ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】   作:1パチより4パチ派

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舐めていた、書籍化作業を。
舐めていた、年度末切り替わる際の仕事量を。
遅れてすいません……


死の吐息

「……よし! これで終わりです!」

 

「行程が多くないから2人でも済みましたね! 良かった!」

 

「加奈子さんのおかげです! ありがとうございます!」

 

 ケルコットさんと2人で200食分のカルパッチョを作り終えた。本当は加藤さん達に戻ってきて欲しかったけど、設営の方で手間取ってるのかもしれない。

 

「後はこれを外に運ぶだけですね」

 

「直前の方が良いと思います! 外に出したら風でゴミとかついちゃうかもしれませんので!」

 

「ラップはしてますけど念の為を思えばその方が良いですね。……まだ制限時間には余裕がありますけど、どうします?」

 

「外の設営を手伝います! ずっと戻ってこないってことはとても大変なんだと思います!」

 

「そうですね。加藤さん達別に不器用な訳じゃないから、きっと難しいんでしょうね」

 

 まさか少し前にあれだけやって遊んでるということは……無いはず。うん、信じてる。

 

「……そう言えばケルコットさんはどうして料理人になったんですか?」

 

「え? どうしたんですか急に」

 

「いやギルドに入りたい理由は聞いてましたけど、そもそも料理人に至るまでを聞いてなかったので……ふと気になっただけです、すいません」

 

「あ、いえ! 全然! そうですね、あれは私がまだ幼いころの話なんですが……」

 

◇ ◇ ◇

 

 普通のハーピーの両親から生まれた私は、最初は料理人なんて目指すつもりはなかったんです。父は魔王軍の兵士で母も軍の後方支援に付いてました。幸いお金に困る事は無く、恵まれているなと思います。

 

『おとうさん、わたしってなにになれるかなぁ?』

 

『何……か。なりたいものとか無いのか? アイドルとかスポーツ選手とか』

 

『んー……ない』

 

『ハハハ、まぁまだ子供だしな。これから探していけば良い。ただ1つだけ言うなら、中途半端はやめておけ。やるならとことんやるんだぞ』

 

『はーい』

 

 そう言われたんですが、子供の頃の私はすっごい飽き性で……何かやっても別の事に意識が行ってやってる事投げ出すって言うのを繰り返していました。何をやっても続かない。本気になれない。そんな事を繰り返してる内にどんどん自信が無くなっちゃって……。

 

『ケルコットちゃんと遊ぶのやだー』

 

『ど、どうして……?』

 

『だってすぐ飽きたって言ってやめちゃうじゃん! 楽しくないよ! バイバイ!』

 

 友達も呆れてどんどん離れて行きました。でも両親に迷惑かけたく無くて黙っていました。家以外だとずっと1人でした……。

 

『うう……グスッ……どうしたら……』

 

 ある日、公園で1人で泣いてました。たまたま誰も居ない日で泣いてるのを見られないのは良かったです。でもそんな時、ある人が来てくれたんです。

 

『大丈夫か? 何があったんだ?』

 

『わたし、ぜんぜんだめで……』

 

『なぁに気にするな。誰にだって向き不向きがある』

 

『でも……でも……すぐあきてやめて……そればっかりやって……やりたいことなくて……わたし……』

 

『そうだな……お父さんやお母さんの事は好きかい?』

 

『うん……』

 

『なら2人に何かしてあげたらどうだろうか。何でも良い、お手伝いでもプレゼントでも。料理をして食べてもらうなんて、両方出来て良い感じでは無いか?』

 

『おりょうり……ごはんつくるの?』

 

『そうだ。君が好きだと即答できる程、君のご両親は愛情を注いでいるのだろう。そんな大切な娘に料理を作ってもらう……とても喜ぶぞ。何より──誰かを喜ばせると言う事は、とても大変だが、とても楽しいぞ!』

 

『そうなの……?』

 

