ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
「あー眠、ホントに行かなきゃダメっすかー?」
「当たり前だ! と言うか前からちゃんと今日行くと言っていただろ! 何でギリギリになって起きて来るんだお前は!」
「何言ってんですかリーダー。ゴレ娘の件がポシャってから何か新しい金儲け出来るの作れって無茶振りしたのはリーダーじゃないすか。だから自分はこうしてせっせこせっせこ頑張ってるんじゃないですか。見てください、漸くブレイズロッド取れましたよ」
「マイクラやってるだけだろうがぁぁぁ! 全然クリエイトしてないじゃん! せめて建築しろよ!」
「だってー、作りたくもない物作るってすんげーパワー必要なんですよ。呂布の時は最高に楽しかったから余裕でしたけど、今回はそう言うわけでも無いでしょ? やる気出ませんて」
「給料分くらい働け! 私の金なんだぞ!」
「私の金って言っても腐るほどあるんだからいいじゃないですか。使っても使いきれない程あるのに」
「バカモン! 金なんて物はな? あればあるだけいいのだ! タダでさえ最近大損したのだから節約したいって言うのに!」
「金持ちの癖にケチだなぁ」
「金持ちは成金以外はケチで出来とるのだ!」
「じゃあ成金は何で出来てるんすか?」
「虚栄心と愚かさだ」
「自己紹介?」
「な訳ねーだろ!」
「まぁどっちでも良いですけどね。でもわざわざご飯食べに行く事のどこが金に繋がるんです? 料理ギルドの入団試験なのに」
「分かっていないな。今回の料理ギルドの試験だが……ほぼ出来レースなのだ。【超飯店】、聞いた事あるだろう? てか連れて行っただろ?」
「あー、あのやたら豪華なお店ですか。料理もまぁ美味しかったですけど……そこが出るんすか?」
「ああ、あそこは熱心なファン……いや、最早信者だな。それが料理ギルド内にも居る。一度追放されたがその影響力は凄まじい。それこそ奴の料理の為に言う事を聞く者も居るくらいだ。私は前から奴に投資していてな、今回の試験であそこが料理ギルドに舞い戻れば奴の店は更に大きくなるだろう」
「はぁ、それで?」
「分からないか、金の切れ目が縁の切れ目。その逆も然り。今回の試験で私達が訪れて奴の後押しをしてやれば、私達を無視できまい。つまり、私達の都合で奴に料理を作らせる事も出来る訳だ。断れば援助を打ち切ると言えばな」
「はー……成程、なんかで契約する時とかで役に立ちそうですね」
「あの男、飯茂は料理の腕だけは確かだ。まぁ他は終わっていると言っていいレベルだがな。特に性根だ。以前ライバル店に執拗なまでの妨害をするなど腐りに腐りきっている。首から下しか価値がないと言ってもいいな。ハハハ!」
「リーダーみたいな人ですね!」
「おい待て何で刺した? 何で私を刺した? 今私の背中を刺して何の意味があると言うのだ」
「あぁ、すいません! リーダーは料理出来ないし足は臭いし口も臭いし腹は出てるし足短いし頭バーコードだし服のセンス終わってるしイビキ酷いし車の運転下手くそですもんね! 全然違ったっす!」
「何でこんなの雇っちゃったんだろ。優秀じゃなけりゃクビにしてんのに」
「自分を信頼してくれてるんすよね? あざす!」
「黙れバカニック! やっぱクビだボケ!」
リーダーの命令で料理ギルドの入団試験会場まで連行される。正直工房で作業してる方が好きなんだけど、命令だから仕方ない。
「でも自分ら2人行ったところで大差無くないすか?」
