ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】   作:1パチより4パチ派

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料理編終わりです


普通が1番

「……」

 

「リーダー、見る影も無く大人しくなりましたよあの人」

 

「目を合わせるな、近づくな。いつ暴発するか分からん不発弾だぞあれは。今のうちにカレー食ってさっさと帰るぞ!」

 

「他のメンバーも来るんじゃ無いんすか?」

 

「とっくに中止の連絡入れたわ! これ以上ボロ出してたまるか!」

 

「ウーキャッキャッキャ!」

 

「あっちのハゲの人も人間の見る影も無いっすよ」

 

「人じゃ無いぞアレは。ただの猿だ」

 

 正座しながら加奈子さんの言葉を待つ。深い溜息を吐く音がここまで恐ろしいとは思わなかった。

 

「やり過ぎです。どう考えても過剰反撃です! やられた事は確かに許しちゃいけない事ですけどだからって【2度と再起出来ないように徹底的に叩きのめして笑えなくしてやるぜヒャッハー!】して良い理由にはならないんですよ! 殆どラスボスでしたよさっきの加藤さん!」

 

「はい……ごめんなさい……やられたし、良いかなって……腹立ったし……」

 

「あんな人達と同レベル近くまで落ちる必要無いでしょ! どうしてそんなに思い切りが良いんですか悪い意味で!」

 

「放たれた弾丸は着弾するまで止まらないから……」

 

「そもそも発砲するなぁぁぁ!!! 弾丸じゃなくて砲弾ですよさっきの一連は! 辺り一面焼け野原! もうやったらダメです! 分かりました!?」

 

「はい、やりません……」

 

「本当ですか!?」

 

「はい……過剰反撃しません……」

 

「おい加奈子、もう良いだろ。舐められたらとっちめるのが普通──」

 

「何ですか!?」

 

「……い、いや……その……」

 

「セ、セラフィナさんが怯んだ……!? この方は一体……!?」

 

「ウッキーッキッキッキ!」

 

「五 月 蝿 い!!!」

 

「あ、はい」

 

 見た事ないレベルの怒気だ。あの高木が一瞬で素に戻った。普段優しい人が怒ると怖いと言うが本当だったらしい。

 

「フー……加藤さん、右手出してください」

 

「え、右手?」

 

 言われるがまま出すと半ば強引に小指を取られる。そう、これは──。

 

「ダンジョン以外で感情に任せて暴走しない! はい指切った! 約束ですよ! ダンジョンの方は治療中だから免除です!」

 

「……ぅぅぅ……グスッ……はい……」

 

「完全に子供扱いされてて情け無さで泣いてるね」

 

「26歳成人男性の姿があれかぁ。笑えてくるな、笑ったら怒られるからやめとくけど」

 

 あたしって、ほんとバカ。何が悲しくて7歳年下の女性にここまでさせなくちゃならないんだろう。自分のバカさ加減に涙が止まらん。

 

「あ、あの加藤さん!」

 

「どうしたケルコット。このゴミクズゲロカスダメ人間に何か用か?」

 

「今度は自分を卑下し始めたね」

 

「極端なんですよさっきから! 丁度良い所で着地して下さい!」

 

「加奈子さん、加藤は昔っから情緒不安定なんで大丈夫ですよ」

 

「大体酒飲ませてダンジョン行かせれば治ってたけどな」

 

「それ治ってたんじゃ無くて躁鬱の躁に叩き込んでるだけ!」

 

「え、えっと……そこのお2人でカレーが全部売れましたので、報告を……」

 

「あ、終わったの?」

 

 少し離れた所でカレー食ってる金工房の2人で最後だったようだ。1番最初に料理を売り切った、つまり二次試験合格である。まぁそもそもケルコットしか残ってねぇけど。俺のせいで。

 

「殆どケルコットさん置いてけぼりじゃないですか……もう」

 

「すまんケルコット……お前の試験を汚してしまった……」

 

「い、いえ! それどころか、私が何とかしないといけないのに全部やらせてしまって……ごめんなさい……」

 

 売り切ったのは事実だがケルコットの表情は明るくない。……やはり自分の力で通過した訳では無いのが理由か。

 