『誰かを怒らせたり泣かせたりするのは簡単だ。傷付けたり酷い言葉を適当に言うだけで良い。だがな……笑わせたり、喜ばせると言うのは本当に難しい! 難しいからこそ! やり甲斐がある! どうだ、君も誰かを喜ばせる、その為に頑張ってみないか!』

 

 まるでヒーローみたいでした。誰かを喜ばせる為に。誰かの為なら、もしかしたら最後まで頑張れるかも……そう思ったんです。

 

 

 

 

 

 

 

『ところでおじさんは何をしてみんなを喜ばせてるの?』

 

『己がバルクを見せ付けて皆を楽しませているよ! 黄色い声援が後を経たないね! 魚ッ魚ッ魚ッ!!!』

 

「ちょっと待ってぇぇぇぇぇ!!!」

 

「え、何か間違えたかな……?」

 

「間違え過ぎでしょ! 途中までいい話だなーって聞いてたのに突然筋肉マグロが出てくるんですもん!」

 

「いやでも凄い人だったんですよ! 通りかがった女の人に筋肉見せて『きゃー!』言われてたんですよ! あんなに簡単に人を喜ばせられるなんて凄くないですか?」

 

『きゃー!』じゃなくて『ぎゃぁぁぁ!』ですよ! 声援じゃなくてただの悲鳴!」

 

「……あ! すいません! 間違えました! さっきのムキミマグロとごっちゃになってました!」

 

「そ、そうですよね! 良かったー。そりゃそうですよ、いくら魔族の国で人間の国とは違うと言えど、そんなめちゃくちゃな事が──」

 

「頭はマグロじゃ無くてカジキでした」

 

「そこじゃなぁぁぁい! 誰も攻撃性能高めろなんて言ってないんですけど!?」

 

「感銘を受けた私はその日のうちに料理を作って両親に食べてもらいました。とっても喜んでくれて……次の日テレビを見たらその人が出てたんです。まさか自分があった人が芸能人だとは思いませんでした」

 

【続いてのニュースです。今日未明、通行人に上半身裸で話しかける不審な生命体が捕獲されたとの事です。軍の調べでは『違う! 私は決して前魔王に改造されたムキミマグロじゃない! 人面魚の残った方なんだ!』などと支離滅裂な言葉を話し続けているようです】

 

「芸能人じゃなくて犯罪者! 速攻逮捕されてるじゃないですか! 人面魚の残った方って何!?」

 

「両親に喜んでもらえたからって言う現金な理由ですが……料理人になってみようかなって。美味しいものを作って誰かに食べてもらって笑顔にしたい。そう思ったんです。暫くしてからヒーローさんから手紙も届いたんですよ!」

 

【やぁ! あの時のハーピー少女! 元気かな? 私の手紙が来た! 私は絶賛法の生簀の中に居るわけだがそろそろ人を笑顔にする仕事に戻ろうと思うんだ。と言う事で面会に来て私に針金を差し入れてくれないかな?】

 

「ただの脱獄予告でしょこれ! 子供に脱獄の片棒担がせてるし! 何オールマイト風気取ってるんですか!」

 

「面会には行けなかったんですけど、いずれ会ってお礼がしたい。私のとっておきの料理で。それが私が料理人になった理由です。長かったですかね? ごめんなさい!」

 

「いや長いって言うよりツッコミどころ多過ぎて目眩って感じなんですけど……と、取り敢えず分かりました」

 

 加奈子さんは凄く微妙そうな顔をしている。どうしてだろう、さっぱりわからない。

 

「あ! 話し込んでて手伝い忘れていました! 加奈子さん、外で手伝いしましょう!」

 

「そ、そうですね! 気にしたら負け気にしたら負け! 気にするな私!」

 

◇ ◇ ◇

 

「ねぇねぇ加藤くん。本当に宣伝いらないの? まだ全然インプ稼げてないよ?」

 

「要らんわ! どうせ街灯に群がる虫が如くバカしか集まってこねぇよ!」

 

「加藤くんからフェロモンでも出てるんじゃない? 変な人から好かれる的なやつ」

 