「阿呆、ちゃんと後で【金工房】のメンバーが全員来る。ウチは探索者チームと言うより会社だからな。規模に関しては他所の探索者共に絶対負けない。100人以上が1人の料理を贔屓すればまず勝てるだろう」
「要するにサクラをするんですね」
「人聞きの悪い事を言うな。そんな事実は言わなきゃ存在しないのだ」
金に繋がる事なら大体何でもやる。それが【金工房】のポリシー。一応法に触れないようにしてるあたりがコスい。所属チームだがとてもそう思う。
「まぁ我慢しろ。私だってわざわざこんな事をしたくない。だがあの名前を出してはいけない連中のせいでアイテム貸し業が廃業一歩手前だ。何億損したと思ってる」
「他のチームがアイテム吐き出すの早かったっすね」
「少しでも高いうちに売りたいのは当たり前だからな。こうして縁という種を蒔いてな? 金が実るように足を伸ばすのが大事で──」
「あれ? お前ら【金工房】の連中じゃん。何してんのここで」
「えんがちょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
今は碌にダンジョンに潜っていないのにやたら俊敏な動きで踵を返す。置いてかれるのは嫌なので足を引っ掛ける。
「どぼふぅぅぅ! 何をするお前ぇぇぇ!」
「リーダー落ち着いてください。走ったら危ないですよ。今みたいに転びます!」
「お前にやられたんだよ!」
「だって自分の事置いてこうとするから! 一蓮托生、あの夕日に向かって誓った仲じゃないですか!」
「どこだよ夕日! どんだけ過去改竄してるんだ! そんな事実は無ぇ!」
「……お前ら愉快な奴らだったんだな」
目の前にはゴレ娘の大会の時に居た【
「き、貴様! 私達のことを覚えているのか!」
「ちゃんとデスノートに書いてたからな」
「つまり今から書いた死因が起きるって事っすね」
「嫌だ! 殺される! 勘弁してくれ! もう長い事ダンジョン潜ってないから死の慣れが無いのだ!」
「お前ら俺の事を何だと思ってんだよ」
「なぁんでお前の方から寄ってくるんだ! 関わりたく無いの! 目に入れたく無いの! 私達の知らない所で元気に狂っててくれ頼むから!」
「リーダー、無意識に喧嘩売りまくってるのでやめてください。飛び火したら嫌なんで」
「うるさい! お前も早くこの狂人に許しを請え! 殺されるぞ!」
「殺さねぇよいい加減にしろお前ら」
顔に血管を浮かべながらそう言う加藤リーダーは軽く鼻を鳴らした後、自分達に背を向ける。
「何でもいいけど今お前らに構ってる暇無いんだわ」
「何か急ぎの用でもあるんです?」
「急ぎも何もケルコット……ある受験者のアシスタントしてんだよ。配膳手伝わないと」
「へー、何作ってるんすか?」
「カレー、食いたかったら並びな。じゃあな」
そう言って去って行った加藤リーダー、まるで地震の時のように頭を隠して伏せてるこっちのリーダー。酷い差だ。
「リーダー、あの人もう行きましたよ」
「そ、そうか……良かった。生きてる……」
「ビビりすぎっすよ。リーダーだって昔はブイブイ言わせてたんじゃないんです? 他の人から凄い魔法使いだったって聞いたんすけど」
「……最後に魔法使ったの覚えてないくらいだからな」
「衰えが酷すぎますね、リハビリがてらに1発ダンジョンで死んだ方いいんじゃ無いすか?」
「人を雇うなり部下に行かせるなりで十分だ! 私は絶対戦わないぞ! もうゴリゴリだ! あんな場所ずっと居たら気が狂う! アイツのチームみたいに! 私は安全に金を稼ぎたいんだ! ダンジョンからFIREしたいんだよ!」
