ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
「見てください! この光り輝く切り身!」
「凄いね。これは素材の味を活かせる料理の方がいいんじゃないかな」
「どうしてあそこで乗っかっちゃうんですか! あそこの2人も悪いですけど、加藤さんまで乗る必要ないじゃないですか!」
「はい! カルパッチョにしようと思います。 これならきっと合格出来ます!」
「違うんです! 聞いてください! 実際良い方法だと思ったんです! それにほら、加奈子さんに無理させらんないじゃ無いですか。嫌がる女性を守る為に仕方なくやったって事になりませんか?」
「良いんじゃない? 仮に一次通った後の二次試験で量作らないといけないから、調理が短く済むのも高ポイントだね」
「気持ちは嬉しいですけどその結果が乳首ドリルって意味分かんないんですよ! おかしいと思いませんか!? 自分で!」
「はい! まずは提出用の物を作りますよー!」
「ごめんなさいぃぃぃ! でも分かる頭してたらダンジョン中毒なってないんですぅぅぅ!」
「言い訳しつつ自分を卑下しないでください!」
謝り倒して30分。筋肉が破壊されたムキミマグロはケルコット達でも容易に捌けるようになったので、作業自体はスムーズだった。俺の人生ももっとスムーズに行けばいいのに。無理か、テンション上がるとすぐ調子乗るんだよな俺。ホントだめだわ。
「全く……ほら! 早く手伝いますよ! 立って!」
「はい……馬車の車輪が如く働き続けます……」
「そこは普通に馬でいいでしょ……」
割とガチで凹みながらケルコットが切り分けた柵を切っていく。文字通り輝きを放つ切り身を見ると、ギルド長がやたらと興奮していたのも理解出来る。
「……ん?」
「加藤さん? どうしました?」
「いやめっちゃ視線感じて……」
「そりゃそうですよ。あんな訳分からない事やってたんだし……」
「いやそうじゃなくてなんて言うかな……」
昔こう言う視線を何度も浴びた記憶がある。だけどこれ余計な事言ったらまた怒られるか? 黙ってた方いいかな。加奈子さん怒ると怖いんだよな。
「んー……いや、何でもないです。すいません」
「あの、そう言われると気になるんですけど……」
「いや気のせいっすわ。多分。それよりケルコットがもう料理提出しますよ」
カルパッチョをさっと作ったケルコットは審査員達……料理ギルドのメンバー達の元に持って行く。
「受験番号33! ケルコットです! 『ムキミマグロのカルパッチョ』になります!」
『おぉ〜〜……』
料理ギルドのメンバーともなれば、ムキミマグロの価値は当然理解している。そこに締め方が良かったからか、本来輝くことのない身が煌めいている。先程やたら興奮してたギルド長も居るし、これは通りそうだ。俺は1ミリも食いたくないけど。
「では私が最初に口にしよう! ギルド『理食クラブ』の長、灰原空山がな!!!」
「ねぇ加藤くん。コットちゃん大丈夫かな、あのギルド長すぐにクビにしてきそうじゃない?」
「さっきあんなに興奮してたし大丈夫だろ。孫出来た後なんだよきっと」
ギルド長が輝くカルパッチョを口に運ぶ。ゆっくりと味わうように咀嚼するのを、固唾を飲んで見守るが──それは杞憂だった。
「こ、これはぁ! 口に入れた瞬間、引き締まった身がシャッキリポン! 味だけでなく視界に入ってくる情報すら美味い! 美味いぞぉぉぉぉぉ!!!」
「リアクションキメラ過ぎんか、あのおっさん」
「ごちゃ混ぜしてても意味は分かるのが面白いね」
「料理の評論に面白さ要らねーよ」
ギルド長の絶賛を皮切りに他の審査員も食べ始める。ほぼ全員が好印象って感じだ。良かったなムキミマグロ。犠牲に感謝。
「うーむ……ムキミマグロ、ここまでの味とは」
「ちょっと美味しすぎますね……他の受験者の料理も十分美味しいのですが……これを越えれません」
「こりゃ〜決まりだな。調理自体は普通だったが……余裕だろこんなの」
「ほ、本当ですか!?」
審査員の賞賛に喜ぶケルコット。無事一次審査は抜けられそうだ。あのキモマグロが出てきた時は頭を抱えたが、何とかなって良かった。
「ま、待ってください! こ、これは食材が素晴らしいだけです! 我がギルドが欲しているのは素晴らしい料理人! ですがこのハーピーは完全に食材に頼りきりではありませんか! こんな者はウチには──」
「食材の邪魔をしない。これもまた料理人に必要なスキル。世の中、料理人が手を加える必要のない食材も多い。そんな中で我々がやるべき事は何が何でも自分で手を加えて料理する事ではない。要するに──美味ければ、ヨシ!!!」
「ぐ──ッ! た、確かに美味い……! 美味すぎる……! てか何であんな訳分からない魚もどきがこんなに美味いんだ……! おかしいだろこの世界……!」
「「(それは本当にそう)」」
確信は無いが加奈子さんと思考がシンクロした気がする。おそらく反発しているあの審査員は超飯店だか何だかのシンパなのだろう。だが味に文句言えない辺り、料理人としてのプライドが見える。
「うむ、一次審査は合格とする! 数時間後に外で二次試験……一般に向けて販売するので量を作っておくように! あぁ、このカルパッチョで無くても問題は無いぞ」
「は、はい! ありがとうございます!」
あっという間に一次抜け。ケルコットは喜んでいるが、他の受験者はかなりお通夜ムードだ。
