ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
強さも狂気も。
俺が目的だと言い放ったローブの男。
加奈子さんを助けようにも距離があり過ぎる。
流石にこの距離だと俺がアイツに辿り着く前に危害を加えられてしまうだろう。
「俺が目的ってなんだよ、つーか誰?」
「はぁ!? お前俺の事忘れたのか!」
「なぁ高木、お前分かる? テレビ電話にするから見てくれよ」
『へいへい……あーコイツあれだよ。ほら、丁度少し前に言った昔ダンジョンでブッキングした探索者。お前がモンスターの死体飛ばして潰した奴だよ』
「そうだよ! お前に殺された志村だよ!」
「あー……思い出した。あの時のか」
怒り狂ってる姿に覚えがあった。
あの事故の後、散々ドロップ漁りした俺達を入り口で出待ちしてた奴だ。
「あの時お前が俺を殺したせいで、俺の人生は台無しだ!」
「何言ってんだお前、たかが一回死んだ程度で人生台無しになるなら元からまともな人生じゃ無いだろ。後そもそも悪いのはあの時のダンジョン運営だろ、探索者が入ってる時に別の探索者入れたらダメなのに」
「一回死んだ程度って凄まじく違和感しか無いんですけど、探索者ってこれが普通なんですか!?」
「な訳ねぇだろ! アイツらのチームが気狂いしか居ないだけだ!」
「失礼な! 流石に初回死んだ時はショックだったぞ!」
『いや加藤、お前がショックだったのは目の前で宝箱ドロップしたのに不意打ちで死んでロストしたからだろ』
「あの時のステルスバードマジでクソ、ほんま許さん。開ける前に殺しやがって」
「昔話で盛り上がるな!」
と言うかあれがあったの今から6年くらい前だぞ。
確かまだ俺と高木とセラフィナしか居なかった時の事だ。
コイツそんな前の事引きずってんのか? 暇なのかな。
「てかちゃんと謝っただろ、ダンジョン運営も詫び入れてたしそれで終わりだろ?」
「謝ったってお前【あーすまんすまん。弱過ぎて気付かなかったわ】ってこれの何処が謝罪になるんだよ!」
「あの時5徹してたからマトモに思考出来なかったんだよ。ごめんて」
「仲間の奴もスキンヘッドの奴は【ドンマイドンマイ! 切り替えていけ!】だし赤髪のハーフサキュバスなんか【いちいち喚くなよ童貞】だぞ! 謝罪の意思皆無だろ!」
「何で3人揃ってマトモに謝ってる人誰も居ないんですか!? 全員ロクデナシじゃないですか!」
ぐうの音も出ない。
普通に性格も常識もダンジョンにハマり過ぎて欠如していたのだ。
常識人の加奈子さんからしたらそう思うのも無理はないのかもしれないが……。
「でも探索者がダンジョン内で死ぬなんて普通の事だぞ。これに関しては自信を持って言える」
『一度も死んだ経験の無い探索者なんて、まだ潜ってない奴だけだからな』
「人に殺されるのとは話が違うだろうがぁ!」
「と言うか今更だが、あの時の俺らに近づいてきてたのは何でだ? 確か30mくらいの距離に居たよなお前。戦ってる最中なのに態々寄ってくるのは不用心が過ぎるだろ」
「いや、それは……」
急に歯切れが悪くなった志村に違和感を覚えていると、運営の職員の1人が「あ!」と声を上げた。
「思い出した! 貴方迷惑探索者の『後ろの志村』でしょ!」
「ギクゥ!」
「通り名ドリフ過ぎません!?」
『後ろの志村……あー、確かあれだ。他所の探索チームに素性隠して入り込んで、後ろで戦わずにドロップ品だけくすねてとんずらしまくってた奴だ。ダンジョン運営やる時に資料に書いてた』
「カス寄生かよ、謝って損した。そのまま死んでればよかったのに」
「言い過ぎだろ! 寄生の気持ちを考えろ!」
「何で人の戦果奪うような奴の気持ち考えないといけねぇんだよ」
『盗人猛々しいなコイツ』
普通にコイツがやってる事は終わっている。
ただでさえダンジョンドロップはムラが激しい。
その為儲かる時は馬鹿みたいに儲かるが、そうじゃない時の収入は雀の涙だ。