「双葉杏とサイコロステーキ先輩のフュージョンみたいな事言い出したなこの人。ダンジョンで死んでも生き返るから安全っすよ」
「普通は生き返るからって死んでもいいかーってならないんだよ! 探索者がおかしいだけだ!」
「まぁそれはそうっすけど」
どれだけ社会に貢献してようと探索者ってだけで一歩引かれる。それくらい一般人から見てヤバい職業。探索者自体が治安が悪い連中多いし。日本だけでも何人問題起こして逮捕者出したんだろ。
「……ん? アイツさっき『食いたかったら並びな』とか言ってなかったか?」
「言ってましたね。普通では?」
「ここの料理ギルドの試験は各国から凄腕料理人が来るくらいなんだぞ。カレー如きで並ぶか?」
「めちゃくちゃ凄いカレーなんじゃ無いですか? 食べたら色違いに出会いやすくなるとか」
「何の色違いだ。にしたって……」
「そこのお2人! もしかして料理ギルドの2次試験に来た一般の方ですの!?」
リーダーと話してると突然女性の声が聞こえる。声のする方を向くとそこには竜人族の女性が居た。やたらと露出の多い服を着ている。
「「うぉ……でっか……」」
「もし宜しければあそこのカレーがおすすめですわ! 是非是非! ……あ、そこの方! 少々よろしくて!?」
『うぉ……でっか……』
「凄いですよリーダー、完全に自分の10倍はありますよ。界王拳ですよ、同性でもビビりますもん」
「もはや驚きしか湧いてこないぞ。日常生活大変だろあれ。足元見えないし」
お嬢様っぽい縦ロールから紹介されたのは間違いなく加藤リーダーが言っていた所だ。視線をそちらに向けてみると──。
「え、長蛇の列」
「……は!? 何で!?」
「てかほぼ全員があそこに並んでますよ。他閑古鳥鳴いてますし」
「何があった!? あり得んだろいくら何でも!」
そんなに凄いカレーなのだろうか。気になる。列には並ばずに既に食べている人に近づいて話しかける。
「あ、どうも」
「え? あ、ああ……何?」
「そのカレーってあそこのっすよね? 美味しいんすか?」
「あー……普通かな。普通のカレー」
「なんか具材が凄いとか?」
「いや、普通だよ。一般家庭で作る感じの奴。肉は豚肉」
「成程、ありがとござます」
リーダーの方を振り向くと凄まじく困惑している。見た目も味も普通のカレー。違うと言ったら作っているのはハーピーの料理人という日本じゃまず見かけない人だと言う事くらい。
「一体何が……」
「あー何度もすいません。他ってどうして並んでないんですかね? 何か知ってません?」
「え? あぁ、そりゃあれだよ──炎上してるからだよ」
「「え?」」
理解出来ない自分達にカレーを食べてた男性はスマホの画面をこちらに向けてくる。
「ほら、これ俺がやってるSNSのトレンドなんだけどさ」
「えーっと『料理ギルド入団試験の受験者が運営するほぼ全ての店が衛生面で問題あり』……らしいっすよリーダー」
「は、はぁ!? そんなほぼ全員問題アリってんなバカな!」
「いやでも大量のアカウントが反応してんだよなぁ。虫が入ってたーとか髪の毛入ってたーとか、別に業者って訳でも無さそうな一般垢だし……マジなんかなぁって」
「大体10000人くらいが言ってますね」
「どんだけ!? 今までニュースなってない方おかしいだろそれ! 明らかに操作されてるわ!」
「他にも動画で有名配信者が言っててよ、食う気無くしてさぁ。でもどうもここのカレー出してるとこは特にそんな話が無いんだよな。だからカレーだけ食って帰るつもり。折角来た訳だし、なんか食わないと勿体無くてな」