「どうすんだよ……無理だろこれ……」
「ここのギルド長、味にめちゃくちゃ煩いのにあんなに高評価だなんて……例え一次通っても……」
「これじゃ私達、ただのかませ犬じゃ……」
まだ提出すらしていない連中から絶望が立ち上る。やる前から戦意喪失してくれるならこちらとしては有り難い話だ。楽だから。
「皆さん! 一次通りましたよ!」
「じゃあ二次試験の準備だね。この大量の身の処理と、外での売り場の準備だね」
「え? 運営やってくれねぇの!?」
「人数が人数だから手が回らないらしいよ。テントやらの準備はあるから自分でやってーだって」
「おいおいケチくせぇな。受験費結構取ってただろ? そんくらいやってくれよ」
「加藤さん、ギルドの人達に聞こえるように大声で言うのやめてください」
「ダメですよ加奈子さん。こう言うのはしっかり抗議していかないと。鶴岡だったら『これはまさしく資本家による労働の搾取!』って言いますよ」
「い、言いそう……凄く言いそう……いやだからと言って声に出したらダメですよ!」
正当な権利だと思ったのだがダメらしい。となると調理側と設営側で分かれる必要がある。
「じゃあ俺とオピスが外行きますよ。2人は調理の方続けてください」
「えー、僕肉体労働嫌いなんだけど」
「うるせぇ働け。じゃあそっちはお願いします」
「分かりました、テントの方お願いしますね」
「ケルコット、踏ん張りどころだぞ。頑張れよ」
「はい! ちゃんと間に合わせますので! 頑張ります!」
ごねるオピスを引き摺って外に出る。まぁ料理さえ終われば後は消化試合だろう。良かった良かった。
「……チッ。おい」
「は、はい!」
「分かるな?」
「勿論です……!」
◇ ◇ ◇
「まぁ屋台的なノリだよなそりゃ」
「安っぽいねー。組み立ても楽だけどさ」
用意されていた機材はどれも祭りのテキ屋で使うような物。素人でも簡単に作れる仕組みだ。
「じゃあ組み立てるか。えーっとまずは……」
「いやー加藤くん。これじゃダメだよ」
「は? 何言ってんのお前」
「こんな地味なのでお客さん来ると思う? 僕だったら来ないよ」
「そんなの他の連中だって同じだろ」
「冷静に考えて見てよ。受験者全員がおんなじ見た目の屋台。普通のお客さん達がパッと見て僕達の屋台に気付いてくれるかな」
「……確かに。いやでもこれ料理の美味さを競う物だろ? 先に売り切れっていう」
「違うね。この二次試験は料理の美味しさで決まると思ってる人達はにわかも良いところだよ。浅瀬チャプチャプノータリンだよこれじゃ」
「モンダミンみたいに言うなよ。分かってないって何が?」
「二次試験において大事なのは『とにかく存在を知ってもらう』事だよ。確かに僕達の料理、ムキミマグロのカルパッチョは味は申し分無い。審査員もあれだけ褒めてたしね。でもこれから来る一般の人達はそうじゃない。ムキミマグロ云々の話は知らないでここに来るんだよ。いくら良い物でも知らなければそれは無いのと同じなんだよ」
「た、確かに……」
盲点だった。美味ければ人は来ると思ってたが、そもそも存在を知らなければ俺たちの所に来ることも無い……。
「じゃあどうするんだ? なんか派手な見た目にするとか? スパンコール付けるなりして」
「文化祭? そうじゃなくて、こう言うのは兎に角インパクトだよ! 目立つって言うのはそう言うことさ! ──と言うわけで取り敢えずこれに入って。写真撮るから」
「バイトテロ再現しようとすんな馬鹿。どっから持ってきたそのアイスケース」
「大丈夫! おでんもあるから!」
「大丈夫? お前の頭が」
「まぁ今のは冗談。本命はこっちさ」
「こっちってそれお前のスマホだろ……まさかお前」
「そう! SNSで宣伝するんだよ! バズりそうな内容にしてさ!」
「お前のそのフォロワー100人のアカウントでか? 俺の方が多いじゃねぇか」
「加藤くん何人?」
「300人。俺が書き込んだ方いいんじゃね?」
「それだと僕がフォロワー増やせないでしょ。何言ってんの」
「結局テメェの承認欲求の為かよ!!! いくらフォロワーやら登録者増やそうがお前のクソアイテムなんて誰も興味ねぇよ!」
「やだ! 僕のフォロワー増やすんだい! 最近スパムアカウントからしかフォロー飛んでこないんだよ! 毎日ポストしてるのに!」
「どうせ誰も興味ないクソアイテム紹介してるだけだろ。誰が見んだよ」
「いや最近はずっとその日丸呑みした卵の写真しかあげてないよ。オピコンランチって感じで」
「パクリじゃねーか! しかも本家より絵面地味! せめて卵料理にするとかあるだろ!」
「ちゃんとヤクルトも飲んでるんだけどなぁ、ほら」
「いやこれピルクル! ズレてんだよ所々!」
「味大体同じじゃん」
「そうだけども!」
結局俺がポストする事になった。……が、問題はどんな文章を書くかだ。
「えーっと……『ムキミマグロを食べられるのはここだけ』みたいな感じで書けばいいかな……」
「いやいや、もっと誇張して! 大袈裟に書くくらいが丁度いいんだよ!」
「大袈裟って言ってもなぁ……例えば?」
「こんな感じでどう?」
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当選おめでとうございます! ムキミマグロ料理をお食べいただけます。今すぐ食べられます(^ ^)こちらからすぐ向かってください!