「手術したら無くなったりしないかな。マジで。ドンドン吸い込むナウじゃないんだよホント」

 

 SNS作戦はモノの見事に失敗して30分。黙ってテントの準備をする。簡単な作りなので俺達でも十分組み立てれるのは幸いだ。

 

「あーあ、どうすっかな。セラフィナ呼ぼうかな」

 

「セラちゃん? 何で?」

 

「アイツに客のフリして入ってきてもらった後こっそり客引きしてもらうんだよ」

 

「大して人来ないでしょ」

 

「いや逆張り過ぎるだろそれは。あの見た目だぞ? 取り敢えず見てみようかなってなるだろ一般常識として」

 

「残念だけど性癖逆張りしてるのは加藤くんなんだよね。大体の男の人はデカい方が好きなんだよ。セラちゃん気強いしあまり好かれないと思うなぁ」

 

「普段碌に目使ってないから腐ってんぞ。可哀想に」

 

「贔屓したいのは分かるけど無理だって。女の人で客引きするなら篠ちゃんクラスじゃないと」

 

「いや確かにビジュに関しては篠目の横に出る奴はそうそう居ねぇよ? でもさ、アイツが本性出した瞬間全てが終わるんだぞ? 常に導火線に火が付いた爆弾お手玉してるようなもんなんだよ。やるんだったらアイツから思考能力を奪わないとダメだ。ロボトミー手術してからがスタートラインだよ」

 

「まぁ公衆の面前でおやつ感覚で切腹されても困るしね。前にそれで居酒屋血まみれにして出禁食らったし」

 

「出禁やらかした割合で言ったらアイツ俺より多いからな! 俺だけのせいにすんなよ!」

 

「言っても6:4じゃん。大差ないよ、僕達全部巻き添い食らってるんだからね?」

 

「加藤さーん、オピスさーん!」

 

「手伝いに来ましたよ!」

 

 オピスと不毛な言い争いを繰り広げていると加奈子さんとケルコットが近づいてくる。そうか、調理の方はもう終わったのか。

 

「早いな、200食だろ? まだ1時間も経ってないのに」

 

「早さだけは自信があります! どんな時でもお客さんを待たせ続けるような事はしません!」

 

「確かに一昨日も昨日もモンスター料理してたけど凄い早かったもんね。別に雑って訳でも無かったし」

 

「はい、ケルコットさん凄い速さで複数個同時に作ってて……盛り付けもとってもいい感じでしたよ! 紙皿なのがちょっと勿体無いですけどね……」

 

「まぁそこは仕方ないんじゃないですかね。普通の皿用意しても客も困りますから」

 

 二次試験の内容は会場……ギルドの前の広場でそれぞれ参加者が屋台を出して行う。と言っても料理は先に準備しておいて、一般客は入場の際に買ったチケットと引き換えに料理を貰う簡単なものだ。マジでラーメンフェスタじゃねぇかな、これ。

 

「今更だけどこれ料理ギルドの試験ってよりテキ屋の試験じゃねぇの?」

 

「一度やってみたらやたら好評でそれ以来ずっとこれなんだってさ。お祭り感が楽しいんじゃないかな、近隣の人達も」

 

「アシスタントの客引きは大丈夫らしいので頑張りましょう! 私達でカルパッチョを売り切れるように!」

 

「最悪鶴岡に頼んで信者引き連れてきてもらいますか」

 

「ほぼ不正ですよそれ! ダメです! 他の人達だって真剣なんですから!」

 

「でも選挙でも組織票はあるからねぇ。表立って言うのはちょっと憚られるけどバレなきゃセーフ案件じゃないかな?」

 

「バレた時心象最悪ですよ! リスク考えて!」

 

「き、きっと組織票が無くても大丈夫です! それくらい美味しくできました! ……ムキミマグロのおかげですけどね」

 