「じゃあこの列はそう言う人達の列って事すか」
「そうなんじゃねぇか? 殆どの人は皆帰っちまったよ」
「……ま、まさか……」
リーダーが青ざめたまま顔を上げる。その視線の先には先ほど別れた加藤リーダー。そしてその顔は──。
「え、こっわ」
人が浮かべれる表情の中でぶっちぎりの邪悪な笑顔を浮かべていた。
◇ ◇ ◇
周りを底まで引き摺り下ろす。と言ってもカスと同じように料理に何かするとかはするつもりは一切無い。だが、それ以外は何でもする。そう決めた。
「ど、どうぞ! 熱いのでお気を付けて!」
「福神漬けとかはセルフなんで好きなだけどーぞー」
ケルコットとオピスがずっと接客し続ける。約100人、この列に並んでいる人数だ。そして今この会場に居る客の総数でもある。
「人数多すぎると他所行くからなぁ……変に規模がデカいと困るんだよ……だから──減らさせてもらったぜ?」
俺がやった事は単純だ。俺達以外の受験者を炎上させて、それを見た一般人の来る気を無くさせる。1人だと無理だが、丁度俺の仲間に都合よく大勢を動かせる奴が居る。
「もしもし鶴岡? 首尾はどうだ」
『どうも加藤さん。問題ありませんよ。聞きます?』
『皆さん、どうかそのままでお願い致します! 大切な食事に汚物をかける……何と、何と非道! 心が痛みます……!』
『メアリスー様! そんな! どうか気をしっかり!』
『ああ、これも全て悪事を働く者の所為……必死に丹精込めて作った努力の結晶を搾取する者達の所為……嘆かわしい……嘆かわしい……』
『我らが神が嘆いていらっしゃる……おのれ外道共! 絶対に許さんぞ!』
『そうだそうだ! 許すな! 囲んで叩け!』
『追い詰めろ! 徹底的に!』
『ありがとうございます皆さん! 皆さんの正義で世界が良くなっています! そのまま邪悪な料理人の悪事を世に広めてください!!!』
『『『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』』』
『……神父様! これで宜しいですか?』
『バッチリです。ありがとうございます……とまぁこんな感じです』
「よし、そのまま頼むぞ」
鶴岡の信者共を使って兎に角デマをばら撒きまくる。突拍子の無い事でも構わず兎に角火を付ける。たった1人の放火ではすぐに鎮火するだろう。だがそれが鶴岡の信者全員がやれば──あっという間に架空の炎上を生み出せる。SNSや動画サイトでひたすらに叩きまくらせる事でマトモな人間ならこの炎上している店に行こうとしないし、ましてや2次試験の一般公開に来るわけもない。これでまずここに来る人数を減らす。時間前に来ている人達にもこれを広めて
「か、加藤さん。加藤さん」
「どうしたアナンタ。あまり話しかけるなって頼んだろ」
「い、いえ。それはそうなのですが……こ、この服何とかなりませんか? あまりにも露出が……は、恥ずかしくて」
「耐えてくれ。大丈夫、俺は何にも感じないから」
「いや私は視線感じまくりなのですが!?」
勿論ネットを見ない人だって居るだろう。以前好評だったからと言う理由で近隣の住民だって来る場合があるだろう。そこで活躍するのがアナンタ(薄着の姿)である。大きく開いた胸元とバカ短いスカートを履いた彼女に入口付近でのサクラを頼んだ。するとどうなるかと言うと──。
『やだ何あれ……下品ねぇ』
『食べに来たけど……なんかそう言うイベントなのかな。やめとこ』
『うわぁ……恥ずかしく無いのかな』