「よく分かってないんだがこの人を料理ギルドに入れたかったのか?」

 

「うん、料理ギルドに入って料理が上手くなりたかったみたいだよ?」

 

「なら喜ぶべきなんじゃねぇの? どちらにせよギルド側もお前を取るしかねぇだろ。何せお前しか居ねぇんだし。大人しく棚ぼたとでも思ってれば良いだろ」

 

「は、はい……すいません……」

 

「何でそんな反応なんだ? 上手くなりたいから入ろうとしたんだろ?」

 

「……結局、美味しいって言ってもらえなかったので……それで少し落ち込んでいました。アハハ……ダメですね、何の為に料理してるんだろう……。承認欲求の為だけだったのかなってそう思っちゃって……」

 

「ケルコットさん……」

 

 空元気の笑顔を浮かべるケルコットに何も言えなくなった。実際魔王の手勢や他の客も普通にカレーは完食していた。だが美味いと言うような者は誰も居なかった。決して不味い訳では無いのだが……何処までも【普通】に落ち着いてしまった。

 

「えー? 何がダメなんすかそれ」

 

「え」

 

「おいコラ! 近づくなって言っただろ! 狂気が移るぞ!」

 

 何と声をかけたら良いのか迷っていると金工房の2人……と言うか派手なゴーグルを付けた女が近づいてきた。口の周りにカレーを付けまくってるのを見ると食うのが下手くそらしい。

 

「いいじゃないすか承認欲求。作った物を認められたいって普通っすよ。自分もそうなんで」

 

「い、いやでも料理ってそう言うのじゃ……」

 

「変わんない変わんない! そりゃ自分も最初はめちゃくちゃな物作ってましたよ。自分の癖とにかく詰め込んだ奴! でもそう言うのってあんまウケないんすよね〜。色んな所に売り込んだけどマトモに相手してくれたのリーダーだけっすもん。ね! リーダー!」

 

「いや確かに【周囲5km全ての敵を物理的に破壊し尽くすお掃除ロボット】なんて言う危険物だったが……売る所を考えれば充分売れると思ったのだ。まさか敵味方の判別が付かない唯の破壊兵器だとは思わなかったが……」

 

「やば過ぎだろ。何で逮捕されてないんだよコイツ」

 

「表に出す前に処分したからな! ダンジョンアタック簡単になるーと思って持って行ったら顔面にロケランぶっ放されて死んだし!」

 

「そんで色々作った結果、標準値の物って中々難しいんすよね。万人に受け入れられるのって実は凄いんすよ。実際こんなに大勢が食べたのに誰も美味しくないって言ってないじゃないすか! これは凄い事っすよ! 自分には無理! アンタは凄い!」

 

「──!」

 

 メカニック女が言う通り、200人以上が口にして誰もマズいなんて言っていない。全員残さず完食している。これだけの人数が居るのだから味覚だってバラバラだ。それなのに誰も問題なく食べられる……確かに凄い事だ。

 

「だからあんま気にしなくて良いんじゃないすか? 多分自分と同じ考えの人間も居るでしょうし。そりゃ料理上手くなるに越した事は無いでしょうけど。ね、リーダー!」

 

「そこで何故私に振る!?」

 

「いやここは経営者としてこの人にアドバイス的な物教えても良いんじゃ無いかなって。ノリで」

 

「知るか! 何で私がこの女にそんな事──いや、待て……」

 

「? リーダー?」

 

「(ただでさえ先程飯茂の件で警戒されている筈……ここで大っぴらにコイツらが味方しているこのハーピーに雑な対応を取れば反感を買いかねん! 何故か居る魔王に目を付けられるのも嫌だし、ここはそれっぽい事言って誤魔化す!)」

 

 少し思案した金工房リーダーは咳払いをしてケルコットの顔を見る。

 

「そもそもの話、貴様は何故料理人を目指したのだ」

 

「え? 色んな人に食べてもらって、美味しいって言って貰おうと……」

 

「本当か? 1番最初に料理を作った時からそんな考えだったのか?」

 

「……いや……私は……お父さんとお母さんを喜ばせたくて……料理を……」

 