 少し元気が無くなるケルコット。本来だったら自分だけの力で突破したかっただろうが……2日前にモンスター料理とか言ってた以上仕方ない。ここは下駄を履いてもらおう。ギルドに入ってさえしまえば何とでもなるだろ。多分。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 1時間経たないくらいで設営の方は終わった。流石に4人で役割分担すれば楽なものだ。

 

「じゃあ料理の方持ってきますね!」

 

「僕も手伝うよ、さっきから暇だしね」

 

「ちょいちょいサボってるからだろうが。スマホ弄ってんの分かってんぞ」

 

「やば。退散退散!」

 

「ったく、オピスの野郎……」

 

「ハハハ……終わったからヨシって事にしましょうか」

 

 ケルコットとオピスが料理を取りに行って、俺と加奈子さんだけ残った。料理の数が数だ、片付けが終わったら俺も行こう。

 

「他の人達も設営終わってきましたね。運営っていうかギルド側の人も殆ど外に出てきてますし」

 

「開始時刻まであと1時間半しか無いっすからねー。ぼちぼち終わらせておかないと間に合いませんから」

 

「そうですね……ちょっと、余計なお世話でしたかね」

 

「え、どうしたんすか急に」

 

「あ、いやその……さっき少しケルコットさん元気なかったじゃ無いですか。もっと自分の力で挑みたかったのかなって。モンスター料理作ろうとしたのだってアイデア自体は奇抜ですけど、自分で考えて頑張ってた訳ですし……」

 

 どうやら加奈子さんも似たような事を思っていたようだ。然もありなん。

 

「でもほら、自転車だって最初は補助輪付きじゃないですか。今回のもそう言うのって事で」

 

「あ、成程……いい例えかも」

 

「試験に合格してギルドに入れさえすれば晴れて補助輪が外せるって事で納得してもらいましょ」

 

「そうですね! なら補助輪外した時は後ろ抑えてあげないと!」

 

「ハハハ、そうっすね。そうしましょう」

 

 話しながら料理を置くスペースの片付けが終わった。さっさと料理を運ぶのを手伝おう。

 

「にしても何か遅いな……何してんだアイツら」

 

「一度に運ぼうとして苦戦してるんですかね?」

 

「そこまでバカだとは思わないですけど……」

 

 ギルド内に入って自分達に与えられたスペースに移動する。……何故かやたらと視線を感じる。周囲の連中全員からだ。

 

「…………」

 

「あ、あの……何だか変じゃないですか?」

 

 嫌な予感がする。足早にオピス達の所に行くと、そこには立ち尽くすケルコットと顔を顰めたオピス。

 

「おい、何があった」

 

「……見なよ。これ」

 

 オピスに差し出されたのはケルコットが作ったカルパッチョ……だったもの。生臭く鼻を貫く刺激臭。反射的に顔を逸らしてしまう。

 

「……んだこりゃ」

 

「これだけじゃないよ、ぜーんぶ。作った料理全てに似たようなのぶっかけられてる。ご丁寧に付けてたラップ戻してまでね」

 

「そ、そんな……」

 

 確かに作り置きしておいた料理全てによく分からん物がかかっている。どっかで嗅いだ事あるが……少なくとも食べ物では無い。

 

「……クク」

 

「──おい、お前」

 

 こちらの様子を見て笑った奴を見逃す通りは無い。バレないと思ってたのか一瞬動揺した男はすぐに腹立つ笑みに戻る。

 

「何だ? 何か用か?」

 

「こっちの料理に手ェ出したのお前か」

 

「はぁ? おいおい訳分からない事言うなよ。料理人だぞ? 料理に対してそんな事とてもとても……」

 

 確か超飯店とか言う店の飯茂だったか? 誰がどう見ても反応的にやったのはコイツだろう。

 

「しらばっくれんじゃねぇよ。あぁ? お前の頭メンチカツにしてやろうか」

 

「物騒な事を言うアシスタントだなぁ? チンピラの方が似合ってるんじゃ無いか? そもそもこの衆人環境でどうやって手を出すと言うんだ。他の連中に聞いてみれば良いだろう? ギルドの人間もいる事だしな?」