そう、ドン引きだ。当たり前の話だが、入り口でこんな格好の女性が彷徨いているような場所にマトモな人は近づかない。変なイベントだと思うからだ。これにより特に女性を会場に近づけさせない事に成功。逆に近づいてきた下心丸出しのバカな男にはアナンタがウチをお勧め(あくまで個人の感想)する事でこちらに誘導。何よりアナンタは初見だとインパクトが強すぎる容姿なのも良かった。他所の受験者に視線が行かない。行くのはアナンタのデカ乳のみだ。
「ウォルタリアの件の礼のためなら何でもするって言って来たのはお前だろ。これで貸し借り無しでいいから頼むよ」
「ううう、まさかこの様な形でお礼をするとは思いませんでしたわ……」
「悪いとは思ってるぞ、わざわざウォルタリアから呼び出してヤバい服着させてるのは。でも連中を潰す為だ。俺も心が痛いんだよ」
「それは嘘ですわ! 絶対絶対嘘ですわ! 半分くらい楽しんでいますわ!」
アナンタは羞恥心のあまり被害妄想してしまっている。これは無理をさせた俺も悪い。俺が巨乳を見て楽しむと思ってる辺り重症だ。今度何かお詫びくらいは渡さないといけない。
「本当はこの様な事はあれなのですが……事情は聞きましたので……が、頑張りますわ」
そう言って持ち場に戻って行った。まだ本命には時間がかかる。どうか頑張って欲しい。応援している。
「今日は何やら人が少ないですね……」
「何があったのだろうか、うーむ……」
料理ギルド側に状況を把握している者は居ないようだ。まぁ予想出来る訳も無いか。無関係の運営側には申し訳ないが、カスに迎合する愚か者を身内に入れているのが悪い。来年からの試験は人が減りそうだが言わなきゃ分からないだろう。
「ど、どうする!? 誰もこっちに来ないぞ!」
「あ、あのー! こ、こっちの料理も是非!」
焦る他の受験者達が列に並んでいる人達に声を掛ける。勿論想定済みだ。それに対するカウンターも用意している。
「おぉい! テメェよぉ! 舐めてんじゃねぇぞゴラァ!」
「な、何だこのガキ!? 何の用だよ!」
「お前がやってる店、異物混入しているらしいじゃねぇか! そんな奴が料理出すんじゃねぇよ! あとお前ガキっつったな?」
「え、ギャァァァァァ!」
「誰がガキだゴラァァァァァ!!!」
「ヒィィィ! 何だこいつ!」
「ちょ、ちょっと!? おやめ下さい! 落ち着いて下さい! うぉ力強!?」
サングラスを掛けたチンピラを用意して因縁を付けさせまくる。巻き込まれることを考えるとヤバい奴に近づきたく無いだろう。手当たり次第に怒声を飛ばすセラフィナは誰が見ても立派なヤバい奴だ。素晴らしい。でも胸倉掴むのはアウトな気がする。
「セラフィナ、そこはもういいから。次行け」
『……わーったよ。何でこんな事……ブツブツ』
「後で詫びするから」
『言ったな? 忘れんなよ』
「ヤバい早まったかもしれん」
インカムでセラフィナに指示を出す。本来セラフィナは自分から人に喧嘩を売る事は殆ど無い。本人もまるで乗り気じゃ無いのにやってくれている。ありがたい話だ。未来の俺は何されるんだろう。生きてるかな。
「お、おい! テメェ!」
「おや? これはこれは超飯店の飯茂様ではありませんか。どうかなさいましたか?」
「ふざけるな! お前だろう! この状況を作ったのは!」
「はて? 何のことでしょうか? 言い掛かりはお辞め下さいな。どこに証拠があるのですか?」
「さっきから電話なりしてるの見てるんだよ!」
「ちょいちょーい、電話しただけで疑われるとかコールセンターの従業員が泣いちゃうぞ⭐️」