「それだな。貴様の本質は奉仕者だ。『誰かを喜ばせたい』、何故そのような考えに至ったかは理解出来んが、そう言う者も居るだろう」

 

「奉仕者……」

 

「間違えるな。貴様は美味い料理を作りたい訳では無い。誰かが喜ぶ、それだけで満たされる。ならば貴様の料理の腕は、ここの料理ギルドで活かせれる物では無い。貴様の居場所はここでは無いのだ」

 

「じゃ、じゃあ……どこが私の居場所なんですか……?」

 

「それは──キッチンカーだぁぁぁぁぁ!!!

 

「……へ?」

 

 ケルコットを指差し吠える金工房リーダーは、呆気に取られるケルコットを無視して捲し立てる。

 

「一箇所で店を構えようとギルドで国の重鎮相手に料理しようと! 貴様の腕では限界があるだろう! ならばそこでは無い貴様が求められる場所を渡り歩けばいい! それがキッチンカーだ!」

 

「わ、渡り歩く……?」

 

「貴様のカレーを食ったが味が平坦で普通。誰に対しても拒否感が出にくいと言うのは立派な武器だ! 肉体労働従事者の現場近くに行ったり、周囲に飲食店が無い場所に行ったり! 貴様が最も受け入れられる場所に行って料理を振る舞えば良い! そう言う場所に居る者達は高級な料理も涙が出るほど美味い料理も求めていない! 場違いにも程がある! 量があり味がマトモなら! 間違いなく喜ぶだろう!」

 

「お、おお……!」

 

「別に今言った場所だけじゃない。それこそイベントなどがあった際に顔を出すでも良いだろう。そこは貴様が自分で決めるのだ! 良いか! 商売とは需要と供給! 求める者に求めている物を! 貴様の戦場を探すのだぁ!!!」

 

『おお』

 

 凄い説得力だ。流石は金の事しか考えていない連中のトップ。商売の事になれば優秀だ。

 

「失礼、ケルコット氏か。この度は何とお詫びしたら良いか……この灰原空山一生の不覚。とても申し訳ない。ギルドへの入団に関しては勿論認め──」

 

「すいません辞退します!」

 

「え」

 

「美味しいって言ってもらうのは大事だけど、私の料理を必要としてくれる人に料理を届けたくなりました! 本当にごめんなさい! 自分の力だけで誰かに喜んでもらいたいんです! 今すぐに!」

 

「え!? ちょ──」

 

「加藤さん、加奈子さん、オピスさん! ありがとうございました! 迷惑おかけして申し訳ありません! いずれ必ずお礼しますので! それじゃあ!」

 

「んのぉぉぉぉぉ!!! 最後の受験者がぁぁぁぁぁ!!!」

 

 興奮した様子のケルコットは羽ばたいてそのまま何処かに飛び去ってしまった。残されたのは手を伸ばす料理ギルドの代表と、放置された俺達。

 

「……まぁ、良かった……のか?」

 

「最終的に笑顔でしたし……良いんじゃ無いでしょうか……?」

 

「よく分からねぇけど終わったんだな? じゃあもう帰ろうぜ。無駄に喧嘩売って疲れたわ。アナンタ、折角来たならウチ寄れよ」

 

「い、良いのですか!? 嬉しいですわ! ……その前に着替えを……」

 

「その服何処から持って来たんだよ」

 

「加藤さんが渡して来ましたの。これ着ろって」

 

「ふぅぅぅぅぅぅぅん? ほぉぉぉぉぉぉ? なるほどなぁぁぁぁ!?」

 

「待て! 違う! 高木! 高木が持って来た!」

 

「は? お前が持ってこいって言うから持って来たんだろうがよ。今回俺一切の悪事働いてないからな。ぜーんぶお前だよお前」

 

「よし、今夜覚えてろよ加藤」

 

「遺書書こ」

 

「あー自分らもう良いっすかね?」

 

「良いんじゃないかな。君らの事よく知らないけどありがとね。コットちゃん元気なったし」

 

「ですってリーダー! まさかリーダーが人の役に立つなんて! 明日世界は滅びます!」

 