 

 周囲を見渡す。こちらを見ていた他の受験者達が一斉に目を逸らした。この反応、間違いない。

 

「(勝ち目無いからって見て見ぬふりしやがったな……)」

 

 他の受験者達も当然、ケルコットの料理を審査員が絶賛してたのを知っている。実際それでお通夜ムードにもなっていた。今回の定員はたった1枠。自分が手を汚さないでトップが落ちてくれるなら、料理人としての矜持すらも投げ捨てれる。そう言う事だ。

 

「どうした? 良い加減離れてくれよ。言い掛かり付けられて迷惑だ」

 

「事実として訳分からん物ぶっかけられてんだよ」

 

「そこのハーピーが間違ってかけたんじゃねぇの? てか臭いんだよな、俺達他の受験者に迷惑だと思わないか?」

 

「どの口が……! ぶち殺すぞテメェ……!」

 

「おー怖! そもそもさっきの一次試験の時、騒ぎまくって変に目立ったんだろ。出る杭は打たれるって言うだろ? きっと天罰が降ったのさ。残念だったなぁ、可哀想に……」

 

 勝ち誇った面で呆然としているケルコットに向かって。

 

「お前の料理は誰も食わねぇよ」

 

「──! ……ぅぅ……」

 

 下衆の言葉に傷付けられ、涙を浮かべるケルコット。膝から崩れ落ちる、その時──。

 

「…………」カチャカチャ

 

「加奈子さん?」

 

 いつの間にか台無しにされた料理を持って、加奈子さんが前に出て来る。何やら強い意志を感じた為、場所を譲る。

 

「………………」

 

「な、何だよ。なんか言えよ!」

 

「かなこさん……?」

 

 真顔で周囲の連中全員に見えるような位置を陣取り、料理にかけられていたラップを外す。当然、料理から刺激臭がしてくる。加奈子さんはそれを──。

 

「あむ! むぐ! う! ……んぐぅ!」

 

「か、加奈子さん!? 何してんですか!」

 

 勢いよく掻っ込み始めた。口をパンパンに詰めてゆっくり咀嚼しているが──。

 

「うぐっ! んぅ……ウッ! ぐ、んぐぐぅ〜……」

 

「加奈子さん! 吐き出してください! それ普通に体に悪いやつっすよ!」

 

「んぐぐ〜!!!」

 

 俺の静止も振り切り、どんどん青ざめていく顔とは裏腹に異物をかけられたカルパッチョを飲み込んでいく。

 

「……ハァ! ハァ! ハァ! ……ォェ……」

 

「か、加奈子さん……どうして……?」

 

 ケルコットが当然の疑問を投げかける。明らか体調が悪い様子の加奈子さんは──。

 

「こ、ここに……居ます……」

 

「え……?」

 

「ケルコットさんの料理……食べる人……少なくとも1人……居ますよ……」

 

「──! そんな、そんな……!」

 

「だから、泣かないでください。大丈夫……ですから! ごちそうさまです! ……うぷ」

 

 空元気なのは誰にだって分かる。それでも彼女は笑った。傷付き、悲しむケルコットの為に。

 

「(……そうだよな、そうするよな。貴女なら)」

 

 母親の為に戦った事もないのにダンジョンに行く決意をする人だ。出会って1日しか立っていない子供の為に怒れる人だ。誰かの為、それだけの為に体を張る人だ。

 

「(あの時も……魔王に怒る前に、俺を止めてくれたよな……)」

 

 ちゃんと怒る相手には怒る。でもそれは、傷付けられて泣いている者を放置してする事じゃない。加奈子さんはあの下衆に怒る事よりも、ケルコットの心を守るのを優先したのだ。──なら、俺がやる事は決まった。

 

カチャ ビリッ!

