつも料理をする際に心掛けている事があります」

 

「それは一体……?」

 

「『料理は足し算』! 目的の味に向けて色んな食材、調味料、工程を足していって作るもの! 足りないのなら……足せばいい!」

 

「「!!!……そう言うことか(だね)!」」

 

 ケルコットが言いたい事が理解出来た。俺達はまだ──前に進める!

 

「加藤くん! 逃げたら1つ……でも!」

 

「あぁ……乳首は2つだぁぁぁぁぁ!!!

 

 

ボキャチィィィィ!

 

「魚影ェェェェェェェェェェェェ!!!」

 

「右も逝ったぁぁぁぁぁ!!!」

 

 新たに手に入れた武器を先程と同じ要領で叩き込む。ヒビ割れて脆くなった腹筋を──貫く!!!

 

「ま、まさか! あの締め方はまさか!!!」

 

「ギルド長! あの者達がやっている事は一体……!?」

 

「ムキミマグロの捌き方の中でも超高難易度! 本来弛緩させなければならない筋肉を、敢えて硬質化してる状態で破壊する! やり方は同じ硬度を持った物を一点集中させて砕く……だが今までムキミマグロの筋肉と同じ硬度の物はムキミマグロしか無かった……だがまさか! 乳首を剥ぎ取り、それをドリルとして掘り進めるとは! 見事!」

 

「名を付けるとするなら、どう言う捌き方なのでしょうか」

 

「うむ、2つの乳首を前進させて捌く……乳前ニ(ちくぜんに)と名付けよう!」

 

「料理人の癖に料理名を最低な使い方しないでください! てか入って来ないで!」

 

 螺旋を描き続ける乳首は固く閉ざされた筋肉を切り開き、その身への道を開く。

 

「ギガァァァドリルゥゥゥブレイクゥゥゥ!!!」

 

「魚ァァァァァ!!!──アッ!」

 

 

バギャキャキャキャア!

 

 最早鎧となっていた腹筋は砕け散り、跡形もなくなった。そしてその内側から光り輝く宝石のような身が見えてくる。

 

「こ、これがムキミマグロの身……! す、凄い! 写真で見たのと全然違う……!」

 

「待って!? 僕前にムキミマグロ食べた事あるけどこんな見た目じゃ無かったよ!? こ、これはどう言う事!?」

 

「ま、まさかぁ! 本来筋肉を撫でて弛緩させて捌いたのではなく! 硬いまま締めた結果、身が引き締まり! 輝きを放ったと言うのかぁぁぁ!」

 

「ギルド長さん、さっきから興奮し過ぎですよ!?」

 

 一気に盛り上がる場。騒がしくなる中、俺は腹筋が砕けた衝撃で吹っ飛んだ右乳首を拾う。まだ形は保っているようだ。

 

「……加奈子さんにセクハラした罰だと思え。あの世で罪を償うんだな」

 

 セクハラマグロがこの世から根絶するように、変質者が似たような事をしなくなるように。そんな想いを込めて、テーブルに置いて晒乳首(さらちくび)にする。

 

 

 

 

 

 

 

()

()

(くび)

(ごく)

(もん)

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダダダダ! ガシィ! ガラッ! ブォン! キラーン✨

 

 置いた瞬間、加奈子さんが乳首を掴んで窓から遥か彼方に放り投げた。あっという間に乳首は見えなくなる。

 

「……加藤さん」

 

「……はい」

 

「そこに座ってください」

 

「はい……悪ノリしてすいません……」

 

 こうして、俺はムキミマグロを締めた代償として7歳年下の女性に大勢の前で公開説教される事となった。

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