何せ高レベルダンジョンで手に入る宝箱ですら、最低ランクのアイテムが出る時がある。
その為他の仕事と兼業でやってる人も多いくらいだ。
そんな中でこの寄生マンに目をつけられて、宝箱奪われたら発狂待ったなしだ。
「お前が俺を押し潰したせいで、隠してた素性が蘇生した際バレちまったんだよ! 蘇生した後は暫く気絶してるからなぁ! テメェらが潜ってる間に俺は他のダンジョンで寄生した連中に見つかってボコボコにされたんだぞ!」
「良かったじゃん殺されなくて。きっとお前が寄生した人達は聖人しか居なかったんだろうな」
「良いわけあるかぁ! しかも殆どのダンジョン出禁になったし! 全部お前のせいだぁ!」
『この責任転嫁は最早芸術的だな、ルーブル美術館に展示した方いいんじゃないか?』
「どうせ活動家にスープやらケーキやらぶっかけられて終わりだろ」
「こんなゴミクズ人間がモナリザと同価値ある訳無いじゃないですかぁ! 早く助けて下さいぃ!」
「お前自分の状況分かってんのか!? よくそんな口が聞けるな!?」
「この人さっきから臭いんですよぉ! ドブの方がマシなくらいなんです! 私もう限界!」
「加奈子さんが1番口撃が激しいな……」
『何気に肝が据わってるのかもしれないな……大したもんだ』
「アンタらあの人助ける気ある!?」
運営の人にツッコミされるが実際問題難しい。
こうして会話してる間も隙がないかずっと窺っているが、首元に当ててる短剣はその場を動かない。
下手に助けに動けば大変な事になる。
「取り敢えずお前が俺に恨みがあるのは分かったからその人を離せ。代わりに俺が捕まってやるから」
「アホか! そんな見え見えの罠に乗る訳無いだろ! この女がお前と親しいのは知ってるんだぞ! コイツが殺されたく無いなら言う事を聞け!」
「言う事を聞けって言っても何をすれば良いんだよ」
「へへへ、そんなの決まってらぁ!」
志村は懐から羊皮紙のような物を取り出してこちらに投げてきた。
飛んできたそれを受け止めて確認するとそれは──。
「ギアス、スクロール……」
そこには志村の名前が書かれたギアススクロールがそこにあった。
契約内容を見ると、そこには長々と書いているが要約すると志村の奴隷になる的な事が書いてあった。
「それに契約しろ、死ぬまでこき使ってやる。俺に散々損害与えたんだ、その分を全部回収させてやらぁ!」
「成程な」
『……本物のギアススクロールだな』
「取引所からくすねたからな! それなりに出回ってる偽物だと希望を持つのはやめた方が身の為だぞ! ハハハ!」
「そ、そんな……!」
俺に恨みを持っているからこそ、自分の支配下に置いて好き勝手使わないと気が済まないって事か。
いかにもしょうもない奴が考えそうな事だ。
「高木、ギアススクロールって契約人数少ないなら何とかなったりしないか?」
『ギアススクロールの強制力は例え最低人数の2人でも凄まじい物だが……1つだけ、ギアススクロールの契約を破棄できる方法がある』
「その方法とは?」
『同じくギアススクロールを使うんだ。相反する契約内容にして、同じ人数で契約する事で実質的にどちらの契約も無視する事が出来る』
「……ギアススクロールって」
『ランクSSS、お前のエヴァルテインと同じ超激レア品だ。市場に出回る事はまず無い、アイツが盗んだのは恐らく売り物にする予定のなかった保存用の奴だな』
「なら、今の市場にはギアススクロールは1枚も無いって事か?」
『そうなるな……加藤、お前まさか……』
「他に方法あるか?」
『まぁ待て、俺もそっち行くから。早まるなよ』
電話が切られた。
高木が来るなら何とかなりそうだ。
「一つ条件がある。このギアススクロールに追加で加奈子さんには今後一切の危害を加えない、これを付け加えろ」
「お前自分が条件出せる立場だと思ってんのか?」
「もし付け加えねぇってんなら──俺は何があってもお前を殺すぞ」
志村を睨み付けると明らかに怯んだ。
何故か周りの人達や加奈子さんまでビビってるのはよく分からない。なんで?