 

「いただきまーす」

 

「は、はぁ!?」

 

 3皿分ラップを剥いで口にぶち込んでいく。咀嚼するたびに酷い味がする。するが──もっと酷いの(モンスター)を、俺は経験済みだ。

 

「ご馳走様でした。……ケルコット」

 

「……は、い」

 

「1人追加で」

 

「!!! ……は、はい……はい!」

 

 食べ終わった後、唖然としている飯茂の前に立つ。

 

「な、なんだよ……てか何で平然と……」

 

「……フゥー……スゥゥゥゥゥゥゥ」

 

 全力で息を吸い込むと同時に魔法を放つ。俺が使える魔法は多くない。その中でもたまにしか使わない自己強化魔法──【五感強化(センスアップ)】。ほぼ聴覚を上げる為にしか使わないそれは他の感覚も跳ね上げることができる。そしてそれは──術者以外にも使える。

 

「な、なにして──」

 

「ブハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」

 

【臭い息】

 

「ゴヒャァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 ドタァァァン!

 

 飯茂に向かって全力で息をぶつける。俺の【五感強化(センスアップ)】の効果で今のコイツは一時的に嗅覚3000倍。鼻だけ対魔忍だ。あのエグい匂いをした物を3皿平らげた俺の口臭は最早モルボル。それを3000倍にしたのだ。今コイツは三途を彷徨う手前だろう。

 

『え、え、え!? き、気絶したぞ!?』

 

『何アイツ!? 何した!? まさか……口臭!?』

 

『嘘だろ!? 口内環境ヘドロかよ!』

 

「おいお前ら」

 

 騒いでた周りの連中を見渡す。どいつもコイツもビビり散らしている。そいつらを見て、笑顔で言ってやった。

 

「俺の【逆大天使の息吹】、喰らうか?」

 

 全員自分の料理を持って外に出て行った。倒れたバカもアシスタントらしき奴が連れて行き、残ったのは俺たち4人だけ。

 

「オピス、ブレスケア」

 

「ぷ、ぷふふ……は、はい。あげるよ全部」

 

 笑いを堪えているオピスからブレスケアをひったくり全部飲み込む。昔だったら腹下すレベルだろうが、悲しい事に既に普通の人間の体じゃないので大丈夫だ。

 

「いやぁ凄いなぁ。ちょっと感動しちゃったよ僕」

 

「何がだよ」

 

「ん? 加奈子さんだよ。あー言うタイプ初めて見たかも。高木くんからちょろっと聞いてはいたけど、君が加奈子さんに敬語使うの分かるなー」

 

「何言ってんだお前。んな事言ってなくて良いからちょっとひとっ走り買い物行ってきてくれよ。コンビニで良いから」

 

「買い物? 良いけど……何買うの?」

 

「スパイス関連。あるだけ全部な。無ければ最悪カレールーだけでも良い」

 

「はーい。パシリいっきまーす」

 

「加奈子さん、一応食ったけど毒じゃなさそうです。安心してください。今高木呼ぶんで治してもらってください。俺治せるの怪我だけなんです、すいません」

 

「い、いえ……大丈夫です……それより料理……どうしましょう……」

 

「それなら何とかなります。ケルコットにカレー作ってもらうんで」

 

「え? カ、カレー? ど、どうしてですか?」

 

「時間的に凝ったものは作れないからな。だったら鍋で作れる物にした方がいい。幸いバカみたいにデカい鍋は設備であるしな」

 

「で、でも……私が作る料理は全部普通で……それこそムキミマグロみたいな凄い食材じゃないと……お客さんが……」

 

「普通で良いんだよ。大丈夫だ、良い方法がある」

 

「あ、あの……加藤さん……? 何を……」

 

「加奈子さん。周りのレベルが高くて自分が平均点の時……どうすればトップになれると思います?」

 

「……え?」

 

「正解は──周りの連中全員を底に引き摺り下ろすんですよ

 

「……顔、やばすぎですよ」

 

 先に手を出したのはあっちだ。どんな手を使われようと、どんな目に遭おうと……因果応報、自業自得なのだ。

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