「何が泣いちゃうぞだよ! ウインクすんな!」
順調に独占していると思ってると飯茂が詰め寄ってくる。流石にバレたようだ。適当に煽っていると連絡が来る。どうやら来たようだ。
「え、何だこれ……【転門】か? これ」
「誰が来るのか?」
会場の入り口付近にポータルが現れる。そこから出て来たのは──。
「お、居た居た。間違っておらんな」
『………………ま、魔王だぁぁぁぁぁ!!!』
「はぁぁぁぁぁ!?」
巨体の魔族。この世界の中で最強と言ってもいい魔族を率いる男が現れた。魔王の存在を知らない人族はまず居ない。当然会場は大騒ぎになる。
『な、何で魔王がここに……!?』
『ど、どうすれば……土下座か!?』
『よくわかんねぇけどごめんなさぁぁぁい!』
「いや落ち着け落ち着け。儂まだ何もしとらんぞ」
混乱する一般人達を宥める魔王。その後も背後のポータルからどんどん魔族が出てくる。魔王の配下だ。地味に見た事も無いような種族も居る。
「こ、これはこれは魔王様! ははぁ!」
「あー要らんそう言うの。それよりいきなり来て悪かったな。お前さんがあれか、ここの料理ギルドのトップか?」
「は、はい。理食クラブのギルド長、灰原空山で御座います」
「そうかそうか。実はちと旧知の中がここに居ると聞いてなぁ。こうして赴いた訳だ」
「旧知……で御座いますか?」
「おう。えーっと……確か……ケルコット! 久しぶりだなぁ!」
「え、は、えええええええ!?」
魔王はケルコットを呼び寄せる。突然超お偉いさんに呼ばれてギクシャクしながら魔王の元に向かうケルコット。
「いやはや! 久しいな! 元気してたか! いやー何年振りだ? 5年くらいは会ってなかったな!」
「あ、あの魔王様、私魔王様に謁見した事なんて……」
「いや! 会った! お前さんは儂と【会った事がある】、そうだな?」
「ま、まさかケルコット氏は魔王様のご友人なのですか!?」
「うむ! そうだ! この者は儂の友人よ!!!」
嘘だ。純度100%の大ホラだ。クソ忙しい魔王が一般ハーピーのケルコットに会った事なんて無い。完全なる仕込みだ。俺が連絡して芝居を頼んだだけ。
「えー……【
『な、なぁ……魔王めっちゃスマホ見てね? あれカンペじゃね? カンペガン見じゃね?』
「あー……あ? ちょっと待てよ……おい加藤! 後半に漢字のルビが振っとらんぞ! 儂日本語は平仮名しか読めんと言っただろう!」
『隠す気無いよ! 丸出しだよ! 最早潔いよ!』
「急いでたから入れ忘れてたわ。ごめんごめん」
『かんっぜんに仕込みだぁぁぁ! 仕掛けた側も堂々としてるし!』
受験者が騒いでいるが全く気にしない。何、連中もすぐに気にならなくなる。
「まぁそう言う事で此奴は儂の友人なのだ。分かるなギルドリーダー」
「そ、そうで御座いますか。承知しました……それで、その、どうすれば……?」
「いや? これはあくまで例え話なのだがな? 万が一に儂の目の前で罪の無い魔族が理不尽に晒されているのなら見逃す訳には行かない訳だ。何せ魔族は儂の民だからな」
「……は?」
「正直に申し出るのなら儂は許すが……もし隠そうとするのなら」
「す、するのなら……?」
「儂って怒ると辺りが血の海になるんだよね」
『……ッ!!!』
俺とセラフィナ以外の息が一瞬止まる。少なくとも魔王はやろうと思えばこの国ごと消し炭に出来る。この世界における頂点。それが魔王だ。尚嫁には勝てない。何でだよ。
「ああ、実行犯で無くても見てたのに止めもせん奴も同罪だからな。儂虐めとか許さんし。のぉお前ら!」