「怖ぇよ……この人怖ぇよ……」
「目がヤバい、あの目はマジで殺すぞ。俺には分かる」
「どうして私今日に限ってシフト入ってるの……おうちかえして……」
「わ、分かった。付け加えていい。お前が書いとけ」
所有者の許可が無ければギアススクロールに書き込む事はできない。
志村の許可で書き込む事が出来るようになったギアススクロールに、先の文を書き込む。
「確認しろ」
「おわっ! ……ま、まぁ良いだろう。この女自体に用は無かったしな。元の目的を果たせるならそれでいい」
再び俺の手元に戻ってくるギアススクロール。
まさか高木達のじゃなくて、こちらに書く事になるとはな。
「ま、待ってください! 加藤さん! 書いたらダメです! 私なら大丈夫ですから! 私の為にって言うなら、契約したらダメです!」
「そうはいかないっすよ加奈子さん。俺は貴女に感謝してるんだ」
「感謝……私に……?」
軽く泣いている加奈子さんに目を合わせて笑う。
「高木には前言ったんですけど……俺がダンジョン中毒治したいって知った時、加奈子さん応援してくれたでしょ」
「あ、あれは単に──」
「大丈夫、分かってます。ただの社交辞令だって。でも、それでも嬉しかったんすよ。ずっと否定されてたから、俺のこの考えは間違ってるのかなって。あの時の応援は……割とマジで心に響いたんですよ。だからこれは──まぁ恩返し的なやつです。俺を応援してくれる人が居なくなったら困るんで」
自分の名前をギアススクロールに書く。
後は血判を押すだけ。
「ハ、ハハハ! まさかこんなに上手くいくなんてな! ざまぁねぇぜ加藤!」
「加藤さん……ごめんなさい、ごめんなさい!」
志村の笑い声は頭に来るが、恩人を助ける為なら屁でもない。
自分の親指に歯を立てて、軽く血を流す。
親指に満遍なく血を塗って準備は終わった。
「(高木、セラフィナ、後は何とか頼むぞ)」
そうして俺は、志村のギアススクロールに血判を押した────。
「間に合ったな」
「え」
高木の声が聞こえたので後ろを振り返る。
そこには満面の笑みの高木がそこに居た。
「いや早いな、もう少し時間かかるとばかり……」
「お前の危機に駆けつけない訳無いだろ! 親友だぞ?」
「そうか……そうだな。悪いが志村の命令に俺はもう逆らえない。俺を取り押さえるのは任せたぞ」
「ん? いやいやそれは必要ねぇよ。契約してないから、アイツと」
「は? 何言って……」
そこでようやく俺は気づいた。
高木の手元、そこには何故か志村のギアススクロールがあったのだ。
だが俺は間違いなく血判を押している。
指から伝わる羊皮紙の感触は、間違いなくギアススクロールだ。
「…………あえ?」
待て、じゃあこの指の感触は?
俺は何に血判を押している?