↓↓↓↓
○○○○○○○(会場の住所)
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「これを10連続くらい投稿してフォロワーのタイムラインを埋め尽くせばいいんじゃないかな?」
「ただのスパムアカウントにしか見えねーよ! 垢売ったみたいになるだろ!」
「うーんダメか。……そうだ! こう言う時こそ仲間に頼るべきだよ! 3人寄れば文殊の知恵! 僕達は7人も居るんだからノーベル賞だって取れるレベルの知恵の筈だよ! 早速連絡してみよう!」
「取れてダーウィン賞が関の山だろ。絶対碌なの来ないって」
「あ、高木くんから来たよ」
「暇人かよアイツ。10秒経ってないぞ」
「えーっと高木くんのは……」
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フォロワーチャン!くお早う!ぬ今日はみんなにムキミマグロ食べて欲しいなァつ。すごく美味しいんこここだって!ボクくと一緒に行こウヨ!なんてね^^; お
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「ただのおじさん構文じゃねぇかぁぁぁ!!! キモ過ぎだろ!」
「成程、一回これでやってみようか!」
「嫌に決まってんだろ! 俺のアカウントだ……あ、おい返せ馬鹿! やめろ書き込むなぁ!」
「よーし、これで反応あればいいけど……」
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・金髪美少女ゴレ娘さんからフォローされました。
初めまして。朝連れて行ってくれなかったのは、これを見つけられるかと言うテストだったのですね。流石ですマスター、じゃあ今行きますね。
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「何が初めましてだ! 確信犯が爆速でリプライ飛ばしてきてんじゃねぇか! つーか前から俺の垢知ってたなコイツ!?」
「めっちゃDMリクエスト飛ばしてきてるよ。通す?」
「通すわけねーだろ! はよブロックしろや! てか返せって! 来ちゃうだろアイツが!」
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・勇者になれない未熟者さんがフォローしました。
初めまして。私、リファルと申します。たまたま目に止まり、とてもフレンドリーな方だなと思いお声がけさせて頂きました。実は最近、ある方の事ばかり考えてしまうのです。仲間に相談も考えたのですがあまり心配をかけたくなく……もし宜しければご一緒した際にお話し出来ませんでしょうか。勿論謝礼の方はお支払いします。どうかご一考のほどよろしくお願い致します。
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「匿名の意味ぃぃぃ! 絶望的にネット向いてねぇよこの人! 名乗ったせいでとんでもねぇ早さでフォロー数増えてるし! てかおじさん構文書いてる奴に相談すんなよ!」
「何でも匿名で好き勝手言う今の世の中、一種の清涼剤のような人だね。フォローしとこ」
「すんな! 自分の垢でやれや!」
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・とある神父の独り言さんからフォローされました。
初めまして。中々に個性的なポストをされていますね。是非ともご一緒させていただきたいです。食事の後、私の教会でお話ししませんか? 勿論謝礼の方は献金していただきます。ご一考のほどよろしくお願い致します。
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「ただの恐喝じゃねぇかァァァ! 何でこっちが払う事になってんだよ! 完全に信者共と一緒に囲む気満々だろ!」
「払わないと帰さないんだろうなぁ。成程、こうして草の根活動してるんだね」
「邪悪過ぎるわ! せめて隠せ!」
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・子供好き過ぎスライムちゃんからフォローされました。
何歳? 10歳未満? 会える?
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「アイツ1年以上痛い目見たばかりなのに1ミリも反省してねぇ!」
「取り敢えず通報しようか。運営にBANしてもらおう」
「そのままこの世からもBANしてもらえ。あのバカゲルを」
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・デスするの好き蔵からフォローされました。
わっちの事忘れてない? 探しておくれ?
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「知るかァァァァァ!!!」
「あ、アカウント消えた。まーた連絡取れなくなっちゃったよ」
「あの死にたがり馬鹿は何してんだよマジで!」
その後、篠目にもう一度連絡を取ってみたが音信不通。もうアイツ完結まで出て来ないんじゃねぇかな。
ドロロ兵長ポジなのかもしれない