『ハッッッ!』
「さて……申し出る者はおらんか? 早く出てくれると助かるのだが。カレー食べた後また執務なのでな。食事に汚物掛けてしらばっくれるような輩を教えてくれたら、儂助かるなぁ〜」
口調は軽い。だが圧は本物だ。耐性の無い者だったらすぐに限界が来る。つまり──。
『ア、アイツがやりましたぁぁぁぁぁ!!!』
「な、なぁぁぁぁぁ!?」
実行犯を差し出して何とかしようとする。当然の事だ。ケルコット以外の受験者が全員飯茂を指差す。
「お、汚物……!? ど、どう言う事だ!? おい試験官役はお前だろう! 何があった!?」
「え、えーっといやそれは何と言うか……」
「魔王様! こちらです!」
「おー、ご苦労。……ふむふむ、掛けたのはロットポーションか。口に入れても体調が悪くなる程度だが……まぁ汚物に違いないわな。防犯用の道具をこのように使うとは儂には思いつかなんだ」
「あ、ああ……」
「貴様……! まさか……! 超飯店にもう一度チャンスをとか言っていたが! まさかこの様な……!」
ギルド長に詰められているのは一次試験の時に俺達に難癖をつけて来た男。飯茂のシンパだ。試験官と言う立場を利用して1人の受験者に肩入れ。それどころか合格に近い受験者への妨害。役満も良い所だ。
『うっわ、そんな事してたんか? もう試験でも何でもないだろ……』
『サイテー……あそこのハーピーの子が被害者なのよね? 可哀想……』
『アイツらの食うより妨害されても頑張ってる子応援するか……1つ貰おっと』
この醜い争いを見た一般客の反応を見て俺は思った。完璧だと。予想通りだ、予定通りだ。複数の人間がスマホで一連の流れを撮影しているのもバッチリ。今取られた動画はネットの海に放流されるだろう。
「ち、違くて違くて! 俺はやってなくて! 用意しろって言われたからポーション用意しただけで! 掛けたのはアイツで!」
「はぁ!? ふ、ふざけんな! テメェも乗り気だっただろ! そもそもお前が絶対合格させるからとか言ってたのに話が違うからこんなくだらない事をだな!」
「あーそうか。まぁ犯人が分かったしお前さんらの底も知れた。儂はもう良いぞ」
「へ? ……た、助かった……?」
「まぁ儂以外は知らんが」
「え」
その瞬間、飯茂と試験官が超飯店の屋台にぶっ飛んで行く。やったのは俺でも魔王でも無い。
「貴様ぁ……娘の料理に舐めた真似しくさって……絶対に許さぁぁぁん!!!」
「お、お父さん!」
「丁度手が空いていたのでな、大事な娘の料理食いに行かんかと誘ったら着いて来てくれた。いやーまさかこんなことになるなんてなーわからなかったなー」
「魔王様! 宜しいでしょうか!」
「おお、良いんじゃないか? 食料粗末にする奴とか戦争時の事思えば極刑物だし。そうは思わんかお前さんも」
「え、私!?」
魔王がたまたま目に入った金工房の2人に声をかける。目が飛び出てるんじゃ無いかと思うほど驚いた金工房リーダーからとんでもない程の汗が出ている。
「(やっべぇぇぇ! どうしよう、まさかそんなバカな真似してるとは思ってなかったし! つーかあの狂人は何で魔王と関わり持ってんだよ! 要するに飯茂の奴、アイツらに喧嘩売ったって事じゃねぇかぁぁぁ!!!)」
「う、うぐぅ……あ、だ、旦那ぁ! 頼む助けてくれぇ!」
「(話しかけんじゃねぇぇぇぇぇ!)」
ハーピーの鉤爪に取り押さえられている飯茂は金工房リーダーに助けを求める。もしかしてあれか? コイツら繋がってたのか?