「どんだけ私他人助けないと思ってんだよ! いや事実だけども!」

 

 金工房の2人。確かにこの2人が居なければケルコットは落ち込んだままだっただろう。間違いなく俺達だけでは無理だった。

 

「リファルさんを晒し者にしたのは腹立つけど少しだけ見直したわ。やるな、バーコードリーダー」

 

「意味変わってくるだろそれ! 私には金山権太(かねやまごんた)と言う立派な名が──」

 

「あーすまんすまん。次から気を付けるわ、カネゴン」

 

「いやコイン怪獣でもねーよ! 変な略し方すんな!」

 

「やるじゃん、カネゴン。まぁこの前の件は1ミリも悪いと思わないけど」

 

「やるじゃねぇかカネゴン。腹立つ顔してっけど」

 

「やるねぇカネゴン。僕のクソアイテム贈呈しようか?」

 

「おやりになりますわねカネゴンさん! 初対面ですが賞賛させてください!」

 

「ありがとうございますカネゴンさん。ケルコットさんを導いてくれて……」

 

「どいつもコイツも定着させようとするなぁぁぁ!」

 

「そうですよ! リーダーを馬鹿にするのもいい加減にしてください! ほらリーダー! 食後のおやつです! 5円チョコ沢山ありますよ! どうぞ!」

 

「お前が1番馬鹿にしてんだよ! 良いから帰るぞ! もう頼むから私達に関わるなぁぁぁ!!!」

 

 そう言ったカネゴンはメカニック女の首根っこを引っ張って走り去ってしまった。凄いスピードだ。もしかしたらアイツ結構強い探索者なのかもしれない。

 

「おー、終わったかー?」

 

「終わったぞ、色々」

 

「そうかそうか。いやしかし突然電話が来たから驚いたぞ。お前から来るとは思わなんだ」

 

「変な事に手貸させて悪かったな。忙しいのに」

 

「なぁに気にするな! 儂の頼みも聞いてもらうからな!」

 

「え」

 

「ハッハッハ! まさか魔王相手に無条件で頼み聞いてもらえると思ったか? 等価交換と言うやつだ」

 

「やけに快諾すると思ったらそう言う事かよ!」

 

「まぁ変な頼みでは無い、簡単な物だ」

 

 カラカラと笑う魔王は何気ない様に言った。

 

「1週間ほど、ルロの奴を預かってくれんか?」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 漸く仕事がひと段落付いて昼食の時間。と言っても既に時刻は15時を回っている。これも全てハゲ支部長のせいだ。

 

「いずれ……いずれあの邪悪を滅ぼして見せる……!」

 

 絶対に負けたりはしない。仕事を押し付けまくってくる宿敵に必ず法の鉄槌を──!

 

「兎にも角にも、何を食べましょうか……」

 

 最近やたらと会食に付き合わされて高級品に飽き飽きしている。あまり好みでは無いがたまにはジャンクフードでもかっくらってやろうか。そう思いながら歩いていると──。

 

「おや……? キッチンカー? イベントも何もやってないのに珍しい」

 

 人通りが多く無い場所に態々構えるなんて変だと思いつつも、鼻に抜けていく香りに引き寄せられる。

 

「あ! いらっしゃいませ!」

 

「どうも……えっとメニューは……」

 

「すいません! 今日はカレーの日なのでカレーしか用意してないんです!」

 

「ああ、そうなんですか。何カレーですか?」

 

「普通のカレーです!」

 

「普通?」

 

「はい! あ、お肉は豚肉と鶏肉が選べますよ!」

 

「あ、じゃあ鳥で……」

 

「かしこまりました!」

 

 元気なハーピーの女性からカレーを受け取る。見た目も香りも何もかも普通。日本に住む者が思い浮かべるカレーそのものだ。

 

「……普通……ですね」

 

「お口に合いますか?」

 

「はい、私は好きです」

 

「! ありがとうございます!」

 

 自分と店員の2人しか居ない場所でカレーを食べる。ハーピーの女性は私が食べている姿を見ながら、ずっと笑っていた。




今週中にもう一度くらい更新出来そうです
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