錆びついた歯車のようにぎこちない動きで、自分の手元を見る。
そこには──。
高木含む探索メンバーの名前と血判が書いてあるギアススクロール。
そこの俺の名前の横に、俺の血判がベッタリと押されていた。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「よっしゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
絶望して叫ぶ俺と歓喜しながら叫ぶ高木。
唖然とする周りの人達を尻目に、俺の手元からギアススクロールが消え失せる。
契約は成った、成ってしまった。
「………………畜生」
「か、加藤さん……?」
「………畜生」
「お、おい! 俺を無視すんな! そこのハゲ! 俺のスクロール返しやが──」
「畜生ぉぉぉぉぉ!!!」
一瞬だけ加奈子さんの拘束が緩んだ瞬間に志村に飛び掛かる。
自分でも驚くくらいの速度で、志村の短剣を弾いてそのまま腕をへし折った。
早すぎて理解できない志村をそのまま蹴り飛ばして倒れた所にマウントを取る。
「お前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいでぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「ゴブ! ゲボォ! グバァ!?」
「ふざけんな俺がどんだけ頑張ってきたと思ってやがるこの2年間は何だったんだよ普通の企業に雇われないのを必死で堪えて禁断症状と欲望抑えて頑張ったのによりにもよってギアススクロールで探索者から逃げられねぇとかじゃあ俺の努力は何だったんだよクソッタレェェェェェ!!!」
「ギャァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
殴って殴って殴り続ける。
高木も後でぶっ飛ばすが何よりもまず元凶のコイツだ。
コイツだけは殺す、確実に殺す。
「死に晒せクソ野郎がァァァァァ!!!」
高木以外の周りが俺を制止しようとしてくるが全てを振り切って志村を殴る。
暫くの間、骨がへし折れ続ける音が響いた。
◇ ◇ ◇
「全く、何してんだよ加藤の奴。もう21時だぞ、飯冷めちまったじゃねぇか」
待てど暮らせど加藤が全然帰って来ないので、出勤先のダンジョンまで迎えに行く。
「……なんでこんなに人集りが出来てんだ? 警察だけじゃなくて防衛軍まで来てんじゃねぇか」
ダンジョンの外まで着いたが人の壁が幾重にも形成されていた。
すり抜けて前に出ると通行禁止のテープで仕切られている。
警察の目を盗んでテープを潜ってダンジョンの受付内まで進む。
「おーい加藤居るかー? お前何で帰って来ないんだよ……って何だこれ」
中に入るとそこには大量の警察や防衛軍、そして踊り狂っている高木と泣き潰れている加藤とそれをに声をかけ続けている加奈子。
ほんとに何だよこれ。
「おい高木、何してんだお前」
「おおセラフィナか! 加藤の迎えか? 連絡忘れてたわすまんすまん! FOOOOO!」
「何だよそのテンション。何があったんだ?」
「【契約】……成功だ!!!」
「……マジか! やったのか! でかしたぞ高木!」
「ハッハッハー! まさかこんなに早くチャンスが来るとは思わなかったぜぇ! 日頃の行いが良すぎたな!」
急いで加藤に近づく。
顔が涙でぐしゃぐしゃになっている、まぁ嫌だって言ってたしな。
「おれの……おれのにねんのくろう……」
「か、加藤さん! しっかりしてください! あ、ほら! セラフィナさんが来ましたよ!」
「せらふぃな……?」
泣きながらアタシの名を呼ぶ加藤。
やべぇな、めっちゃゾクゾクする。
興奮を抑えて出来る限り優しい声で加藤を宥める。
「大丈夫だ加藤、そんなに泣かなくてもアタシが居るからな。ダンジョンにもいつでも付いてってやるから安心しろ。何日でもハシゴしていいからな」
「あ、ダメだ! ダメな方に励ましてる! 最早依存させようとしてるこの人!」
「たかぎはあとでつぶす……」
「ああ、そうだな。アタシも手伝うから一緒に潰そうな。だから今日は帰ろうな」
加藤を立たせて出口に進む。
歩けるなら大丈夫そうだな。
「じゃあな加奈子。夜だし気を付けて帰れよ?」
「あ、はい……そちらもお気を付けて……」
「おう! またな! 高木! アタシらは帰るぞ!」
「オッケー! 他のメンバーにも連絡しないとなぁ!?」
外に出て制止しようとする警察達を睨んで退かして帰路に着く。
「おれはもうだめだ……いっしょうぬけだせないんだ……」
「アタシも一緒に落ちてやるからな? 大丈夫だぞ」
「もっとだめだ……おわりだ……」
ずっと絶望する加藤を慰めながら夜の街を歩く。
安心しろ加藤、辛いのは最初だけだからな。