「リーダー、どうします? このままだと……」
「…………」
「旦那ぁ! アンタの為に働くから! アンタの投資で俺は再起できた! 気の迷いが出ちまったが、今度こそ失敗しない! だから、だからぁ!」
全員の視線が金工房リーダーに向く。滝のような汗を流して地面をべっちゃべちゃにしながらソイツは──。
「は? いや、誰お前。怖、話しかけないでくれないか?」
「な、なぁぁぁ!?」
一蹴した。明らかに関わりがあるように見えたが、どうやら気のせいだったらしい。良かった良かった。
「み、見捨てないでくれ! 頼むよ!」
「何だ、知り合いか?」
「そのような事があろう筈がございません魔王様! 奴は罪から逃れようと出鱈目を言っているだけで御座います故! 我々は単にカレー食べに来ただけで御座います故!!!」
「あー……そうです! その通りなんすよ! 自分カレー大好きで! リーダーがじゃあ食べるかーってなって来ただけなんすよ!」
「て、テメェらぁぁぁ!!! ボブゥ!?」
「おいゴラァ! 言い訳タイムは終わりだ! 懺悔しながら地面のシミになりやがれぇぇぇ!」
「ぎょわぁぁぁぁぁ!!!」
「あ、待ってくれ」
ケルコットの父親がしばく前に言わなければならない事がある。地面に這いつくばる飯茂の前にしゃがみ見下ろす。
「いやぁ大変だねお前も。でもほら、出る杭は打たれるって言うだろ? 悪い事したら罰受けないとなぁ?」
「ひ、ひぃ……!」
「何でそこまでして料理ギルドに入りたかったかは知らねぇけど……ま、天罰って事で諦めな……あ、そうそう、さっきからお前含めてケルコット以外の料理なーんも売れてないね! 可哀想に! まぁお前みたいなカスが作った料理なんて誰も食わねぇけど。じゃ、ごゆっくり〜。ゲハハハハハハハ!!!」
「た、たすけべべべべべぇ!!!」
飯茂の断末魔が聞こえる。心地よいBGMを聴いていたが、ふと視線を変えると試験官役の男がギルドリーダーに胸倉を掴まれていた。
「貴様はクビだ! 出ていけぇぇぇ!」
「ひ、ひぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
「おー、パワーあるなあのおっさん」
投げ飛ばされる男を眺めていると肩を後ろから叩かれる。振り向くとそこには高木の姿が。
「絶好調じゃねぇか。随分と暴れたなぁ?」
「いーやまだだね。こっからよ」
「と言うと?」
「もう2度と舐めた真似出来ないようにダンジョンで永遠とモンスター食わせまくる拷問が待ってるんだわ」
「おいおいマジかよ! そんな楽しそうな事考えてたのか!」
「人の料理台無しにするような奴には食材として見た時に存在が台無しなモンスターがお似合いだ。楽しみだよ、アイツらの断末魔が」
「イカれてらぁ〜。でも俺は好きだぜ? でも見て見ぬふりしてた他の連中はどうすんだ? 連中荷物纏めて逃げようとしてっけど」
「勿論逃さねぇ。既に奴らの店も家も全部把握してるんだわ。便利だなぁ鶴岡の宗教って。人数多いから数の暴力で何とでもなるわ」
「成程! まともな生活送れると思うなよってか!」
「おうよ! せいぜい夜道に気をつけろって事さ!」
「成程なぁ、確かにカスの断末魔聞いてる時って楽しいもんなぁ。そんなん聞いたら猿のおもちゃみたいに手叩いて爆笑するわ。所で加奈子さん回復したぞ」
その言葉に振り向くと確かに顔色が戻った加奈子さんが立っていた。苦しみが取れたからなのか、とても良い笑顔だ。
「加奈子さん! 体調は大丈夫ですか?」
「はい、心配かけてすいません」
「全然です! それより見てください連中の無様な姿! ザマァないですよ! いやぁやっぱりやられたら100億万倍にして返してやらないとねぇ!」
「そうですか」
「ケルコットの入団もバッチリです! だって受験者ケルコット以外みーんな途中離脱ですから! 1人しか居ないならもう合格っすよ! 勿論カレーは全部売り切りますけどね、その為に魔王に手勢連れて来てもらったんで!」
「そうですか」
「ちょっとやり過ぎた気がしないでも無いですけど大丈夫ですよね! カスにはこれくらいしないとってね!」
「そうですか、よく分かりました」
にっこりと優しい笑顔を浮かべる加奈子さんに釣られて俺も笑顔になる。
あはははは。
うふふふふ。
「どう考えてもやり過ぎでしょうがぁぁぁぁぁ!!!」
「ぼびゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ギャーハッハッハッ!!! ウッキィィィィィ!!!」パンパンパンパン!
とんでも無い威力のビンタをぶちかまされて錐揉みしながら空を舞う。